【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
ご期待に添えるかは分かりませんが、ぼんやり続けていこうと思います。
今回、あんまり話が進みませんが、だいたいこんな感じです。
「んっ……んぅ……」
清々しい朝陽に照らされながらつい昨日の事を思い出していると、腹の上の毛玉が身じろぎする感触があった。
見ると、目覚めかけのムクノちゃんが俺の腹に顔を擦り付けていた。長い黒髪と鼻息が当たってくすぐったい。
「あ……♡ おはよぉ~、ケヤキくん……♡」
次いで、寝ぼけ眼とばっちり目が合った。ハートマーク付きで俺の名を呼ぶ声。その声色は安心しきっているのか常になく間延びしていた。
「あ、あぁ……うん、おはよう」
「ふへへ……♡」
ムウマージの擬人化みたいな彼女はまだ眠気に勝ちきってはいないようで、聊か以上に夢心地な雰囲気だった。まるで幸せという概念自体を全身に浴びているかの様。一目で分かるくらい、それはもう幸せそうだった。
そのまま、ムクノちゃんは身をよじって俺の胸に頭を乗せた。彼女が喋る度、俺の鳩尾に僅かな湿り気と振動が感じられる。
「ケヤキくん♡ ケヤキくん♡ ふへっ、ふへへへ……♡」
昨夜の事もあって微妙な返事をしてしまった俺に対し、ムクノちゃんの方はこの通り。
情緒不安定な俺と、安定して幸福を享受しているムクノちゃん、正反対だ。寒暖差が激し過ぎる。今の彼女とは気持ちを共有できそうになかった。
それはそれとして、さっきから腹にムクノちゃんのおっぱいが当たっている。これはかなりまずい。朝ダイマックスなど今更なので、そっちじゃない。
俺は昨日ガラルに来て、ムクノちゃんと会って、そのままベッドに潜ったから、はっきり言って今の俺は臭いはずだ。
旅人は臭さに鈍感になるものだが、女の子にこの臭いは堪えるだろう。
想像してほしい。好みの美少女に「くさっ!」と言われる様を。
確定きゅうしょだ。
ぼうぎょとすばやさが下がっている現状、先制で倒れる。
「汗も……♡ くんくん……くんくんくん……♡」
「いや、あまり匂いを嗅ぐのは……」
なので、できたらそう胸に顔を押し付けないでほしいのだ。
ムクノちゃんもそうだったが、昨晩はお互い汗まみれになったままシャワーも浴びていない。美少女の汗ならともかく、野郎の汗など何の価値があろうか。
「いいにおぉ~い……♡」
こいつ臭いフェチか……?
汗まみれの体の臭いを嗅がれ、これを言われて嬉しい男はいるかもしれないが、俺は違う。
「ひぅ……!?」
などと考えていると、鳩尾あたりにザラリとした感触。つい女の子みたいな萌え声を出してしまった。
これ、昨日知った奴だ。舐められたのだ。女の子に、胸を。
「ふへへ……美味しい♡ ケヤキくん美味しい♡ んぅ~♡」
もう一度言うが、美少女にくっつかれて喜ばない男は少数だと思う。
女の子に身体舐められると気持ちいいってのも、昨日知った。これも、されて嬉しい男が多数だろう。
けど、今はまずい。今はダメだ。今の俺には理性があり、過去と現在の状況ジェットコースターのせいで思考と情緒がぐっちゃぐちゃなのだ。
「やっ……!」
故に、
「ヤメロォーッ!」
「ひゃん♡」
寝技の応用で、ムクノちゃんをひっぺがす事にした。ガラル空手は寝技も習うのだ。
「ふへへ……♡ 朝から元気だね♡」
引き剥がされたムクノちゃんは何が嬉しいのか、なおもいつもの弛緩した笑みを浮かべていた。
視線の先、そこには俺の身体の中心やや下、実にご立派だ。仕方ないだろう、男の子だもの。
「すぅ……ふぅ……」
そんな視線を努めて無視し、俺は一度深呼吸をした。ガラル空手の基本、精神のリセットである。
昨日の事も、現在の事も、これからどうするかなんてのも一旦置いておこう。直近、問題を解決すべきだ。
「ムクノちゃん」
「なに?」
なので、家主に向かってあつかましい……というか、現状で正しいのかさえ判断つかないのだが、そんなお願いをする事にした。
「シャワー借りていい?」
「うん♡ 一緒にお風呂はいろ♡」
このムクノちゃんの距離感はどうなってるんだ。
● 〇 ●
数分後……。
結局、俺とムクノちゃんは一緒にシャワーを浴びる事になった。
「はぁい♡ じゃあ手挙げて~♡」
「ウッス……」
理由は簡単。言い出しっぺながら家主より先に入る訳にはと固辞した俺と、なら一緒に入ろうよと提案するムクノちゃんの押し合いの結果、家主の権力には勝てなかったのだ。
そして、この歳になって他人に身体を洗われるという経験をする事になった。
身体を流してもらう最中、俺はずっと目を瞑り、できるだけ別の事を考えていた。
でないと俺の一部が再ダイマックスしそうだったからだ。
「ふへへ……♡ あぁ……ケヤキくん可愛いなぁ……♡」
目を瞑っているので、何がどう可愛い部分があるのかは気にしないようにした。これも今更である。
何がとは言わないが、泡塗れの二回戦にならなかったのは助かった。俺の事だ、絶対に逃げ出せない。もしそうなっていたとしたら気まずさは二倍じゃ済まないだろう。
正直。好みド真ん中の美少女に洗体されて嬉しい気持ちはある。けれど、気まずいし恥ずかしい。
なにせ、付き合ってもない友達同士ではねやすめ(意味深)してしまったのである。
経験豊富なエリートトレーナーならすんなり受け入れられるのだろうが、残念ながら俺はその点新米もいいとこだ。心情的にも、信念的にも、どうすべきかは分かってもどんな顔をすべきなのかが分からないでいた。
「じゃあ♡ 次はケヤキくんが私の身体洗って♡」
「お先、失礼します」
言って、手探りで風呂場を出る。
これまた高級マンションらしい広々とした脱衣場に出ると、朝シャン後の涼しさが湯だった頭を冷やしてくれる様だった。
まあ、そういう類の話を知らない訳ではない。
カントーの大学にいた頃、知り合いに曰く割とこういう事はあるらしい。行きずりの女性とか、あるいは女友達とか。
そういう話を聞く度、俺は得も言われぬざわざわした感情を抱いていた。
あくタイプ的に、乱れた行為はOKなのだ。だが、淫れた行為は俺的にNGだ。まして、それが幼馴染の女の子であるなら尚の事。
幼馴染の娘と、一夜限りのポケモンバトル。
世間的云々ではない、心情と信念。俺は、これに従って生きると決めているのだ。
ならば、何を迷う事があろうか。
仕方ない。覚悟を決めよう。嫌われる覚悟と傷つく覚悟だ。
「って……アレ?」
借りたバスタオル――めっちゃいい匂いする――で身体を拭き終えると、脱衣場に俺の着替えがない事に気が付いた。
見ると、台の上に見知らぬ男モノの着替え一式が置いてあり、最新式っぽいドラム型洗濯機では俺の衣服がグルグル回転していた。
置かれていたシャツを広げると、それは全体的に黒っぽい色合いでどことなくゴースト的な印象を受けるデザインだった。
なんとなく、ムクノちゃんが好きそうなデザインだと思った。
その時、俺の脳裏に自然とある答えが浮かんだ。
「これって……元カレの?」
あぁ……。
まあ、うん。
そういうのあるよね。
おかしな事じゃないよな、うん。
年齢とか経済力とか見た目とか、これまでムクノちゃんにそういう相手がいなかったなんて考える方がどうかしてる。再会した時にはナンパされてたし、ムクノちゃんはモテるんだろう。
大のオカルト好きというちょっと変わった趣味こそあるが、そんなの嗜好のお話だ。むしろ気の合う男なんていくらでもいるはずだ。ムクノちゃんという美少女を他の男が放っておく訳がないのである。
頭では理解できた。
なのに、このざわざわ感は何なんだろう。
「……ん?」
と思ったが、よく見るとこの服は新品だ。
色落ちもしていないし、ほつれもない。くたびれている部分もないし、ピシッとしている。
これ、誰も着た事ない服だぞ。
「あっ、ケヤキくん、服は汚れてたから洗濯機に入れておいたよ」
「おっ、おう」
背後からの声。振り向こうとして、やめた。今の彼女は全裸だ。
俺はできるだけ背後を意識しないよう気をつけながら、持っている服を後ろ手に見せた。
「この服は?」
「ケヤキくんのお着替え。昨晩、届けてもらうように頼んだんだ。ウチの会社初のメンズ商品だよ」
つまり、これは元カレの服では……ない。
ふーん、あっそう……。
ふわっと、胸のざわざわが無くなった。
こういうの、あくタイプ的にはどうなんだ。
「あー、これ着てもいい?」
「うん♡ 見せて見せて♡」
背後に身体を拭く擦過音を聞き流しつつ、俺はありがたくその服を着る事にした。
すると、意外や意外、一式は見事に俺の身体にフィットした。下着やスキニーもサイズぴったりで、デザインだけでなく動きやすさもまた良かった。
「ふへっ、ふへへへ……♡」
背後から妙に低音の笑い声が聞こえたが、これも無視だ。
まるでスケベなおじさんが巨乳の女性を見る時の様な笑い声だったが、無視だ無視。
「あ、ありがとうムクノちゃん」
「ふへっ、こちらこそありがとうございます……ふへへ……」
目も合わせずお礼を言うなんて失礼だとは思ったが、今は仕方ないと見逃してほしい。
俺は風呂場を後にし、リビングで彼女を待つ事にした。
リビングの窓からは、ナックルシティの街並みがよく見えた。
今俺がいるこの部屋は、ムクノちゃんの住居である。
ナックルシティは地価が高い。そこの一等地にあり、かつ広々としたこの部屋は並みの経済状況で住める場所ではないだろう。おまけに天井も高いので、大きめのポケモンを出しても大丈夫そうだ。
ふと見ると、ソファの上に一匹のポケモンが座っていた。
昨日も会った。エーフィだ。
「エーフィ」
近くに行き、昔みたいに抱き上げた。エーフィは抵抗する事なく、俺にされるがままだった。
そして、抱き上げられたエーフィは俺の胸をひかえめに掻いた。
このエーフィはかつて俺の手持ちだったイーブイが進化した奴で、ガラルを出た時にムクノちゃんに譲渡したポケモンだ。
久しぶりに抱いたエーフィは、過去の思い出そのままの柔らかさだった。イーブイの頃とは毛質は違うが、抱いた時の安心感はあの時のままだった。
「あぁ……お前は今も変わってないなぁ。毛並みもいいし、尻尾も綺麗だ。肉付きも……あぁごめんごめん! ここ触られるの嫌だったもんな」
ポケモントレーナーの性か、俺は無意識にエーフィの健康状態を確認していた。
見たところ、ムクノちゃんはこのエーフィをすごく大事にしてくれているみたいだった。どうやらバトルの方もそれなりにこなしていたらしく、このエーフィは平均以上には仕上がっていた。
エーフィと戯れていると、同じソファの後ろからブラッキーが出て来た。
いつの間にボールから出ていたのかは分からないが、こいつもこいつで旧交を暖めていたようだ。
「ほら、お前も」
子供の頃みたく二匹同時に抱き上げる。右にエーフィ、左にブラッキー。昔は両方イーブイだったが、今はどちらも進化して大きくなっていた。
俺もあの頃よりずっとデカくなったので、おあいこだ。
「よーしよしよしよしよし……」
二匹を抱き、改めて思う。
やっぱり、俺はポケモンが好きなのだ。
旅とポケモン、これ以外に何がいるというのか。
そうやってポケモンたちとじゃれ合っていると、キッチンの方向から視線を感じた。
ムクノちゃんだった。彼女はダイニングテーブルに体重を預け、微笑ましそうに俺とブイズを眺めていた。
その顔はいつものぐんにゃりスマイルではなく、どこか遠くの景色を見るかの様な柔らかな微笑みだった。
今のムクノちゃんには、同い年の少女とは思えぬ大人の色気があった。
「変わってないなぁ……ケヤキくんは」
ムクノちゃんは、そう零した。
その笑みを見て、俺はちょっとだけ後悔しそうになった。
そういえば、だ。
今から俺、この娘に嫌われるつもりだったのだ。
覚悟が揺らぎそうな顔するの止めて欲しい。
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