【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 次回以降も無理せずやってこうと思います。

 タグにある通り、独自解釈独自設定多めです。

 オカマニ流行れ。


【回想・ケヤキ】傲慢と誤想

 幼少の頃、俺は自他共に認める優等生だった。

 

 そう、昔の話だ。

 

 曰く、物心つく前から俺は利口で活発で、それはもう愛らしい子供であったのだとか。

 生後間もない頃などはまさに愛の化身であり、フェアリータイプもかくやと思われる純真さ。穢れひとつない顔にひとたび笑みを浮かべれば、広大なワイルドエリアの端から端までをマジカルシャインで満たしたという。

 

 ただでさえ容姿に恵まれた俺だが、アルセウスは二物を与えたらしい。

 齢三つにして151のポケモンを覚え、四つになればブイズを使いこなし、五つにもなると年上相手にポケモンバトルで全戦全勝だった。

 

 あまつさえ、その性格もまた善良の権化であった。

 東に病気のコダックあれば行って漢方を与えてやり、西に枯れそうなナゾノクサあればゼニガメじょうろで水をやり、南にゴーストに怯えるたんぱんこぞうあれば怖がらなくてもいいと言ってやり、北にトレーナー同士の喧嘩あればポケモンバトルをしようと誘う。

 

 文武両道、温厚篤実、英俊豪傑エトセトラエトセトラ……。

 そんなのが、幼少期の俺だ。

 誰だこいつ、である。

 

 今となっては、社会に馴染めず風の往くまま気の向くままあっちへフラフラこっちへフラフラと好き勝手してる訳だが……それはいい。

 

 そんな幼少の時分、俺には竹馬の友があった。

 ムクノちゃんだ。

 

 ムクノちゃんは俺が七つの時の春にお隣に越してきた女の子であった。

 これまで何処に住んでいたかというと、曰くカロス地方出身なのだという。

 

「はじめまして、ボクはケヤキって言うんだ。君の名前は?」

「うっ……あ、えと……む、ムクノ……です……」

 

 当時、引っ越してきたばかりのムクノちゃんは年齢不相応に大人しい気性の持ち主であった。初対面の時もこっちから挨拶したら怯えて両親の脚に隠れてしまうほど。

 だが、幼き俺はフェアリータイプ。そんなムクノちゃん相手に構わずグイグイ距離を詰め、相棒の二匹のイーブイ――そのうちの一匹が今のブラッキーである――の助けもあって、二人はすぐに仲良しになった。

 

「こっちのイーブイはメスで、ひかえめな性格。こっちのイーブイはオスで、ちょっと図太いんだ」

「い、イーブイ……可愛いね。ふへへ……ゴーストタイプには進化しないの?」

「んー、ゴーストタイプになるイーブイは確認されてないかなー」

 

 前述の通り、ムクノちゃんはかなり大人しい……というか、暗い性格の女の子だった。そして当然のようにインドア派、外で遊ぶのなんて超がつくほど苦手であった。

 ボールで遊べば顔面ヒット。ちょっと走れば転倒確実。ポケモンと遊ぶにもすぐにスタミナ切れを起こしてしまうくらいにはインの人間であった。

 どうやらそれらは彼女のコンプレックスだったらしく、他の子のようにできないせいでカロスでは友達0人だったのだとか。友達がいなかった時期のない俺からすると未知の世界の話だった。

 

 けど、ガラルには俺がいた。

 どちらかというと外に出るタイプの俺だったが、内で遊ぶのも嫌いではなかったので、ムクノちゃんと遊ぶ時はもっぱら家でできる遊びをしていた。

 当時から、ムクノちゃんはオカルトにどっぷり漬かっていた。曰くそれ関連でもカロスで馴染めなかったらしいが、俺からすると「おぉすげぇ」で許容できる趣味であった。

 今では一流のあくタイプ使いの俺だが、そもそもが物心ついた頃からポケモンだいすき少年だ。ゴーストタイプのお話となれば興味津々、映画も特番も雑誌もポケモンだったらなんでもヨシだ。

 

「け、ケヤキくん……! あ、あの……新しい映画、借りてきたんだけど、いっ一緒に観ない……?」

「うん、観よう観よう!」

「ふへへへっ……」

 

 ムクノちゃんは特にゴーストポケモンが題材のホラー映画が好きらしかった。その歳にしては珍しい趣味だとは思ったが、そういうのが好きな大人は結構いる。ムクノちゃんは大人なんだなぁくらいに思っていた。

 ポップコーンひとつを間に置いて、映画を観る時間は実に有意義だった。怖いシーンでは素直に怖がる俺だったが、ムクノちゃんの方は眼をキラキラさせていた。流石のオカルトマニアぶりである。

 

 

 

「明日からスクールだけど、クラス同じだといいね」

「う、うん……そうだね……」

 

 さて、俺もムクノちゃんも当時は子供。他の子供がそうであるように、休みを空けてすぐ俺同様に彼女もスクールに通う事と相成った。

 ムクノちゃんは何やらカロスのスクールには嫌な思い出があるらしく、スクール自体に怯えている様だった。

 

 ナックルシティはデカい。自然、スクールには同い年の子供がたくさんいる。きっと俺以外にも気の合う子が見つかるはずだ。そこで、転校してきたムクノちゃんを俺の友達に紹介する事にしたのだ。

 けれど無理強いはしなかった。ムクノちゃんは元来奥手でインドア派の根っからの人間ゴーストタイプだ。大人数の人間と仲良くできるとは思わなかったし、彼女自身多人数と仲良くしたいとも思っていないであろうとも理解していた。

 なのでまずは気が合いそうなインドア女子に紹介し、先生に彼女の人となりを話し、やんちゃ坊主にはちょっかいかけないよう言い含めた。

 これだけすれば安心だろう。ムクノちゃんは気の合う同性の友達ができ、クラスにも馴染め、誰に怯える事なく過ごせるはずだ。

 

「あ、あ、カロスから、はい……来ました。む、ムクノと、言います……すみません……」

「え、ごめん何て? 聞こえなかった」

「む、むく……の……」

「ムクホーク?」

 

 が、悲しい哉、俺の思惑は外れた。

 

 ムクノちゃんは、俺が思っていた以上にコミュニケーション能力が低かった。

 人見知りとかあがり症とか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっともっと心の奥に深く根差しているレベルで、おしゃべりが苦手だった。

 

 同じ大人しめな女の子相手には。マシだった。最初はボソボソ話せるのだ。けれどもそのうち燃料が切れて動かなくなる車のように失速し、言葉がなくなり、やがて俯いて絶望顔を晒してしまう。

 これでも、マシな方なのだ。

 

 先生相手の場合、緊張して無の表情で固定し声帯が麻痺して声さえ出せない。男子相手の場合、気絶一歩手前の状態で身体全体を超振動して終いにゃ逃げてしまう。

 一番ひどかったのは明るい系の女子相手の場合で、彼女等と目を合わせた瞬間全身こおり状態だった。

 俺や俺の両親のような慣れた相手や、イーブイたちポケモン相手なら緊張せずにあれこれコミュニケートできていたから勘違いしていた。人間相手の場合、彼女は四倍弱点だったのだ。

 

 しばらくし、スクールでの彼女は一人になった。

 いじめられたとか、ハブにされていたとかではない。ただ、人と関わる機会がなくなっていた。

 

「ケヤキ! 休み時間ドッジしようぜ!」

「あ、うん! ちょっと待ってて!」

 

 かくいう俺も俺で、ずっとムクノちゃんの隣にいる訳にはいかなかった。

 他の友達とも遊ぶし、勉強もする。習い始めたガラル空手の道場にも通っていたので、ムクノちゃんとの時間は徐々に減っていった。

 

 

 

 ムクノちゃんがスクールに編入してから、だいたい一年が経った。

 その頃になると、俺とムクノちゃんで遊ぶ頻度は以前より少なくなっていた。

 

 登校はいつも一緒だったが、下校時はいつも別の友達も一緒だった。

 集団になると一人になるのがムクノちゃんである。輪から外れて帰宅するムクノちゃんは、集団にあって独りだった。できるだけ気にかけてはいたのだが、どうにも上手くいかなかった。

 

 なんだかんだ、俺も学生なりに忙しかった。

 スクールに道場に、加えていつの間にかそれ以外の習い事もプラスされていた。水泳にピアノにダンスにバイオリン、演劇なんてのもあった。ナックルシティで一番の学習塾にも通っていた。

 無論、俺の希望ではない。何でもできる俺に、何でもさせたがる両親が合わさりこのような事になったのである。

 

 学校行って習い事行って家帰って勉強して寝る。そして休日はガラル空手。残った隙間時間に友達と遊んでいたくらいだ。

 友達との時間自体が減ったのだ。ムクノちゃんと遊ぶ機会もまた、減っていった。

 

 前述の通り、当時の俺はまさに神童と呼ばれる程の逸材だった。

 スクールでも、空手でも、ポケモンでも、それら以外でも素晴らしい成績を収めていたのである。あまつさえクラスでもご近所でも人気者で、俺の周りにはいつも誰かしらがいた。

 

 対し、ムクノちゃんは普通の子よりちょい下くらいの成績だった。

 勉強はそれなりに出来た。けれど、運動とポケモンバトルはダメダメだった。諸々差し引きで平均以下。おまけにコミュニケーション能力が低く、俺以外のクラスメイトとはろくに話せなかった。

 過ぎた時間のお陰か、ムクノちゃんのコミュ力はかつてほどではなくなってはいた。逃げなくなったし、気絶もしなくなった。けれど、相変わらずお喋りは苦手であり、意思疎通に難があった。

 

 方や人気者の優等生。

 方や独りぼっちの劣等生。

 一部の人からそう思われている事くらい、俺でも知っていた。

 

 朝、スクールへ向かう通学路。一日のうち二人きりで話せる時間はそれくらいだった。

 朝には笑顔だったムクノちゃんは、夕方になると沈んだ顔になっていた。

 

「ムクノちゃん、また明日」

「うん……また、明日……」

 

 お家の前でお別れすると、ムクノちゃんはいつも寂しそうな目をしていた。

 

 

 

 さらに時が過ぎ、また春になった。

 学生の春とくれば、春休みである。春休み中は道場以外の習い事がお休みとなる為、俺は久々の長期休暇を得る事となった。

 イーブイと遊んで、友達と遊んで、ムクノちゃん家にも頻繁にお邪魔した。

 

 そんな春休みに、我が家とお隣のムクノちゃん一家は一緒に旅行に行く事になった。

 行き先はヨロイ島。季節関係なしに暖かなガラルの離れ島である。

 

 我が家とムクノちゃん家はお隣さんであり、それなりに家族ぐるみの付き合いをしていた。ムクノちゃんの誕生日は盛大なパーティを催したりもしたが、両家族合同での旅行は初めてだった。

 出発当日、久々に俺とお出かけできるとなってか、ムクノちゃんは朝から上機嫌だった。

 

「うわぁすっごいなぁ……! 野生のヤドンがいっぱいだ! あっ、あっちホエルオーいるよ!」

「う、うん……!」

 

 島に着くと、まずその自然の豊かさと生息ポケモンの豊富さに度肝を抜かれる事となった。

 青々とした水平線にはオヤブンサイズのホエルオーがぷかぷか浮いており、浜辺ではヤドンがひなたぼっこをしていた。空にはバリエーション豊かなひこうポケモンが飛んでいて、草むらにはナックルシティ付近では見かけないポケモンたちがウロウロしていた。

 

 ポケモンだらけの常夏島。最高であった。

 俺はかなりはしゃいだ。宿泊先の道場の主であるマスタードさんの言いつけ通り、危険な場所には近づかずにムクノちゃんと二人で島を冒険していた。

 色々と正反対の二人だが、ムクノちゃんとの二人の大冒険は最高の思い出になった。

 

「しょっぱ! 海の水ってホントにしょっぱいんだ! しかも不味! これは飲めないね!」

「す、透き通ってて綺麗なんだけど飲めないんだね。ん? イーブイ、海怖いの?」

 

 運動不足の体力不足でスタミナ1のムクノちゃんだったが、さすがは子供というだけあって俺とはしゃいでいる時は子供らしい超体力を発揮していた。

 体力の限界が来ると無理せず木陰で小休止。イーブイを撫でつつ、水筒の水で喉を潤す。ムクノちゃんがあのポケモン見た事ないと言えば、俺がドヤ顔で解説する。

 

 時間いっぱい遊んで帰ってバタンキュー。翌朝、太陽と共に大冒険。

 実に、満たされた時間だった。

 

「ケヤキくんや。お主、いっちょ島の試練を受けてみる気はないかね?」

 

 しばらく道場のお世話になっていると、やおら島の管理人であるマスタードさんが俺にそんな事を提案してきた。

 詳しく聞いてみると、この道場には“秘伝のヨロイ”なるすげぇアイテムがあるらしく、試練をクリアした者にはそれが与えられるのだという。

 秘伝のヨロイ、興味のそそるワードである。

 俺は試練への参加を快諾した。ムクノちゃんは試練には挑まないらしい、ちょっと寂しそうな顔をしていた。

 

 さて、試練についてだが、普通にクリアした。

 齢十にも満たぬ俺だが、才能はピカイチだった。二匹の相棒イーブイと共に、見事秘伝のヨロイを授与される運びとなったのである。

 

 どんなデザインの鎧なのかな、家宝にしようかなとワクワクの俺だったが。授与されたそれは一匹のポケモンだった。

 ヒメグマの親戚みたいなその小さなポケモンは、“ダクマ”という名の伝説のポケモンらしかった。

 

 伝説ポケモン。それは、男の子心にはあまりにも神々しい文言であった。

 古くはアルセウス神に始まり、ジョウトでは二匹の空飛ぶ伝説ポケモンが、どこだったかでは海と陸にそれを体現するかの如き伝説ポケモンがいるのだという。

 そんな伝説ポケモンの一匹が、このダクマなのだと。

 

 ドキドキの御対面。ダクマと目を合わせると、なるほど分かった。こいつとは気が合う。

 二匹のイーブイに加え、俺に新たな仲間が加わった。伝説ポケモンのダクマである。

 

「色んな景色を見てきなさい。ダクマと共に。君とムクノちゃんでな」

「はい!」

 

 俺はマスタード師匠の言う通り、もう一度ムクノちゃんと一緒に島を冒険する事にした。

 イーブイ二匹とダクマ一匹、それから俺とムクノちゃん。ヨロイ島は子供の足では広すぎる世界そのものだった。

 そんな世界を巡る短い旅は、俺の心の奥に確かな憧憬を刻み込んだのである。

 

 

 

 ヨロイ島旅行最終日、俺はマスタード師匠の言う“最後の試練”とやらを受ける事になった。

 二つの塔から一つを選び、ダクマと共にそれを登る。シンプルな試練だった。心なしか道場の雰囲気がピリついていた。

 

「行ってくるね、ムクノちゃん。イーブイは任せたよ」

「う、うん……気を、つけてね……」

 

 俺はこれまでずっと一緒だったイーブイ二匹をムクノちゃんに預け、ダクマと共に試練へ向かった。

 

 塔は“あく”と“みず”の二つがあり、どちらか好きな方を選んで挑むらしい。

 どちらか選べと言われても、どちららがどうとか分からない。なので、俺はなんとなく、本当になんとなくの感性で“あく”の方に挑んだ。

 既に、あくタイプ使いの片鱗が芽生えていたのだろう。

 

 あくの塔では門下生の人たちとバトルになった。

 俺とダクマは難なく彼らを倒していき、無事塔の最上階へと足を踏み入れた。

 そこにいたのは、案の定マスタード師匠であった。師匠は俺の能力を褒めた上で、真正面からポケモンバトルを挑んできた。マスタード師匠もまた、ダクマを繰り出してきた。

 

 ダクマVSダクマ。

 小細工無しの真っ向勝負。

 

 マスタード師匠はかなり強かった――多分、ある程度手加減されていた――ので、俺は苦戦を強いられた。

 けれど、それがどうにも楽しかった。こういうバトルは初めてだった。

 苦戦など一度もした事なかったから、心身が熱っぽくなるほど燃えるバトルは結構楽しかった。

 

 結果、俺とダクマは何とか勝利し、無事試練をクリアした。

 そして仕上げとして、奥にあった掛け軸をダクマに見せると、あの小さかったダクマが筋骨隆々なポケモン“ウーラオス”へと進化したのである。

 

 幼体から成体へ。伝説の真の姿。

 けんぽうポケモン・ウーラオス。

 

 おお、という歓声を、俺は無意識にあげていた。

 あの愛嬌のある小さなダクマはどこへやら。顔立ちはいかめしい悪人面へ変貌し、太く長い手足は隆々たる筋肉に覆われている。かつて見下ろしていた身の丈も、見上げる程に大きくなっていた。

 気が合う。という直感。それが、ダクマの頃よりも強く感じた。ウーラオスもそう感じたのか、ニヤッと雄臭い笑みを深くして自身の筋肉を誇示した。

 

 ウーラオスの強さは圧巻だった。

 帰り道、襲ってくる野生ポケモンたちをまさに鎧袖一触といった感じで蹴散らしていき、俺とウーラオスはマスター道場へと凱旋した。

 寄り道好きの俺には珍しく、真っすぐ帰った。

 

 道場に着くと、両親や門下生たちは俺という神童の才気を褒めそやした。

 やれ将来のチャンピオンやら、やれ未来のレンジャー隊長やら。褒められて嬉しい気持ちはあるが、そのように不確定な先の事を言われても反応に困るというのが正直な感想であった。

 その輪の外で、ムクノちゃんだけは遠くから俺を眺めていた。

 

 預けていたイーブイが駆けよって来た。そいつを抱き上げ、もう一匹のイーブイを見た。ひかえめな方のイーブイは、ムクノちゃんの足元で彼女の顔を見上げていた。

 

「ケヤキくん……」

 

 明かりの届かぬ影の奥、ムクノちゃんの黒い双眸が俺を見ていた。




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