【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告もものすごい助かっています。申し訳ねぇ。
例によって独自設定・独自解釈多めです。
アンケートのご協力、ありがとうございました。そのようにします。
まだ兄弟姉妹の設定考えてないので、そのへんもボチボチやってこうかな~って思ってます。
今回は感想欄でご要望のあったオペレーターさん視点を書いてみました。
感想見て、なるほどそういうのもあるのかと衝動のまま書きました。自分でもびっくりの執筆速度です。多分今回だけでしょう。
オペレーターさん、覚えていますでしょうか。
17話に登場したキャラで、ちょっとしか喋っていません。
あと、オペレーターさんは女性です。
【外伝・オペレーター】私のミライへ超回転
――なんて荒んだ目をした子供なんだろう。
イッシュ地方レンジャー協会本部で初めてその少年を見た時、私はこのような感想を抱いた。
端正な顔立ちに比して、その瞳はひどく濁って見えた。けれども、その瞳に弱々しさはなく、強い自己を確立している様でもあった。
まるで、混濁したフィルターを通して一人称視点のゲームでもしているような男の子だった。
濁った眼の少年は、名をケヤキと言った。
ケヤキくんは、レンジャー協会にスカウトされてきた在野のトレーナーだ。当然、隊員からも職員からもその存在は注目されていた。
しかもこの少年は会長直々にスカウトしてきたらしいのだ。だからか、資格取得の段階でいくつもの特別待遇を許されていた。
そして、待遇相応に実力や経歴もまた、別格だった。
曰く、ガラル地方の元チャンプ推薦トレーナーである。
曰く、タマ大法学部を一発合格し、中退した。
曰く、伝説ポケモンを手持ちにしている。
曰く、実技試験で当代最強の現職レンジャーを倒した。
曰く、最年少S級レンジャー。
どれも、証拠付きの資料で確認できる事実であった。
間違いなく、協会史上最強のポケモンレンジャーだ。
そんな彼のオペレーターになれたという事が、私という一般職員には強い自己肯定感に繋がっていた。
天才という存在を間近で見られる高揚が、私のモチベーションを上げに上げていた。
いったい、彼は何を成すのか。
あの濁った瞳は、強者の孤独故なのか。
彼がいれば、悪の組織など何も怖くないのではないか。
一度会っただけの少年に、私という一般人は期待してしまっていた。
彼の魔性の魅力に、惹かれてしまっていた。
……無論、十も年下の彼を男性として見ていたとか、そういうのではない。
可愛い男の子だなとは思ったし、五年後が楽しみだなぁ程度には思っていた。
将来、私好みのイケメンになるんじゃないかなぁとも、思ってはいた。
● 〇 ●
「はい、確認しました。お疲れ様です、ケヤキさん」
ケヤキという期待の新米ポケモンレンジャーは、私が思っていたよりずっと安穏な生活をしている様だった。
受ける依頼は最低限で、しかもそのどれもが危険度の低いものだったり緊急性のないものだったりした。
新米としては正しい。なのだが、フリーランスという特別待遇と、彼の腕前を知る自分としては身勝手ながらどうにも歯がゆい気持ちにもなっていた。
「ところで、次に行く地方は決めていますか?」
だからという訳ではないが、私は連絡の度に彼に世間話を振っていた。
なにも、年下の彼に懸想していたとかではない。根無し草で、風来坊で、濁った眼をした、外から見ると不安定な感じのする彼の動向は協会的には抑えておきたいものなのだ。
「あぁ……どうしましょう。特に決めてませんが……」
彼はというと、ひんしのヒンバスみたいな眼をする割に、存外社交性を持っていた。
こういう闇落ち一歩手前みたいな思春期少年は、もっと大人に対してトゲトゲしく当たるものだと思っていたのだ。話して見ると、普通に話せてビックリだった。
だが、どうにもこうにも距離や壁を感じるのも事実であった。
「でしたら、ジョウトなど如何でしょう? 最近、エンジュでは観光客向けのサービスが多いらしいですよ。あと、明後日から私、ジョウトに転勤するんです」
「へえ、そうなんですか。じゃあ、行ってみようかな」
「徒歩でですか?」
「そりゃ、俺がしたいのは移動じゃなくて旅ですから」
ケヤキ少年は、旅というものに執着していた。
ひいては、旅をする為の時間を大切にしている様だった。
目的も理由もない、あてどない旅。そういう“生き方”をしていた。
レンジャー協会の中には、彼のその行動指針を「才能を腐らせている」だとか何とか言う人たちもいるが、私はそうは思わない。
確かに、彼がその気になればもっと簡単に解決した事件など山ほどあるだろう。そうでなくても、もっと前線に出てくれるなり、バトルの教導官になってくれるなりしたら、協会的には凄く嬉しいのだろう。
歯がゆいと思う時もある。最初は私も身勝手な期待をしていた。
だが、まあ……。
「ええ。道中お気をつけて」
「うーっす」
彼は、まだ子供だ。
いい大人が、子供に危険を肩代わりさせるなど、あってはいけない。
そういうのは、私たち大人の役割だ。
だから、私はレンジャー協会に入ったのだ。
ケヤキくんは、天才だ。
対して、私は凡才だ。
バトルの才能がないから、協会の職員を目指した。
決して良くない頭をいじめ抜いて、なんとかかんとかヒウン大学に入った。
協会試験には二度落ちたが、三度目の正直でやっと一般職員になれたのだ。
彼の様な、子供を守る為に。
● 〇 ●
白銀山のバンギラス。
後にそう呼ばれる事となる準伝説級特異個体が暴れだしたのは、ちょうど彼がジョウト入りした日の事だった。
当時、まだ情報が確定していなかった頃だ。ジョウトのレンジャーから一通の報告書が届いた。
曰く、シロガネ山周辺の野生ポケモンの生態に変化が見受けられるので、応援がほしいのだと。
なんて事のない、いつものよくある調査依頼。
シロガネ山という危険地帯の探索とはいえ、先輩レンジャーとの共同任務だ。
私は、いつも金欠な彼に割のいい依頼があるのだと伝えた。
「あ、はい。それ受けます。いやー、ついさっき持ち金が200……あ、今80円になったところで……」
「ジュース買ってんじゃないですよ」
すると、彼はあっさりと依頼を受諾し、シロガネ山調査隊に混ざっていった。
それからの出来事は、まさに悪夢そのものであった。
シロガネ山で暴れていたのは、バンギラスという強力なポケモンだった。
如何なバンギラスとはいえ、レンジャーともなれば捕獲なり何なりは十分可能なはずだった。
それに、今任務にあたっているのは歴戦のレンジャー部隊であり、それに加えて隊長を務めるのはジョウトでも指折りの凄腕レンジャーなのだ。あまつさえ、天才トレーナーのケヤキくんもいる。
大きな被害が出る前に、対処できるだろうとそう思っていた。
レンジャー隊員たちが、ボロボロになって下山してくるまでは。
通信状況が悪く、事態を把握できていなかった私に、比較的軽傷だったレンジャー隊員は説明した。
シロガネ山のヌシ級ポケモンたちの大移動に巻き込まれ、部隊が散り散りになった事。
無事な隊員は先回りして周囲の人里に向かった事。
今は隊長が孤軍奮闘してシロガネ山ポケモンたちを足止めしているという事。
それを聞いて、報告の中に彼の情報がなかった事に気づいた私は、すぐにその事を問いただした。
訊かれたレンジャー隊員は、やや間を空けて云った。
「リングマの攻撃を避けた際に、彼は崖から落ちてしまった」
と……。
頭が真っ白になったとは、この事かと思った。
依然として、彼との通信は繋がらない。何度コールしても、返答がない。
将来有望な彼が、最強のポケモンレンジャーであるはずの彼が、自然という驚異にあっさり負けてしまったというのか。
私はただ、何もできないオペレーターの自分を恨んだ。
少しでもバトルの才能があれば。
少しでも身体能力が高ければ。
私も、レンジャーになれたかもしれないのに。レンジャーなら、彼を助けに行けたかもしれないのに。
それから、私を含めた協会職員たちは、休む間もなく職務に励んだ。
周辺地域の情報収集。被害計算。住民への案内……。
やる事は多かった。家に帰る事もできず、睡眠はデスクの前で気絶するようにしていた。
少しでも暇な時間ができれば、考えたくもない事が起きてしまいそうで、忙しかったのが逆にありがたかった。
「あんた、ちょっと休みなよ? ほら、ココア入れてきたから。少し寝な?」
「うん、ありがとう……」
大丈夫だ、大丈夫だと言い聞かせた。
頭の中の凡庸な部分が、よくある事さと慰めていた。
リアリスト気取りの自分が、早く慣れろと言っていた。
「……慣れていい訳ないじゃん」
そんな、熱のない協会職員に、私は憧れてなんかいない。
全力で助けられたから、全力で守りたいと思ったのだ。
理想の自分にはなれなくても、憧れた職員だけは諦めない。
気持ちだけでも。
そして、三日後……。
「あ、連絡遅れてすみません。崖から? はい、落ちてる最中にドンカラスに助けてもらって。その時端末とか色々壊しちゃったみたいです。で、まぁ手ぶらで帰るのもアレかな~って思って歩いてたらバンギラスいたんで、おっコイツかなってそのままバトルしました」
「はい、解決しました。やっぱり、このバンギラスが原因だったみたいですね。こいつがシロガネ山中のヌシ級ポケモンに喧嘩売りまくってたせいで起こったみたいです。けっこう強かったですよ、鉢合わせになったのが俺で幸運でした」
「ええ、捕獲しましたよ。あ、このバンギラスもらっていいですよね? 協会用のボールも落としちゃったんで、自分用しかなかったんですよ。はい、お願いします。それじゃ、お金の方よろしくお願いしますね~」
白銀山のバンギラスは、あっさりと彼の傘下に収まって、事件は無事解決した。
被害予測を大きく外した結果に、疲労困憊だったジョウトのレンジャー協会は唖然としていた。
無論、いい意味で。
「やば……」
隣のオペレーターが、口をあんぐり開けて驚いていた。
あぁ……うん。そうだろう。
「まあね……」
うちの子は、ヤバいのだ。
● 〇 ●
それから。しばらく……。
彼はいつも通り旅を続けて、その道すがら小遣い稼ぎをして、たまにとんでもない事件をサラッと解決するという、超絶有能レンジャーになっていた。
当初は彼を軽んじていた一部職員も、あの一件以降彼の機嫌を損ねないよう気を配る様になっていた。
変に任務を無理強いするより、放っておいた方が効率が良い事がわかったのだ。
それからそれからまたまた。色々あって数年後……。
「あ、そうそう。俺、今度結婚するんすよ。はい、相手は幼馴染の子で……あ、写真見ます? これ、ミアレで撮った奴なんですけど……」
「新居はパルデア地方の予定です。まだどこに住むかは決めてないんですけど、そこも旅しながら嫁さんと決めよっかなって。ええ、レンジャーは続けようと思います。なんだかんだ、この仕事も楽しいので」
「じゃ、そういう事で~」
あんなに小さかったケヤキくんが、いつの間にか婚約していたなんて……。
しかも相手はあのゴースト使いのムクノさんだなんて……。
しかもしかも二人は幼馴染だったなんて……。
「……うとがわるい」
「ん? なんて?」
腹の奥から湧き上がってきたこの感情は、何なのだろうか。
ムカつきとも違う。得体の知れない熱いエネルギーは、何なのだろう。
我慢できそうになかった。
「……ジョウトが悪い!」
「えっ、どうしたの!?」
三十路! 彼氏なし! 職場の男は子持ちのおじさんしかいない!
激務! デスクワーク! 休日はナンジャモちゃんの配信しか見てない!
すぐ疲れる! 腰が痛い! ポテチ半分食べれない!
「もういい! 私もパルデア行く!」
「だからどうしたのって!」
私は、新天地目掛けて走り出した。
きっと、パルデアには私好みのイケメンがいるに違いない。
そう思わないとやっていられない。
「黒髪でサスペンダーが素敵でスラッとしたコガネ弁のイケメンさん! 早く私を捕まえにいらっしゃーい!」
私はようやくのぼりはじめたばかりだからだ。
この果てしなく遠いポケモン坂をよ!
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