【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
適当にやっていこうと思います。
オカルトマニアもっと流行れ。
会わないと分からない事がある。会っても分からない事はある。
「どうすりゃいいんだ……」
大都会ド真ん中。ナックルシティは一等地。
朝日差し込むベッドの上、俺はお目覚め一番に頭を抱えた。
全裸で。
どうすればいいか。無論、どうにかせねばならない事態という訳で。
俺は、その元凶……というと語弊があるかもしれないが、間違いなくその一端を担っている少女の方を見た。
「くぅ……くぅ……ふへへ……♡ ケヤキくぅん……♡」
俺の隣で眠る少女――オカルトマニアのムクノ――は、寝言であるにも関わらず語尾にハートマークをつけて幸せそうに惰眠を貪っていた。
彼女は俺の腹に腕を回し、ワンパチが親愛を示す時の様に我が鍛え上げられし腹斜筋に頬ずりしていた。おまけに口が弛緩しきっているのかさっきから舌とヨダレがお腹にべったりだ。
このだらしねぇ顔で眠る女の子こそ、どうにかせなばならない状況になっているこの家の主なのである。
彼女もまた、全裸であった。
察しの良い方なら分かるかもしれないが、まぁ……そういう事である。
そういう事が分からないのなら、俗っぽい言い方をすれば大体分かると思う。
つまりアレだ。
朝オニスズメだ。
いや、ガラル的には朝ココガラか。いやそれはいい。
「……やっちまったなぁ」
他人事のような呟き。
だが、他人事ではないのである。
寝起きと緊急事態により混乱した頭では、上手く思考がまとまらない。
最中の記憶は明瞭で、その時の高ぶりはよく覚えているのだが、何がどうしてそうなったのかが虫食い状態だった。
ぼんやりした意識では、筋道だった考えが紡げそうになかった。
「どうすっかなぁ……」
どうする事もできないので、俺は何となくこれまでの事を思い出していた。
● 〇 ●
ポケットモンスター。
縮めてポケモン。
進化したり変化したり伝説的な何かだったりする、不思議な不思議な生き物だ。
そんなポケモンたちは、時に人と支え合い、時に人と争い。時にポケモン同士で戦ったりする。
この世界の多くは、ポケモンによって回っているのである。
そんなポケモンを育て、戦わせる者をポケモントレーナーと言う。
何を隠そう、俺もまたその一人。
ポケモントレーナーだ。
「うわぁ! 久しぶりだなぁ……!」
ガラル地方はナックルシティ。
あまりにも変わっていない街並みに、俺は感嘆の息を吐いた。
汽車を降りると、そこには昔懐かしの故郷の光景が広がっていた。
古風な建築物が立ち並ぶそこは、幼少期の俺が過ごしてきた街の雰囲気を保っていたのである。
ちょこちょこと見知らぬ店や看板こそあるが、石造りの壁といい大仰な門構えといい、いかにもナックル的だ。
久しぶり過ぎて、懐かしいのと新鮮な気持ちが半々。こういう気持ちになれるのも旅の良いトコだと思う。
「ブラッ」
俺の足元で相棒のブラッキーがひと鳴きした。
こいつがまだイーブイだった頃、初めて出会ったのもナックルシティだったので、ブラッキーにとってもこの街は懐かしの故郷なのである。
ブラッキーは記憶の中の匂いを確かめるように、風に乗っている空気に鼻を鳴らしていた。
ライムシティでもあるまいに人通りの多い街中でポケモンをボールの外に出していいのか、と言われるかもしれないが、俺はいいのだ。
なにせ、俺は協会公認のフリーランスポケモンレンジャーなのだから。
まあ、たまにしか働かないが。
「さて、目的のキャンプ道具買ったら飯だな。お前もガラルカレー久しぶりだもんな」
「ブラッ、ブラッ」
長旅などしていると、自然とポケモンと話す機会が多くなる。言葉は通じないが、意思は伝わる。その点、人間よりよっぽどやりやすい。
周囲を眺めつつ、俺とブラッキーは目的地の方向に向かって歩き出した。
目的地はナックルシティにあるガラルキャンプ用品の本店。地図はない。道もうろ覚え。迷ったら、それはそれで経験だ。
紆余曲折あったりして旅を始めて早数年。初めての地方も懐かしの地方も、物怖じせずにどんどん歩けるようになった。
ある意味、度胸が付いたのだ。
地元住民に危険だと言われるような所にも足を運んだし、治安の悪い街にも行った事がある。大自然に比べれば、都会の危険などたかが知れている。
仮に今ここでどこぞのバッドガイやスキンヘッズに絡まれても返り討ちに出来る自信はあった。
これでも一応ポケモンレンジャーのはしくれ、そこらへんの木端トレーナーに後れを取る腕前ではないのだ。
むしろ、何かトラブルのひとつでも起こってほしいという気持ちさえある。
そしたら俺がパパッと解決し、ササッと気持ちよくなれる訳だ。俺の気分をよくするために、殴っていい相手が欲しかった。
ゲスいのはその通り、ロクでなしなのもその通り。
いやだって俺、あくタイプ使いだし。
「ん?」
などと考えていると、遠くの方で趣ある街並みにそぐわぬ野趣に富んだお声が聞こえて来た。
耳を澄ませてみると、やれ「一緒に遊ぼうぜ」だの「楽しい事教えてあげるよ」だのと聞こえて来た。次いで、ほんの僅か女性の……若い女の子の嫌そうな声が聞こえる。
ははーん、である。
一流のあく使いの俺には分かる。
こいつはカモネギだ。厄介なナンパ野郎から女の子を助け、お礼に何か美味しい想いができるかもしれない奴だ。
そうでなくても、女の子からの感謝の言葉は万金に値する。そして颯爽と立ち去る俺、その時は名乗らずにおこう。多分そっちのがかっこいい。絶対気持ちぃ奴じゃん。
足元のブラッキーを見る。後ろ脚で耳の裏を搔いていた。興味はなさそうだ。
俺は腰のボールを撫でつつ、件の現場へと足を向けた。
現場に着くと、そこには予想通りの状況が広がっていた。
派手な格好の如何にもな三人の男たちと、そいつらに取り囲まれている黒髪の女の子――俺の眼力なら分かる、絶対美少女だ――の後ろ姿。
周りの人たちは遠巻きに見ているだけで、誰も女の子を助けようとしない。まあ、あの三人組は一般人には怖いもんな。
あく使いの俺からすると、ちょっと親近感湧く見た目なんだが……それはさておき。
三人組を観察する。万が一があってはいけない。状況を把握せねば。
三人組が女の子を囲んでいる。三人中、三人が鼻の下を伸ばしている。なんつぅスケベな顔してるんだ。
女の子は小さな声でお誘いを断っているのだが、男たちは聞く耳を持たない。それどころか、いつ手を出してもおかしくなさそうな雰囲気さえある。
間違いない、あれはただの醜い悪だ。社会正義的にどうのでなく、俺の主観において奴さん等はダメな悪党だ。
さて、これはチャンスだ。
誰が見ても悪い奴を叩きのめしてイキれるチャンス。女の子を助けて感謝されるチャンス。ナックル住民からの人気を得るチャンス。
1ボール2ポッポ。いや3ピジョットだ。乗るしかない、このビッグウェーブに。
俺は物陰に隠れ、手鏡で身だしなみをチェックした。髪を整え、服を整えた。臭いも問題なし、汚れもなし、これならいつでも行ける。
相棒のブラッキーを見た。ぼんやり女の子の方を見ている。興味はあるらしいが、戦う気はなさそうだ。やるとしたら他のメンツでやるしかない。
準備を整えた俺は、その場から飛び出した。
まあ、もし俺の予想通りじゃなかったら素直に謝ろう。
「待ちな。その子、嫌がってるように見えるが」
シュバッ! とな。
颯爽と男たちと女の子の間に割り込んだ。あっという間に動く体捌き。前に男たち、背中に女の子を庇う構図だ。
俺、かっこよすぎる。あまりにも華麗な立ち回りだろう。伊達にガラル空手有段者ではない。ポケモンレンジャーはフィジカルも優秀なのだ。
「なんだァ……? てめェ……?」
「俺らはただ楽しくおしゃべりしてただけだろうが!」
「やっちゃうよ? やっちゃうよ?」
と、踏み台引き立て役が喚いている。並みのトレーナーならビビるのかもしれないが、あくタイプ使いの俺からすると、この程度子守歌に等しい。
「喋っていたのは君たちだけだと思うが。いや、“なきごえ”の練習でもしていたのかな? ベイビー?」
言って、やんちゃボーイズに流し目を送る。この口上はカントーにいたぼうそうぞくの友達から教わったのだ。実際やってみると、あらやだめっちゃ気持ちいい。
「テメェふざけやがって!」
と言って、三人組は各々ボールを構えた。
誘導通りである。それを待っていた。
トレーナー同士、ポケモンバトルすりゃ何とかなるのである。
そして、ポケモンバトルで遅れはとらない。
「いいだろう……」
対し、俺もボールに手をかける。
相手方は一斉にボールを投げ、三匹のポケモンを繰り出した。
相手が繰り出したのは、ニューラとマッスグマとダゲキだった。
意外な事にそれなりに鍛えてあるらしく、こいつらもそれなりのトレーナーではあるらしい。
「ゆけ!」
応じ、俺も三つのボールを投げ、同時に三匹のポケモンを繰り出した。
俺が繰り出したのは、グラエナとドンカラスとゾロアーク。
相手側のポケモンとは鍛え具合がまるで違う。実践主義の結晶のような仕上がりだ。
「な、なぁコイツ……ヤバくね?」
「やっぱやめといたほうが……」
「うるせぇ! やるんだよ!」
俺の相棒たちを前に、三人中二人のやる気は下がったようだが、そのうちの一人は血の気が多いらしくバトルを諦めてはいない。根性はあるようだが、今使ってほしくはないものである。
「三人相手に一人でバトルなんざできる訳ねぇだろ! はったりだ!」
と自分たちを鼓舞する血の気マックスくんだが、できるからやっているのである。
「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな……」
昔読んだ漫画の台詞を引用して、人間流の“いかく”をぶつける。
「くそ! ニューラ! “こおりのつぶて”!」
「マッスグマ! “ずつき”!」
「“きあいパンチ”だ!」
合図もなく、バトルははじまった。
そして……。
「「「やな感じー!」」」
という捨て台詞を残し、三人組は去っていった。
バトルは10秒もかからなかった。
読み通り、街中でポケモンバトルをしてはいけませんというルールに抵触するかしないかレベルのじゃれあいで終わった。
まあ、それだけ俺が強いという話だ。伊達に幼少期に未来のチャンピオンと称されていた訳ではない。
残念ながら今では根無し草の風来坊だが、チャンプか旅人か選ぶなら断然後者だ。
さてさて、お楽しみの承認欲求タイムである。
助けたのは美少女なのは分かっている。顔は確認していないが、俺の観察眼と直感がGOサインを出していたのだ。間違いない。
願わくば人にお礼を言えるタイプの娘なら嬉しいが、ないならないでまぁ構わない。そういうのもアリだと思うね。
俺はできるだけカッコよく栄える角度を意識しながら、女の子の方に体を向けた。
瞬間、目が合う。
「あ、可愛い……」
という呟きが、我知らず俺の口から漏れ出た。
脳内の予定では、何か良い感じの台詞を言って女の子の身を案じつつ、颯爽と立ち去る気でいたのだが、彼女の顔を見た瞬間すべての思考が停止した。
それだけ、目の前の女の子が俺好みだったという話だ。
推定美少女は、実際めちゃくちゃ美少女だった。
髪の色は純黒で、ふさっとした長いくせ毛の持ち主だ。その両目はクリッとして愛嬌があり、丸顔の肌にはシミひとつ見受けられない。化粧っ気のない顔はナチュラルに可愛らしく、どこかベイビーポケモン的な印象を受ける。
何より、おっぱいがデカい。全身暗色という世間的にはちょっと「んー?」っとなるファッションでありながら、そこもまた可愛い。社会に迎合しない自分流ファッションという感じが実に良い。そして、おっぱいがデカい。
いやデカいのはおっぱいだけではなかった。ほんの僅か視線を下げて、わかった。この子、超安産型だ。ケツと大腿がかなり太い。大きなお尻は夢の結晶。足の太い女の子は豊穣の象徴。
この娘、童顔には似つかぬ、かなりのダイナマイトボディだ。
一流あく使いの俺には分かる、この子は歩く度に「ムチィ……♡ ムチィ……♡」となっているに違いない。
全体的に、癖の強い美少女だった。かなり俺好みである。
なにより、おっぱいがデカい。
尻と脚も太い。
控えめにいって、最高だった。
「や、やっぱり……!」
そんな漆黒美少女ちゃんはというと、何やら目を丸くして俺の顔面を凝視していた。
まあ、俺は顔が良いからな。見られて悪い気はしない。むしろ穴が開く程見て欲しい。美少女に見られるととても誇らしい気持ちになるのだ。鏡を見るたびに両親に感謝しているくらいにはイケメンなのだ。どんどん見てくれ。
「やっぱり! ケヤキくんだ!」
「ひょッ?」
などと考えていると、何故か俺の本名が聞えて来た、発言の主は目の前の美少女だった。
俺はSNSの類はやっていないし、メディア露出も全くない。にも拘らず、美少女ちゃんは、そんな俺の名前を知っているらしかった。
悲しい哉、ポケモンの名前や技は記憶できる我が頭だが、こと人間の名前はとんと覚えられないのである。
よほど印象に残っている人物や世話になった恩師ならともかく、昨日今日あった人の名前など、いちにのポカンでさようならなのだ。
旅などしていると、尚の事。出会って別れた人は、会って話してようやく思い出すのである。
そんな信用ならない俺の脳みそだが、状況から推測くらいはできる。
多分、この子は幼少の頃の俺の知り合いだ。スクールとか空手道場とかで一緒だったんだろう、恐らくメイビー。
だがまあ、いくら俺でもこんな可愛い女の子の顔を忘れるものだろうか。
だって、めちゃくちゃ可愛いし……。
黒髪、長髪、黒っぽい服装……。
驚くほど白い肌、ガラル人っぽくはない雰囲気、ゴースト使いの雰囲気がある気がするような……。
「……あっ!?」
その時、俺の脳に10まんボルトが炸裂した。
おっぱいのデカさや太ももの豊満さにばかり目を取られていたが、記憶の奥に引っかかる人物がいた
黒々とした大きな瞳。笑うとぐにゃりと歪む口元。ボサボサの髪の毛……。
「もしかして、ムクノちゃん……!?」
名前を呼ぶと、俺の幼馴染――オカルトマニアのムクノちゃんは、昔よく見たニチャァ……とした笑みを深くした。
「ふへへ……♡ 久しぶりだね、ケヤキくん♡」
ぞわりと、彼女の満面に咲いた笑みから謎の圧が放たれたように感じたのは、気のせいだろうか。
まるで、ゴーストポケモンの“くろいまなざし”でも食らったような、そんな感覚になったのは気のせいだったろうか。
こうして、俺とムクノちゃんは再会したのである。
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