【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 本作にアツいバトルはありません。悪しからず。

 先に謝っておきます。
 ガラルファイヤーファンの皆さん、すみませんでした。


人間は、自分は絶対に正しいと思い込んだ時に、最も残酷な事をする。

 俺のバンギラスは、ちょっとばかり特別だ。

 

 かつてのシロガネ山の王にして、俺の第二の切り札。強敵タイマン専用で、格下相手には興味を示さない。性格はきまぐれで、きのみと昼寝と強者との戦いを好む。

 オヤブン個体かつ、ポケルス陽性個体かつ、全能力上限個体……。

 

 準伝説級特異個体。

 白銀山のバンギラス。

 

 それが、俺の手持ちのバンギラスだ。

 

 

 

 そのバンギラスと初めて出会ったのは、俺がまだ新米レンジャーだった頃の事だ。

 俺がたまたまジョウト地方にいた時、シロガネ山周辺が何か変だというので調査依頼を受けて行ってみたところ、原因であろうやたらデカいバンギラスがシロガネ山の強ポケモンの悉くをシメて回っていたのだ。

 そのせいでシロガネ山の生態系はめちゃくちゃ。しかもこいつに負けて逃げて来たポケモンが周辺地域を荒らしはじめたというのでさぁ大変。俺を含むジョウトのレンジャー総出で事態の収拾に挑んだ訳である。

 で、俺は運よく? 運悪く? 件のバンギラスとばったり鉢合わせになったのだ。

 

 バンギラスは有名なポケモンだ。そのタイプも弱点も知っている。防御に長けているとはいえ、あくといわの複合ならかくとうで一撃っしょとウーラオスを出して戦うも、意外や意外めっちゃ苦戦を強いられた。

 ウーラオスは伝説のポケモンだ。そのポテンシャルは非常に高く、タイプ相性でもこちらが有利だった。けれど、そのバンギラスはウーラオス相手に一歩も引く事なくひんし寸前になるまで戦い抜いたのである。

 

 こういう、強い野生ポケモンは得てして逃げる事をためらわないものだ。

 逃げてこれたから生き残れた。生き残れたから強くなれた。強くなれたから暴虐を成せるという風に。当然、このバンギラスもそうだと思っていた。

 しかしどうだ。伝説のかくとうポケモンに相対し続けるバンギラスの勇姿。自分より強いポケモンから逃げない矜持。野生生物的にはNGだが、いち戦士としては実に誇り高い。

 

 俺はひんし寸前で踏ん張っているバンギラスに、仲間になるよう説得した。こいつは簡単にボールに収まる器じゃない。だから言葉と意思で伝えたのだ。

 やがて、バンギラスは俺に首を垂れた。俺の下にいれば、もっと強い奴と戦えるという打算があったに違いない。こいつはそういう奴だ。

 こうして、俺とバンギラスは仲間になり、彼はこれまで色んな強敵と戦い、その全てを打倒してきたのである。

 

 

 

「みんな下がれ! バンギラス、行けるな!」

「GRAAAAAAAGH!」

 

 強敵を前に、バンギラスは咆哮を上げた。対する謎ポケモンも負けじと威嚇するが、バンギラスは一切怯まない。

 こいつは気まぐれな性格で、やる気のない時は戦わないし、やる気があると前を押しのけて戦いたがる。扱い難いが、こういう時は頼りになる。

 通常、バンギラスは自身の住処を作る為に強さを振るう。けれどこのバンギラスは、戦う事が好きだから暴虐の限りを尽くすのだ。

 

「バンギラス、“まもる”だ!」

 

 シロガネ山の王と、謎ポケモンとの闘い。

 だが、これは野生同士の縄張り争いなどでは断じてない。トレーナーと野生の戦いなのだ。

 情報、考察、実践。相手の手札を剥し、自分の得意を押し付ける。ポケモンバトルだ。

 

「“ばかぢから”! よし、場所を変えるぞバンギラス! そのまま押し出せ!」

 

 俺は自然と持ち上がる口角を我慢できなかった。

 

 

 

 ポケットモンスター。縮めてポケモン。タイプや生息域や色んなアレコレで姿形が変化する不思議な生き物。

 そんな彼らの中には、稀に“オヤブン”なる個体が生まれてくる。

 地方によってその呼び名は様々だが、俺は学術的名称よりこっちのオヤブン呼びのが好きだ。

 

 さて、東西南北の古代ポケモン史においてちょこちょこ見られたらしいこのオヤブンポケモンは、現代になってめっきりとその数を減らしてしまった。

 理由はよく分かっていない。曰く、ポケモン同士のすみ分けが進んだからだとか、ポケモントレーナーが台頭した影響だとか言われているが……。

 ともかく、このオヤブン個体は数こそ少ないが未だ各地方に数体はいるものなのだ。

 

「バンギラス、“ちょうはつ”だ。よし、落ち着いてから……“でんじは”だ」

 

 さて、オヤブンポケモンにはいくつか特徴がある。

 まず図体がデカい。知能が高く、敵愾心も並みじゃない。んでもって普通に強い。つまり、デカくて賢くて強いのだ。

 その潜在能力は同種のポケモンより頭一つ以上高く、並みの野生ポケモンでは相手にならない。魔境と名高いシロガネ山でこのバンギラスが大きな顔ができたのもそれが理由だろう。

 

「なるほど強い、が……」

 

 そう、並みの野生ポケモンでは相手にならないバンギラスと、互角にやり会えるこのポケモンは並みではないという事になる。

 だがまあ、こっちはトレーナー込みだ。最強の肉体があっても本能むき出しで戦っていては勝てる戦も勝てやしない。

 

 ポケモンバトルは頭を使って行うものだ。

 本能と素質だけの戦い方では、俺クラスのトレーナーに指揮されるポケモンには勝てない。

 俺とバンギラスは、相手の情報をひとつひとつ入手していき、じわりじわりと謎ポケモンを追いつめていった。

 

「キッシャアアアアアッ!」

「GRAAAAAAGH!」

 

 確かにこの謎ポケモンは強い。単に能力が高いのもあるが、何より戦い慣れしている。

 そう、戦い慣れだ。基本、強いポケモンは戦いから離れる事が多い。生まれたてならともかく、強さが極まると戦いが成立しないからだ。そうなると戦いではなく狩りが主になり、その戦闘力は衰える。

 しかし、この謎ポケモンは違った。見るに、未だ同格とやり合っている類の野生ポケモンだ。そしてこんなのとやり会えるポケモンが生息している魔境ってどんなだよという気分である。

 

「バンギラス、“がんせきふうじ”だ」

 

 けれど、これで終わりだ。さっきも言ったが、野生ポケモンは俺のようなポケモントレーナーには敵わない。

 俺はトドメの指示を出し、バンギラスはそれを遂行した。そして、それは当然の結果を残した。

 

「キシャァァァ……」

 

 ばさりと、謎ポケモンが倒れた。無事、勝利したのだ。

 

「GGGGRAAAAAAAAAAGHッ!」

 

 バンギラスが咆哮する。一流あくタイプ使いの俺には分かる。強敵を打倒して、めちゃくちゃ喜んでいた。

 存在証明、自己実現。強者と戦い、それを打倒する事をこのバンギラスは生きがいとしているのだ。

 

「か、勝ったの……?」

「ああ」

 

 ドラパルトを引き連れ、ギャロップに乗ったムクノちゃんが近づいてきた。

 俺は倒れる謎ポケモンをレンジャー支給の情報端末で撮影しつつ、呼び寄せたグラエナに警戒指示を出した。

 

「さて……」

 

 ゲットすべきか、そうでないか。その判断は俺にはつかない。フリーランスとはいえポケモンレンジャー、無暗に生態系を崩す行いはできないのだ。

 俺はバンギラスに謎ポケモンを抑え込むように指示すると、レンジャー協会に電話をかけた。

 

 

 

● 〇 ●

 

 

 

 俺は普段、色んな地方の色んな場所を風の往くまま気の往くまま旅をしている。

 なんとなく山登りしようとなれば適当な山に登り、なんとなく森に行こうとなれば適当な森に分け入る。

 誰の都合にも左右されない、俺が決めて俺だけが行くあてどない旅を続けているのだ。

 

 だが、そんな俺でも金は入用だ。

 今使っているキャンプ道具だってガラル製の奴だし、食い物だって野外で手に入るものだけでは全く足りない。なによりポケモンたちにひもじい思いは絶対にさせない。そうなると、自由な旅の為にある程度金を集める必要がある訳だ。

 しかし自分の時間を何より大切にする俺、お勤めなんぞまっぴらごめんである。

 昔はその辺の野良バトルやバトル大会で賞金をかっさらっていた訳だが、今は違う。

 経緯は省くが、今は時たまポケモンレンジャーの依頼を受けて金銭を得ているのだ。

 

「はい、わかりました。ではそのように」

 

 通信を切り、端末をしまう。次いでレンジャー支給の特殊モンスターボールを件のポケモンに投げつけ、捕獲した。

 

 結局、このポケモンはいったん俺が捕獲し、元いた場所――目撃情報があっただけなので実際に住処である訳ではない――に帰す運びとなった。

 曰く、このポケモンはガラル地方のカンムリ雪原に訪れる強力なポケモンの一種らしい。何年か、あるいは何十年かに一度カンムリ雪原に来て、何やかやの後にどっか行くのだとか。これまでヨロイ島での出現記録はなかったとか何とか。

 協会の方もぶっちゃけよく分かっていない様だ。で、何があるか分からないので元の場所に戻してこいとのお達しだ。研究に関してはこのボールに入れただけである程度のデータが取れるので、今はこれでヨシとするらしい。

 後日、このヨロイ島にカンムリ直行の迎えをよこすので待機していろと、そういう話になった。

 

「キャンプ、短かったなぁ……」

 

 まあ、そういう訳だ。仕方がない、これからはお仕事の時間だ。

 かくかくしかじか、俺はムクノちゃんに事の次第を伝え、キャンプ終了を宣言した。

 すると……。

 

「うん、わかったよ。いつ出発する? 私も同行するよ」

「話聞いてた?」

 

 このオカマニ、全く動じていない。

 明日から俺カンムリで仕事だから、ムクノちゃんとの旅はこれまでだね。また会ったら一緒に旅しようねとのお話だったんだが。

 

「一応、俺プロのレンジャーだからさ。素人を現場に連れてくのはNGなんだよね、規則的に」

「でもレンジャー規則には、場合によっては協力者の同行も許可するってあるよね」

「……あったっけ?」

 

 試験などいつ受けたんだったか。俺はスマホでレンジャー規則を確認してみると……ムクノちゃんの言う通りだった。

 いや、今回はゴースト案件じゃないし、ムクノちゃんは協力者としては不適格じゃないかな。

 

「ムクノちゃんのドラパルトの強さは分かるけど……」

 

 と言うと、ムクノちゃんはあの謎鳥のせいで飛ばされてしまった薪を一本浮かせると、それに手を触れてみせた。

 

「……この薪はマスタード師匠が一週間前に割ったモノらしいね。その時、天気は晴れで風が強い。マスタードさんの眉毛がふよふよしてた」

 

 そうだったこの子超能力者だった。しかもサイコメトリー使い。調査となればこんなにありがたい協力者などいない。

 いやでも、たくさんのポケモンが絡むと難しいって言ってたような……?

 

「じゃあ……一応、確認してみるけど」

 

 一分後……。

 

「えっ!? そこにあのムクノさんがいらっしゃるんですか!? しかも調査の協力を願い出ているですって!? 願ったりかなったりじゃないですか! あとサイン書いてもらってください!」

 

 というオペ子さん。どうやらムクノちゃんのファンらしい。

 

「ていうかケヤキさんムクノさんの知り合いだったんですね。ウケる」

 

 なんでウケるのか分からなかったが、そのままムクノちゃんに電話を渡すと、あれよあれよとムクノちゃんのカンムリ行きが決定事項となっていた。

 コミュ弱ムクノちゃんはいずこへ。

 

「ムクノちゃん、けっこう有名人だったりするの?」

「顔は有名じゃないよ。名前だけはそれなりに」

 

 顔出しはしていないが知名度はほどほどとな。

 そういえば、ムクノちゃんは社長で作家で投資家の資産家である事を思い出した。知名度に関しては本を出している影響らしく、ゴースト・エスパー界隈ではなかなかの人気なのだとか。なんじゃそりゃ。

 

「今更だけどムクノちゃんって凄いのな」

「全部ケヤキくんとの将来の為だよ♡」

 

 そういう事らしい。そういう事というのは何度も聞いた事である。どういう顔をすればいいのか分からないので、こういう時は適当に流すに限る。

 

 さて、件の謎ポケモンは今現在、レンジャーボールの中でぐったりしている。

 後に野生に帰すのは確定として、傷ついたままというのは問題だろう。野生に放った瞬間襲われてしまってはどうしようもない。

 俺はバンギラスの目の前で、件のポケモンをボールから出した。

 

「ク、クエぇぇぇ……」

 

 外に出たそいつは、傷ついた身体を庇いつつ辺りをキョロキョロして、バンギラスと目が合うなり嘴をぱっかり開けて硬直した。

 なんて分かりやすいポケモンなのだ。

 

「キズぐすり使うからな。大人しくしろよー」

 

 言いながら治療を始める。とはいえ応急処置だ。全快はさせないし、できない。持っていたキズぐすりを吹き付けてやる。完璧に治すにはポケモンセンターに行くしかないが、多分こいつは抵抗するだろう。

 野生ポケモンはこういう治療を嫌がるものだが、バンギラスに睨まれて硬直している今がチャンスだ。患部にシュシューとスプレーしていく。

 もういいだろうというところまで治療を終えると、俺は改めて目の前のポケモンを見つめた。

 

「こいつが伝説、ねぇ……?」

 

 協会が言うには、この眼前でバンギラスに怯えているポケモン――ファイヤーの亜種と目されている――は、一応伝説のポケモンであるらしかった。

 確かに、こいつは強かった。その辺の野生ポケモンと比べ頭一つ以上手ごわかったし、戦い慣れをしていた。見たことない技も強力で、それなりに苦戦を強いられたのは事実だ。

 だが、なんというか、伝説っぽくなかった。

 

「伝説ポケモンなの? この子?」

「一応、ガラルの“ファイヤー”らしい」

「ファイヤー? 確か……カントーにいるっていう伝説のほのおタイプポケモンだよね?」

「ああ、けど……」

 

 フンと鼻息ひとつしたバンギラスに、ガラルのファイヤーはびくりと身を震わせ、恐る恐る顔色を窺っていた。その翼はふるふる震えており、その身の炎は弱火になっている。あれじゃ卵焼きひとつ作れそうにない。

 さっきまで自信満々に襲い掛かって来たポケモンと同じ種とは思えない。なんとも小物臭い振る舞いだ。

 

「なんか小悪党みたいだね」

「同感だ」

 

 ムクノちゃんの率直な意見。俺もそう思う。

 

 前述の通り、俺は色んな地方を旅してきた。

 そのお陰か、一度だけウーラオス以外の伝説ポケモンを拝んだ事があるのだ。

 

 あれはジョウト地方をぶらぶらしていた時の事。

 いかりの湖でキャンプしていた俺が朝目覚めてテントを出た時、それを見たのだ。

 

 オーロラポケモン・スイクン。

 

 白んだ霧の中、キラキラと朝日を反射する湖の水面に、その伝説ポケモンは佇んでいた。そして、俺の方を向いてひと鳴きすると、颯爽とその場を去って行ったのだ。

 スイクン、あれは実に幻想的で威厳あるポケモンだった。一説には淀んだ水を浄化する力を持っているとも。とてもありがたく、美しいポケモンだったのだ。

 

「クェェェ……」

 

 それに比べて、このガラルファイヤーはどうだ。

 ストレス発散にと男女キャンパーに襲い掛かっては返り討ち。負けた相手に怯えて竦み、治療を受けるも出し抜いて逃げる勇気さえ出てない様子。

 伝説ポケモンといって何を期待してるんだと言われそうだが、俺の知っている伝説ポケモンと言えばウーラオスとスイクンという実に伝説らしいポケモンなので、仕方ないだろう。

 

「多分、あくとひこうだな。ほのおはないっぽい」

「ファイヤーなのに?」

「ファイヤーなのにな」

 

 しかも、こいつはあくタイプの伝説ポケモンなのであった。

 あくの伝説ポケモンと言えば、今腕組み仁王立ちでファイヤーを睨みつけているウーラオスもあくの伝説ポケモンである。こいつとあいつじゃ雲泥の差があると言わざるを得ない。

 あくタイプが好きな俺だが、なんかこのファイヤーとは気が合わない。苟もあくの伝説ポケモンであるならば、もっとどっしり構えてほしいものである。

 それも何を期待してるんだと言われそうだが、俺が好きなのはかっこいい悪であって、こんな小悪党は好きではない。

 

 まあ良い。仕事は仕事だ。今は無事にこいつをカンムリ雪原に帰す事に集中しよう。お金もたっぷりくれるらしいし、俺じゃないと厳しいっぽいし、上手くやるっきゃない。

 

 俺はバンギラスの一挙一動に震えるファイヤーに顔を寄せ、思い切りガンつけて云った。

 

「大人しくしてろよ、いいな?」

「クエッ……」

 

 言葉が通じた訳ではあるまいが、ファイヤーは嘴をあんぐり開けたままこくこく頷いた。

 ……なんか人間みてぇなポケモンだなこいつ。

 

 ファイヤーをボールに戻すと、ひとまず大人しくしてくれる様だった。ボール越しに、バンギラスの圧に怯えているみたいだ。

 とはいえベロバーみたいな気性の持ち主かもしれない。一応。警戒したままでいよう。

 

「さて、テントは……。あぁ……キャンプ道具がめちゃくちゃだ」

「私がやるよ。ケヤキくんは休んでて」

「いや、協力して片付けよう。そっちのが早い」

 

 こうして、俺とムクノちゃんによる初めての二人キャンプの夜は過ぎて云った。

 なんか疲れたので、先に休ませてもらう事にした。




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