【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告にはいつも助けられています。
今回はシンラとアニスの回です。
リュウキ編の続き書いてる時に、「あ、これ二人視点挟んだ方がいいな」って思って急いで書きました。
とはいえ一人一人しっかり書いてたらあまりにも長くなりそうなので、三人称にして抱き合わせにしました。
最終的なリュウキの手持ちは、
ドラパルト
ジャラランガ
ガブリアス
カイリュー
セグレイブ
シャリタツ
です。
――天才はいる、悔しいが。
二人のドラゴン使いにとって、それは幼少の頃からの共通の認識であった。
チャンピオン・ワタル。四天王のゲンジ。ガラルのキバナ。皆、遥か遠い憧れの存在だった。
けれども、その縁遠き憧憬を触れ得るほど近くで見た時、二人は異なる感情を抱く事となった。
驚くくらい、似たような経緯で。
シンラはフスベの名家出身のドラゴン使いである。
厳格で、掟に厳しい一族に生まれ、けれども温厚な両親によって育まれた。子供の頃から様々な芸術に魅了された、ごく一般的なお嬢様だ。
歴代当主と比べ、その才は格別高いものではなかったが、彼女自身歴史ある家に誇りを感じ、一族に相応しい淑女たらんと努力できる人間でもあった。
その甲斐あって、シンラは10歳の時に竜の穴の試練を達成し、一人前のドラゴン使いと認められたのだ。
アニスはソウリュウを代表する二大ドラゴン使い一族の娘として生まれた。
古の英雄を始祖に持つアニスの家にはしかし、分家含めて一流のドラゴン使いと言えるような存在はごく少数であった。そんな中生まれてきたのが、アニスであった。
アニスは歴史ある家に生まれこそしたが、感性は割と庶民寄りであった。ある日、ふと目に入ったテレビ番組で見たモトトカゲレースに魅了され、いつか自分もモトトカゲを相棒にしたいと夢見る少女であったのだ。
そんな二人が初めて顔を合わせたのは、お互いが一人前のドラゴン使いとして認められた歳の事であった。
同世代、同格の一族、同じくらいのバトルの強さ。各地方のドラゴン使いが集まるパーティ会場で、会って早々二人は親友になった。
「わたくしは、将来は各地方の芸術を見て回って体験したいのですわ! それで、いつかわたくしの作品でお家を埋め尽くしてみたいのです!」
「私はモトトカゲに乗って色んなところを旅したい。レースにも出てみたいし、カントーの峠も攻めてみたいな」
意気投合して素直に夢を語り合う二人だったが、薄々両者ともに叶わぬ夢だとも思っていた。
そう遠くないうち、自分たちは家の意向で婿を取る事になるだろう。芸術に触れられても専念はできまい。モトトカゲを手持ちにできても、レースには出られまい。名家の務めを、誇りに思わない訳でもない。
子供の夢と、諦めていたのだ。
● 〇 ●
現当主の意向もあり、アニスはパルデア地方のアカデミーに通う事となった。
それはアニスにモラトリアムを与え、願わくばその間に出来る限りの夢を叶えてほしいと願う祖父のせめてもの想い故であった。
そんなアニス祖父に感化され、シンラ父も娘をアカデミーに送る事を決意した。
パルデアと言えば彫刻や陶器で有名である。そこに行けば、夢の一部でも娘に叶えさせてやれるだろうという父の親心故であった。
そんな訳で共にアカデミーに入学した彼女らはすぐ、衝撃的な出会いを果たす。
リュウキという、巨大な才能の原石に。
「あー、うん。タマゴを両親にもらってな。で、一昨日生まれてきたばっかだな。どうだ、可愛いだろ?」
当初、シンラもアニスも“リュウキ”というちゃらんぽらんな陰キャ男の事が気に入らなかった。
自分たちが厳しい修行と日々の努力の結果やっと行えるようになったドラゴンポケモンとの交信を、リュウキという一般人が事もなげにやっていたからだ。曰く、物心つく頃にはできていた、と……。
そんなんチートや、もうチーターやろそんなん! という気持ちである。なんだかこれまでの自分の努力をコケにされたみたいで、ムカついてしまったのだ。
それに、リュウキの品性や振る舞いはこれまで聞き知ってきたドラゴン使いのそれではなく、どこまでも一般家庭のそれであったのだ。名家たるもの一族たるものと色々詰め込み教養を受けた身としては、天才ドラゴン使いがこれでは複雑であった。
加えて、その家庭も衝撃だった。父はパルデア四天王の代理をこなせるレベルの凄腕で、母は両者が最近見たホラー映画の原作者であったのだ。
そして、そんな二人から生まれたのが360度頭からつま先までドラゴン使いの才能だけで構成された全身才能人間のリュウキである。
二人視点、嫉妬すればいいやら、憧れればいいやらで何とも言えなかった。
けれども意外な事に、リュウキは二人にとって近くにいて居心地の良い男子であった。
それというのも、これまでシンラが会ってきた男子というのは誰も彼もシンラの家柄を見て近寄って来た似非貴族風のボンボンばかりであり、同じくアニスに寄って来たのは才能目当ての没落嫡男か最初にロの付く癖のおじさんばかりであったのだ。
そういった経験もあり、ぶっきらぼうながら真っすぐ自分という個人を見てくれるリュウキとは、いつしか損得勘定のない気の置けない友人になれたのだ。少なくとも、二人はそう思っていた。妬み嫉みなど、友愛の前には形を保てなかった。
また、負の感情が薄れた要因の一つに、リュウキという男子がとんでもない阿呆であったというのもある。
リュウキは、自分が天才的なドラゴン使いであるという自覚がない。
それは周囲の理解不足というよりは、本人の自己評価の低さが原因であると思われた。
何度「凄い」とか「才能あるよ」とか言っても、いやそんな事ねぇよ姉さんのが父さんのが妹のが云々云々……リュウキはまったく人の賞賛を受け取らなかった。
何だかんだ彼と一緒にいたからこそ、本気でそう思っているのが分かる発言だった。端から聞くと、何言ってんだコイツである。こんな阿呆に嫉妬など、バカバカしくて余計惨めになってしまうではないか。
「なんであいつがドラメシヤ連れてんだよ。いくら出したんだっての」
「ほら、家がさ、成金だろう? ドラゴン使いになるのに、金を撒いたのさ」
「うぅ……! アニスちゃんがぁ……脳が溶けるぅぅぅ……!」
そんなリュウキの態度を疎ましく思っている生徒がいる事を、名家出身である二人はしっかりと認知していた。
リュウキの才に嫉妬しているのはドラゴン使いの生徒が主の様であった。その中には顔見知りの男子もいた。ついでに単に美少女二人に挟まれてるリュウキに嫉妬している一般生徒もいたが、まぁそれはいい。
リュウキはそれらの悪意にも鈍感であった。目立っている事はわかっているようだが、自分が一部生徒から疎ましく思われてる事には気づいていない。せいぜい、美少女二人とつるんでる事への嫉妬程度しか、感知していなかった。
実に、何とかと天才は紙一重であった。
そんな事など知らずに、アカデミーでのリュウキは無邪気にドラゴンと戯れていた。
リュウキとドラゴンの関係は、一族の出である二人にとっては驚きであった。
リュウキはドラゴンポケモンを時に我が子の様に胸に抱き、時に親友の様に話を聞き、時には兄弟の様に共に遊んだ。
打算なく、思惑もなく、純粋な心で竜とじゃれあう少年を見て、二人の心に芽生えたものは、何だったろうか。
未だ若輩の身であるシンラにもアニスにも、よく分からない名前のない感情であった
しかしながら、お互いが同じ想いを抱いている事には勘づいていた。
時は過ぎて課外授業。
二人はそれぞれの夢を叶えるべくテーブルシティを後にした。
シンラは理想の陶器を見つけるべくベイクタウンへ。アニスは夢のモトトカゲカップ出走へ。
結果はともかく、二人は思う存分パルデア地方を楽しんだ。
リュウキもまた、課外授業ではかけがえのない宝を見つけたらしい。
何それ見せてとせがんだら、それはポンと飛び出てきた。
ジャランゴと、ドロンチと、フカマルと、ミニリュウと、セビエと、シャリタツ。
それらが、全くいがみ合う事なく仲良くしていた。
リュウキという天才を通して、竜が楽園を築いていたのだ。
「どうだ、可愛いだろ?」
――何だこいつ化け物か?
というのが、二人が真っ先に思った感想であった。
一般に、手持ちポケモン6匹で一流のトレーナーと言われる。
その中に1匹でもドラゴンポケモンがいれば自慢できるし、2匹ドラゴンがいればドラゴン使いを名乗っても文句は言われない。3匹ドラゴンがいるなら立派なドラゴン使いだ。
それが、4匹になれば一族代表レベルであり、5匹ともなれば一族の憧れの的であり、6匹ともなれば生きるレジェンドである。
普通のトレーナー視点、リュウキの異常性は分かり難い。けれども、ドラゴン使いの視点ではリュウキの異常性は脳みそ爆砕級であった。
契りでも戦いでも損得でもない、純粋な徳で以て、完成された竜の群れを形成していたのだ。才能より、ズルやコネなど汚い手口を利用したと考える方がまだ現実感がある。
「さて、まずはフカマル用のブラシ作んねぇとな……。んーっと、毛の素材はどうしよっかなー」
当の天才は、呑気にドラゴン用ブラシをDIYしていた。
地味に、それも凄い事なのだが、気づいていない。指摘しても、認知しない。
なかなか面倒な奴である。
● 〇 ●
二年目になって、二人がやっと自分の中の感情に名前を付けられるようになった頃。
リュウキの妹がアカデミーにやってきた。
「ふへへ、リュウ兄ぃモテモテなんだぁ?」
「バカ言え」
リュウキの妹――キリノは、兄貴同様に天才児であった。
話によると、キリノは授業のバトルで負け無しであり、適性タイプでないポケモンも使いこなすとか。おまけに在籍クラスも純粋に頭が良い生徒だけが入れる特進クラスであり、そこでの成績も首席であるという。
あまつさえ天才兄妹に曰く、彼らの姉はもっとヤバいのだと言うのだから堪らない。なんだあの両親は天才製造機かと思う程だ。
時折妹と交流しつつ、穏やかに時は流れ課外授業の時期がやってきた。
今年もまた、シンラとアニスはお互いの夢に勇往邁進していた。
そして、リュウキもまた、妹に感化されてポケモンリーグ制覇を目指すのだという。想い人がアグレッシブになってくれて嬉しい二人であった。
そんな中、課外授業中に二人はそれぞれリュウキと顔を合わせる機会があった。
アニスはモトトカゲレース出走前に、去年の敗北を胸にピリついていたところで彼と会った。
久しぶりーと軽く挨拶して、せっかくだからと観戦する流れに。運命の11R、アニスの乗ったモトトカゲがコースを走る。やがて最終直線、熾烈なデッドヒートの中、アニスは彼の声を聞いた。
普段大人しい気性の彼が、珍しく大きな声で、見た事ないくらい熱い瞳で、アニスとモトトカゲを応援してくれていた。
結果として、アニスは優勝した。相棒のモトトカゲも最高のパフォーマンスを発揮してくれた。リュウキにお礼を言うと、何だこいつという目をされた。
彼が分かっていないなど、今さらであった。だから、自分だけでいいのだ。
シンラは、ナッペ山ジム付近で展示予定の氷像を掘っている時にリュウキと会った。
ちょうど彫刻の出来に行き詰まっていた際、ナッペ山ジムに挑もうとしている彼と目が合ったのだ。それから休憩がてらお茶を飲みつつ、お話をした。
氷像のモデルはタルップルだった。造形には自信があった。けれど、どうにも美しくない。何でなのか分からないと。芸術の「げ」の字も知らないリュウキに、シンラは生みの苦しみを吐露してしまっていた。
するとリュウキは首をかしげて、「あれお前のタルップルじゃないだろ」と言ってきた。シンラはなるほどと膝を打った。合点がいったのだ。
結果として、シンラの氷像は新聞に載る程の高評価を受ける事となった。彼の芸術家ジムリーダーもお褒めの記事を掲載していた。
リュウキは、やはりシンラをよく見ている。
二人にとって、リュウキという男は特別だ。
悲観的で、自信がなくて、卑屈で、思い込みが激しくて、私服がダサくて、デリカシーがなくて、四六時中ドラゴンドラゴン言ってる子供っぽい男……。
誰よりも手持ちポケモンを愛し、誰よりもドラゴンに愛される。無邪気に竜と触れ合える少年……。
シンラにとって、リュウキは“温もり”だ。
アニスにとって、リュウキは“希望”だ。
――恋は戦い。
それは、ドラゴン使いも同じ事。
名家も一族も関係ない。
二人にとって、お互いの存在は“ライバル”なのだ。
二人は、諦めていた夢に手を伸ばした。
好きな人と結ばれるという、幼少の日の尊き夢を。
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