【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告も助かっています。忍びねぇ忍びねぇ。
アンケートへのご協力もありがとうございました。
ちょっと迷いましたが、投稿する事にしました。
ドツボにハマると何時まで経っても投稿しない気がしたので、ええいままよという気持ちです。
冬休み明け、ナックルのスクールには二人の大注目トレーナーが存在した。
そのうちの一人はもちろん俺。文武両道英俊豪傑温厚篤実な伝説の超トレーナー・ケヤキである。
そしてもう一人は、この度めでたくドラゴン使いの称号を手にした少女。オカルトマニアのムクノちゃんだ。
ドラゴンタイプ。
それは多くのポケモントレーナーにとっての憧れ。人それぞれ好みはあるけれど、ドラゴンとくれば特別である。
ドラゴンは人気だ。理由は簡単、強いからだ。
基本、一部の例外を除き、ドラゴンタイプのポケモンはまぁ強いのなんの。かのカントーのワタルさんに始まり、シロナさんやらアデクさんやらヤバいくらいお強い方々は大抵ドラゴンタイプを手持ちに入れているのだから、その強さはお墨付きだろう。
で、人気の割にドラゴンタイプは使い手が少ない。これまた理由は簡単で、扱いが難しいからだ。
ドラゴンポケモンというのは、大概我が強く気難しく危険性が高い。猛きドラゴン様はそうそう簡単に人間などに信を置かないものなのだ。彼ら彼女らと信頼関係を築くには、長い付き合いや特別な才能が必要なのである。
強いけど、難しい。人気だが、使い手は少ないと。一部地方にはドラゴン使いの里なるものまであるらしい。すごいね。
とかく、ドラゴンポケモンとは一等特別なポケモンなのである。
さて、そんなドラゴンタイプのドラメシヤを手持ちに加えたムクノちゃんだが、件のドラゴンをお披露目するや瞬く間にクラスのスターとなったのだ。
今までパッとしなかった根暗な女の子が、冬休みが明けるとあのつよつよポケモン“ドラパルト”の進化前を手持ちにしているというのだ。これに興奮しないトレーナー候補はいない。
「わざは何使えるの?」
「え、えと……今は……“おどろかす”と、“かげぶんしん”くらいで……あ、あと“あやしいひかり”とか……」
「「「すっごーい!」」」
クラスメイトに質問攻めにされたムクノちゃんはというと、なんと以前とは違い気絶や逃亡などはせず、たどたどしいながらその経緯を大勢の前で説明してのけたのである。
「……で、でね。洞窟で……この子は、ずっと私の、近くにいてくれたの……つ、冷たかったけど、暖かかった……です」
ゆっくりと、ちゃんと伝わるように、ムクノちゃんはあの日の出来事を語る。ドラメシヤとの出会い、雪山での遭難。そういった経緯で、ドラメシヤが今ここにいるのだと。
そんなのを聞かされては、無粋にも「交換してくれ!」などと言える者はいなかった。付け入るスキないじゃんである。
そういう事もあり、ムクノちゃんもすっかりクラスに馴染めたのであった。
ドラゴン使いのムクノちゃんではなく、口下手だけど心優しい女の子として、である。
さて、時はあっという間に過ぎていき、俺がアローラへと発つ日がやって来た。
それまではムクノちゃんと遊んだり、ドラメシヤと交流したり、ムクノちゃん含むクラスメイト全員にお別れ会をしてもらったりした。
もう、ガラルに思い残す事はない。
俺はナックルシティの駅前でみんなと最後のお別れをしていた。
「あっちでも空手サボるんじゃねぇぞ!」
ずっと道場で一緒だった男子。
「あ、あの……これ、今まで撮ってきたむしポケモンの写真。アルバムにしたから、持ってって」
むしタイプが好きだと言っていた女子。
「ケヤキくんなら何処いっても大丈夫だ。先生は君が素晴らしい人物になってくれると信じているぞ」
担任の先生や、近所の人たちも一緒だった。
その中にはもちろんムクノちゃんとその両親もいた。
ムクノちゃんの両親には、涙ながらに感謝された。内容はあまり覚えていないが、何度も何度も「ありがとう」と言われた。
「あ、ケヤ……うぅ……」
ムクノちゃんとのお別れの挨拶は、一番長い時間がかかった。
というのも、いざムクノちゃんと対面してお別れをしようとしても、ムクノちゃんからは何も言ってはくれなかったのだ。
何かを言おうとして口を開けるも、すぐに口をつぐんでしまうムクノちゃん。俺から話しかけようとしたが、それはムクノちゃん自身によってキャンセルされてしまった。
そうこうしていると出発の時が近づいてきた。いやもう「じゃあね」でも「バイバイ」でもいいじゃんと思って口を開こうとした。
その時だ、
俺の足元にいた二匹のイーブイ、その片割れ――控えめな性格の方――が、何の脈略もなく進化し始めたのである。
いきなりの事に、駅にいた人たちはびっくりして見入っていた。俺もムクノちゃんも、イーブイの突然の進化にびっくりしていた。
いや経験値入っとらんけど……などと言う暇もなく、それは新たな姿を成した。
「イーブイ……いや、エーフィ!?」
たいようポケモン・エーフィである。
イーブイもといエーフィは、俺の元から離れ、ムクノちゃんの近くに行き、そっと寄り添うようにお座りをした。
その瞳は、俺の眼をしっかりと見ていた。
ポケモンは言葉を話せない。
けれどその時ばかりは、意思や思念でなく、しっかり言語として理解できた。
エーフィが、何を言いたいのか。完璧に理解できた。
両親を見る。力強く、頷いていた。
ムクノちゃんを見る。目を丸くして、エーフィの方を見ていた。
俺はムクノちゃんの方へと歩み寄り、エーフィのモンスターボールを手渡した。
「エーフィをよろしくね、ムクノちゃん」
「あ、う、うん……」
呆然と、ボールを受け取るムクノちゃん。何が起こっているのか、頭が追い付いていない様だった。
やがて駅のアナウンスが流れ、今度こそ乗車しなければならなくなってしまった。
俺は最後にみんなにお別れを言うと、アローラへ向け足を踏み出した。
「やっ……約束……!」
その背中に、ひときわ甲高い女の子の声が投げかけられた。
振り向くと、両目に涙を溜めたムクノちゃんと目があった。
エーフィに寄り添われ、ドラメシヤに支えられて、ようやっと自分の気持ちを表に出す事ができていた。
「さ、再会! それまでに、私! 立派な人に! なってるから……!」
熟慮した後の言葉ではないのだろう。本当に言いたいのは、多分それではなかったのだろう。
けれどその中に、俺は確かな覚悟を感じ取った。
彼女はもう、弱々しい根暗な女の子じゃあないのだ。
「ああ! 俺も立派な大人になってるから!」
手を振って、返答した。
俺の方も、考えてから出た言葉ではなかった。なんとなくの感覚でポンと飛び出たのはこれだった。
俺は遠くアローラ地方へ。
ムクノちゃんはナックルシティに留まって。
そうして、俺とムクノちゃんは、お別れしたのである。
● 〇 ●
アローラ地方はメレメレ島。
引っ越した先は、海と山と町と観光地、それとそこに住まうポケモンに満ち満ちた地方だった。
アローラ地方はシンオウやイッシュ等と違い、自然島と人工島という複数の島で構成されており、ガラル地方生まれナックルシティ育ちの俺からすると、アローラ地方はまさに新世界だった。
そんなアローラ地方に引っ越してスクールに入るなり、俺は子供たちの中心人物へと祭り上げられた。
なにせ既に伝説ポケモンを手持ちにしていて、かつカントー同様ポケモンバトルの本場とされるガラル地方で一人前のポケモントレーナーと認められているのだ。子供の世界じゃあ間違いなくスターだ。
とはいえ、それは子供の世界の話だった。
幸いな事に、ガラル人の転校生である俺は目立ちこそしたが悪目立ちする事はなく、生徒の一人として歓迎されたのだ。
皆、気のいい奴ばかりだった。転校一日目でクラス全員と友達になり、男子とはアローラ相撲なる遊びをして、女子ともイーブイ経由で仲良くなれた。
掛け値なしに良いスクールライフの始まりだった。
さて、ナックルシティの喧噪から離れ、アローラの大自然や純朴な子供たちと接するうち、俺の心はすっかり快調していた。
ナックルシティでは俺はスターだった。それは大人も子供もおねーさんも変わらない。けれど、アローラでの俺は子供たちの間でスターだった。ただの凄い子供の一人で、それだけだった。
そういう扱いをこそ俺は望んでいたし、それによりみんなと過ごす時間を存分に楽しめた。
気づけば、如何にもガラル人らしい俺の身体にはアローラ人的な日焼け跡がくっきり焼き付いていた。
元々、生まれてすぐにワイルドエリアを愛で満たした程の美貌の俺だ。健康的な日焼けにより、白皙の美少年から褐色のイケショタへとフォルムチェンジを果たしたのである。
時は過ぎ、俺のイーブイがブラッキーに進化し、こんがり日焼け跡も板についてきたある日の事。
俺は島の誰だったかさんに呼ばれ、“島めぐり”なる儀式に参加してみる気はないかと聞かれた。
島めぐりとは、11歳の子供がアローラの島々を巡り。試練を達成して一人前になる為の伝統的儀式なのであるという。
そんなん絶対楽しいじゃん。俺は一も二もなく頷くと、翌日には島めぐりの証を手にアローラ地方を旅し始めた。
ちなみに、俺は既に手持ちにブラッキーとウーラオスがいたので、アローラの御三家ポケモンは受け取らなかった。
ほのおの子には何となく惹かれるものはあったのだが、やっぱり旅の仲間は旅の中で出会いたかったので止めておいた。
アローラとガラルでは生息ポケモンが全然違う。
中でも驚いたのが、同じニャースでもあっちとこっちじゃまるで違うというところだ。
ガラルのニャースはもっと毛深いし、その進化先はニャイキングというはがねポケモンだ。しかし、こっちのニャースとくれば如何にも悪っぽい目つきのあくタイプであり、進化先もペルシアンなる四足歩行のポケモンになるのだ。
違いには驚いたが、忌避するものでは断じてなかった。んでもって、同じポケモンでもこっちのニャースのが俺は好きだ。俺はしまめぐり初ゲットをアローラニャースへと捧げ、ニャースは無事俺の手持ちに収まってくれた。
あくとあくとあくの3匹構成。バランスは悪いが、当時の俺は全く気にしなかった。なんたって俺の感性が良いと言うのだ。ならばそれが一等良い。
それからも、俺は全ての手持ちポケモンをあくタイプで揃えていった。
島めぐりは順調に進んでいった。
基本的にはアローラで出会ったポケモンで戦っていたので、それなりに苦戦する箇所もあったりしたが、俺は島々の情緒を満喫しながらアローラ地方を巡っていった。
島めぐりは、とても刺激的な旅だった。
目にするもの耳にする音、島めぐりでの体験は一から十まで俺の心をときめかせた。
儀式を始める以前にもメレメレ島を探索した事はあったが、それはスクール生活の隙間時間にちょこちょこ出歩く程度の事だったので、こうやってガッツリ外で動ける時間は心が躍りっぱなしだった。
しかし、島めぐりは楽しいばかりでもなかった。旅の間、時に寂しい別れを経験したりもした。
島めぐり最初の仲間、ペルシアンが野生の雌ニャースに恋をして、色々あって番になった二匹の門出を祝って別れた事。
海が荒れているという原因を突き止め、それを静める為に生息みずポケモンの長となる事を決意したサメハダーと別れた事。
色んな出会いがあった。
同じくらい別れを経験した。
ポケモン以外でも、現地で仲良くなった子供や親切な大人たちとの出会いと別れは、俺の心をちょっとずつ成長させていった。
そうして、無事島めぐりを完遂した俺は、一生忘れる事のない思い出を作る事ができたのだ。
大自然、未知の探索、危険な冒険……。
気の合うあくポケモンといると、心が躍る。
やはり、旅は良いものだ。
けれど、何故だろうか。
ほんの少し、心に小さな穴が開いているようにも感じていた。
当時の俺には言語化のできない。違和感に近い感覚。
旅は良い。しまめぐりは最高だ。あくポケモンは大好きだ。
けど、なんか満足できない。
何か、欠けているものがある気がした。
それを探す為、俺は島めぐり後も積極的にアローラ地方をウロウロした。
が、結局、何が欠けているか分からずじまいだった。
そして、何も分からないまま時が過ぎて……。
「じゃ、行ってくるよ。父さん、母さん」
俺は、タマムシ大学に行く事になった。
立派な大人になる為に。
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