【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。
今回は日常回です。そうなってしまいました。
いやもう少し先行けただろ、どうなってんだ。
例によって独自設定と独自解釈があります。
おかしなトコあっても許して亭ゆるして。
「最近、わたくしのタルップルが動いてくれませんの……」
ある日の放課後、俺は何故かシンラ――金髪ダサマントお嬢様――から相談を受けていた。
授業終わり、さて帰ろうとなった時に突然寄ってきて、「相談がある」との第一声。無論。なんのこったよである。
お生憎様、俺は姉さんみたいに他人の面倒事にホイホイ乗っかるようなお人よしじゃあないので普通に断ろうとしたのだが、強引なお嬢様は嫌がる俺を無理やり人気のない空き教室に引っ張って行ったのである。
「はあ、タルップルねぇ」
「ええ、まるでドオーかヤドランみたいに……」
で、相談内容というのが、前述の事らしいのだが……。
「知らねーよ、そんなの」
というのが本音であった。
ドラゴンポケモンの事となれば協力してやらん気持ちがないでもないのだが、普段ドラゴン使いかくあるべし――こいつもドラゴンポケモン愛好家であるらしい――とか、ドラゴン使いの品位だの品格だの品性だのごちゃごちゃやかましいコイツにはあんまり労力を費やしたくないのも本音であった。
文字通りの面倒事。俺には関係ないのでさっさとお暇したいところである。
「じ、実家の秘伝書にも載っていませんし、先生方にお聞きしても解決しなかったのです! もう頼れるのは貴方しかいませんの! お願いしますわ!」
「あほくさ。お前普段俺のことバカだの下品だのなってないだの言う癖に」
「そこまで言ってませんわ! か、観察眼は……認めてあげてますのよ?」
「認めて欲しいなんて思ってないが」
「お、お願いしますわ! 何か気づく事があれば教えてくれるだけで良いのです! もちろんお礼はしますわよ!」
「ポケセン行け」
「病気じゃないとの事ですわー!」
病気や怪我ならポケセンで何とかなるだろうし、元気がないならペパーさんの店にでも行けば良いものである。
で、それでも治らないとなったので、藁にも縋る思いで普段アレやコレや言ってる俺にも協力をお願いしたと……。
まぁ、順序は良いのだ。こいつ視点、俺がどう見えてようが興味もない。
一応、必死さは伝わった。嫌いな俺に縋ってくるなど相当である。ここは可愛いタルップルに免じて、仕方なく乗ってやろうと思った。
「まあ、とりあえず話させろよ」
「え、ええ……」
アカデミーの教員にも分からないような事が俺に分かるとも思えないが、素人や凡人からの視点から見える世界というのもあるだろう。
期待しないようにとも付け加えて、俺は件のタルップルを出してみるよう催促した。
「ぷるぁ~」
で、ポイと投げられたボールからは、如何にも健康優良ポケモンといった風のタルップルが出て来た。
「健康そうだが」
「そうなのです。身体は健康なのですが……」
「ああ、すごい良い匂いがする。しっかり栄養を蓄えてる証拠だ」
言いつつ、よくよくタルップルを観察する。
蜜の分泌量も良好。舌や目の色も問題ない。にも関わらず、ボールから出たタルップルはヤドンかヤドランかと言わんばかりにぬぼーっと突っ立っている。
元々、タルップルはアグレッシブな気質ではないが、それにしたってここまで動かないのは変だ。これなら不調を疑って然るべきだろう。
実際、何か変だ。知識でなく、感性がそう言っている。
「ん~?」
パッと見じゃあ、やっぱりわからない。
なので、俺はしゃがんでタルップルと視線を合わせると、いつもの様にお話を始めた。
何度か単調な思念を送り合って警戒を解き、具体的な会話を進める。
何か不調はないかとか。昨日なに食べたとか。何で動かないのとか。
「ど、どうですの?」
不安そうなシンラ。普段強気で声のデカいこいつが、珍しく弱々しい声音を出していた。
「……わかんね」
「そう、ですのね……」
実際、分からなかった。
タルップル曰く、飯は毎日美味いし、身体で痛いところもないし、特別何かして欲しい事や、してほしくない嫌な事も特にないらしい。
けど、何故だか動く気になれないとの事だ。
「まあ、だいたい分かった」
そう、要するにタルップルに自覚がないのは分かったのだ。
あとは人間が何とかするだけ。とにかく調べてみるしかない。
「ちょっと失礼」
「えっ、ちょっ貴方……!?」
俺はタルップルから分泌されている蜜を指ですくい、舐めてみた。ゲロ甘だった。見た目通り栄養状態は良いらしい。健康的だ。
次いで、剥がれかけている皮の一部を貰って口に含む。シャリシャリしてうま……いやこれ甘すぎじゃねぇの? どんだけ良いモン食ってればこんな甘くなるんだよ。
そのままの勢いで蜜の分泌腺を観察してみたり、採取した蜜をジャラコとドラメシヤに舐めさせてみたりした。2匹は喜んでいた。
「な、何してますの?」
「うっせ。えーっと、確か……」
蜜の匂いにメロメロ状態の2匹を放っておいて、俺は頼りない頭の中のドラゴン辞典に検索をかけた。
タルップル。甘いリンゴを食べて進化するポケモン。
ドラゴンタイプのポケモンで、昔は皮が子供のおやつとして重宝されてたらしい。
あと、野生のタルップルはこの蜜で寄ってくる虫を食う生態だったような……。
「んん~っ?」
よし、一旦考え方を変えよう。
現代医療で分からないんだ。なら別の医療体系……そうだな、ポケモン進化論的医学をベースに考えてみよう。
ポケモン進化論的医学とは、後ろを見直す医学体系だ。
本来、ポケモンに限らず生き物というのは自然と共に暮らしてきた。生物としては、そういった状況こそが正常であって、便利な道具や栄養豊富な食糧が沢山ある現代のがおかしいのだ。なら、昔に近い生活をする事で適性な状態になるんじゃねぇの? と、語弊を恐れずざっくり言うとそんな感じだ。ポケモンの場合、野生の状態がそうなる訳で。
つまり、このタルップルは本来の野生生活とはかけ離れた行動や食生活をしているせいで不調が起きてるんじゃあないのか。そう考えてみると、どうだろう。
「ここ最近、こいつ何食ってた?」
「あ、えーっと、一昨日はシンオウ産のメロンで、昨日はアローラ産のバナナで、今日はカントー産のリンゴを……。あ、もちろんポケモンフーズはイッシュから取り寄せた最高級のモノを食べさせておりますのよ!」
「まあ、問題ないよな……」
何も問題はないはずだ。問題はないのに問題が起きているのが問題なのだ。
だからこそ、試してみる価値はあると思う。
「なあ、こいつに虫食わせてみようぜ」
「むっ!? 虫だなんて食べさせる訳ないでしょうこの粗忽者! そんな不衛生なもの食べてタルップルが病気になったらどうするんですの!」
「でも野生は虫食うだろ。食えば元気出るかも」
「ポケモンフーズはそういう栄養素も完備してるはずですわ!」
そうなんだよな、そうなんだが……。
科学は万能ではないし、人間は完璧じゃないし、ポケモンフーズも完全食じゃあないのである。
「まぁ物は試しに」
「くっ、お労しや、タルップル……」
という訳で、タルップルをグラウンドにある畑の近くまで運んでみた。
するとすぐに、蜜に反応した虫たちがタルップルの周りに寄ってきはじめた。
「ひぃ!?」
それを見たシンラお嬢様は俺の背中に隠れてしまった。虫は苦手らしい。
そんなお嬢様などお構いなしに、最上級の蜜目掛けて突貫してくる虫たち。シンラが「あっ!」という前に、彼らは群れを成してタルップルへと殺到し……。
「プルルルルゥゥァアアアッ!!」
その全てが、凄まじい速さで動いたタルップルによって捕食された。
俺とお嬢様、ついでにジャラコとドラメシヤ、唖然。
さっきまでドオーの親戚みたいになっていたタルップルが、アイアントの巣を見つけたクイタランみたいな速度で寄ってきた虫たちを補食してみせたのだ。
数十匹の虫を一気に捕食したタルップルだったが、食い足りないとばかりに自ら花壇の方向に歩き出して更なる虫の誘因をはじめた。道中に寄って来た昆虫や羽虫を器用に捕食しながら。
そして、花壇の近くまで行って芋砂開始。で、寄って来た虫をパクパクですわと補食していく。その勢いたるや、食べ放題店に連れて来たカビゴンの如し。
「やべぇな」
「ヤバいですわ……!」
虫を食べるのがヤバいのではない。
虫を食べている最中も、なおも撒かれている匂いに誘われて一般生徒の手持ちむしポケモンたちがタルップルの蜜の魅力にホイホイされかかっている事がヤバいのだ。
そして何より、虫の味を知ったタルップルが、寄ってくるむしポケモンに狙いを定めはじめている事がめちゃくそヤバいのだ。
「オイこのバカ女! どんだけ良いモン食わせればあんな良い匂い出すまで育つんだよ! 普通のタルップルじゃあここまで濃い蜜出さねぇよ!?」
「だ、だってだって! タルップルったらいつも美味しそうに食べて下さるんですもの!」
そうして、俺とお嬢様は荒ぶるタルップルと周囲の虫ポケモンたちへの応対に奔走するのであった。
結局、タルップルの謎の不調は、野生に準じた食事をする事で改善した。
タルップルは虫の味に目覚めて、これまでの食に加えて虫を要求するようになったとか。
流石に適当な虫を食わすのはアレだというので、お嬢様はちゃんとエサ用に加工された虫を与えているらしい。
「ふ、不本意ですが貴方のお陰で解決しました。お礼を言ってあげなくもないですわよ!」
などと上から目線で言ってくるお嬢様。
相変わらずやかましい。
「うっせ。二度と面倒事持ってくんじゃねぇ」
と言って追い払ったのだが……。
「フライゴンの翼が……!」
「タルップルの皮が……!」
「チルットの体重が……!}
……それから、俺は何度も面倒事に巻き込まれてしまうのであった。
その度トラブルを起こすの、ホントやめてほしい。
● 〇 ●
「最近、バクガメスの動きが変なの」
またある日の放課後のグラウンンドにて、俺は何故かアニス――黒髪褐色ダサマントちび――から相談を受けていた。例によって、この褐色肌のちんちくりんもドラゴン使いらしい。
前にも似たような事あったなと思いつつ強引に連れてこられた俺は、ごねても仕方がないのでさっさと済ませようと話を聞く事にした。
「バクガメスか」
「うん、日常動作に影響はないんだけど……」
で、相談の内容が、前述のソレであった。
「とりあえず出してみろよ」
「ん、出てきてバクガメス」
そうやって出てきたのは、かなり立派な甲羅を背負ったバクガメスであった。
バトルと勘違いしたのか俺に甲羅を向けてきているバクガメスだったが、今はバトルの時間ではない。
「普通そうに見えるが」
「ん。脚が遅い」
「いやバクガメスは鈍足だろ」
「ち、ちがくて……。動きが鈍いというか、ぎこちないんだよ」
「んー?」
困惑しているバクガメスに敵じゃないよという思念を飛ばしつつ近づいてみると、俺に向き直ったバクガメスの動きは確かにぎこちなかった。
見るに、肥満で遅くなってる訳ではなさそうだ。筋肉のつきかたもしっかりしてるし、通常種よりガッシリした甲羅も実に立派だ。
「いや、にしても立派な甲羅だな」
「でしょ? 毎日ブラシでゴシゴシして磨いてるんだよ」
俺の呟きに、アニスはドヤッと胸を張った。ついでに褒められたバクガメスもドヤッと甲羅を見せつけてきた。
しかし、甲羅を見せつけてきた際のバクガメスの動きは先ほどと同じくやっぱり鈍かった。体重のせいって訳じゃなさそうだ。
何か、うんこでも我慢してる時みたいな動きな気がした。
俺はバクガメスに、「うんこ出た?」と訊いてみた。
するとバクガメスは、「うんこ出た!」と元気に返してくれた。
「うんこじゃないのか」
「何言ってるの?」
うんこじゃないならコイツは何を我慢しているのか。オシッコかな?
その後も色々とお話してみたのだが、例によってバクガメス自身にもよく分からないらしい。
ガメス曰く、とにかく身体が動き難くて仕方ないのだとか。
「どうしちゃったんだろ、バクガメス……」
そう言って、心配そうに甲羅をぺしぺしするアニス。
図鑑によると、接種する硫黄の影響でバクガメスの甲羅は強い衝撃を受けると爆発する性質らしいのだが……。
「ん?」
ふと、引っかかる事があった。
爆発、我慢、動き難い……?
どっかで読んだ事があるのだが、ビリリダマだったかマルマインだったかは身体を爆発させるのが生きがいであるとかいう説を聞いた事がある。あるいは趣味か、遊びで爆発する奴もいるとか。アレ、それは古代のビリリダマだったっけ? いやそれはいい。
爆発するのが生態とは、なんじゃそれと思ったが、ポケモンは不思議な不思議な生き物だ。そういうのもあるだろう。
ならば、バクガメスにとって爆発とは何なのだろうか? ただの狩りの為の能力なのか? そこにマルマインやビリリダマ的な感性はないのだろうか?
バチッと、俺の頭上でマルマインが放電した気がした。
「なあ、最近バトルでバクガメス使ったか?」
「ううん、近頃はキバゴの育成が中心だから。それが何?」
もしかして、このバクガメスは最近甲羅を爆発させてないんじゃないか?
それがストレスになって、あるいは貯まった硫黄とかエネルギーとかのせいで不調になってるんじゃないか?
そういう話をしてみると、
「ん、聞いた事はある。けど、バクガメスは自分の尻尾で甲羅を叩いて爆発させる事ができる。この子にはその兆候がなかった。したいんなら自力でやれるはず」
「もし、それが自分でできないんだとしたら?」
「ん、確かに……」
例えば、尻尾を叩きつける力が足りなくて爆発に至らないだとか。あるいは自傷が生理的に無理であるとか。そもそも野生経験がないらしいこのバクガメスにそんな習慣がないだとか。
「まぁ試してみよう」
という訳で、グラウンドのバトルコートの使用申請を出して、いざ尋常にバトル。おあつらえ向きに、グラウンドには誰もいないので思いっきりできる状況だ。
久々のバトルで気合十分のバクガメスに対し、俺はジャラコを繰り出した。
「バクガメス、ごめんだけど何もせず攻撃受けて」
心配そうなアニス。バクガメスは了承しているみたいで、自信満々に甲羅を誇示していた。
今回のバトルはバクガメスの甲羅を爆破させる為の超変則バトルだ。
ちゃんと、ジャラコには攻撃したら急いで退避するよう言い含めている。あとはバクガメスがすぐ絶頂しないようお祈りするだけだ。
「よし、ジャラコは初手“りゅうのまい”や!」
で、これはまともなバトルじゃないので、何もせずにいる相手の前でひたすら積み技を積みまくる。
そして、むふーと100%本気状態になったジャラコに、
「行け! “かわらわり”!」
と指示した。
ジャラコは指示通り凄まじい勢いで彼我の距離を詰めると、勢いそのままバクガメスの甲羅に全力の一撃をぶちかました。
そんでスタコラサッサと逃亡。背を向け伏せて耳を塞いで口を開けた。俺とアニスもそうしていた。
だが、爆発はなかった。
「あれ?」
「バクガメス?」
見ると、バクガメスはきょとんとしていた。
思念で訊いて見ると、「何なんだぁ? 今のはぁ……?」という返事。
つまり、あの程度では爆発反応しないほど、ジャラコの攻撃が弱かったという事だ。
「ジャラーッ!」
ドラゴン同士の性か、
「“アイアンテール”!」
「ジャラララーッ!」
俺も負けじと指示を出す。
が、バクガメス選手全くブレない動じない。
「“けだぐり”! “ずつき”! “ドラゴンクロー”!」
うんとこしょ、どっこいしょ。
それでも亀は爆ぜません。
「仕方ねぇ、こうなったら……」
万策尽きたと思ったその時、俺の脳裏に道場での思い出が過った。
来る日も来る日も突きの練習。拳の鍛錬。汗まみれの稽古……。
俺の拳が火を噴く時が来たのかもしれない、と。
「まさか、俺はこの日の為に空手を……?」
「え? 何て?」
空手の練習は今でも続けている。来る日も来る日も繰り返し続けて来た正拳突きが今輝くか。
いや俺だけでは無理だ。ジャラコと共になら、人とポケモンの合体技……これならやれるかもしれない。
「よし、合わせろジャラコ! うぉぉぉぉ!」
「ジャララーッ!」
俺は全身の筋肉を漲らせ、ジャラコと共に渾身の一撃を放った。人間流“きあいパンチ”だ。
すると……。
「は、離れて! 爆発するよ!」
ピキリ、とバクガメスの甲羅に確かな衝撃が伝わった感触がした。爆発反応の予兆だ。
やった! という感動もそこそこに、俺はジャラコを抱えてダッシュで爆破範囲を抜けた。
「ガメェェェッー!」
KABOOOOOON!
そして、バクガメスの甲羅は盛大に爆ぜた。
その爆破の威力は凄まじく、甲羅を向けた方の地面を放射状に抉り飛ばす程であった。いやこれもう“わざ”だろ。
久々に爆発したバクガメスは、恍惚とした表情をしていた。あと、自分にもかなりのダメージが入ってるっぽかった。エネルギーを逃がし切れなかったようだ。
「やべぇな」
「ん、ヤバいね」
結果、バトルコートは半壊。射線上にあった地面は無残にえぐれ、余波で頑丈な壁の一部が陥没。なんか少年漫画で見た事あるような被害の出方だ。
これ、事故だよな? 俺の責任じゃないよな?
「まるでカイリューの“はかいこうせん”みたいだぁ」
「言ってる場合かぁ!」
俺は呆けたアニスを担ぎ上げて、何事かと走って来たハッサク先生にダブルスライディング土下座を敢行した。
まあ、普通に許された。
故意にコートや壁を壊した訳じゃないし、コートの使用申請はしてたし、バトルの延長の事故として見てくれるらしい。
「まあ、後ろめたいなら補修工事の手伝いなどすればいいと思いますよ」
「「はい……」」
結局、俺とアニスはヘルメットをかぶって補修作業の手伝いをする事になった。
気の良いおじさんリーダーからはバイト代を渡されそうになったが、流石にもらえなかった。
工事が完了した後は、作業員の方々と一緒に居酒屋で飯を食べた。居酒屋は初だったので、その雰囲気が新鮮で楽しかった。
「ありがとうリュウキ。リュウキのお陰で助かった」
どこぞのお嬢様と違い、アニスは素直にお礼が言えるみたいだった。
素直なのは大変よろしいが、公衆の面前で抱き着いてくるのはやめてほしいものである。妹じゃあるまいし。
俺は巻き付いてくるチビを引きはがして、突き放すように云った。
「うっせ。二度と面倒事持ってくるんじゃねぇ」
そうして、バクガメスの謎の不調は治ったのであった。
ちなみに、例の一件以降、アニスのバクガメスは我慢に我慢を重ねた後の爆発にハマってしまったようだ。
今では時々、攻撃力自慢のポケモンを招いてバクガメス甲羅爆破RTA祭が開催されているらしい。
「リュウキ、見て見て……」
「リュウキ、これ食べて……」
「リュウキ、キバゴがね……」
あと、例の一件の後、どういう訳かアニスが懐いてくる様になった。
面倒事を持ってくる訳ではないので別に良いのだが、無視するとあからさまにしょげるのは普通に面倒なのでやめてほしい。
俺はお前の兄じゃねぇ。
● 〇 ●
そんな感じで時間が過ぎて、そろそろ噂の課外授業が始まろうという季節。
その頃になると、俺と金髪お嬢様と褐色チビはドラゴン三人組として認知されるようになっていた。
なんでだよ。
「リュウキ様、タルップルの皮を使ったパイを焼いてきましたわよ! お召し上がりになって?」
「リュウキ、コーヒー好きって言ってたから淹れてみた。飲んで」
で、なんか知らんが、いつの間にかこいつらがくっついてくる様になっていた。
しかも二人とも無駄に距離が近い。姉でも妹でもあるまいに、完全に俺のパーソナルスペースに土足侵入していた。
「お前菓子作りとかできたのな。あとコーヒーはありがたく貰っとく」
「まあ? わたくしこれでも一通りの家事はできましてよ? できましてよ?」
「自信作。毎日淹れるのも吝かじゃない」
まあ、前みたいにガミガミ言ってこないから、俺も悪い気はしなかった。
一応、こいつらも女子だ。で、俺は男子だ。まるでモテ男子みたいで気分がいい。
だが無論の事、勘違いなどしない。シンラは同じドラゴン使いだから上手く利用しよう的なアレだろう。アニスは俺の兄的なアレに安心感を得ているのだろう。
モテてるんじゃない。モテてるっぽいのだ。悪い気はしないが、めちゃ嬉しいとかはなかった。
けど……。
「ちっ! 爆ぜろ……!」
「地獄でオレたちに詫び続けろ……!」
「の、脳が……脳が壊れるぅぅぅ……!」
二人のせいでクラスのみならず、アカデミーの男子たちから凄まじい“にらみつける”と“こわいかお”を向けられるようになったのは、普通に悲しかった……。
「ほらリュウキ様、わたくし手ずから切り分けてあげますわね~」
「サイフォン使って淹れたコーヒー。リュウキは早く飲むべき。感想聞かせて、改善していく」
ただでさえドラゴン2匹持ちで目立っているというのに、美少女2人侍らせてるとか注目どころの騒ぎじゃねぇ……。
こんな悪目立ちしてたら、おちおち恋人を作る事もできないんじゃないだろうか。
いや気になる女子はいないけれども……。
もう少し、普通のアカデミー生活をしたい。
切実に、そう思った。
感想投げてくれると喜びます。