【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 今更ですけど、ポケモンの鳴き声は適当です。
 そもそも鳴き声を文字起こしするんじゃあないぜという意見もあると思いますが、こっちのが色々と楽なんですよね。なのでそうしています。ご容赦いただきたく。


キャンプすることに意味を作ってもいいし、なくてもいい。格好つけてもいいし、ダサくてもいい。自由に遊ぼう。

 翌朝、昨日に引き続き寝起き早々万乳引力に負けかけていた俺だったが、幸い早起きな気質のおかげでガチの拙い事にはならずに済んだ。

 起きた、見た、静めた。みたいな感じである。

 ほんと、道場に人がいてよかった。

 

 さて、そうして何事もなく起床した俺たちは朝ご飯をご馳走になり、ヨロイ島の大自然に誘われるまま道場の北にある“集中の森”へと足を進めた。

 理由? 動機の事ですか? そんなもの、俺にはないよ。 

 朝起きてご飯食べてさてどうしようとなって、そんで決めたのである。管理人さんに適当に外出るわと伝えてパパッと出発。で、当然のようにムクノちゃんがついてきたというお話だ。

 そろそろ木々の匂いを嗅がないと死ぬぜ。

 

 

 

 ヨロイ島・集中の森。

 この森は他地方の森林エリアとは雰囲気が異質だ。

 他地方の森よりも、何だか神秘的で静謐な雰囲気に満ちているように感じる。木の葉の落ちる音ひとつひとつに大自然の息吹的なものが宿っているように思え、生息するポケモンも精強だった。

 

「グラエナ、次はあっち見てきてくれ」

「どうしたのエーフィ? あ、でっかいキノコ、それ毒あるから食べちゃダメだよ?」

 

 そんな美しい森を、俺とムクノちゃんはフル装備で歩いていた。

 道中はボールからポケモンを出し、警戒と探索を担ってもらっていた。俺は探索・斥候のグラエナを、ムクノちゃんは護衛のエーフィを出していた。

 

「おっ、食える草発見」

「食べれる草だけど、それも毒あるから気を付けてね。お湯潜らせたら大丈夫だから」

「マジ!? 俺普通に食ってたわ!」

 

 森に来た理由はないが、ついでに食べられそうな山菜あったら取ってきて~とマスタード師匠に言われたので、見つけ次第確保しておく。

 ヨロイ島は自生してる山菜も独特で色々あるから、これがなかなか楽しい。

 

「水は……うん、飲めるな」

「一応、携帯浄水器持ってるからね?」

「へぇ、そんなんあるんだ」

「ケヤキくん、今までよく生き残ってこれたね」

 

 荷物はフルにあるので、今日は野外でキャンプだ。テントの近くには飲み水があるといざという時に助かるので、水質調査は怠らない。判断基準は俺の腹だ。

 また、ムクノちゃんの超能力のお陰で大きめの調理器具も持ち込めたので、今日のご飯は手の込んだキャンプ飯ができそうである。

 

「んー、ワイルドエリアでは見ない植物がいっぱいだね~。あ、これ睡眠薬になる草だよ」

「くれぐれも悪用するんじゃないぞー」

 

 学者肌というか、オタク気質というか、そういう気があるムクノちゃんは周囲の植物を見ながらぶつぶつ呟いていた。  実際、雰囲気だけでなくこの集中の森は他地方の森ともワイルドエリアの森とも違う生態系を成している。色んな地方の色んな森を旅してきた俺が言うんだから間違いない。

 

「おっ、これも食える奴じゃん」

 

 こういう所で知っているモノを視るのも、それはそれで新鮮だ。俺は何度も胃に収めた経験のあるキノコを採り、専用の入れものにインした。

 

 ふと後ろを見てみると、ムクノちゃんは存外しっかりした足取りで歩いている様だった。

 あのデカい尻の下の太い脚には相応の筋肉が搭載されている様で、足元険しい森を歩く様は存外安定していた。マシンで鍛え、外を歩いて慣らした脚だった。

 

「どうかしたの? ケヤキくん」

「ん、しっかりついて来れてるなって」

「ふへへ、これでも鍛えてきましたので」

 

 森というのは、断じて人に優しい場所ではない。

 ちゃんと歩くには適した靴や装備を身に纏わなければならない。準備を怠れば、人間という弱い生き物はいともたやすく森の餌食になってしまう。

 加えてちゃんと自衛手段を用意しないと野生のポケモンに襲われてそのままジ・エンドだ。

 軽い気持ちで森に入ると、怪我では済まない。だからこそ俺みたいなポケモンレンジャーが人の手の届かないエリアの調査をしている訳で。

 

「……これなら大丈夫そうかな」

 

 それはさておき、やっぱり緑の中を往くのは心が落ち着く。

 未知を開拓する冒険もいいが、こういう一度来た場所を散策するというのもまた良いものである。

 

「空気が美味い……」

「そうだねぇ」

 

 二人で歩くのも、思ったより煩わしくはなかった。

 

 

 

 さて、森に入ってそれなりの時間が経った。

 夜の森の探索は危険だ。陽が落ちる前に、そろそろテントを張っておきたい。

 意識を散策からキャンプ設営に移す。そのまま歩いていくと、いい感じに野生ポケモン避けができそうな区画を発見した。

 

「ムクノちゃん、今日はあそこでキャンプしよう」

「うん♡ はじめてのケヤキくんとのキャンプ♡ 楽しみ♡」

 

 俺もムクノちゃんも、基本はソロキャン専門である。何気に複数キャンプは久しぶりなので、俺もけっこう楽しみである。

 ちょっと歩いて良い感じの場所に荷物を下ろすと、キャンプ道具一式を取り出した。俺が普段使っているテントは一人用なので、俺とムクノちゃんは別々のテントで寝る事となる。

 

「さて、やるか」

 

 道具を確認しつつ、考えるより先に手が動く。慣れたものだ。そのままテキパキとテントを設営し、ついでに焚火の準備を完了した。流石のポケモンレンジャーぶりであり、流石のアウトドア熟練者である。

 

「んー? あれ? こっちが表で……こっちが裏なのかな?」

 

 一方、ムクノちゃんは未だテント設営にてこずっている様だった。

 アウトドア慣れの雰囲気は随所に感じ取れたのだが、ありゃ多分新品のテントだ。今まで使ってた奴とは勝手が違うみたいで、ムクノちゃんは説明書片手にうんうん唸っていた。

 

「あー、このタイプね」

 

 先んじて諸々の準備を終えた俺はムクノちゃんが読んでいる説明書を覗き込むと、その中身を把握した。

 

「手伝うよ、それ貸してみ」

 

 キャンプにおいて、困ったときはお互い様精神はマジのガチで大切である。

 俺が手伝いを申し出ると、意外な事にムクノちゃんは、

 

「い、いえ! 私ひとりでがんばります!」

 

 と固辞されてしまった。

 

「お、おう?」

 

 ちょっと呆気に取られた。俺が把握しているムクノちゃんの性格的に、こういうのは素直に受け入れるものだと思っていたからである。

 言われた通りしばらく見守っていると、ムクノちゃんはひとつひとつの工程をしっかりと確認しながら進めていき、最終的には一人でテントを建ててみせた。

 

「ふぅ……前使ってたのと違ってちょっと手間取ってしまいました」

「お疲れ」

 

 テント設営に成功したムクノちゃんに、俺は淹れたてのインスタントコーヒーを手渡した。

 

「ふへへ、ありがとうございます♡ あ、手伝ってくれようとしたのに意固地になって断っちゃってすみません」

「いいよ。大事だと思うし、そういうの」

 

 自分を貫く姿勢には、何であれ尊敬の念を抱くものだ。

 言いながら、俺はケトルからカップにお湯を注ぎ、自分用のコーヒーを淹れた。

 

「先に焚火まで起こしてくれて。やっぱりケヤキくんは凄いなぁ」

「慣れてるからな」

 

 折り畳み椅子に腰を下ろし、ボールからポケモンを放った。

 出したのは6体いる手持ちのうちの4体。ブラッキー、ドンカラス、ゾロアーク、ウーラオスだ。既に出していたグラエナを含めると今展開してるのは5体だ。

 ボール外に出たポケモンたちは言葉もなく意図をくみ取り、焚火を囲んで各々好きにくつろぎはじめた。こういうトコが気が合うのである。

 

「あれ? もう一匹の子は?」

「眠いから出たくないってよ」

 

 次いでムクノちゃんもボールを放ると、俺とは違い全ポケモンを出した。

 内訳はドラパルト、ゴルーグ、ガラルギャロップ、ポットデス。それからずっと護衛を務めていたエーフィの5体だ。

 俺の手持ちとは既に顔合わせは済んでいるのでいきなり喧嘩をする事はない。ポケモン同士お互い威嚇する事なく、あくとゴーストとエスパーのポケモンたちは穏やかに焚火を囲んだ。

 

「やっぱあのドラパルト、一匹だけめちゃくちゃ強いよな」

「うん、なんか自主的にトレーニングしてるみたいで。私の腕前には不相応に強いんだよね」

「へぇ。ムクノちゃんが鍛えてる訳じゃないんだ」

「なんかね、暇さえあればゴルーグとじゃれ合ってるみたいで。ワイルドエリアに来た時とかは技の練習とかしてるんだよね」

「すげぇな、ウーラオスみたいじゃん」

「ふへへ、ウーラオスに対抗してるのかも」

 

 焚火を中心に、ポケモンたちと共に自然の中でキャンプ。これ以上の贅沢はあろうか。

 都会の喧騒もなく、煩わしい人間関係から離れ、世間や時代の流れから一歩引いたこの感じ。

 この、どうしようもなく孤独な時間が好きなのだ。

 

「んむぐぉ!?」

 

 などと黄昏ていると、隣から新種のポケモンの泣き声みたいな濁音が聞えて来た。

 声の方を見ると、何やら苦いきのみをダース単位で噛み砕いたような表情をするムクノちゃんの顔があった。

 いや、その意味するところは表情からして丸わかりなのだが……。

 

「もしかして、コーヒー苦手だった?」

「は、恥ずかしながら……。あの、ミルクとか砂糖ってお持ちでないですか?」

「お持ちでないですね」

「そ、そうですか……」

 

 そう言って、しょぼんとするムクノちゃん。無理にでも飲む気らしい。

 俺はそれを見て、右手を差し出した。

 その意図が分からない様で、ムクノちゃんはきょとんとした顔になった。

 

「ほら、それ貸して」

「は、はい」

 

 ムクノちゃんのカップを受け取ると、俺はその中のコーヒーを一気飲みした。

 

「ケヤキくん!?」

 

 淹れたてのコーヒーは相応に熱々だが、祖父がマサラ人である俺の口には一切の火傷はない。身体の頑丈さは一流のあくタイプ的には必須要項なのだ。

 カップの中を飲み干した俺は、持っていたおいしい水を入れて軽く洗い流すと、それをムクノちゃんに返した。

 

「はい」

「はい」

 

 何故か簡素な応酬。見ると、ムクノちゃんは何やらアイスフェイスのコオリッポみたいな顔になっていた。

 

「……今、私の中の複雑な感情を、言葉にする語彙を私は持ち合わせていません」

「大丈夫、反対側で飲んだから」

「なんでッ!?」

「いやなんでって」

 

 それはさておき、俺一人だけコーヒーでひと休みというのも気が引ける。ガラル人的には紅茶なのだろうが、キャンプにはコーヒーと俺の中のあくタイプが囁くので持ち物に紅茶の類は存在しない。

 仕方ないのでムクノちゃんのカップにはおいしい水をお酌してやった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 お水をもらったムクノちゃんは今度はナイスフェイスのコオリッポみたいな顔で水をちびちび飲み始めた。

 

「おいしい」

「だろうがよ」

 

 などと話していると、そろそろ夕飯の準備をする時間になっていた。

 真っ暗になる前に飯を作り終えないといけない。ひと休みした俺たちは事前に用意していた食材でお馴染みガラルカレーを作る事にした。

 

 調理台を置き、材料を用意し、各々連携してカレーを作る。

 道場とは違い、今回は俺も調理の参加を許された。

 

「共同作業だね♡」

「そっすね」

「式のケーキはどの店のにしよっか?」

「そいえばケーキとかしばらく食ってねぇなぁ」

「ジョウト風の式にする? アローラ風にする?」

「おっ、良い匂い良い匂い」

 

 ムクノちゃんの戯言には適当に返し、カレー作りに集中する。美味いカレーの為ならどんな悪逆非道もためらわない。

 

「よし、完成だ」

「ケヤキくんも料理できるじゃない」

「ま、キャンプ飯なら負けないかな~」

 

 やがて空が薄暗くなってきた頃、お手製ガラルカレーが完成した。

 特にトッピングもないシンプルなカレーだが、その中にはポケモン好みのきのみがいくつか入っているので互いのポケモンたちも満足できる出来だろう。

 人数ポケ数分のカレーを配膳し、カントー式食前挨拶の後にいざ実食。

 

「うん、美味い!」

「ふへへ、美味しいね♡」

 

 実際美味い、めちゃ美味い。この味はリザードン級だ。俺一人だとせいぜいダイオウドウ級止まりだが、悔しいがムクノちゃんとの連携の成果かソロでやるより上手に作れた。

 その証拠に我が手持ちポケモンたちも美味しそうにカレーを食べている。甘党のウーラオスも辛党のゾロアークも両方満足している様だった。

 

「へぇ~、アローラだとヤドンの尻尾ってそんなに食べられてるんだ」

「ああ、飯屋とかでも普通に出てくるぞ。他地方で売られてるのより質が良いし、味も良いんだ」

 

 食後にささっと洗い物をしてまたひと休み。さっきと同じく焚火を囲んで意味もない会話を続ける。

 気づくと、辺りに焚火以外の灯りがなくなってしまっていた。

 ここからは、レンジャーの時間である。

 

「俺が見張りやっとくよ。ムクノちゃんは先に寝な」

「んぅ……もう少しケヤキくんとキャンプしたいです」

「してるしてる。明日も散策するんだから、テント入りなって」

 

 と、言った……次の瞬間だった。

 

 

 

 ――いやな音が聞こえた。

 

 

 

 布を引き裂くような甲高い音。生物の声の様で、決して既存生物の生態では模倣できない独特な奇音。

 それほど遠くない空から、大きなポケモンの鳴き声が聞こえた。

 

 いや、鳴き声というか咆哮だ。声質的にかなりキレてるっぽい。俺の意識はレンジャーのそれへと変化し、五感を澄ませて警戒態勢を取った。

 俺のポケモンたちも慣れたもので、皆立ち上がって自然とフォーメーションを取っていた。ムクノちゃんの手持ちもそれぞれ主人の周囲に集まって警戒している。

 

「指示は?」

「よ、よろしくお願いします」

「ドラパルトとギャロップ以外しまって。いざとなったら逃げて」

「わ、わかった……みんな、戻って」

 

 やがて、俺たちの前に一匹のポケモンが現れた。

 

「キッシャァァァアアアアッ!」

 

 ばさりばさりと大きな翼を羽ばたかせて、一匹の巨大な有翼ポケモンが襲い掛かって来た。

 羽ばたく度、凄まじい風圧が辺りを揺るがした。キャンプ道具のいくつかがひっくり返り、お湯の入ったケトルが地面に落ちた。

 

「ムクノちゃんは下がってて!」

「う、うん! ギャロップ!」

 

 こういう時、素直に従ってくれる警護対象は実に良い。ムクノちゃんはギャロップにまたがり逃げる準備をして、その前でドラパルトが臨戦態勢を取っていた。

 これで安心できる。俺は意識と目にリソースを割いていき、目の前の強敵を観察した。

 

「見た事ねぇ奴だ」

 

 巨大な鳥のポケモン。炎みたいなのが身体を覆っている。あくタイプの雰囲気がある。ひこう・あくか? ほのおは入ってないのか?

 それにしても威圧感が凄い。雰囲気的にかなりの奴だぞコイツ。どっかのキングか? それとも暴走個体か? いずれにせよそこらへんの野生ポケモンじゃあ断じてない。

 それにリアルでも図鑑でも見た事ないポケモンだ。新種か。いやリージョンフォームか? 分からないが、相手がひこうならウーラオスは危険かもしれない。どうする、ここは情報を探るより一斉にかかって短期決戦を狙うか?

 

「けっこう強いが……」

 

 と思っていると、腰のボールが震え出した。

 今俺の腰にあるボールは一つだけ。こいつが反応しているという事は、そういう事だ。

 そして、止める間もなく“ソレ”が飛び出て来た。

 

 見上げる程の巨影が、夜の森にそびえたつ。

 ずしん! という足音。威嚇ではない、ただそいつが大地に立っただけの事。

 どしん! という振動。それは、そいつが戦闘態勢を取った故。

 大きな身体。分厚い外角。厳めしい眼光が、強敵を前に戦いの熱に燃えていた。

 

「GARRRRRRRRRGH!」

 

 よろいポケモン・バンギラス。

 ウーラオスに次ぐ、俺の手持ちの切り札だ。

 性格はきまぐれ。昼寝をよくする。

 

 そして、こいつ最大の特徴は……。

 

「ムクノちゃん! 離れろッ!」

 

 かつて、シロガネ山の王であったという事だ。




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