【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告も助かっています。感謝!
例によって独自設定多め回です。
本作にはアツいバトルもキラキラした冒険もありません。悪しからず。
あんまり寝れなかった夜が明け、ヨロイ島を発つ朝がやってきた。
朝日眩しい道場の門前。
ヨロイ島最後の朝食をいただいてから、俺とムクノちゃんはお世話になったマスタードさん達に別れの挨拶をしていた。
「ホホッ、ケヤキくんはもう少し男を上げてからもっかい来ると良いぞ。とっておきの鍋料理を作ってやるからの」
「はい、その時はバトルの方も」
と言って、俺と師匠は再会を誓った。
ムクノちゃんもムクノちゃんで、奥様や昨日の女子門下生とお別れをしていた。
「では、失礼します」
「うむ」
旅が長いと、色んな出会いと別れを繰り返す事になる。
良い出会いの後には。寂しい別れが付き物だ。だが、こういう時に悲しみはない。むしろ、また会う事を楽しみに去るのである。
俺たちはマスタード道場を離れ、駅へと向かった。
「良い島だったね」
「ああ」
話しながら歩いていると。すぐに駅に到着した。
駅には既に迎えのレンジャーが待機しており、挨拶もそこそこにカンムリ調査隊は専用アーマーガアタクシーへと乗り込んだ。
アーマーガアはぐんぐんと高度を上げていき、あっと言う間にヨロイ島を飛び立った。
子供の頃に広く感じたヨロイ島は、空から見るととても小さく見えた。
カンムリ雪原に向かうには、アーマーガアの体力が保たない。俺たちはヨロイ島に行く前に、ブラッシータウンで小休止する事になった。この間に、必要なアイテムを買いそろえるのだ。
これから向かうのは寒さ厳しいカンムリ雪原だ。あらゆる気候に対応できる装備にはしてあるが、カンムリの吹雪には現状だと準備不足といえる。故、俺とムクノちゃんはブラッシーの店で色々な道具を買い込んだ。
アーマーガアの体力が回復すると、今度こそカンムリ雪原へと向かった。
「おっとと! すごい雪だね、コケないように気を付けないと」
「ああ、ブーツ新調してよかった」
カンムリ駅で降りると、そこにはいつか見た一面の銀世界が拡がっていた。
積もった雪は一歩一歩を重くして、踏み込むのにコツがいる。俺はともかく、ムクノちゃんの体力には気を配らないといけない。今回は旅行でも旅でもなく、お仕事なのだ。
さて、任務地に着けばさっそく調査である。
任務の内容はこうだ。普段カンムリでしか目撃証言のないガラルファイヤーがなんでヨロイ島にいたのか、そういうのを調べなくてはならない。
俺たちは予約していた宿泊施設に行くと、準備もそこそこに雪深いカンムリの大自然へと脚を進めた。
で、なのだが……。
結果から言うと、今回の任務は呆気なく完了した。
今回のお仕事は、俺だけならもっと時間がかかっていただろう。手がかりを見つけるのに数日、原因の特定に数日、そしてドンパチで解決と。多分、それなりの時間を使ってたんじゃないかな。
その点、ムクノちゃんの貢献度は凄まじかった。こういう言い方は好きではないが、彼女はこと調査において無類の有能さを示してみせたのだ。
手がかり? サイコメトリーでちょちょいのちょい。移動? 念動力でお茶の子さいさい。そして最後に俺が出張って問題解決。
なんとびっくり、三日でガラルファイヤーヨロイ島出没事件は解決したのだ。
「もう油断するんじゃないぞー。あと二度と人間襲うんじゃねぇぞー」
「また会おうねー!」
で、問題が解決したとなればお別れである。
妙に悪党じみた例のファイヤーは「グエー」だの「キエー」だの鳴いてカンムリ雪原のどこかへ飛び去って行った。
いざ終わって見ると、しょうもない事件だった。
要するに、ぼけーっと油断してたファイヤーが同格のポケモンに不意打ちで一発キツいのもらって逃げ去って、復讐の英気を養う為に一旦ヨロイ島に避難していただけという話だった。んでまぁイライラしてたから鬱憤晴らしに人間襲って返り討ち。
調査の過程で他の伝説ポケモンを見れたのは幸運だった。脚の太いガラルサンダーはファイヤー同様荒くれ者って感じで、何か悪い事考えてそうなガラルフリーザーもその気性は穏やかではなかった。ファイヤーを含めたガラルの伝説三鳥は、実にたちの悪い輩共だった。伝説とは。
どうやらこの三匹は常にいがみ合う関係であり、カンムリ雪原で出くわした時は毎度の様にバトっているらしく、今回は下手こいたファイヤーが退散してカンムリのパワーバランスが崩れたと……。
なんというか、伝説っぽくない話である。
まあ、最後には全員まとめて俺がブチのめして喧嘩両成敗して解決した訳だが……。
なんか、子供の喧嘩でも見ている気持ちだった。大人が割り込むのはどうかと思ったが、あいつら無駄に強いから一回わからせた方がいいかなって。
まあ、伝説ポケモンとのトリプルバトルは初めての体験で結構楽しかった。ていうかアイツら協力する時だけ妙に連携上手いの何なのかね。
「いやー、今回はムクノちゃんに助けられたわ。ホントありがとな」
「ううん、ケヤキくんの為なら何でもするよ♡」
ん? 今何でもするって言ったよね?
と問い詰めたい気持ちになったが、多分実際に何でもしてくれそうなので何にも言えない。
「あ、ユキノオーだ」
などと話しながら帰路を歩いていると、遠くの雪山のてっぺんに佇む一体のユキノオーを発見した。
ユキノオーはじっと俺たちを見ていた。ムクノちゃんも見つめ返している。ゴーストタイプ以外にあまり興味を示さないムクノちゃんが珍しい。
「図体がデカいな。それに良い面構えだ。けっこう強いぞ、アレは」
「うん、そうだね」
すると突然、ムクノちゃんのボールからドラパルトが飛び出てきた。
ドラパルトはムクノちゃんを守るように前に出ると、遠くにいるユキノオーに威嚇していた。
「ドラパルト、あれは襲ってこないぞ」
俺が言うのだが、ドラパルトはなおも臨戦態勢を解かない。
ユキノオーとドラパルトの間には、見えない火花が散っている様だった。
「大丈夫だよ、ドラパルト」
そっとドラパルトの頭を撫でるムクノちゃん。ドラパルトは威嚇を止め、するりとムクノちゃんの後ろについた。だが、まだ警戒は続けている様で、いつでも技を放てる姿勢を維持していた。
「ドラパルトが警戒するレベルなのか。あのユキノオー」
「どうだろ。今の私たちなら余裕だと思うけどね」
「ん?」
よく分からない発言だったが、ムクノちゃんは構わず歩き始めた。
俺もその後に続く。見れば、ユキノオーも背中を向けて歩き去って行った。
なんだか、変な縁を感じるユキノオーだった。
● 〇 ●
ポケモンレンジャーとは、ポケモンの力を借りて様々な任務をこなす、協会所属のプロポケモントレーナーの事だ。
当然として、レンジャーの任務は並みのポケモントレーナーでは務まらない。一端のレンジャーになるには、最低でもバッジ数個分の実力はないといけないし、トップともなればジムリーダー級の腕がないといけない程だ。
言ってしまえば、ポケモンレンジャーとは警察とか山岳救助隊とか色んな職種をごっちゃに混ぜてポケモンで割った様な職業なのだ。そして、その扱いは会社員よりも公務員に近い。
そんなレンジャー協会で、俺はフリーランスで仕事をする自由度の高い立場にある。
そのような特別待遇など普通は許されない。だが、スカウトされた俺がレンジャーになるにあたって出した条件がコレなのだ。手伝いはするが、宮仕えは勘弁である。
そして、そのような横暴が通るくらいには、俺というポケモントレーナーは優秀であったのだ。
「マジか……」
で、超有能ポケモントレーナーもとい最高位ポケモンレンジャーの俺は現在、口座に振り込まれた額に唖然としていた。
普通のレンジャーと違い、フリーランスの俺の収入は歩合制だ。やった任務分の収入しか得られない。んでもって俺は気が向いた時にしか仕事をしないので、能力の割にいつも金欠だ。
だが、今目の前に書かれた数字の列などを見ると、まるで俺が立派なレンジャー隊員であるかの様であった。聞いていた額よりずっと多いんだが……。
何かの間違いかと思って協会に連絡してみると、
「いえ、振り込まれた額に間違いはありません。現地のレンジャーからも報告を受けていますし、提出されたボールも確認しました。これは正当な報酬です」
というお返事。
「そもそも、伝説級のポケモンをまともに相手にできるトレーナーはこれくらい普通に貰えるものですよ」
続けて言われれば、確かにとなる。
俺は普段小遣い稼ぎ程度にしか働いていないので、いざ腕前に見合った任務をやればこれくらいは儲かる、らしい。
まあ、今回に関して言えば機会と協力者に恵まれたというのが大きいだろう。
「という訳で、報酬を山分けしよう」
そう、協力者だ。今回の任務、手早く終わらせられたのはムクノちゃんのおかげである。協会の言う通り、腕前に見合った報酬はあって然るべきだ。
俺はドーンと気前よく報酬の三分の二をムクノちゃんに渡そうとした。
のだが……。
「えっ、いいよいいよ。私が無理やりついてっただけだし、ケヤキくんがもらってって」
「いや、だからってノーギャラってのは……」
固辞されてしまった。
いやしかし、それでは正当な報酬とは言えないだろう。何とか受け取ってもらおうと説得を試みた。
「じゃあ結婚してよ♡」
「前代未聞だぞソレ」
冗談っぽい言葉と声色だが、俺は知っている。彼女の荷物には常に婚姻届が入っている事を。
ムクノちゃんの発言はスルーして、色々と話し合った結果、
「よし、飯奢るわ!」
一杯奢る事になった。
さて、ところ変わってナックルシティ。任務完了から一日経って、今宵は景気よく祝宴である。
勿論、代金はすべて俺持ちで、贅沢にちょっとお高めのお店を予約した。
店内は古き良き中世ナックルシティの雰囲気を保っており、広々としたフロアではポケモンを出してもOKだ。なので、俺とムクノちゃんは着席してすぐ手持ちを開放した。
フロアには俺たち以外にも何人か客がいたが、彼ら彼女等もポケモンたちを外に出して食事をしている。お高い店だが、お堅い店ではないのだ。
内装は中世のガラル風だが、供される料理はあらゆる地方に対応している。ここなら、どこの誰が来ても美味しくご飯が食べられる。観光客にも現地人にも評判の良い店なのだ。
「ってなわけで! 無事、カンムリ雪原でのお仕事を完遂できました! 乾杯!」
「かんぱ~い!」
カツンとふたつのコップがぶつけられる。こういう乾杯はカントー式だが、そういう事をしても大丈夫な雰囲気だ。
大きな木製のテーブルを挟み、俺達はポケモンたちと一緒に宴を始めた。
「ケヤキくんお酒飲むんだね」
「まあな。普段から飲む訳じゃないけど、酒は大好きだ」
この店に来たのもこれが理由のひとつだ。ガラルで酒を飲む場所といえばパブやバーが基本であり、料理と共に酒を飲む文化はメジャーではない。せっかく俺の歳でも酒を飲める地方にいるのだ。飲まなきゃ損である。
実際、カントーやホウエンといった地方では俺やムクノちゃんの年齢での飲酒は許されていない。が、ここはガラル地方。地方によって生息ポケモンが違うように、法律や飲酒年齢もまた違うのである。
俺はガラル伝統の魚料理を頬張ると、ブラッシー産のビールを一気飲みした。
この上品とは言えない喰い方が良いのだ。
「ッんぁ~! 久々の散財が心に染みる!」
「ふへっ♡ かわいい♡」
「んぐっ。ムクノちゃんは呑まないの?」
飲んだくれを可愛い呼ばわりするガラル女子の感性は置いておいて、一人酒というのはなんか寂しい。アルハラをするつもりはないが、出来る事なら一緒に飲みたいものである。
「んー、呑まないというか、呑んだ事ないんだよね。せっかくだし、何か注文してみようかな」
「おっ、いいねぇ! だったら……」
俺はメニューを開き、人生初の酒に相応しそうな酒をひとつひとつ説明した。
こういう時、何でか楽しいのはなんなんだろうな。
「へぇ、お酒っていっぱい種類があるんだね。全然知らなかった。ケヤキくんが初めて飲んだお酒はどれ?」
「俺? えっと、俺が初めて飲んだのは……あっ、これだ。カロスのワイン」
「じゃあそれにしよっかな♡」
「おう飲め飲め、どうせならカロス料理も頼もう。すいませ~ん!」
っと、ついカントー式の呼び出しをしてしまったが、ここは観光客もよく来る店だ。こういう他地方流もうまくあしらってくれるだろう。
「それと……このカラカラ・ジンとラテラル・ウイスキーもお願いします。ええ、瓶ごとください。あとマッシュポテトとジョウトの漬物セットとアローラフルーツ盛り合わせと……」
旅などしていると、食事=栄養補給といった感じになってくる。だからか知らないが、こういう如何にもな暴飲暴食というのは最高に気持ちいい。
金はあるし、この程度で使い切れる訳もない。つい調子に乗って色々と注文してしまった。ムクノちゃんが満腹になっても、俺とバンギラスがいればお残しはあり得ない。
「ふわぁ……ワインって意外と甘いんだね」
「それはワインの中でも甘さに振った銘柄なんだよ。初めてでいきなりキツいのはトラウマになっちまうから。ほら、赤には肉が合うぞ」
「ふへへ、じゃあ食べさせて~?」
「しょうがねぇなぁ」
意外な事に、ムクノちゃんは酒に強かった。初心者にありがちなブレーキが壊れた状態という訳でもなさそうである。
「ケヤキくんが飲んでるの、ちょっとちょうだい♡」
「これ? 強めだけど大丈夫か?」
「うん、いけそういけそう」
とはいえ酔いは回っている様で、ムクノちゃんはいつもより外向的になっていた。言葉のペースが数瞬早く、発言の前の思考が短くなっている。つまり、酒を飲んで楽しくなっているのだ。
「んッ! これ、何というか喉にくるね!」
「言ったろ? ほら、チェイサー飲め飲め。飯食え食え」
強めの酒を少量飲ませてみたが、それらも普通に飲んでいた。美味しく飲めるんなら何よりである。
なんというか、場の雰囲気も相まって俺の中に謎の対抗心が湧いてきた。飲酒量=男らしさという時代錯誤のクソ価値観が腹の底から燃えている。
「すいませ~ん! ホワイトフォレスト・ブランデーとサイユウ焼酎お願いしま~す!」
「あ、私も焼酎飲んでみたぁ~い♡」
普段なら量をセーブして飲む俺だが、それこそ旧友との初酒だ。おまけにお酒デビューに立ち会えた。めっちゃ楽しい。そうなるといつも以上に飲んでしまう。
気分は上々、財布もパンパン。運ばれて来たお酒もドンドン飲んじゃうもんね。
「それでね~♡ 大学の子とね~♡ ゴーストファッションのブランド作ろうってなったの~♡」
「すげぇな! 行動力すげぇな! あはははは!」
酒が入ると、俺は笑い上戸になる。クソしょうもない事で笑っちゃうし、何が起こっても面白い。
対してムクノちゃんは甘え上戸になるらしかった。普段は抑えているらしい甘えん坊オーラがむんむん放射されている。
いつのまにか俺とムクノちゃんは隣で座り、密着して酒を飲んでいた。
そうこうしていると手持ちポケモンたちは眠くなってきたのか、各々勝手にボールへと収まって行った。
やがてテーブルを囲むのは俺とムクノちゃんの二人だけになり、胃袋も限界で飯も入らなくなっていた。
「ふへへ♡ ケヤキくん♡ 大好き♡ 良い匂い♡ もっと嗅がせて~♡」
「ははっ、この変態め! だが許す! 嗅げ嗅げ! そして語り継げ! あははははっ!」
飯は入らなくても酒は入るのが不思議である。俺たちは料理がなくなった後も何杯も酒を注文し、それら全てを飲み干していった。
「ねぇケヤキくぅん♡ ずっとね、ずっとね? 勉強もね? 起業も経営もね? 私がんばったよ? だから頭撫でて~♡」
「しょうがねぇなぁ~! ほぉらよぉしよしよしよし! あぁ~可愛いなお前はなぁ! えらいぞ~、がんばったな~」
「ふへへ……♡ 幸せ~♡」
いつの間にか、俺たちの距離は近くなっていた。
そして、祝宴の夜は過ぎていったのだ。
● 〇 ●
「どうすりゃいいんだ……」
大都会ド真ん中。ナックルシティは一等地。
朝日差し込むベッドの上、俺はお目覚め一番に頭を抱えた。
全裸で。
どうすればいいか。無論、どうにかせねばならない事態という訳で。
俺は、隣で眠る少女――ムクノちゃんの方を見た。
「くぅ……くぅ……ふへへ……♡ ケヤキくぅん……♡」
ムクノちゃんは、弛緩しきった表情で、とってもとっても幸せそうに眠っていた。
彼女もまた、全裸であった。
「……やべぇじゃん」
時間をくださいと、俺は言った。
最早、そんな事を言っている場合ではなさそうである。
感想投げてくれると喜びます。
日本ではお酒は二十歳からとなっていますが、ドイツやフランスでは十代からお酒が飲めたりします。国や州によって違うんですね。