原作のネタバレ注意 (一応、二年生編5巻までの話ですが、6巻のネタバレも含みます)
原作では、満場一致特別試験で堀北の方針に変更した綾小路。
しかし、もしも綾小路が考えを変えていなかったら?

自分なりにこういう展開になったらこういう流れになったんじゃないかなーというifの話です。
作者は小説もまともに書いたことがない初心者ですので、あまり期待せずに読んでいただければ幸いです。


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原作では、堀北と綾小路は櫛田ではなく佐倉を退学させましたが、この小説は綾小路が一貫して櫛田の退学を考えていたらのifになります。
あらすじに書くと小説一覧を見ているときにネタバレになってしまいますので、こちらに書き直しました。


もし綾小路が満場一致特別試験で自分の考えを一貫していたら

「インターバルに入ったから改めて言う。私は櫛田さんの退学に反対を表明するわ」

 

満場一致特別試験で、俺は櫛田を退学にさせるべく櫛田の本性をさらけ出し、クラス全員が櫛田の退学に賛成する雰囲気の中で唯一櫛田の退学に反対を表明を示した堀北。

 

堀北の言い分は理解できる。

今後Aクラスを目指す際に、櫛田の能力は大きな力となる。

体育祭で俺たちを裏切り不利な状況にしたのも事実だが、櫛田のOAAは優秀であり、これまでもクラスに貢献してきた功績がある。

正直、櫛田の代わりとなる生徒は少なくともこのクラスにはいない。

 

「でも堀北さん。櫛田さんを守るということは時間切れを選択するということなのかな」

 

「櫛田さんを守ってそれで終わりじゃないとこは分かってる。私なりに答えを出したわ。この特別試験の失敗は避けなければならない。退学者を出すことは絶対条件よ」

 

洋介の問いに対し、退学者を出すことは避けられないという堀北。

つまり、櫛田に代わって誰かを切ることも決めていたということ。

おおよその検討はついているが、俺は口出しせずに堀北の答えを待った。

 

「私が退学にすると決めた人物は……」

 

ここで堀北はその人物の名前を出すことに躊躇していた。

それはそうだろう、山内や櫛田のようなケースならともかく、特に何も問題もなく迷惑をかけているわけでもない生徒を退学にしようとしているのだから、普通なら精神的な負担も大きくなる。

入学当初の堀北なら特に躊躇もせずに答えていたかもしれないが、今の堀北にとってはクラス全員が仲間であり、これ以上誰一人として欠けずにAクラスに上がることを目的としている。

 

だが、櫛田の強行により退学者を決める状況になったこと、このまま退学者を決めなければクラスポイントを大幅に失い、Aクラスを目指すのは非常に難しい状況になってしまうことで、誰か一人を退学にしなければならなくなった。

 

「…………佐倉愛里さんよ」

 

堀北は絞り出すような声で退学にする名前を答えた。

 

「…………は? ……何言ってんの? こんな時に悪ふざけなんてしないでよ!」

 

立ち上がり、激怒した波瑠加が堀北を睨む。

 

「何を根拠に愛里を退学にすると判断したのよ? 私は絶対に賛成しない!」

「そうだ、愛里は特にクラスに迷惑をかけたわけでもなければ、問題を起こしたわけでもないのに退学にするなんて納得がいかない。ちゃんと説明してくれ」

「俺も反対だ。櫛田の代わりに大事な仲間を失うなんて冗談じゃない」

「波瑠加ちゃん、啓誠くん、明人くん…」

 

波瑠加と啓誠、明人のグループのメンバーは当然ながら愛里の退学に反対の表明を示した。

 

「……それを今から説明するわ。私が退学者を佐倉さんに決めたのはOAAよ」

「…OAA?」

 

堀北は、OAAが最大限公平かつ客観的にジャッジするのに最も適していること、洋介や恵のようにグループをまとめられる力を持っている人物は除外していいこと、将来性や展望といったものは含まないほうがいいいことを伝えた。

それでも納得のいかない波瑠加は反対し続けた。

 

このあたりでいいだろうと判断し、

 

「待ってくれ」

 

俺は口をはさむことにした。

 

「何かしら綾小路くん」

「俺は櫛田が退学するべきだという考えは変わっていない」

「清隆くん…」

「きよぽん!」

 

愛里はすこし伏し目がちに、波瑠加は期待を込めた目で俺を見つめる。

 

「勘違いしないでほしいんだが、俺は堀北の方針には賛成だ。公平かつ客観的に判断するにはOAAが最適だからな」

「……じゃあ、なんで愛里をかばうような真似したのよ!」

 

自分が期待していたこととは裏腹に、堀北の方針に賛成だという俺に対し、睨みつけて怒声を浴びせる波瑠加。

 

「あなたの考えを聞かせてもらえるかしら綾小路くん」

 

「ああ、俺が堀北の方針に賛成しつつ、櫛田を退学にすべきだと判断したのは、櫛田をクラスに残らせることの方がリスクが高いと判断したからだ。それが結果的に愛里を助ける形になっただけにすぎない」

 

俺の説明を聞いて、どこか納得ができない顔をしつつも椅子に座り、黙り込んで耳を傾ける波瑠加。

 

「確かに堀北の言うように櫛田は優秀な人材だ。櫛田のような才能を失うことはこのクラスにとって大きな損失になることも理解できる。だがそれは櫛田が改心すればの話だ。もし改心させられなければ、クラスにとっては大きな荷物となる。最悪の場合、クラスを壊滅させられかねない。前例もあるしな」

 

クラスを壊滅させられるかもしれないと聞いてざわめくクラスメイトたち。

 

「さっき話したように櫛田は中学時代にクラスを壊滅に追い込んだ過去がある。みんなも察しはついていると思うが、壊滅に追いやった原因は本性がばれたことでクラスメイトたちの秘密をクラス中に暴露したからだ。そんな爆弾を抱えたまま他のクラスと争い合うのは精神的にもよくないだろ。また裏切ってクラスを不利な状況に追いつめるかもしれない、自主退学してクラスポイントを失うかもしれない。俺たちを退学させるためにまた画作するかもしれない。秘密をばらしてクラスの仲を険悪にするかもしれない。最悪、クラスは壊滅だ。こんな自分のクラスが疑心暗鬼の中で全員が自分のパフォーマンスを最大限に発揮できると思うか?」

 

あくまで憶測の話で確実性はないが、それは堀北も同じこと。

堀北が櫛田を改心させることが出来るかどうかも憶測の話だ。

 

さっきから櫛田は大人しくしているが、堀北にプライドを傷つけられたのがよほど効いたのだろう。

 

「…あなたの考えは理解できるわ。だから、私が全力を持って彼女の才能を生かしてみせると誓ったのよ」

「確かに今の櫛田は何かしらの心の変化を起こしたかもしれないし、今までのお前の成長と功績を考慮したら、櫛田を改心させられる可能性に賭けてもいいかもしれない。だが、去年から櫛田を説得し続けてそれが出来なかったからこの状況が生まれている。みんなに確認したいが、櫛田は改心できると思うか?」

 

俺はクラス中に櫛田が改心できるかどうかを問いかける。

 

「俺は鈴音を信じるぜ。櫛田のやったことは許せねえけど」

「……僕も堀北さんを信じたい」

 

堀北を深く信用している須藤と、躊躇しつつも堀北を信用し、Aクラスを目指すために切り捨てる覚悟も必要だと感じている洋介も手を上げる。

山内が退学する前の洋介なら絶対にどちらも賛成しなかっただろう。

他にも本気でAクラスを目指したいと思っている生徒が数名が手を上げる。

啓誠もAクラスに上がりたいだろうが、愛里は大切な仲間だから切り捨てたくないのか手を上げなかった。

手を上げた者は、クラスメイトの半分どころか3分の1にも満たなかった。

やはり櫛田に秘密を握られ、暴露されることを恐れている者と暴露された者は櫛田を恨んでいることもあるのだろう。

 

Aクラスに上がるのに櫛田は必要だと頭では分かっていても、人はどちらかというと感情を優先で生きる生き物だ。

そしてさっき俺が櫛田を残らせるリスクを話したことも効いている。

どっちの意見も正しいと分かっている状況だと、感情を優先する。

 

「間もなくインターバル終了時刻だ。どうする」

 

茶柱がインターバル終了時刻を伝える。

まだ結論は出てない中で、今この状況で賛成で一致にするのは不可能だろう。

 

「俺に投票してくれ」

 

特に候補がいないので、俺が立候補する。

 

「これより投票を開始する」

 

賛成反対の投票が行われ、集計結果は

 

 

第21回投票結果 賛成1票 反対37票

 

 

誰が賛成に投票したかはもうみんな察しがついているはずだ。

 

だが、もう後がない。

このインターバルで決めるしかない。

 

「じゃあ、あなたは櫛田さんが抜けた穴はどうするつもり? クラスの平均値も下がってマイナス効果があるのも否定できない。彼女の代わりとなる人材も存在しない」

「そうだな」

 

先ほどの結果でも堀北を納得させるのは難しかったようだ。

こちらとしてもマイナス要素しか説明していないし、Aクラスを目指すためのプラス要素がない。

俺は仕方なくため息をついて

 

「俺が積極的にAクラスを目指すのに手を貸す、と言ったら納得できるか?」

「あなたが?」

 

俺の答えに堀北は強く反応を示す。

 

「それはどういうことかしら。どう手を貸すのか説明してくれる?」

「まだ隠していることをさらけ出す」

 

もちろん全てではないが、これまでより必要に応じて実力を解禁していくことになる。

通常ならこんな返答は通じないだろう。

だが、堀北は俺の実力を高く評価している。

俺がまだ実力を隠していることは堀北も理解しているので、堀北は少し考え込んだ。

 

「清隆、どういうことか説明してくれるか?」

 

以前、俺が数学で満点を取ったことに不満と疑心を抱き、グループを抜けることも考えていた啓誠から説明を求められる。

 

「悪いが、この試験が終わってからにしてくれ。次の投票で最後だし、もうあまり時間がない」

 

今説明すると時間を無駄にしてしまうので、後にするように伝えた。

 

「……分かった。ちゃんと説明してもらうぞ」

 

今は試験を優先すべき状況であることを理解しつつ、啓誠は渋々了承した。

クラス内も俺に対して好奇の目や疑いの目をかけてくる。

 

まだ考え込んでいる堀北に俺はさらに追い打ちをかける。

 

「そして愛里のことだが、体育祭では活躍は全く見込めないが、文化祭では大きく貢献できると確信している」

 

愛里ならではの強みが確かに存在する。

もしその事実を知れば、愛里が文化祭で戦力になることはクラス中が納得するだろう。

本当なら放課後に文化祭に参加してくれるように頼むつもりだったが、強制的に参加させる流れになってしまった。

 

俺のその発言を予想していなかったであろう愛里はビクッと体を震わせ、グループのメンバーも愛里に視線を送り、

 

「愛里、お前ならできる」

「愛里、勇気を出すときだ」

「愛里、頑張って!」

 

啓誠、明人、波瑠加が愛里を信じて声援を送る。

 

「愛里」

 

お前はこのまま立ち止まってていいのか、自分はクラスに最も不必要な存在だと認知されたままでいいのか、という視線を俺は愛里に送る。

 

 

「…皆に伝えたいことがあります…」

 

 

グループのメンバーからの応援で、勇気を振り絞り、震えた声でクラスに愛里は言った。

 

まだ体は震えている、自分の正体をクラスにさらけ出すのがまだ怖いんだろう。

しかし、愛里は髪を束ねていた物をほどき、伊達でつけていた眼鏡を外して立ち上がった。

 

「私は雫という名前でグラビアアイドルとして活動をしていました。文化祭で私は力になれると思います。いえ、クラスの力にならせてください!」

 

自分の正体を明かし、頭を下げた。

 

生徒達はというと、

 

「雫? 誰それ?」

「確かに髪おろして眼鏡取ったら可愛いくてびっくりしたけど、アイドルとして活動してたってほんとかよ」

 

疑問に思う生徒達の声が上がった。

 

「本当よ! 確かに愛里はアイドルとして活動してたんだから! 後で携帯で見たら確認出来るでしょ!」

 

波瑠加はフォローにはいるが、仲がいいからかばっていると思われているのと、現在携帯を使えない以上、中にはその場しのぎの出任せと思っている生徒もいる。

許可が出るかどうかは分からないが、茶柱に携帯を操作させて確認するという手段もあるのでそれを伝えようとする。

 

「いや、確かに佐倉はアイドルとして活動してたぜ」

 

その前に池がフォローに入った。

池は以前、須藤の暴力問題を解決するための過程で愛里がアイドルとして活動していたの知った。

櫛田も知っているが、状態が状態なので口をはさむことはなさそうた。

 

「僕も部活仲間に雫さんのファンがいて、見せてもらったことがある。見た目もそっくりだし、間違いないと思う」

 

洋介のフォローも入った。

洋介が知っていたのは意外だったが、洋介の人の良さと人望を考えればそういった友人がいてもおかしくはない。

 

愛里と仲がいいわけではない池と洋介、特に洋介の発言で愛里がアイドルとして活動していたことの信憑性を一気に増した。

 

「まじかよ、佐倉がグラビアアイドルやってたなんて」

「意外だけど、確かに超可愛いし、文化祭に参加してくれたら一気に客を引き寄せられるかも…」

 

クラスの皆の櫛田の件と疑いの声はどこへやら、愛里に対して文化祭での活躍の希望を見出した。

 

波瑠加、啓誠、明人は安堵と嬉しそうな顔をしていた。

 

「皆、ありがとうございます。精一杯頑張ります!」

 

愛里は笑顔でクラスメイト達に感謝を示した。

 

「そういうわけだ堀北。何か反論はあるか?」

 

途中から論点がずれたが、話を元に戻す。

クラスのみんなはその状況を察してか静まり返る。

 

「……いえ、ここまでされると何も言うことはないわ。確かに櫛田さんを失うのは大きいけど、思わぬメリットが転がり込んだのも事実だし」

 

堀北はクラスの雰囲気と時間が差し迫っている中これ以上、櫛田を退学にさせないことは難しいと判断したのだろう。

そして、俺の隠している実力をさらけ出すというだけでは足りなかったかもしれないが、愛里の強みが後押ししたのは否定できない。

現にクラスのみんなは愛里に対して強い期待を抱いている。

これは紛れもなく愛里の実力といえるだろう。

将来性や展望を含むべきではないことも理解しているが、今この場において愛里を残すことにクラスのみんなは前向きでいる。

櫛田を退学させることに強力な後押しとなったはずだ。

 

だが、愛里は対人関係が苦手だ。

まして、接客などの対応は今後の練習次第でもあるが、あまり期待できない。

少なくとも、多くの客を引きつけられる期待が大きいことから愛里がいるだけでもプラスになるだろう。

 

そして、推薦により櫛田への投票が始まる。

 

 

「投票が終了した。結果を発表する」

 

 

第22回投票結果 賛成38票 反対0票

 

 

櫛田の退学が決定し、茶柱は試験終了の合図をかけ、櫛田は教室に残るよう指示され、俺たちは退室を促された。

櫛田は相変わらず顔を伏せたまま動かず、俺たちはタイミングは違えど退室していく。

 

廊下に出ると、携帯が返却され、俺を除く綾小路グループのメンバーが集まり、涙を流しながら愛里の退学を阻止出来たことに喜びあっていた。

 

「この結果に納得出来ないか?」

 

そのまま帰宅しようとする堀北に俺は声をかけた。

 

「…納得出来る。といえば、嘘になるわね。佐倉さんが文化祭で活躍出来るかどうかは憶測でしかない。

けど、彼女がアイドルとして活動してたのは予想外ね。自分の写真を撮ってたのは知ってたけど、まさかアイドルだったなんて」

 

須藤の暴力問題で、愛里が証拠の写真を提示したときに愛里の自撮り写真も映っていたのを見たことがあるが、アイドルとして活動していたことは知らなかったようだ。

 

「彼女が参加してくれるだけでもきっと多くの客を引きつけられるわ。ただ、もし彼女が気が変わって、やっぱり参加したくない、と言うかもしれない。今まで大人しくしてて対人関係が苦手な佐倉さんなら十分ありえる話よ」

「なら何故それを指摘しなかったんだ?」

「無理よ。そんな彼女があんなに勇気を振り絞ってみんなの前で素性を明かして発言したのだもの。前を向こうとしている人の足を引っ張るだなんて今の私には出来ない。もし、あなたが私の立場だったらどう?」

「まあ、指摘してただろうな」

「そう」

 

きっと返ってくる答えは予想出来ていたのだろう。

特に意外そうもなく素っ気なく返してきた。

 

「櫛田さんを守れなかったのは私の力不足よ。あなたの言う通り、こんな状況になる前に私が櫛田さんを説得出来ていれば誰も退学にならなかった。」

 

洋介に、自分でその道を選んだ以上、その責任を自分が受ける覚悟が必要だ、と伝えたことがあるが、堀北はそれを理解しているようだ。

 

「それより綾小路くん、いくら佐倉さんが文化祭での活躍を見込めるかもしれないといっても、それでも櫛田さんの穴埋めにはならないわ。隠していることをさらけ出すということは、これから隠している実力をAクラスを目指すために発揮していく、ということでいいのよね?」

「ああ、必要に応じてな」

「それってこれまでと変わらないんじゃない?」

「これまでより解禁する頻度は増えていくことは約束する」

「…分かったわ。今はそれで納得する。これまであなたのおかげでクラスを助けられたことは事実なのだし」

 

そう言って、堀北は帰っていった。

 

負い目を感じていても落ち込んだ様子はなかった。

今回の失敗は、堀北にとって大きな糧となるだろう。

 

「きーよたか、一緒に帰ろ」

 

堀北の背中を見送っていると、恵が話しかけてきた。

 

「悪いが、待つか、先に帰っててくれ。少し長くなるかもしれない」

 

堀北が離れるタイミングを見計らっていたのは恵だけではなく、綾小路グループと同じでこちらに歩いてきた。

 

「あー、じゃあちょっと待ってる」

 

恵はそう言って、少し離れた位置で俺たちの様子を見ることにしたようだ。

 

「清隆くん、ありがとう」

 

愛里がまず前に出てきて、頭を下げて礼を言ってきた。

 

「俺からも言わせてくれ、愛里を助けてくれてありがとう」

「俺もだ。愛里を救ってくれてありがとう」

「私も。愛里を救ってくれてありがとう。きよぽん」

 

他のメンバーも続いて頭を下げてきた。

 

「試験中にも言ったが、結果的に愛里を救う形になっただけだ。もし、櫛田の件とか関係なく堀北の方針で退学者を出す流れになっていたら俺は愛里の退学を推していた」

 

俺は頭を下げてきたメンバーに対し、特に感慨もなく自分の考えを伝えた。

あまりにも素っ気ない俺の態度に波瑠加は何か言いたそうな顔をしていたが、

 

「…それでも助けられた事実は変わらないよ。私もっとこの学校にいたい、このメンバーで一緒に遊びたい、離れたくない、このままじゃいけないっていうことを改めて思い知らされた。誰も退学してほしくないけど、もしまたこういう試験があったら今度は私が選ばれないようにこれからもっと勉強も運動も頑張る」

 

以前の愛里だったら、何も言えずにショックを受けていたかもしれない。

ただ、今回の件でいろいろ吹っ切れたのだろうか。

俺の冷たい態度に臆せずに意思表明をしてきた。

 

「…そうね。きよぽんの態度はともかく結果的に愛里が救われたのと今のままだと愛里は次の退学者筆頭だということも分かっただけでも大きな収穫よね。………ああああ! でもきよぽんの態度はやっぱ気に入らない!」

「ふぁにをふる」

「うるさーーーい!! これでもかなり我慢してるんだから、これくらい我慢しろーーー!!」

 

波瑠加は俺の態度が余程気に入らなかったのか、容赦なく俺の頬を左右上下に引っ張ってきた。

少し痛いが、これくらいで気が済むんだったら安いものなので、特に抵抗もせず好きにさせることにした。

 

「ふふ、清隆くん可愛い」

「普段、ポーカーフェイスな分、随分おかしな顔をしてるな」

 

愛里、明人、啓誠はその様子を面白おかしく見ていた。

 

一分ほど経ってからようやく解放された、痛い。

 

「ふう、まだ物足りないけど、これで勘弁してあげる」

 

ここまでしておいてまだ物足りないとは、余程鬱憤が溜まっていたんだろうな。

 

「清隆、堀北が愛里を退学候補に指名する前に口をはさむことも出来たはずだ。時間も差し迫っていたのに何故もっと早い段階で口をはさまなかったんだ?」

 

波瑠加が俺を弄り終えたのを見ると、啓誠が質問をなげかけてきた。

 

「堀北が何を基準で退学者を決めるか確認したかったんだ。俺の想像通りだったがな。そして、退学候補に上げられた愛里、愛里の退学を必死に引き留めようとする波瑠加を見て、クラスの皆は危機感を抱いたはずだ。退学者を決めなければならない試験がまた来た時に、OAAが最も低ければ次は自分が退学候補になると。だから俺は最終投票が始まるギリギリの時間を見計らいながら口を出す機会をうかがっていた」

「クラス全員が危機感を抱けば、必然的にクラスの底上げにも繋がる…か」

「OAAの基準も引き上げられることになるから愛里がピンチであることに変わりはない。今よりもっと皆も必死になるだろうからな。首の皮が一枚繋がった状態だ」

「てゆうか、最終投票が始まるギリギリの時間を見計らってって、そこまで計算してたのかよ」

「時間が差し迫っていたら堀北も反論しようにも反論出来ないからな」

 

帰宅時の堀北の反応を見るに、時間をギリギリにする必要はなかったようだが。

 

「……今回の件で改めてお前がとんでもない奴だということを思い知らされた。堀北に言っていたが、まだ隠している実力があるんだろう?」

「まあそうなる」

「学力面でもか?」

「そうなるな」

 

この答えを聞いて啓誠は苦い顔をする。

俺が以前、数学で満点を取ったことを一番気にしていたのは啓誠だったからな。

あの時、堀北のフォローがなければグループから抜けていたというほどだ。

 

「ゆきむー、まさかグループを抜けるとか言わないよね?」

 

波瑠加が不安そうに啓誠に訊ねる。

 

「…この試験が始まる前なら抜けていたと思う。だが、この試験で愛里が退学になりそうな時俺は清隆と同様、堀北の考えに同意していて、愛里が退学になるのは仕方ないと思っていた。そんな自分に嫌気が差した。結局俺も自分の可愛さにAクラスを目指すために、愛里を見捨てようとしたんだ」

 

波瑠加は言いたいことがありそうにしていたが、拳を力強く握りしめながら震えて話す啓誠を見て黙っていた。

 

「正直、清隆が結果論とはいえ愛里をかばってくれて安心した。自分の手を汚すことなく堀北や清隆に責任を押し付けて自分は安全地帯でその様子を見守っている。こんな卑怯な奴が実力を隠しているから気に入らないといって清隆を責める資格なんてない」

「啓誠くん…」

「啓誠…」

「ゆきむー…」

「この試験で改めてこのグループが大切だと思ったんだ。俺は勉強しか取り柄がないから愛里が次に退学候補にならないように勉強面では今まで以上に協力する。だからみんな、俺をこのグループにいさせてくれ!」

 

啓誠はグループのメンバーに頭を下げた。

 

「もちろんだよ! 啓誠くんはわたしにとっても大切な友達だもん!」

「改めて頼まれるまでもねえよ。黙って見ていたのは俺も同じだからな」

「愛里よりAクラスを目指すことを優先しようとしたのは、ちょーーーーーーーーーっと気になるけどね」

「す、すまん」

 

愛里と明人は快く受け入れたが、波瑠加は全然ちょっとじゃない言い方をして、むすーとしていた。

 

「なんて冗談冗談。私もゆきむーにお世話になってばかりだし、これからゆきむーも大変になるだろうけど、これからもよろしくね」

「あ、ああ!」

 

試験中で取り乱していた波瑠加はどこへやら、いつもの波瑠加に戻っていた。

 

「でもあれよねー、きよぽんって勉強どれだけ出来るか分からないけど、まだ手を抜いてたんでしょ? それだったら、愛里にマンツーマンで教えてもいいんじゃない? そうすればゆきむーの負担も減るしさ」

 

そして、波瑠加は俺に愛理をマンツーマンで勉強を教えるように提案してきた。

 

「俺が?」

「ほら、相乗効果相乗効果」

 

俺にだけ聴こえるように言ってくる。

プールでのやりとりのことを言っているのだろう。

確かに愛里は波瑠加達のような信頼出来る友人のおかげで成長してきていると言える。

友人が出来る前の愛里ならクラスのみんなの前で素性を明かすようなことはしなかったはずだ。

そこで恋愛要素を絡めればさらに成長を見込めるかもしれないが、俺には恵がいることを知っていてそれを言ってくるあたり、俺と恵が別れた後ならチャンスがあると見込んでいるのだろう。

 

「わ、私も清隆くんにマンツーマンで勉強を教えてもらいたい! 清隆くん、お願いします!」

 

愛里は顔を赤らめながら、俺に勉強を教えてくれるように頼んできた。

俺が返事を返そうとすると、

 

「ちょーっと待ったーー!!」

 

愛里の声が恵にも届いたようで、様子を見ていた恵が割って入ってきた。

 

「清隆と二人っきりで勉強なんて彼女であるあたしが認めませーん。それに佐倉さん、髪下ろして眼鏡取ったらめちゃくちゃ可愛いじゃないの。アイドルやってたこともびっくりしたし。清隆なら大丈夫だろうけど、万が一清隆が佐倉さんに惚れるようなことがあったら嫌だから、二人っきりで勉強なんて禁止ー」

「あ、そうだ清隆くん。今の私どうかな?」

「ああ、見違えたな。よく似合ってる」

「えへへ、ありがとう」

「人の話を聞きなさいよ! ともかく絶対に二人っきりで勉強なんて駄目だからね!」

 

恵は俺が愛里に惚れるのを懸念して、二人っきりで勉強することに強く反対した。

愛里はというと、自分の格好を思い出し俺に感想を求めてきた。

正直、容姿だけならアイドルをやっていたということもあってクラス一だと思う。

 

「えーっと、それじゃあグループで集まってる時ならいいよね? それなら二人っきりは避けられるし」

 

波瑠加が気を遣いならそう提案する。

 

「…まあ、それなら。清隆にも友達は必要だしね」

 

何故かすでに俺が愛里に教える流れになっている。

少し考えさせてくれ、と言おうとしたのだが、恵が来てしまったことでややこしくなってしまった。

愛里も愛里で、やった、と言って、嬉しそうに両手で小さくガッツポーズを取っている。

 

これはもう断れる雰囲気じゃないな。

 

「……分かった。グループで勉強する際、俺が愛里に勉強を教える。それでいいな?」

「うん! よろしくね、清隆くん!」

「良かったわねー愛里」

「清隆、絶対に目移りしたら駄目よ!」

 

とりあえず、グループで集まっている時のみ俺が愛里に勉強を教えることに決まった。

 

「そうなると、定期的に勉強会を開く必要があるな。須藤も堀北に勉強を教えてもらって、かなり成績が伸びてるし、俺たちも負けてられないぞ」

 

明人がこのグループで勉強会を開くことを提案する。

 

「そうだな、ただ愛里はOAAが最下位だし、勉強だけで順位を伸ばすのはジリ貧になるかもしれない。運動する習慣も取り入れた方がいいかもな。もちろん俺も参加する」

「ゆきむーがそんな提案するなんて意外ー」

「須藤を見て俺も負けてられないと思ったんだよ。勉強が全然出来ていなくて馬鹿にしていた奴がここまで学力を伸ばしたんだ。俺も運動が苦手だと言ってられない」

 

啓誠が自分から運動すると言い出すのはなんとなく分かっていた。

運動神経がいいだけでなく着実に学力を伸ばしている須藤を意識していたからな。

 

「運動なら俺はそれなりに得意だ。教えられる範囲で協力する」

「ああ、よろしく頼む」

 

グループの中で運動神経のいい明人が運動を教えることになった。

 

「まだ話長引く感じ? じゃああたし先に帰るね」

「ああ、悪いな」

 

恵は邪魔しては悪いと思ったのか、先に帰っていった。

 

「そういえば、きよぽん足めっちゃ速いんだよね。速く走れるコツとかないの?」

「どう走っているかは教えられるが、それで速くなれる保証はないぞ」

「十分十分。てゆうか、学力面だけじゃなくて運動面も手を抜いてるの?」

 

もはや根掘り葉掘り聞かれそうな雰囲気だな。

隠していることをさらけ出すと言ったのは失敗だったかもしれない。

 

「…まあそこそこな」

「なんか煮え切らないわね。まあ、人に話したくない秘密は誰にでもあるだろうし、ここで問い詰めるのはやめるわ」

 

思いの外あっさりと引き下がった波瑠加。

彼女も聞かれたくない秘密があるみたいだから、そこを考慮したのかもしれない。

 

「で、でもすごいね、清隆くん。今日の試験の最後の課題、清隆くんがほとんど主導して決めちゃったし。いつもの清隆くんとは違ったからちょっと怖かったけど、か、かっこよかったよ」

「俺もびっくりした。いつもの清隆とはキャラが違ってたから、みんなビビってたぞ」

「きよぽんって、頭も回るよね。完璧超人?」

「完璧超人は言い過ぎだ。俺にも出来ないことはたくさんある。リーダーとしては堀北、対人関係は櫛田や洋介、恵の方が上だ」

「きょーちゃ……櫛田さんか…」

 

波瑠加は櫛田をあだ名で呼ぼうとしたが、あんなことがあった後だとさすがにあだ名で呼ぶ気にはならないようだ。

あまり話題に出したくなかったんだろう。

この会話の中で俺が櫛田の名前を出すまで一度も出てこなかった。

 

「…そうだ、愛里。きよぽんに見せたいものがあるんでしょ。行こ」

「あ、うん。清隆くん、もう少し待っててくれるかな?」

「ああ、分かった」

 

波瑠加は話題を逸らすために思い出したかのように愛里を連れて行ってしまった。

そういえば、放課後見せたいものがあると言ってたな。

 

「じゃあ俺たちは外で待っとくわ」

「ああ、俺たちは邪魔だろうからな」

 

明人と啓誠はそう言うとこの場から離れようとする。

 

「そういえば清隆。この後時間あるか? みんなでこの後喫茶店に行こうって話になってるんだが」

「茶柱先生に呼び出されてるから待っててもらえるか? 遅いと思ったら先に行っててくれ」

「分かった」

 

待ち合わせの約束をし、明人と啓誠はこの場から去っていった。

 

それからしばらく待っていると、

 

「清隆くん!」

 

後ろで波瑠加に見守られながら、愛里が駆け寄ってきた。

 

「髪型変えただけど、……どうかな?」

 

本当なら眼鏡もこのタイミングで外そうとしていたのだろう。

髪型をオシャレにして戻ってきた愛里は俺の感想を待った。

 

「よく似あってるぞ。さすがアイドルだな。クラスの中で間違いなく一番可愛いと思う」

「え? えへへ、ありがとう」

 

そこまで褒められるとは思っていなかったのか、少し驚いて照れくさそうに微笑む。

 

「あ、あのね、清隆くん。私、清隆くんに伝えたいことがあるの」

「なんだ」

 

恥ずかしそうにもじもじしながら、愛里は言葉を紡ぐ。

 

「私、き、清隆くんのことが好きです。ストーカーから助けてくれた時からずっと気になっていました。清隆くんのグループに入ってから、友達も増えて、学校が楽しくなって、清隆くんとも一緒にいる時間も増えてどんどん好きになっていました」

 

愛里の勇気を振り絞っての告白。

俺に恵がいることを知っているが、それでも想いを伝えたかったのだろう。

当然俺の答えは決まっていた。

 

「気持ちは嬉しいが、俺には恵がいる。愛里の気持ちに答えることは出来ない」

「う、うん。それは分かってる。ただ、私の気持ちを伝えたかっただけだから」

 

返ってくる答えは分かっていたのだろう。

あまり落ち込んだ様子は見られなかった。

 

「で、でも、失礼な言い方になっちゃうけど、もし清隆くんが軽井沢さんと別れたら私にもチャンスはあるってことだよね?」

 

愛里からくるとは思っていなかった質問がとんできた。

相手に遠慮するような性格をしてる愛里ならこういう質問はとんでこないが、十中八九波瑠加の入れ知恵だろう。

少し離れた位置にいる波瑠加を睨むと、目をそらして口笛を吹いている。

 

それはそれとして、恵と付き合っていなくても愛里の告白は断っていた。

恵ほどの利用価値はないし、恋愛の教科書としてすでに恵で間に合っている。

愛里の変わりよう次第では利用価値も出てくるかもしれないが、その頃には別クラスに移動している可能性がある。

しかし、ここでないと言い切ると、文化祭の参加を見送られる可能性があるのと、参加してもモチベーションの低下に繋がりかねない。

次また同じような試験で愛里が退学することになっても知ったことではないが、その事態は避けなければならない。

 

「……そうだな。恵と別れた後で、愛里の成長次第では、あるな」

 

期待を含ませる言葉とともに、成長を促す言葉も含ませて返事をした。

 

「うん! 私、頑張るね!」

 

まだチャンスがあると思った気になっている愛里は嬉しそうにしていた。

 

「それと文化祭の件なんだが、メイド喫茶をやることになったんだ。試験中に愛里が参加をすることを強制してしまう流れにしてしまったのは申し訳ないんだが、頼めるか?」

「メ、メイド喫茶をやることになってたんだ…。でも、みんなの前でやると言ったし、自分が変わっていくチャンスでもあるから、私やるよ」

「ありがとう、当日楽しみにしてる」

「う、うん! 一番に清隆くんに見せるね!」

 

機嫌をよくしている中、この機会を逃さず文化祭の参加を頼んだら案の定OKしてくれた。

 

「あ、それと来週からこの格好でいこうと思ってるんだ。まず、学校内でこの格好でいることに慣れておかないと」

「そうだな。もうすでにクラスのみんなにばれているわけだし、隠す意味もなくなるからな」

「そうだね。そういえば、この後、みんなで喫茶店に集まることになってるんだけど…」

「それは明人たちに聞いた。茶柱先生に呼び出されてるから先に行っててくれないか?」

「うん、待ってるね!」

 

愛里は元気よく波瑠加の元へ行き、波瑠加と笑いあいながらこの場を離れた。

そして、俺も茶柱と約束している場所へ歩を進めた。

 

 

 

 

Fin

 

 

 

 

 




最近、よう実のアニメを見てハマり、原作も一気読みしましたが、めちゃくちゃ面白いですね。
佐倉は大好きなキャラで、退学になるという流れがあまりにも悲しかったので、どうすれば退学にならなかったのかなーと考えまくってたら、こんな小説書いてました。

書いてて思ったことは、堀北の反論少なすぎじゃね? と思ったんですが、櫛田を残すために原作でもう言いたいこと言ってしまってる感があったので、何を言わせればいいか分からなかったんですよね。
当然、堀北もこのまま時間切れでポイントを失うことはあまりにも痛いことは理解しているので、綾小路がクラスに櫛田を残すデメリット、佐倉の有用性を植え付けることで、堀北もやむを得ず櫛田を退学させる方向へと持っていきました。

綾小路グループの三宅ですが、正直何を言わせたらいいか分からなかったです。
個人的にメンバーの中で一番普通という印象なんですよね。
だから、無難なことしか言わせられないというか、反面、長谷部はムードメーカー的な立ち位置なので、やりやすかったです。

原作では、佐倉がグラビアアイドルとして活動していたのをメンバーや櫛田以外で知っているのは、クラス内では池くらいなのですが、彼の後押しだけでは弱いと考えて、平田も知っているという設定にしました。
平田の人望と友人の多さを考えれば、そういった友人がいてもおかしくないと考えた次第です。

最後はちょっと何かしら綾小路の独白で締めたかったのですが、思いつかなったので物足りない感じになってます、すいません。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

原作の流れを見ると、愛里の復学はなさそうですね…


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