【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 次回が最終話です。


【回想・ムクノ】やがて純愛という名の虹

 ――ケヤキくん。

 

 人生の至上命題。

 

 運命そのもの。

 

 やがて結ばれるべき、初恋の人。

 

 

 

 私の初恋は、同い年の男の子だった。

 

 ガラルに引っ越してきて隣の家に住んでいた人気者の優等生。私とは何もかも違う、凄い人。

 勉強ができて、運動もできて、ポケモンバトルがとても強い。

 習い事をたくさんしていて、多芸だった。容姿に優れ、社交性があり、あらゆる才能に恵まれていた。

 大人も子供も、みんな彼に夢中だった。

 

 思えば、初めて会った時から、私は彼に惹かれていた様に思う。

 彼の放つ空気に、他の子がそうであるように、あまいミツを好むポケモンめいて、私という子供も惹かれていたのだ。

 ある種、依存していたのも確かだ。唯一の友達。両親でさえ受け入れてくれなかった私の趣味の理解者として。

 

 カンムリ雪原。

 冷たくて暗い洞窟の中。

 生命の境界線で……。

 

 私は彼に、恋をした。

 

 カリスマ性に惹かれたとか、能力に心酔したとかではない。より本能に近い感覚で、“彼”という男性を求めるようになった。

 彼の言動、一挙一動、その視線の意味に一喜一憂し、心臓を高鳴らせた。

 これまで自覚のなかった欲望が、名前のなかった感情が、指向性を持っていち個人に解放されたのだ。

 

 彼を唯一知る女になりたい。

 彼の最も近い女でありたい。

 彼の全てを感じる女でありたい。

 

 これまで沈殿されてきたドロドロとした想いは、子供らしからぬ深い情念を醸造していった。

 彼を介した感情は、常に私の心に強い大波を立てた。他の女子を見る瞳。他の男子と遊ぶ時の笑顔。私の両親や、彼の両親と話している時の言動ひとつひとつに至るまで、彼という存在を感じていたかった。

 生きがいという、これまでどうにもピンとこなかった言葉を、頭でなく魂で理解できた。私は彼に、生きる意味を教えられたのだ。

 

 だが、彼はガラルを去る。

 恋を知ってからの猶予時間は、あまりにも短かった。

 残された時の中、私は身体と頭を動かし続けた。訳も分かっていない彼に、結婚の約束を取り付けたりもした。今にして思うと、とても浅はかな計画だ。

 

 そう、残された時間は少ないのだ。

 過去は過ぎ、現在は一瞬で、未来は半分閉ざされた様なもの。

 初恋を、この胸の奥に燻る想いを、本気の感情を。

 終わらせる訳にはいかない。

 

 

 

 賭けだった。

 

 私の人生の全てを、あるかも分からない彼との未来に賭ける。

 それしかなかった。

 

 当時、未だスマホロトムやポケギアが普及していなかった頃。地方を離れるという事は一生のお別れに等しかった。

 通信技術も未成熟で、今あるようなメールやメッセージアプリというものもなかった。地方を跨ぐ長距離通信はあったにはあったが、到底子供が持てるものではなかった。

 手紙のやりとりが精一杯だった。だが、文通は正直アテにならない。物理的な配達員が、地方を跨いでちゃんと届けられるか怪しいものだ。もし、一度でも文通に滞りがあれば、私の心はぐちゃぐちゃになってしまうだろう。だから、手紙は自分の為に書くだけにしておいた。

 

 あまりにも細い命綱。私は、自力で彼の場所までたどり着くしかなかった。

 

 彼と別れた日。心が裂けて死んでしまいそうだった。

 けれど、エーフィが私に勇気をくれた。傍らには、あの日のドラメシヤだっている。

 上手くやる自信はなかった。けれど、やるのだ。

 私の居場所は、此処にはない。

 

 

 

 元来、私は趣味関連の事にしか努力ができない性分だ。

 苦手な運動など以ての外で、勉強も嫌々やっていた。好きな事しか頑張れないのだ。

 だが、その日からは違った。

 

 好きな事しか頑張れない私は、好きな人を想えば努力ができた。

 勉強も、運動も、全く興味の欠片もない事だってやった。

 結局、彼に代わって、学年一位の成績でスクールを出たのは、私だった。

 

 私の人生は、未来にしか存在しない。

 彼との、彼と私との未来だ。

 そこに、全てを賭ける。

 半分、身を投げるようなものだ。だが、そこには価値がある。

 全身全霊、命を賭ける覚悟があった。

 彼のいない未来に、未練などなかったのだ。

 

 

 

 想像する。妄想する。

 彼との未来。明るく、楽しい未来。いくつもの、あるかもしれない未来の事を。

 その為の行動なら、何だって頑張れた。

 

 まず思いついたのは。金策だ。

 もしかしたら、未来の彼はお金に困っているかもしれない。だから、何があっても大丈夫なように私が先んじて経済的自立を果たしておくべきだと考えた。

 大学に入り、色んな勉強をし、学び終えたら中退して起業した。

 執筆もやった。ゴースト関連なら知識があった。大学の知り合いと組んでゴーストファッションのブランドを立ち上げ、設けたお金を株式や不動産に変えてお金を増やしていった。

 無論、事業は成功続きなどでは決してなかった。むしろ失敗した数の方が多かった。一度、全財産を失って絶望しかけた事もある。だが、彼を想うと無限の勇気が湧いてきた。危険な場面にも出くわしたが、その都度ポケモンたちが助けてくれた。

 そうして、私は十代にして一端の資産家になった。

 

 並行して、肉体も鍛え始めた。

 運動好きの彼だ。将来、二人で旅に出るかもしれない。筋トレや有酸素運動、最小限のリソースで最大限の成果を出すべく、理論に基づいてトレーニングに励んだ。運動は辛かったが、辛いだけだ。彼のいない未来の方が、よっぽど苦しい。

 アウトドアもこなせなければならないので、最低でも月に一度はワイルドエリアでキャンプをした。いざやってみると、一人好きの私にソロキャンプは良い気分転換になった。

 いつか、彼と二人で旅をして、焚火を囲んでみたい。その未来に辿り着くまで、歩みを止める訳にはいかない。ワイルドエリアの静寂は、私の精神を研ぎ澄ませていった。

 

 ポケモンバトルについても頑張った。

 元々、私にはドラメシヤとエーフィという強力なポケモンがいた。学んだ理論と応用、実戦を繰り返し、ドラメシヤはやがてドロンチに、最終的にドラパルトへと進化した。

 ドラパルトはいっそ異様な程に精強で、私に従順だった。エーフィもまた、昔と変わらず私と共にいてくれた。二匹の信頼の下、私は手持ちの数を増やしていった。

 護衛に長けたゴビット。移動に長けたポニータ。そして向こうから手持ちに加わって来たヤバチャ。 適正と、相性の合う最高のパーティになった。

 前から、ポケモンは好きだった。大好きな仲間達といると、心が安らぐ。

 

 それらだけでは足りない。私は容姿にも気を遣うようになった。

 スタイルについては日々のトレーニングで整え、それ以外はあんまり仲良くなれそうにないと思っていた女の子たちに教えを請うた。

 メイクやスキンケア等、正直なんの勉強もしていないと思っていた彼女たちは、意外なほど色んな知識を持っていた。

 ただ、どうにもならない問題も発生した。私の身体が成長するにつれ、胸やお尻が大きくなりはじめたのである。こういうのはケヤキくんの好み次第なところがあるので、もし彼の好みから外れていたらと思うと不安で仕方がなかった。いざとなったら手術するしかない。

 また、私の身体に群がってくる男性もいたが、私はその全てを拒絶した。それにより起こったトラブルもまた、全て解決した。時に暴力に訴えて来る輩もいたが、ドラパルトに敵う者はいなかった。

 

 健康、美容、ファッション……学ぶ事は多かったが、未来の自分が彼に褒められるのを想像すると、それだけで努力ができた。

 金銭面、肉体面、美容にポケモンに、料理や裁縫など……彼の為に学ぶべき事、学びたい事はいくらでもあったし、ひとつひとつを達成していくのは楽しかった。

 

 そして、精神面もまた、身体同様に鍛錬の余地があると確信していた。

 会社を経営する傍ら、私は自身のメンタルについても見つめ直すべきではないかと思い至った。子供のままのムクノでは、大人になった彼と釣り合いが取れないかもしれない。

 まず知る事。つまらない感情や一時の衝動で、彼との未来を手放すのだけは嫌だった。だから、感情をコントロールする術を学んだ。

 その過程で私の中の超能力の才能を発見したのだが、使えそうだったのでこれも習得した。

 

 全て、彼との未来への自己投資だった。いや、博打か。

 ともかく、忙しくはあったが、存外楽しい時間ではあった。

 

 私は、一定目標に達したら、ガラルを出て彼を探しに行くつもりだ。金をばらまき、表裏のコネを使って居場所を特定し、私自身が迎えに行く。

 成功した会社も、積み上げてきたキャリアも、ゴースト使いとしての名誉も。

 全て、ケヤキくんとの未来の為にあるのだ。

 

 

 

 そして、ある日。

 突然に、彼と私は再会した。

 

 大きくなった彼の背中。顔を見ずとも、魂が反応していた。

 あの頃より低くなった声。耳が歓喜していた。心が、彼の奏でる旋律に踊り狂って仕方がなかった。

 顔が見たい。目が見たい。鼻を、肌を、唇を見て、五感で以て彼という存在を感知したかった。

 

 そうして、目が合った。

 想像していたより、カッコよくなっていた。

 想定していたより、男性っぽくなっていた。

 妄想よりも、素敵な人になっていた。

 

 そして、久しぶりに会ったケヤキくんは……。

 とても、寂しそうな眼をしていた。

 

 大切なおもちゃを失くしてしまった子供みたいだと感じた。

 それを探すのを諦めて、無理に笑顔を作っている様に見えた。

 近づいたら逃げてしまいそうな、弱い未進化ポケモンの様だった。

 今逃がすと、二度と会えない確信があった。

 

 彼を、独りにしてはいけない。

 そう、思った。

 

 

 

 心が焦っている。

 痛い程の共感が、私の制御を拒んでいた。

 それを、覚悟で以て抑え込んだ。

 

 用意していた計画を実行する。

 例え全てを失っても、まずは捕まえなくてはならない。

 絶対に、逃がさない。

 

 

 

 ――ケヤキくん。

 

 人生の至上命題。

 

 運命そのもの。

 

 やがて満たされるべき、最愛の人。

 

 

 

 ちっぽけな、私という存在のすべて。

 彼という私のすべて。

 彼こそが全、私の世界。

 

 世界は、愛で溢れている。




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 次回、最終話です。
 投稿は一週間後、この時間です。
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