【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございました。
今回が最終話です。
サブタイはそのまま、ポケモンユーザーならご存じですよね。
ご存じない方はぜひ検索してみてください。
ラストシーンはアンケートの結果こうなりました。
――テンガン山。
その山は、シンオウ地方中央にそびえる世界一有名な雪山である。
シンオウを見下ろすその頂上は、やまおとこ達の憧れの地。登山家と生まれたからには、誰でも一生のうち一度は登頂を夢見る史上最高峰の山。
だが、その頂上まで登れた者は少ない。何故ならば、道中は強力なポケモンたちに阻まれ、洞窟は危険でいっぱいで、外は雪や風に晒され続けるからである。
シロガネ山に次ぐ、世界でも有数の危険地帯、それこそ、テンガン山。
天に冠たる偉大な山なのだ。
苟も俺とてアウトドア好きの一人、これまでに一度テンガン山にチャレンジした事がある。
が、善戦するもあえなく撤退。大自然の試練に打ち勝つ事叶わず、何の成果もあげられなかった。
その下山中に壊されたテントを新調する為にガラルに来た訳で……。
さて、そんなテンガン山に、
「行こうぜ」
「うん!」
で同行してくれる女性が、この世に何人いることだろう。
少なくとも、ガラルに一人いた。
オカルトマニアのムクノちゃんだ。
「ん-、そろそろ休憩だな。ここ出たらまた雪ゾーンだし、いったん休憩しよう」
「う、うん。そうしてくれると嬉しいかな。集中力が切れてきたかも」
シンオウ地方はテンガン山。その中腹にある大洞窟。
俺とムクノちゃんは、ガラル製防寒着に身を包み、風にも雪の寒さにも負けずひたすら頂上を目指していた。
「ごめんね、足引っ張っちゃって」
「大丈夫だ。いやむしろ助かってるよ。視界が悪いとこだとムクノちゃんがいるだけで安心して進めるからな」
洞窟の端で、装備の紐を緩めて小休止。
靴を脱いで足先を揉む。こういう小技は意外と大切なのだ。末端の血流が滞って動けなくなるなどゴメンである。
「さっきと同じように、雪ゾーンに入ったらギャロップに乗ってついてきてくれ。戦闘は俺が引き受けるから、ムクノちゃんは警戒お願い」
「うん、わかった」
こうして役割分担をして、協力しながら登る。
荒事担当の俺と、サポート担当のムクノちゃん。
登山初心者のムクノちゃんとテンガン山チャレンジ。最初はどうかと思った危険な登山も、意外と何とかなっていた。
「よし行こう、荷物は?」
「大丈夫。来て、ギャロップ」
小休止を終え、先に進む。
大洞窟エリアを抜けると、また一面真っ白なエリアに入った。
しかもここにいる野生ポケモンってのは一等厄介で、不意打ちとか闇討ちとかに慣れてやがる。歩くのさえ困難な積雪も相まって、一人では心身ともに疲労していただろう。
「視えた。大きな木の影から視線、3匹。狙ってるよ」
「おう。ウーラオス、やれ!」
だが、超能力者であるムクノちゃんの感知力からは逃げられない。各種超能力を応用すれば、不意打ち対策はばっちりだった。
何度も行った連携である。この頃になると、即席パーティも意外と様になっていた。
そんなこんな登山三日目、俺たちは頂上近くの洞窟でキャンプしていた。
焚火をしても大丈夫な広さがあった為、節約しながら薪で暖を取る。ムクノちゃんのパイロキネシスで火をつけて、俺が世話をする。もう慣れたものであった。
キャンプ飯は俺の仕事だ。英気を養えるよう、出来るだけ美味しいご飯を作る。少しアレンジを加えれば、保存食も立派なご馳走だ。
「ふへへ、ドラパルトがはしゃいでるよ」
「ホントだ。何でだろうな」
ポケモンに言葉は通じない。だから、何を言っているのかは分からない。
けど、彼らには意思があり、伝わるのだ。何か分からない行動をしていても、そこにはポケモンなりの理由があるものだ。
「ムクノちゃんが先に寝ててくれ。俺が番するから」
「うん、わかった。超能力使い過ぎたかな」
飯の後、おやすみと言ってムクノちゃんは寝袋に収まった。普段高級マンションの高級ベッドで寝ている割に、外でもすんなり眠れる様だった。
その寝顔は、安心しきっていた。
ポケモンたちにも睡眠を命じて、俺は一人で焚火の番をしていた。
火を見ると落ち着く。意外とこれを知らない人は多い。こういう、何もしない時間が現代人には必要なのだと思う。
余裕がないのだ。みんながみんな忙しくて、テンガン山などという危険極まりない山を登ろうなんてバカな事をする余裕が。
しばらくして、俺も睡眠を取る時間になった。
ポケモンと交代して、俺も寝袋に入った。
翌朝、空模様は快晴だった。
昨日は登攀途中で吹雪というクソみてぇな天気だったが、今日のお空は綺麗な青。眩しい程の太陽が真っ白な山肌を照らしている。
「上手くいけばもうすぐ目的地に着くと思う。油断せずに進もう」
「ケヤキくんもね。索敵はまかせて」
テンガン山は複雑だ。
単に山の表面を上に上に進んでいっても、目的の場所にはたどり着けない。何故かはわからないが、ポケモンに、自然に、天文学的不運によって行く手を阻まれ、最悪命を落とすという。
偉大な先人たちによって見出された登山コース、そこを通るのが最も丸い。だが、この安全道とて安易ではない。
未舗装の山道に案内板など存在しないのだ。方向感覚、周囲への警戒。疲労との闘い、全てに打ち勝って初めて目的地にたどり着けるのだ。
「よし、ここを進めば到着だ」
目的地へとつながる、静かな洞窟。
前はここまで来れなかった。だが、今回はここから先を行ける。
俺一人では、無理だったんだと思う。何となく、そんな気がした。
何があるか分からないので、洞窟内でちょっと休憩。
すると、体育座り中のムクノちゃんがボーッと上を見ていた。
「どうした? 体調が悪いか?」
「……ううん、何か……感じるの。ゴーストポケモン? そんな感じじゃないけど……とっても高くから、見られてるような……?」
テンガン山はシンオウ神話に深く関わるスポットだ。ムクノちゃんのような超感覚の持ち主には、何か感じるものがあるのかもしれない。
ていうか……。
「羨ましい」
「え? そうかな?」
「いやだって、こういう場所で地肌で神秘感じ取れるんだろ? 羨ましいよ」
「あ、うん。そうなんだ」
「そうだよ」
さて、と。
合図もなく、俺たちは立ち上がった。
テンガン山のてっぺん。
槍の柱は、もうすぐだ。
槍の柱の前には、急坂があった。
坂の上には、神殿に繋がる大きな穴があり、そこから太陽の光が差し込んでいた。
ちょうど洞窟からは外の景色が見えない構図だ。
「この先が、シンオウ地方の中心なんだね」
「ああ」
やまおとこ達の夢。
俺という、キャンパーの憧れ。
その景色を目の前に、俺の心は最高にハイになっていた。
ずっと一人で旅をしてきた。
こういう感覚は何度もあった。
シロガネ山を登頂した時。
イッシュの砂漠を渡り切った時。
チャンピオンロードを抜けた時。
俺の隣にはポケモンがいて、そこには誰も人間はいなかった。
煩わしい関係性など、置いてきていた。
ポケモンと旅さえあればいい。そう思っていた。
だが、今はムクノちゃんがいる。
一人じゃない旅も、その果ての前の高揚も、意外と悪くはなかった。
「……手、繋ごう」
「え?」
ふと、そう思った。
手をつないで、一緒にこの気持ちを感じたいと思った。
一人だとこれまでと同じだ。どうせなら、いつもと違う感覚で登りたい。
「二人で、互いの相棒たちと一緒に登ったんだ。皆で行こう」
俺は手持ちのポケモン全員を解放し、ついてくるよう指示した。
「そうだね」
ムクノちゃんもボールの中のポケモンを解放し、同じように指示した。
「行こう」
「うん」
手を繋いで、一歩進んだ。
手袋越しに、ムクノちゃんの手を握る。
小さくて弱々しかったはずの手が、頼もしく握り返してきた。
ゴツゴツとした坂を歩く。
一歩進む旅、目の前の光が強くなる。
やがて外に出ると、そこには石造りの神殿があった。
規則的に屹立している柱は一部が欠けていて、それでもなお形を保っていた。
ここには、不思議と野生ポケモンの気配がなかった。
俺たちは神殿の階段を登り、白の遺跡を進んでいった。
学者肌のムクノちゃんは知的好奇心に満ちた目をしていた。キョロキョロとした視線は、遺跡のロマンに目移りしている様だった。
俺はどうだろう。そんなアカデミックな感動はあるだろうか。単に、なんかすげぇと思うくらいだ。
二人で神殿を歩く。
柱をひとつ、またひとつと通り過ぎていく。
ブラッキーたちも不思議と何かを感じているらしく、厳かに歩みを進めていた。血の気の多いバンギラスでさえ大人しくついてきていた。
「おぉ……!」
「うわぁ……!」
やがて、辿り着いた。
槍の柱の最奥。何もない、何かを祀っていたのかもしれない場所。
天にそびえる山から、大地を見下ろす神話の光景。
視界いっぱいに、神の王の見た景色が広がっていた。
「すげぇな……」
ホントに凄い景色を見ると、語彙力は低下するものだ。
今回もまた然りだった。
眼下には、シンオウ地方の全てがあった。見える景色と、見えない筈の景色までそこに在るかの様だった。
発展していく街や、人々の営み。大自然に息づくポケモンたちの息吹が、全てこの場所に集まっている様だった。
それどころか。カントーやジョウトといった他地方まで見下ろしている感覚さえあった。
まさに、世界の中心だった。
俺はこれまで、色んな地方で色んな景色を見て来た。
メレメレ島の水平線。朝日輝くいかりの湖。ホウエンの山々。ホワイトフォレストの風景。映し身の洞窟……。
心を揺さぶる瞬間、この身が溶けていきそうなほどの解放感。途方もない自然の息吹を感じると、俺の魂は生を実感するのだ。
これだ、これなのだ。
旅の醍醐味のひとつ。素晴らしい景色、最高の体験。
子供の頃から、大人になっても、俺はこれをずっと味わいたがっていた。
都会の喧騒や、田舎の静寂ではない。
人智の及ばぬ未踏領域。自然の一部になったかの様な生と死の曖昧さ加減。
この感動。最高の遊び。冒険の本懐。
「あぁ……」
けれど、いつも……。
興奮の後は、虚しさがやってくる。
最高なはずの体験と、それに満足しきれない謎の虚無感が、俺の心を冷やすのだ。
そろそろ来る。
子供の頃、友達と遊んだ後のさよならの時間。夕暮れの赤。聖剣が棒きれに変わる瞬間。
虚しくて、哀しくて、訳も分からず寂しくなる時が……。
ふと、手袋越しに温もりを感じた気がした。
俺は、手をつないだままの、ムクノちゃんの方を見た。
ムクノちゃんも、俺を見ていた。
同じタイミングで、目が合う。
彼女は、満面の笑みで俺を見ていた。
ぐんにゃりと歪んだ。子供の頃から変わらない、ちょっと怖いくらいの笑顔。
子供のままの瞳が、キラキラと光り輝いていた。
「あ……」
その時だ。
俺の胸の中に、心の奥に、じんわり広がっていく感覚があった。
それは、“納得”だった。
難度の高いクイズの正解を導き出した時みたいだった。あるいは、ジグソーパズルの最後のピースがはまった時だろうか。
ともかく、その時――ムクノちゃんの瞳を見た時に、俺の心には確かな満足感が充実していた。
その理由に、納得できたのだ。
俺は、何故旅を続けているか。
島めぐりの後、感じていた虚無感。
それを埋める為に、その正体を探す為に、俺はずっと旅をしていたのだ。
俺は、何故これまで人を好きになった事がなかったか。
告白してきた女の子の中には、好みド真ん中の超可愛い巨乳女子だっていたのに、俺はその誰にも恋をしなかった。好きにならなかった。
ライクはあっても、そこにラブは存在しなかった。どうでもいいと思っていた。
「ムクノちゃん……」
その理由が、
その正体が、
「なに?」
――此処にいた。
「……結婚しよう」
今、この段になって、ようやく腑に落ちた。
俺が求めていたモノ。
俺がずっと探していたモノ。
みんなが忘れていく、社会的には貴ばれない、いつか失くすだろう幼い感情。
俺はそれを、共に分かち合う存在を、ずっと求めていた。
答えは、既にあった。
過去と、現在に。そしてこれからは、未来にある。
「……へっ?」
一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に色んな事を体験したいと思う。
幼き日から、そういう人を、俺は求めていたのだ。大人になったら皆が飽きて、絶対にいないと決めつけていたのだ。
「俺、昔から君の事が好きだったんだ」
「あっ、えと……ちょっと、あの……!?」」
俺の心に欠けていたモノ、それは――愛する人だった。
俺が人を好きになれなかったのは、既に恋をしていたからだ。
小さい頃から、あの日のケヤキ少年は、オカルトマニアのムクノちゃんにゾッコンだったのだ。
共に歩いた時間が、彼女を大切な存在にしたのだ。
好きな事の為に生きる、それが俺。
ポケモンと、旅と、未知と、冒険と、その他色々……。
ひとつでも欠けていては、俺の心は満たされない。
最後で、最高で、最大のピース。
「今わかった。今悟った。俺は、ずっとムクノちゃんを探してた」
「え? あの、ちょっと急展開……」
ムクノちゃんこそ、生きがいだった。
あの日、ドラメシヤを救った彼女みたいになりたいと思った。
あの日、ムクノちゃんを救えた時に、俺の心には明確な芯が出来上がったのだ。
ああいう風に、こういう風に、生きてみたいと思ったのだ。
「好きだ、ムクノちゃん。結婚を前提に、付き合ってほしい」
「え……? え……えぇぇぇ……!?」
手をつないだまま、ムクノちゃんは眼を逸らして、明後日の方向を向いた。その顔は真っ赤で、必死に熱を逃がしている様だった。
理由くらい俺でも分かる。だって逆の立場なら俺もそうなるの分かるもん。
「さっき、二人でやりたい事いっぱい思い浮かんだんだ。俺一人じゃない、俺とムクノちゃんでだ。ムクノちゃんじゃないとダメなんだ」
「あ、あっ! いや、あの……!」
だが、気にしない。気にしている余裕がない。
俺とて、俺の中の感情の制御が上手くいかないのだ。思い切り吐き出さないと、落ち着けそうもない。
「デートしよう。前みたいに買い物をしたり、図書館に行くのもいい。キルクス温泉でゆっくりして、ボブの店でご飯を食べよう。イオニアで一泊して、ネズさんのライブに行こう。二人で」
厳かな雰囲気の神殿で、あまりにも俗っぽい話をしていた。
「ムクノちゃんの好きな事を共有させてほしい。前みたいに一緒に映画を観よう。ひとつのポップコーンをシェアして、見終わったらカフェで感想を言い合いたい。お互い着てほしい服を選んで、ナックルシティの公園を歩こう」
ポケモンもテンガン山もそっちのけで、なんならムクノちゃんもそっちのけで、俺は俺の頭と心から溢れて来る感情と思考を垂れ流していた。
「他の地方にも行こう。アローラはいい所だぞ。メレメレ島の海なんて、一度見たら忘れられない。ヒウンの発展ぶりも凄い。タマムシなら隅から隅まで案内できる。パルデアでサンドウィッチを作って食べよう」
ずっと、俺は俺の幸せの為に旅をしていた。
社会に馴染めない男なりに、孤独を楽しんで生きて来た。実際、好きでもない人と一緒に往く旅など御免であった。
けれど、今はもう無理だ。
「ムクノちゃん、俺は……」
この日、俺は幸せの本質を見つけてしまった。
愛なしじゃあ、もう生きてはいけない。
「君が好きだ」
「あ……」
なんか洒落た事を言おうとしたが、やっぱり無理だった。
思考が覚束ない。スピード違反だ。完全に語彙が迷子になっていて、感情が暴走している。
だから、こんな事しか言えなかった。
「……あ、あの」
対し、ムクノちゃんは何故か小さく縮こまっていた。
どうにも、昔のコミュ弱ムクノちゃんに戻っている気がした。
「なに?」
「あのぉ……前に、私は色んな超能力が使えるって、言ったと思うんですけど……」
「ん、ああ」
「はい……それで、その……その中に、精神感応というのがありまして……」
「うん」
それから、ムクノちゃんはチラチラと俺の目を見たり逸らしたりをしてから、小さな声で云った。
「……使ってもいいですか?」
「いいよ」
即OKを出すと、ムクノちゃんの方が驚いている様だった。
「あの、えっと……精神感応っていうのは感情とか諸々を私と直接繋げるという奴で、私に心の本音を聞かれるって事、なんですよ……?」
「別にいいんじゃないの?」
「う、嘘がバレるって事、なんですが……」
「ああ。そういう事」
字面から何となく分かっていたが、実際その通りだった。
なら、何の問題もないな。
「むしろ好都合だな」
「え、なんで? 怖くないの?」
「ムクノちゃんが信じてくれるなら、何だっていいさ」
「は、はい……」
余計緊張させてしまった。超能力に影響がなければいいのだが。
「じゃ、じゃあ……使いますよ?」
「どうぞ」
頷くと、ムクノちゃんはゆっくりと手袋を外した。
そのまま、細くしなやかな手が俺の顔に迫ってくる。
そして、その指が俺の頬に触れた。
その時である!
「んぎゃああああああああッ!?」
奇声を上げながら、ムクノちゃんは勢いよく飛び退いた。
「どうした?」
一体どうしたのだろうかと近づくと、ムクノちゃんは一歩退いてしまった。
「えっ! いや待って! ちょっと落ち着かせてください! 何なんですか今の!」
「何って……?」
精神感応なるものの仕様を理解してないので、俺には今彼女に起きているパニックの理由が分からないのだが。
いや、一瞬だけムクノちゃんの心? 意識? みたいなのとつながった様な感覚があったような無かったような……。
「え? え? え? ケヤキくん、何ですその感情の大きさと重さ! その、私に対するというか、濃さというか。え? 化け物!?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
要領を得ないムクノちゃんの話を聞くと、こうらしい。
「……つまり、俺からムクノちゃんへの感情がデカすぎてキャパオーバーしたと?」
「分かりますか? ちょっと触っただけで文庫本一冊と同等の好意が迫ってきたんですよ? え、ていうかケヤキくん、あれだけの感情蓄えてたのに、今の今まで自分の恋愛感情に気づかなかったんですか?」
「らしいな。まあ、俺の愛が伝わってる様で嬉しいよ」
「え、怖い……」
「ていうか、触るだけで愛を確信し合えるなんて便利だな」
「便利……!? この感情の激流が?」
何故かムクノちゃんが怯えているが、そんなのはどうでもいい。どうでもよくないが、今は置いておこう。
「俺はムクノちゃんが好き」
「あ、はい……」
「ムクノちゃんも俺が好き」
「はい」
「じゃあもう結婚しない理由がないじゃん」
「はい、そう、なんですけど……」
「年齢の事? なんか、マスタードさんが言うには昔は普通だったみたいだぞ」
「ぐ、グイグイ来る……」
「グイグイ来てたのはムクノちゃんでしょうが」
「そうなんですが、そうなんですが……!」
それはそれとして。
「結婚は、まぁ後の話だけどさ……」
改めて、向かい合う。
黒々とした双眸に、俺が映っている。
そう、この瞳だ。
最高の時、最後の時。そして今も。
ムクノちゃんの眼に、俺が映っていたいんだ。
「これからも、仲良くしてくれると嬉しい」
「は、はい。よろしくお願いします……!」
こうして、俺とムクノちゃんは結婚を前提としたお付き合いをする事になった。
普通、男女の付き合いなんてもっと気軽にするもんらしいが、そんなつまらんモンどうでもいい。
ノリも普通とは大分違うが、そも普通なんぞ俺の求めるものではない。俺もムクノちゃんも普通の人ではないのだし、今さらだ。
旅も、恋愛も、人生も、まだまだこれからで、俺たちらしくやってこうと思う。
楽しんでこう。
人生の命題とは、幸せになる事だ。
自由気ままに旅をするとか、好きな時に好きな飯食うとか、何にもせずに一日過ごすとか。
これまで、俺はそうやって生きて来た。それこそが、幸せの近道だった。
だが、これからは、俺は俺の幸せを目指さない。
目指すべきは、俺とムクノちゃんの幸せ。
俺たちの幸せだ。
あと、ポケモンたちの幸せも。
再会した幼馴染にお薬飲まされて、何やかやあったけど……。
まあ……。
今は、満足してるかな。
● 〇 ●
「どうすりゃいいんだ……」
大都会ド真ん中。ナックルシティは一等地。
朝日差し込むベッドの上、俺はお目覚め一番に頭を抱えたくなった。
例によって、全裸だ
どうすればいいか。無論、どうにかせねば……いや、どうにもならんわこれ。
俺は、隣で眠る少女――ムクノちゃんの方を見た。
「くぅ……くぅ……ふへへ……♡ ケヤキくぅん……♡」
ムクノちゃんは、弛緩しきった表情で、とってもとっても幸せそうに眠っていた。
その腕は俺の腕に絡みついており、俺は今上体を起こす事もできない。
そして、当然の様に彼女も全裸であった。
「……死ぬかと思った」
昨夜の事を思い出す。
気分的には卒業式だった。だが、俺には上手くやれる自信があった。
俺は自他ともに認める天才であり、心技体全てが高水準にまとまっている健康優良あくタイプ使いなのだ。
体力もムクノちゃんよりあるし、一度した経験から次に活かせる器用さがあり、ドキドキワクワクしつつも心は冷静だった。
コケる要素などないね。
実際、大成功だった。
要はポケモンバトルと同じなのだ。相手の弱点を探り、そこを突く。隙と見るやダイマックスして畳みかける。
完璧な体験。完璧な卒業式だった。大学で聞いた様な失敗例など、俺にはあり得なかった。
前回のは、あれは違う。
今回のこそ、愛し合うという事の本懐だ。
なるほど、夫婦というシステムが生まれる訳だと思ったね。
で、人生初のピロートーク。
俺とムクノちゃんはお互いの事をより深く話し合った。
その中で、曰くムクノちゃんはどんな時も起伏の激しい感情を上手く制御しているのだとか。前にも言っていた事だが、それを今現在も行っているのだと。
それを聞いて、俺は……。
――ベッドの上でくらい、もっと感情に素直になりなよ。
と、言ってしまったのだ。
そして、ムクノちゃんは真の姿を現した。
オリジンフォルムとでも言おうか。あるいは、第二形態か。
オカルトマニアのムクノが、勝負をしかけてきたのだ。
バトル終了と安心しきっていたところに、不意打ち“ドレインキッス”でHPを回復され、きゅうしょ確定“したでなめる”で身体の自由も奪われ、そのまま一気呵成に“しぼりとる”連発。
俺のダイマックスタイムは終了していたはずが、ムクノ(よるのすがた)はそんな状態などお構いなしに“メロメロ”からの“からみつく”、“ほっぺすりすり”で“ほしがる”のコンボを叩き込んできた。良い女の頼みは断れねぇ、此方も抜かねば不作法というもの。
一生懸命戦ったものの、流石にこれ以上は無理と弱音を上げたのだが、当のムクノちゃんは「ざぁ~こ♡ ざぁ~こ♡」と“ちょうはつ”してきて、頭に来た俺は再びふるいたった。それでも体力は限界で、そう何度も根性耐久はできなかった。
いやもう本当マジで限界っすって言ったら、「がんばれ♡ がんばれ♡」と甘々“てんしのキッス”と“アンコール”で回復させられ、“はさむ”と“ついばむ”の合体技で俺の魂を揺さぶって来た。巨乳には勝てぬ。
そして、コイキング化した俺を見て、サイキッカー・ムクノはある事を思いついてしまった。超能力をフルに使った攻撃だ。そうなると、俺の心はともかく身体は素直になってしまい、俺の弱点は丸裸にされてしまったのだった。精神感応バトルはほどほどにすべきだと心底思った。
最終的に、お互い寝落ちするまで続いてしまい……。
今に至るという訳だ。
「……んぅ、ケヤキくぅん♡ すぅ……すぅ……」
隣で眠るムクノちゃんを見る。ツヤツヤしていた。
俺のバトルタワーを見る。可愛そうに、ひんしだ。
お互い、回復が必要だ。
「寝よう……」
起きたらすぐ行動というのが俺のモットーなのだが、今日ばかりは二度寝といこう。実際、睡眠時間は短い。
なに、焦る事はないだろう。
二人にはまだまだ時間があるのだから。
次は絶対に分からせてやる。
2時間後……。
「あ、おはようケヤキくん♡ シャワー浴びよっか♡ ご飯もさっきデリバリー頼んでおいたからね♡ 体力のつくメニューをたくさん♡」
「今日? ううん、どこにも出かける予定はないよ♡ 今日は、ずっとケヤキくんと一緒だからね♡ うん、会社には連絡しておいたよ♡」
「ほらほら♡ 早くお風呂はいろ♡ ご飯食べよ♡ 道具もね、服もね、色々準備してきたんだから♡」
「昨夜の続き、しよ♡」
ケヤキは めのまえが まっくらに なった!
感想投げてくれると喜びます。
ご愛読ありがとうございました。
こんなクッソしょうもない作品を読んでくださり、感想もたくさん頂いて嬉しい限りです。
ぶっちゃけ、数話でなんも反応なかったら削除する予定でした。ここまで続けられたのも感想を書いて下さった読者様のお陰です。反応ないと書く気なくなりますからね、マジで。
それでは皆さん、またどこかで筆者の変なモン見つけたら気軽に声かけてやってください。
筆者が喜びます。