【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
特に感想は貰えると凄く嬉しいですね。感謝の極みです。
誤字報告も助かっています。ありがとうございます。
主人公は自分の能力に相当な自信があり、少し傲慢なところがあります。
「うおっ、まぶしっ! 海すっご! ヤドン多! ホエルオーでっか!」
ヨロイ島唯一の駅を出ると、目の前にはまさにパラダイスといった風景が広がっていた。
燦々と降り注ぐ太陽光。青々とした海と水平線。浜辺には呑気そうなヤドンがひなたぼっこをしていて、クッソ広いお空には種々様々なひこうポケモンがいくつもの群れを成して飛んでいた。
視界全体、昔見た景色そのまま。変化の激しいガラルにおいて、ヨロイ島は記憶の中と全く同じだった。
良くも悪くも時の流れを感じる事こそ旅の醍醐味だと思っている俺だが、こういう昔と変わらない景色というのもまた良いものである。旅の中、こういう所があると安心感が湧くのである。
「懐かしいねぇ~。前に来たのはスクールに通ってた時だから、すっごく久しぶりなんだけど全然変わってないよ」
背後からの声、ムクノちゃんだ。彼女は鍔の広い帽子を被って日焼け対策をしていた。その衣服は俺と似たような旅人仕様だが、夏用新商品のそれらは俺のよりよっぽどスタイリッシュだった。
背中には俺と同じブランドのバックパックと、まるでレアコイルみたいに浮いて追従しているナップサックがあった。彼女は持ち前の超能力で俺より多くの荷物を持ってきているのだ。曰く、これくらいなら全然疲れないとのこと。超便利だ、実に羨ましい。
「色んな海見てきたけど、俺的にはやっぱ此処とメレメレ島の二強かな。なんというか雰囲気が良い」
結局、俺とムクノちゃんは一緒に旅をする事になった。
色々と理屈を捏ねたところで、遊びのお誘いを受けてしまうと俺という奴はホイホイ乗ってしまうのである。「あー、その日用事だから遊び行けないわ」という時ほど悲しい事はないのだ。
「私もアローラ行ってみたいな~」
「良いトコだぞ。もし行ったらおすすめの飯屋教えてやるよ」
「ふへへ♡ 楽しみ♡」
ナックルからブラッシーまで列車に乗り、ブラッシーからちょっと行ってアーマーガアによろしくされてはるばるきたぜヨロイ島へ。
さて、そんなちょっと面倒な経路を使ってまで何故俺とムクノちゃんがヨロイ島に来ているのかというと……。
特に意味はない。
実際ない。強いていうなら直感だ。旅に意味はなく、旅をする理由もまた存在しない。
少なくとも俺にとって、旅とは自分の心に従って動く生き方そのものだと思っている。
俺はそうやって生きる。現状この生き方を変えるつもりはない。だから、例えムクノちゃんと二人旅であっても変わらず俺は俺の心のまま旅をするのだ。
旅は危険だが、道中命がけでダチを守るってのも実にあくタイプらしくてそれはそれで楽しかろう。
「これからどうするの?」
「とりあえず、マスタード師匠に挨拶かな。その後はまぁ、流れで」
適当に決めてやってきたが、挨拶は大事だ。この島の管理人に挨拶して、それからどうするか決める。
俺の予定など、その日どころか一時間後までしか存在しないのだ。
駅を出てしばらく、体力のない人間にはきついであろう坂を上り、俺たちはそこに辿り着いた。
マスター道場である。ヨロイ島には遊びに来たが、遊びに来たのに島の管理人に挨拶なしはダメだろう。それはあくの流儀に反する訳で。
「失礼します! 先日連絡させて頂いたケヤキです!」
一応アポは取っている。道場のチャイムを押しながら大きな声を出した。
すると、ガラガラと戸を開けて出て来たのはいつぞやの奥様であった。
「はーい! あらまぁケヤキくん久しぶり~! 大きくなったねぇ~! しかもすっごくイケメン!」
「どうも、お久しぶりです」
以前のヨロイ島来訪はいつだったろうか。時間は結構経ってると思うのだが、奥様は俺とムクノちゃんの顔を覚えてくれていたらしい。
当時の俺はまさに紅顔白皙の美ショタであったのだが、今の俺を見てもすぐに分かるものらしい。まあ、あらかじめ連絡していたからだろうけど。
「ま! 貴女ムクノちゃん!? まぁ~おっきくなって! お人形さんみたいだったのが今じゃお姫様みたいだわ~!」
「ど、どうも……お久しぶりです」
奥様の奥様的歓迎に、ムクノちゃんはたじたじだった。コミュ力がアップした今でも、やっぱり押しに弱いムクノちゃんなのであった。
「ヘイ! そこにいるボーイとガール! 久しぶりじゃの~! 飯食べてる? 元気してる? どう、ウーラオスは息災かの?」
そう言って、奥様の後ろから姿を現したのは仙人みたいな眉の爺さんだった。
痩身で、腰を庇って歩く姿はまさに老人といった印象だ。しかし、超一流のあくタイプ使いの俺の眼には見えている。未だその身に宿るかくとうタイプの猛々しさ。老いてなお盛んとはまさにこの人の事だろう。
マスタードさんとは、そういう一段上のポケモントレーナーの風格のある人だった。
「お久しぶりです、マスタード師匠。ここで出しても?」
「うん、構わんよ」
「では。ウーラオス、挨拶を」
俺は腰のモンスターボールからウーラオスを呼び出した。
「べあくぁ!」
ボール外に出たウーラオスは久々の再会を喜ぶようにひと鳴きしてから、マスタード夫妻に合掌礼をした。
ウーラオスの一礼を見て、マスタード師匠はうんうんと頷いた。
「うむ、よく鍛えておる。お主もな、ケヤキくん。前より良い顔しとるわい」
「恐縮です」
一応、これで挨拶は終わりだ。この後はそのまま島のどっかに行くつもりである。
森の方に行くのもいいし、洞窟の方に行くのもいい。陽が落ちる前にテントを張りたいが、どこにしようかさえ決めていない。行き当たりばったりで実に楽しい。
そう考えていると、マスタード師匠は俺の隣の女の子に目を向けた。
「そんで、ムクノちゃん……いや君ほんとにムクノちゃんか? いやはや、おっきくなったのぉ!」
さっきまでのかくとうマスター的眼差しから一転、好々爺然とした目をするマスタード師匠。
けれども多分、無意識だろう。マスタード師匠の視線が僅かに下に向いた。
まあ、うん。
分かる、分かるよ師匠。
実際、邪気も悪気もないし、なんなら下心だってなくてもそうなるんだよね。
ムクノちゃん、大きくなったよね。擬音を付けるなら、「ボン」「きゅっ」「ボボン!」だもんね。服越しにもその身体のムチムチ加減が明らかだものね。
まぁ、俺はそのムチムチの奥にある筋肉とか、服越しだと分かり難いくびれとか知ってるんですけどね。
「はい、お久しぶりですマスタードさん。あの時はお忙しい中、面倒を見て頂いてありがとうございました」
「いやいや、いつの話しとるんじゃ。それに今じゃあ立派なポケモントレーナーじゃないの。見れば分かるよ、ボールの中にいるポケモンからよぉ~く信頼されとる事。君はもう目ぇ離しちゃダメな子じゃなくなっとるわい」
俺のゲスい思考とは打って変わって、老いてなお盛んな彼の眼はムクノちゃんの眼をしっかと見ていた。
ポケモントレーナーは目と目が合えばポケモンバトルと言われるが、同じようにある程度のトレーナー同士であれば目が合うと相手の力量がなんとなく分かるものである。
マスタード師匠は、その眼力でムクノちゃんのトレーナーとしての腕前を計ったらしく、今では昔面倒を見たか弱い女の子ではなく一人のトレーナーとして扱っている様であった。
ちなみに、小さかった頃の俺では分からなかったが、今なら分かる。
このマスタードという爺さん、トレーナーとしては普通に俺より格上だ。勝ち負けの話じゃなく、その身に宿す“凄み”がダンチだ。
得意タイプの相性もあるだろうが、シングルバトルなら10回やって1回勝てるかどうか。リソース全部使っても必ず勝てるビジョンが見えてこない。トリプルバトルなら俺のが上手いと思うのだが、いずれにせよ油断できる相手じゃない。
その位階の師匠が、ムクノちゃんの腕前を認めているのだ。なんか、俺まで嬉しくなってしまった。
「さ、立ち話もなんだ。とりあえず上がっていきんしゃい。ちょうど皆もトレーニング始めたトコじゃし、久々の道場の様子など見てきなさいな」
おや、入れてもらえるらしい。なら遠慮なくお邪魔させてもらおう。
こうして、俺とムクノちゃんは思い出の道場の敷居を跨ぐ事となった。
マスター道場に入ると、そこでは何人かの門下生が各々トレーニングに励んでいた。
門下生たちの年代はばらばらで、初老の男性がガラル空手――マスター道場の流派である――の型をしているかと思えば、隅っこでは十に満たない男女二人が組手をし、真ん中のバトルコートではギャルっぽい女の子とオタクっぽい男の子がポケモンバトルをやっていた。
どうにも統一性がなく、雑多で適当でゆるい雰囲気。けれどもその核にはマスタード師匠の教えという確固たる支柱があるように見える。
楽しく鍛え、遊んで学ぶ。俺的にけっこう雰囲気のいい道場だ。この道場は寒稽古などという前時代的なクソ鍛錬などしないだろう。
さて、そんな昔懐かしの道場に連れてこられた俺はというと、戸を開けて早々マスタード師匠に、
「じゃあケヤキくん、ちょっとこの子ら軽く揉んでやってよ!」
なんて頼まれてしまい、断る間もなく血気盛んな門下生たちの相手をする事になったのだった。
まあ、手持ちのポケモンたちもやりたがってるっぽいし、否は無かった。
で、だ……。
「ゾロアークは“イカサマ”! グラエナは“どくどく”! よし、いったん退け! ドンカラス、“おいかぜ”だ!」
三人がかりの門下生に対し、俺は一人でトリプルバトルをしていた。
さすがはマスター道場の門下生というべきか、先日会ったならず者三人衆よりよっぽど筋がいい。学んだ事をしっかり活かしてくるから一筋縄ではいかない。
だが、俺は正真正銘あくのトレーナー。こういう実直なトレーナーは手玉だ。俺はしっかり連携してくる門下生三人組に対し、不意打ち上等終始奇襲奇策の絡め手オンパレードで対応していた。
ゾロアークの特性で場をかく乱し、グラエナの連携力で相手の即席連携をズタズタにし、ドンカラスで戦況を掌握する。時折イリュージョンを解除させてはちょっかいをかけてまた化かす等々、そうやって暖まったトレーナーはあくポケモンの餌食である。
「サワムラー! まだやれる! 倒れるな!」
「エビワラー落ち着け! さっき避けた方がゾロアークだ!」
「止まるなカポエラー! 動き続けろ! 止まれば来るぞ!」
こういう戦い方をすると、たまに「卑怯だぞ!」とか「真面目にやれ!」とか言ってくるトレーナーがいたりするのだが、どうやら此処の門下生はそうではないらしい。
勝負は勝負。ルールを守っている限りそれは正攻法であり、相手の流儀を否定しない。実に清々しいポケモンバトルだ。
それはそれとしてやりやすい相手ではあるのだが。
「あ、ありがとうございました……」
バタンと、最後にバトルした女の子の門下生が仰向けに倒れた。どうやら精神的にかなりキたらしく。精魂尽き果ててしまったようだ。
「ん、対戦ありがとうございました」
無傷……とはいかなかったが、軽傷で済んだポケモンたちにきのみを与えて労ってやると、三匹は嬉しそうに好物を食べた。
「ほっほっほっ! 見て分かっちゃいたけど、やっぱケヤキくん強くなっとるのぉ!」
「師匠の教えのおかげですよ。それに門下生の方々も手ごわかったです」
「口まで回る様になりおって、かわいげはなくなっちゃったの!」
「前より素直にはなってますよ」
そうこう話していると、さっきから良い匂いを漂わせていた台所の方から軽やかな足音が近づいてきた。
「お疲れケヤキくん♡ お昼ご飯できたよ♡」
語尾にハートマーク、間違いなくムクノちゃんだ。
すすっと近づいてきたムクノちゃんは、ごく自然な動作で俺の腕に抱き着くと、グイグイむにむにと腕を引っ張ってきた。
「あの、門下生の方々が観てますが」
「わかりやすいでしょ?」
少し屈んで言うと、ムクノちゃんは耳に唇を寄せて囁いてきた。かなりゾクっとしたが、そうではない。
ナックルシティではされるがままだったが、そもそもまだ交際してない男女が腕を組むなんてどうなのだという話だ。
それに何より、いつの間に着替えたのか今のムクノちゃんは駅に着いた時とは違ってかなり薄着だ。
常夏のヨロイ島の気候に合わせたそれは、Tシャツにホットパンツというシンプルなコーディネートなのだが、如何せん彼女の身体的特徴を鑑みるにちと刺激的に過ぎる。
彼女の病的に白い肌の面積もなかなかのものだ。あまつさえシャツ越しとはいえ胸部600族を押し付けられているのだから堪らない。
ダイニングへと向かう背中に、はかいこうせんもかくやと思われる視線が突き刺さる。優越感より先に、何か得体のしれない感覚がして背骨が冷え冷えだ。
「「「いただきまーす!」」」
さて、視線は怖いが飯の時間だ。
昼食はガラルでは珍しくカントー食によく似た献立であった。
当初俺はその辺でキャンプ飯でもやろうと思っていたのだが、奥様に誘われて今に至る。さっき門下生の相手をした報酬、というのもあるのだろう。
ちなみにこの昼食はムクノちゃんも手伝っていた。
みんな揃っていただきます――これもカントー式だ――をして、お昼ごはんをいただく。
そして、まず味噌汁を啜ってみると、
「ん?」
何やら違和感があった。
いや、違和感というか既視感というか。この味噌汁はマスター道場っぽくない感じがしたのだ。いやマスター道場っぽい味噌汁とは何ぞやという話だが、なんかそんな感じなのだ。
ていうか、かなり美味い。味覚なんて個人差が九割だと思っている俺からして、めっちゃ俺好みの味だ。
「美味いっすねこれ!」
と奥様に向かって言うと、
「もー、何言ってるのケヤキくんたら!」
奥様は手をぱたぱたやって否定した。
「ふへへ……♡ そのお味噌汁は私が作ったんだよ♡」
そう言って、ムクノちゃんはドヤッと胸を張った。
なるほど、ムクノちゃんが作ったから俺の好みになったのか。昨日ご馳走になったもんな。既視感の理由はそれか。
いやそうじゃない。なんで彼女が作ると俺好みになる、と自然に思うようになっているんだ。
「ケヤキくん、昔から併せだし派で味噌はミックス赤多めが好きだったもんね♡」
「言った事あったっけ?」
「ないよ♡」
笑顔で言うムクノちゃんだが、笑顔で言う事なのだろうかソレは。
それはさておき、男性門下生たちからの視線が痛い痛い。嫉妬の炎でほのおタイプになりそうまである。
が、あえてライフで受ける。もし俺が逆の立場でもそうしただろうから。だっておっぱいのデカい美少女がこんな事言ってんだもん。んなもん嫉妬しない方が逆に不健全だと思うね。
昼食後……。
色々あって、午後も門下生と熱いポケモンバトルをする事になった。
午前より午後のバトルのが激しかった理由を、分からない訳はなかった。
すべて真摯に受け止めて、返り討ちにさせて頂いた。
感想投げてくれると嬉しいです。