戦い続ける歓びを   作:へか帝

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生き残るほうと死ぬほう

「あの黒狼鳥が、またこの辺りに現れたそうだ」

 

 数多のハンターが行き交う酒場、ハンターズギルドにて職員の男性がそう囁いた。

 

「本当ですか? つい先日まで隣国の、そのまた隣の国にいたという話だったじゃないですか」

 

 それに答えるのは給仕のような服装に身を包んだ女性。彼女はギルドに寄せられた依頼をハンターに斡旋する受付嬢だ。

 

「皆殺しだって話だよ。この国への道すがらにいたモンスターは」

「……じゃあ、この数日で殺到したクエスト依頼のキャンセルって」

「先にガルルガに縊り殺されちまったんだろ。ヤツに見つかったモンスターも運が無い」

「でも、信じがたい話です。だって中には……」

 

 受付嬢がちらりと目線を降ろした先には、キャンセル処分になった依頼書が積まれていた。

 それは、G級のハンターの指定が必要となるほどの危険なモンスター群。

 従来より凶暴化したモンスターや、特異な体質をもつ亜種個体、俗に金冠と称される巨大個体が指定されたクエストさえある。

 これはすべて、腕利きのハンターが入念な準備の末、数日がかりで狩猟するような依頼だ。

 たとえモンスターといえ、これらと連日連戦して生き抜くなど、にわかには信じがたい。

 

「なんだぁ、たかがイャンガルルガ如きにビビってんのかぁ?」 

「あなたは……」

 

 ギルドのカウンターに横柄な態度で近寄ってきたのは、一人の男ハンター。

 ティガレックスの素材で作られた装備に身を固め、気安くカウンターに腕を乗せていた。

 

「たかが死に損ないのカラス風情、とっととぶっ殺しゃいい。あんだろ、クエスト」

「……それは。ええと、あるにはあるのですが」

 

 あの傷ついたイャンガルルガのクエストは、確かにギルドに死蔵されている。

 だが一度貼り出されたそのクエストは、ギルドによって撤回された。

 イャンガルルガが周囲のモンスターと戦い続けるという性質上、放置でよいと判断されたということになっている。

 

 だがそれは、ギルドの世間体を守るための詭弁に過ぎない。

 かのクエストは、ひとえに『危険すぎる』という理由で撤回されたのだ。

 

 無作為に殺戮行為を繰り返すイャンガルルガを止めるために一度緊急クエストとして張り出されたその依頼書は、ただの一人も生還しなかった。

 あの傷ついたイャンガルルガの出没する地域には必ず他の強力なモンスターとの衝突が予想される上に、同時期には、かの幻獣の目撃例さえある。

 

 傷ついたイャンガルルガの話は、ハンターの間でも有名だ。

 顔面が粉々にひしゃげた片翼のイャンガルルガが、クエスト中に討伐ターゲットを横取りするように乱入してくるのだ。

 これで話題にするなという方が無理がある。

 

 命を燃やす鬼気迫ったイャンガルルガの存在は、一度遭遇したハンターの記憶に焼き付いて離れない。

 奴はどこにでも現れる。古龍との対決中であっても例外ではない。

 

「どうせ俺たちもそろそろ昇格だろ? 実力を証明してやっからよ、まあ任せとけや」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンター連中は馬鹿ばかりだ。

 ものを考えるという行為が、自分たちだけの特別な行為だと思っている。

 道具を使うという行為が、誰にも真似されないと思っている。

 自分を特別だと思っているようなやつほど、間抜けな隙を晒すのだ。

 

 森林の中に仕掛けられた、まるだしの粗末な罠。

 雷光虫の発電作用を利用した、モンスターを麻痺させるための罠。

 

 その半歩手前で、己は"痺れたフリ"をした。

 ぎゃあぎゃあと大きな声でわざとらしくうめき声をあげて、体を硬直させてみせた。

 そうしたら、体を守る用意もせず不用心にワラワラと蟲のように寄ってくる。

 

 一人目がやってきて、腹を斬りつけられる。古傷が開く。

 二人目がきて、刃を突き立てられる。甲殻が剥がれ落ちる。

 三人目が頭を殴りにやってくる。砕けたクチバシがまた割れる。

 それでもまだ、痺れたフリをする。

 

 そして、四人目。ボウガンを持った軽装のやつが近寄ってきた瞬間。

 

 そいつを爪で引き倒し、痺れ罠に押し付ける。

 痛みになれていないのだろう。大きな悲鳴が上がった。

 

 群れで動く生き物は、仲間の窮地に敏感だ。

 その瞬間、悲鳴の方向に視線が集中した。

 自分以外に訪れた、予期せぬトラブル。

 そういうときこそ、自身の危機に疎くなる。

 

 だから、目の前でクシバシの中にブレスがチャージされてるのに、それを見逃す。

 まずは攻撃をされないと思っているから離脱の姿勢をしていない間抜けを頭から咥えて消し炭にする。

 

 慌てた一人がものを投げた。

 己は視界を横切るそれを目で追わずに、咆哮を上げる。

 迸る閃光。馬鹿なハンターたちは、自分の投げた閃光弾から目を反らすのが間に合わずに視界を焼かれている。

  

 足元のガンナーを踏み砕きながら背中の針で一人貫く。もう一人を尻尾で打つ。

 毒でもがき苦しむのを許さずに、火炎ブレスで焼き払う。 

 

 ハンターをやるのも、これが最初じゃない。

 相手をすれば、すぐに程度が知れる。

 

 己は連中を、ただの一度も『格下』だと思っちゃあいない。

 油断、誤解、慢心。それが残っているうちに終わらせる。

 

 やるときはいつも完膚なきまでに。

 狡猾に、老獪に。

 

 ハンターは強い。

 だが、覚悟のないやつは話にならない。

 殺しにきておきながら、殺される覚悟がないやつは何をやってもだめだ。

 

 殺されない強さなど、あろうはずがない。

 己にも、お前たちにも。

 

 ハンターというのは、強さのバラつきが激しい。

 

 三流は、覚悟を持ってやってくる。

 それは死の意識だ。

 

 二流は、戦略を持ってやってくる。

 それは生への執着だ。

 

 一流は、決意を持ってやってくる。

 それは戦の作法だ。

 

 狩る側と狩られる側。

 己の前で、そんな分け方はない。

 あるのは、死ぬほうと生き残るほう。

 それが分かっていないやつは、戦いの舞台に上がる資格さえない。

 

 『ハンター』でいるつもりのやつは、全員死んでいった。 

 今回のやつらだってそうだ。連中、三流にも満たなかった。

 

 けれどきっと、やがてそうでないやつらもやってくる。

 己は、戦い続けるだろう。




アイスボーンの傷ついたイャンガルルガ、ハンター相手に威嚇さえせずに発見と同時に攻撃してくるの狂っててすき
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