【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 感想・お気に入り登録など、ありがとうございます。
 誤字報告もめちゃくちゃ助かっています。



 感想で頂いた手持ちについての質問ですが、せっかくなのでここでまとめておきますね。

 ケヤキの手持ちは、
 ブラッキー
 ウーラオス
 バンギラス
 ドンカラス
 グラエナ
 ゾロアーク

 ムクノの手持ちは、
 エーフィ
 ドラパルト
 ガラルギャロップ
 ゴルーグ
 ポットデス

 以上となります。



 その他、何か気になった事などあればどこか適当なとこに適当なモン投げてやってください。喜び勇んで答えます。


真の恋の兆候は、臆病さと大胆さ。

 謎鳥襲来の夜が過ぎ、ちょうど太陽が顔を出した時間、俺はいつものように目を覚ました。

 

 欠伸をしながらテントを出ると、そこには消えた焚火を囲むポケモンたちの姿があった。

 寝っ転がってオボンのみをかじるバンギラス。耳をピクピクさせて警戒しているブラッキー。焚火跡の前では、ウーラオスが目を瞑って瞑想していた。

 そして、三匹の中心には、例の迷惑ポケモンの入ったボールがあった。昨晩からずっと、奴がボールから出ないよう見張ってもらっていたのだ。

 

 俺は周囲を警戒してくれたポケモンたちを労うと、さっそく朝食の準備に取り掛かった。

 お礼の意味を込めて、朝はポケモン好みのきのみスープにしよう。

 

「ふわぁ~、おはようございます……」

 

 しばらくすると、もう一方のテントからボサボサ頭をさらにボサッとさせたムクノちゃんが姿を現した。

 どうやらあまり眠れていないらしく、その瞼は重たそうだった。

 

「おはよ。ほら、スープ」

「ありがとうございます……」

 

 マグカップに出来たての朝食を注いで手渡すと、ムクノちゃんは椅子に座ってきのみスープをちびちび飲み始めた。

 やっぱり、昨夜の襲撃で緊張して眠れなかったのだろうか。流石に鉄火場慣れはしてなさそうだし、体調が心配である。

 

「あんま寝れてないみたいだけど」

「あ、ええ……。昨晩、ケヤキくんのテントに入ろうとしたらウーラオスくんに止められてしまいまして。何度かトライしたのですが、全て失敗してしまい……」

「おっ、そうか。ありがとうなウーラオス」

 

 お礼を言うと、スープを一気飲みしたウーラオスはにやりと雄臭い笑みを浮かべて返してくれた。

 油断も隙もあった者ではない。伝説ポケモン遭遇後とは思えぬエンジョイぶりである。

 

「明日には此処を出るから、もう少ししたら道場に帰ろう。マスタード師匠にもこの鳥の事伝えないといけないし」

「はぁい」

 

 そういう訳で、俺たちは諸々の処理をしてから道場に戻る事となった。

 

 

 

● 〇 ●

 

 

 

「ほォう! これがカンムリ雪原にたまに来るっちゅう強いポケモンちゃんかの! ふーむ確かにこいつは中々じゃの! いい火加減しとるわい!」

 

 言いつつ、馴れ馴れしい手つきで伝説ポケモンの身体をべたべた撫でているのはマスタード師匠だ。

 撫でられている方のファイヤーは「ウス、ウス……」みたいにしてヘコヘコ頭を下げている。バトルした訳でもないのに相手の強さがわかっちまったらしい。こういうとこも小悪党っぽいのだ。

 おまけに、彼に撫でられるや否や自主的に身体の炎を消したのだから実に身の程をわきまえている。

 

 さて、キャンプの後片付けをして道場に戻ると、俺はマスタード師匠に事の次第を報告した。

 すると師匠は、とりま件のポケモン見せてみぃと言うので外に出してやると、この通りである。

 二日連続で人間にわからされたファイヤーの翼は気持ち萎んでいる様に見えた。

 

「出発は明日なんじゃろ? まぁ今日も泊まって行きんしゃい。部屋も掃除してあるからの」

「あっ、そういえばあの部屋って……」

 

 と、ありがたいお言葉の中に気になった事があったので尋ねてみると、マスタード師匠はあっさり答えてくれた。

 

「え、いやだって、君らやる事やっとる仲じゃろ? なら相部屋でいいんじゃないの?」

「や……えっ、いやいや、俺とムクノちゃんはあくまで旅の同行者です」

「それは分かっとるがの? それにしては、ふぅむ……?」

 

 俺の返答に、マスタード師匠は訝しむように首を傾げた。

 まぁ確かに、その通りではある。けれど、俺が言う通りでもあるのだ。

 マスタード師匠は俺とムクノちゃんの関係を把握している様だったが、どうにもジェネレーションギャップ的なものを感じざるを得ない。

 

「つってもよ、ワシが見るにけっこう相性良いと思うんじゃがの。さっさと結婚しちゃえばいいじゃん」

「結婚って。早すぎますよ」

「んなもん、ワシの時代じゃあ……いや、最近じゃとこういう事言うのアウトなんじゃったか?」

 

 ともかく、と続けた。

 

「ムクノちゃんは君が好き。君もムクノちゃんが好き。結婚云々は置いといて、さっさと付き合っちゃえよ。きっと楽しいぞい」

「いや俺は……」

 

 まあ、考えない訳ではなかった。

 変に意地を張らずに、もう少し軽く捉えてもいいんじゃないかとも思わないではない。

 

 ムクノちゃんは可愛い。おっぱいがデカいし。お尻も大きくて脚も太くて超俺好みだ。何かと気も合うし、気兼ねせず話せて近くにいると落ち着くし楽しいってのは、ある。

 好きか嫌いかで言えば、多分好きなんだろう。けどそれは、彼女の見てくれが好みってのが一番に来るからであって、要するに性的魅力を感じているが故の好意なのだ。

 そんな不純な理由で成功者の時間を奪いたくはなかった。昔みたいに遊ぶってだけならまだしも、恋愛など到底……。

 

「釣り合いませんよ、今の俺とムクノちゃんじゃあ」

 

 そう言うと、マスタード師匠はほんの一瞬道場に鋭い眼を向けた。

 現在、ムクノちゃんは道場で荷物の整理をしているのだ。

 

「……今の、もしあの子に聞こえとったら変な勘違いさせちゃうトコじゃったぞ。良かったな」

「……反省します」

 

 確かに、今はどうかは知らないが、元がネガティブな彼女がさっきの言葉を聞いていたら俺の意図とは反対の意味で受け取っていただろう。

 

「カンムリ雪原には仕事で行くんじゃろ? その後はどうするんじゃ。まだ一緒か?」

「ええ、多分そうなると思います。付き合いますよ、彼女が懐かしむのに飽きるまでは」

「飽きる、のぅ?」

 

 マスタード師匠はファイヤーを撫でる手を止め、まっすぐ俺に相対した。

 その眼は元リーグチャンピオンの武威に満ちていた。

 

「あんまし、女の子の覚悟甘く見ん方がええぞい」

「そりゃあ……」

 

 思い返すのは、彼女のこれまでの積み重ね。覚悟の成果だ。

 曰く、俺との将来の為に金を集めた。曰く、俺との生活の為に試行錯誤を重ねた。曰く、俺との旅の為に技術を身に着けた。

 動機はともかく、そのどれもが並みの努力と覚悟で成せる事ではない。ひとつでも凄いのに、彼女はそれら全てで成功してのけたのだ。

 だからと言って俺が彼女の想いに応える筋合いはないはずである。世は彼女のそういう行為を“重い”と言うのだ。実際、努力の押し売りである。

 

 ムクノちゃんのその覚悟とやらは、俺には全く共感できないものだった。

 

「あん頃とは真逆じゃ。弱くなったの、ボーイ」

 

 その言葉の意味は、すぐには分からなかった。

 

 

 

 で、だ。

 

 ヨロイ島最終日。お迎えは明日の朝との事で、報告を終えた俺とムクノちゃんはすっかり暇になっていた。

 暇なのもあって俺は道場の門下生と最後の手合わせを行う事になった。

 

 今回は俺の手持ちでなく、一時的に借りたポケモンでバトルをする事となった。

 あく以外のポケモンを指揮するのなんて久しぶりである。

 

「対戦ありがとうございました」

「うぅ……これでも勝てないのか……」

 

 結果、俺が勝った。挑んできた全員に、勝ち抜き戦で。

 手持ちの差で負けた訳ではない事を思い知った門下生たちは、今度こそ俺の実力を認めてくれたらしい。

 一流のあくタイプ使いを自称する俺だが、他タイプへの造詣が浅い訳ではない。伊達に一時期賞金だけで生活していた訳ではないのだ。並みのトレーナーじゃ相手にならんよ。

 

 そんな事をしていると、今度はムクノちゃんと門下生でポケモンバトルをするらしい。今度はお互いの手持ちから三匹出し合うスタンダードバトルだ。

 俺はブラッキーを撫でながら試合を観戦する事にした。手持ちからしてムクノちゃんの実力はそれなりだろうとは思うが、実際のところどれだけやるかは正確ではない。なんだかんだ良い機会だ。しっかり見させてもらおう。

 

「……絶対に勝ちます!」

「いつでもどうぞ」

 

 バトルコートで二人、ポケモントレーナーが相対する。目と目があえばポケモンバトル、それがこの世の不文律だ。

 ムクノちゃんの対戦相手は俺よりちょっと年下に見える女の子だった。かっちりと道着を纏った彼女は、やけに真剣な瞳でムクノちゃんを見ていた。

 その瞳の奥は。何故かメラメラと燃えていた。

 

「よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 マスター道場らしい挨拶の応酬。下げた頭を戻すと、二人は同時にボールを投げた。

 ムクノちゃんが繰り出したのはガラルギャロップだ。流麗な四足のフォルムが戦闘の構えを取る。

 対し、門下生ちゃんが繰り出したのはモルペコだった。

 

 モルペコ。でんき・あくの複合タイプで、二面性のあるポケモンだ。その見てくれはたいへん愛らしく、初めてピカチュウを見た時はモルペコの亜種かと思ったものだ。

 さて、練度的にはギャロップのが上に見えるが……。

 

「モルペコ! 初手“おだてる”!」

「ギャロップ、“さいみんじゅつ”」

 

 そうして始まったバトルは、意外な程高度な駆け引きが続いた。

 どうやらムクノちゃんは、能力のゴリ押しでなくからめ手を多用する戦術を選択したらしい。慎重に、堅実に、ひとつひとつ有利な状況を作っていくつもりだ。

 対する門下生ちゃんは、からめ手を掻い潜るような適格な指示を続け、いやらしく立ち回るムクノちゃんに果敢に挑んでいった。

 

「くっ、踏ん張ってライボルト!」

「ドラパルト、油断しないでね」

 

 やがて門下生ちゃんが最後のポケモンを繰り出した時には、既に決着がついていた。

 ムクノちゃんの最後の一匹、ドラパルトは万全の状態で尚且つ能力アップを果たしている。それに対して相手側のポケモンは既に状態異常を食らっていてフラフラだ。あと少し、ドラパルトに小突かれたら終わるという段階だ。

 

 なんというかこのバトル、ムクノちゃんは“絶対に負けない”戦いをしている様に見えた。

 多分、本来のムクノちゃんはからめ手を使いつつ定石に準じた動きをするトレーナーなんだと思う。けれど、今回のバトルはとにかく相手に負けない事、相手に勝たせない事を重視している様に見えた。

 ドラパルトの強さを見るに、初手からこいつでゴリ押しできただろうに。

 

「ドラパルト、“たたりめ”」

 

 そして、入念な準備の最後は、確実な技でトドメを差した。

 

「あ、ありがとう、ございました……!」

 

 言うなり、門下生ちゃんは背中を見せて走り去って行った。よっぽど悔しかったらしく、その目にはうっすら涙がにじんでいた。

 心折れてる様には見えない、良いトレーナーだ。

 

「お疲れ。良いバトルだったな」

「良いバトル……なんですかね」

 

 何やら釈然としないムクノちゃんだったが、バトル中のムクノちゃんは終始真剣な眼で相手の一挙手一投足を観察して安パイを張り続けていた。堅実で、強い試合だったのは間違いない。

 

「ああ。一流あくタイプ使いの俺が言うんだから間違いないさ」

「そう……ですね。うん、そうだね」

 

 試合を終えてしばらく、夕食前に件の門下生ちゃんは姿を現し、何やらムクノちゃんを呼び出して外で話そうと言っていた。

 オイオイ大丈夫かと思ってついていこうとしたら、何故か奥様に止められてしまった。

 

「男の子が行くのはヤボってもんよ」

「野暮なんですか?」

 

 意味は分からなかったが、野暮と言われたらどうしようもない。

 俺は夕食の配膳を手伝いつつ、ムクノちゃんの帰りを待った。

 

 数分後、二人は戻って来た。

 方や門下生ちゃんは晴れやかな顔で、方やムクノちゃんは複雑そうな顔で。

 どうやら、喧嘩をしていた訳ではないらしいが、ムクノちゃんの表情が気にかかった。

 

 

 

 結局、ヨロイ島最後の夜も俺とムクノちゃんの部屋は同じだった。

 相変わらず畳スペースに寝っ転がる俺と、隣で敷布団ごと移動してきたムクノちゃん。

 特に話す訳でもなくボーッと睡魔を待っていると、背後のムクノちゃんがおもむろに口を開いた。

 

「……今日、私と勝負したあの子。ケヤキくんに告白するつもりだったんだって」

「……何て?」

 

 いきなりの言葉と、唐突な内容に俺の理解は追いつかなかった。

 俺の理解を置いていき、彼女は言葉を継いだ。

 

「一目惚れって言ってました。で、最初は私とケヤキくんが付き合ってるって思ってたらしいんですけど、それが違うってわかったからって、告白する前に私とバトルしたいって挑んできたの」

「……ごめんちょっと分からない」

 

 真っすぐな子なんだなとか。そこで何故バトルなんだとか言いたい事はあったが、俺はムクノちゃんの言葉の抑揚にこそ驚いていた。

 今のムクノちゃんの声は平坦で、感情を抑え込んでいる雰囲気があった。

 

「結果は、ああだったんですけど……。その後、二人でお話して……あ、喧嘩とかはしてませんよ。それで、お互いの事を知り合ったんです」

 

 ずい、とムクノちゃんが身を寄せて来た。

 触れるか触れないかという距離。ふわりと彼女の匂いが香ってきた。

 

「……そしたら、諦めるって言ってました。それを聞いて、私は何故か悲しい気持ちになりました。いえ……その、有体に言って、あの子に対して表に出ない類の怒りを覚えてしまいました」

 

 それこそ俺には分からない感覚だった。

 所詮、少女漫画をギャグ漫画の一種だと思ってしまうような俺には、彼女の言う言葉の半分も理解できそうになかった。

 

「あの子には、ケヤキくんをもっと真剣に好きになってほしかったし、簡単に諦めるような恋をしてほしくなかったんです、多分……。ケヤキくんの事、あの子にとってはそう大した恋ではなかったみたいで……」

 

 ずい、と身を寄せて来る。

 彼女の鼻息が頸椎にかかる距離。ぴったりと、小さくて柔らかな手のひらが俺の背に当てられていた。

 俺は何故か動く事ができず、彼女の声の震えが当たる感覚にぶるりと身を震わせた。

 

「……本気ですよ、私は」

 

 すぐ後ろで囁かれた言葉には、長い間醸造された感情が凝縮されている様に感じた。

 道理で、あのバトルがマジだった訳である。

 

 ――あんまし、女の子の覚悟甘く見ん方がええぞい。

 

 今日の、マスタード師匠との会話を思い出した。

 

 良くも悪くも本気のムクノちゃんに対し、今の俺は本気度が足りない気がする。

 どうにもこうにも、覚悟ができなかった。

 

「……少し時間をください」

「ふへへ……♡ いつまでも待ってる♡」

 

 そう、返す事しかできなかった。

 嘘だけは吐きたくない。だから本音を言うと、こうもなる。

 

 俺は、俺という男をもっと大胆な奴だと思っていたが……。

 彼女を相手にすると、臆病になってしまう様だった。




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