【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告感謝感謝感謝です。
以前にも書きましたが、本作はバーッと書いてるので色々と詰めが甘いです。
そんな詰めの甘い本作ですが、今後も読んでやってくれると嬉しいです。
感想とか特に嬉しいです。
あと、前話の優男マント君の年齢を少し下げました。他ちょこっと加筆しました。
ちょっと適当やり過ぎましたね。
ドラゴン使いマント君とのバトルの後も、ひと悶着あった。
騒ぎを聞きつけた生活指導の先生がやってきて、アタシとマント君を生徒指導室に連行したのだ。
で、アタシは先生に事情を話すと、ややあって解放された。
指導室ではなんか知らんが「キリノさんにも悪いトコがあったよね」「トレーナーシップに反するよね」「反省しなさい」とか言われたが、このキリノが他人に促されて反省などする訳がない。
第一、人生に必要なのは“改善”であって“反省”ではない。反省ばかりしていては、過去を引きずって生きる事になってしまうではないか。そんなのは心のエネルギーを無駄に消耗するだけで、そのうち反省する事自体を恐れて行動できなくなってしまう。
無能な外科医は一人の患者の命を奪うが、無能な教師は多くの生徒の未来を奪うと言う。まさにそれだ。こんなのに奪われる程、アタシの人生安くない。
だが、一切反省しませんという態度では、無用な摩擦を生んでしまうというのも理解していた。なので、アタシは先生の前では「反省しました! 以後気を付けます!」という態度を取り、ついでにマント君にも「煽ってごめんね! お家の事悪く言ってごめんね! あんな変な噂信じちゃってごーめんね!」と頭を下げておいた。無論、内心では舌を出して嗤っていた。
大人というのは、自分が仕事を果たした気分になる事で自己肯定感を高めちゃう厄介な性質なのだ。アホらしいが、合わせてやる事にした。
実に、哀れな生き物である。
その後、クラスの雰囲気はそこまで変化しなかった。
予想通りだったのは、AとBの間の溝が深まった事。あれ以降、彼以外のドラゴン使い達から仇でも見るような目で見られるようになった。無論、キャン言わせてやったマント君――名前は知らない――からも同様の“こわいかお”を向けられている。
予想外だったのは、Aの中からアタシと距離を取る子がいなかった事である。てっきり、頭の良い彼らはアタシみたいな邪悪な奴との関わりなんてさっさと絶つものと思っていたのだ。アタシならそうする。けれど、アタシの友達は皆、アタシの友達のままであった。損得勘定か友情なのかはどうでもいいが、彼ら彼女らは今後もアタシと仲良くするつもりらしい。
特進クラスだけあって、教室では皆大人しいものだが、いざペアなりグループなりを作る段になると、生徒達は各々AかBに分かれて動いていた。Cの子は相変わらず一人だ。
まあ、問題らしい問題は起こっていない。
さて、先のバトルで明らかになったアタシの性癖について、自室でボチを撫でながら考えてみる事にした。
経過観察の結果、アタシの特殊な欲望はあくまでも“身内に害ある者への過剰な報復”および“強い感情を放射してる生き物の観察”によって発散されるものだと思われた。
実際、これまでの生活でアタシはそれらしいフラストレーションを溜め混んでいた記憶はない。
幸い、これらの性癖――それぞれ報復フェチ・感情フェチとでも言おうか――は、あくまでも特定条件下でのみ湧いてくる衝動の様なもので、タバコや食欲の類の様に普段から報復してぇ煽りてぇと悶々とするものではなかったのだ。
つまり、両フェチズムは放置してると爆発するビリリダマではなかったという事だ。
なので、ムラッとしたら発散するくらいの気持ちでいる事にした。
普段から報復を求めて行動していたら、それが発散されるまでの期間が枯渇状態という事になってしまうではないか。枯れるのは苦しいので、こういうのを生きがいにするんはNGだ。主義に反する。
何事も、いい加減なくらいが丁度いいのである。
そんな感じでアカデミーを満喫しつつ、時たまシンラアニスコンビとお茶などしばいて駄弁ったりしていた。
二人とも、都度アタシにお菓子やら何やらを貢いでくるあたり思惑内心あわよくばがスケスケだぜ。トレーナーを射んと欲すればまずポケモンバトルという事だろう。そういうの、妹的にポイント高い。
二人はリュウ兄大好きな処女共なのだが、一応旧家出身のドラゴン使いでもある。故、リュウ兄の才能にはとっくに気づいてるらしい。当然、それを指摘してもリュウ兄は自覚をしないようだが……それはいい。
で、名家のお嬢様である二人から見て、リュウ兄は結構危うい立場にいるとの事だ。才能への嫉妬。成金家庭へのやっかみ。ついでに美少女二人侍らせてる嫉み。アカデミーの男子生徒の多くから、リュウ兄は色んな負の感情を抱かれてるとの事だ。
実際、嘘か真かアタシも訳の分からん理由で喧嘩売られたしね。
「リュウキ様は繊細なお方です。もし、そういった悪意を感知した時、傷ついてしまうかもしれません」
「ん、だから普段から私たちがリュウキの近くにいるようにしてる。どっちかが近くにいれば、少なくとも直接文句を言ってくるドラゴン使いはいないから」
「それ貴女たちがリュウ兄と居たいだけだよね。建前モロバレルだよ」
「ぐうですわ……」
「た、建前は半分だけだから……」
まぁ本音でも建前でもいいが、聞いていた通りリュウ兄はアカデミーうらやま大賞を受賞してるようだ。んでもって本人にその自覚はないと。
やっぱあの兄はバカだ。いや、バカだから助かってるのか。うん、リュウ兄はバカな方がいい。
その時、キリノに“ダイサンダー”走る。
名案、名案である。
アタシは、リザードン級の名案を思い付いた。
「アタシにいい考えがある」
先述の通り、アタシの辞書に反省の文字はない。
反省などしていては、次の行動ができなくなってしまうからだ。
必要なのは改善。改善策を考えて、行動だ。人生を幸せにする為、できるだけ楽しい行動が望ましい。
「いい考え、ですか?」
上手くいけばアタシのフェチが満足でき。
上手くいけば兄とお嬢様の恋路が進展し。
上手くいけば兄への嫉妬が緩和される。
「嫌な予感がする……」
そんな、オールハッピーな名案こそ。
「アタシが天に立つ」
最善の解決策は常に最も単純な解決策である。
ぱわーいずぱわー。力こそ全て。何事もポケモンバトルで解決するのが一番だ。
「天に……?」
「……立つ?」
つまり、鬼つえーアタシが邪魔する奴ら全員ぶちのめしていって、頂点に立てばいいのだ。
兄に手を出すと、鬼つえー妹が来るぞという構図。あんな兄よりアタシのが憎い。あのクソガキぜってぇ負かす! こういう状態。
これを作るのだ。
「とりま、草の根運動から始めよっかな」
フェチはムラッとした時に発散すると言ったな。
あれは嘘になりそうだ。
● 〇 ●
目標達成マインドは嫌いだ。こんなのじゃ幸せにはなれないと思う。
けれど、目標達成をお祭りとして捉えてみたらどうだろうか。お祭りは本番も楽しいが、準備してる間が一番楽しいものではないか。
だから、地味でコソコソしていた草の根運動というのも、存外楽しかった。
課外授業である。
アカデミーには年に一度、パルデア全土を使った授業を行う時期がある。
課題は適当で、リーグ制覇を目指してもいいし、秘伝のスパイスを探す旅をしてもいい。割と何でもいい授業なのだ。
で、そんな課外授業だが、授業に使う場所はパルデア全土。位置情報の共有こそあれ、直接教員の目が届く訳がない。
つまり、だ。
「あれぇ? お兄さん、手に持ってるそれで何しようとしてるんですかぁ?」
バトり放題煽り放題、逆らう奴らぶちのめし放題なのである。
事は単純だ。草の根運動――兄に向けているヘイトをアタシに誘導する――で集めたヘイトを利用して、ジム巡り中にアタシに喧嘩を売ってくるトレーナーの方々を狩り返すのだ。
流石に、アカデミー内部で乗ってくるほど生徒達も馬鹿じゃない。けど、教師のないところなら。自分に責任が及びそうもない場所でなら。軽く小突くくらいいいだろうと箍が緩んでしまうものだ。
例えば人気のない洞窟の中で。例えば夜道で。例えば寒さ厳しいナッペ山の吹雪の中で……。
誘って、狩る♡
「あれあれ~? 威勢よく挑んできた割にぃ、お兄さんちょっと弱すぎじゃありませぇん? 脳みそスカスカ♡ 1年生からやり直した方がいいんじゃないですかぁ?」
無論、狩りの獲物は選別した。アタシはその辺のトレーナーを煽りたい訳ではないのだ。あくまでも身内に害意を持っている奴を分からせたいのであって、不特定多数の人間の赤ら顔を拝みたくなどない。
獲物の分からせリストの作成には、Aの情報通の子とデータフェチのオタクくんに手伝ってもらった。繋ぎはAのギャルちゃんに教わったテクを使い、裏工作はフスベソウリュウコンビにやってもらった。
いやはや、持つべきものは友達だね。
「あ、そうそう♡ 今の、全部動画撮ってるんでぇ♡ アタシがご機嫌損ねちゃったらあっちこっちにバラまいちゃうかもしれませんねぇ♡」
当然、事前準備は怠らなかった。
各種テクノロジーによる自己防衛。周辺への警戒。事前の手回し。全部、お祭りの準備と思えば苦じゃなかった。
憎しみエネルギーを舐めてる訳じゃない。本当の愚か者は、後先考えず汚い手を使ってくるだろう。
そういうのこそ、狙っていた。ガチヤバくんにはアカデミーからご退場願う。世界平和への第一歩だ。ラブ&ピース! 愛だよ愛!
「ふへへへっ! ざぁ~こ♡ ざぁ~こ♡ 口パクパクさせてコイキングみたい♡ ポケモンセンターにでも行けば? あ、ごめんごめん! 頭の病気は治してもらえないもんね~♡」
と、こうして、アタシは作成した分からせリストにひとつひとつチェックを入れていき、ジム巡りの道中を有意義に過ごした。
中にはポケモンバトルでなく、文字通りの闇討ちをかましてくる輩もいたのだが……。
「そうそう、これ後出しって訳でもないんだけど……」
アタシの服を掴もうとしてきた男の腕を、念動力で抑え込む。
アタシは非力だが、アタシ自身は弱くはない。そも、悪意や害意の感知なんて容易だ。危険予知こそ、アタシが最も得意とする超能力なのである。
「アタシぃ、A級の超能力者なんだよねぇ♡ 正・当・防・衛♡」
そういうガチ犯罪者は普通にジュンサーさんに引き渡した。勿論、証拠付きで。煽ったアタシに問題があるとか言うかもしれないが、アタシは何も犯罪を犯していない。
トレーナーシップやら対戦相手への敬意やらは、まともな相手にのみ使う処世術だ。輩にゃ不用である。
そも、マナーやモラルなんてのは所詮他者が勝手に作ったもので、アタシが従うと思わない事だ。それでいうなら、アタシを不愉快にする奴はマナー違反である。
「君みたいなザコが、アタシに勝てる訳ないんだよねぇ♡」
兄に害意を持ってる輩をアタシが煽って……。
キレたそいつをアタシが刈り取る。
兄から敵が減る。兄への敵意がアタシに向く。そんでアタシが狩れる相手が増える。
なんという好景気だろうか、兄も妹も嫁候補も喜ぶ。ウィンウィンウィンでもはやブロロロームである。
「はぁ~! 人生最高!」
で、そんなこんなありつつ順調にパルデア地方を巡っていると、四天王に挑む頃にはアタシのパーティは完成していた。
最初の手持ちであるボチは、経験を積んだ事でハカドッグになった。最近はこの子の背中に乗って移動してる事が多い。
同じくムウマも進化してムウマージになった。件のバトル以降、分からせバトルには妙に乗り気だ。
課外授業中、初めてゲットしたコレクレーも、この子が望むままコインを集めてたらサーフゴーに進化してくれた。今ではうちのエースだ。
夜道で驚かせようとしていたゴースも、今じゃゲンガーになっている。ママに見せると何故か2割増しで嬉しそうな顔をしていた。
カルボウから、結構がんばって素材集めて進化させたソウブレイズ。この子も頼りになるバトル好きポケモンだ。
あと、チャンプルジムの近くを歩いてる時に出会った“ハバタクカミ”なるポケモンとは、何度かバトルして仲間になってもらった。ハバタクカミという名は仮名らしいので、アタシはこの子をタクちゃんと呼んでいる。タクちゃんとムウマージは大の仲良しだ。
そんな大切な6匹フルメンバーで挑むぜリーグ本部。
本番前、中継地点のテーブルシティではAの子たちが集まって応援してくれた。
ついでにBの中から例のマント君が現れて、再戦を申し込んできた。
「君に負けてから、僕はずっとスタートレーニングセンターで鍛えてきた。次代当主に最も相応しい男こそ、この僕だ。君を倒して、証明する!」
で、バトルコートでご対面。ルールはこれまた相手に有利な2匹ずつのダブルバトル。
アタシは前と同じ、けど進化済みのハカドッグとムウマージを出した。
相手は前回と同じクリムガンと、なんとびっくりサザンドラを出してきた。
アカデミーの生徒が見守る中、バトルがはじまった。
「クリムガン! サザンドラ! 戦闘不能! キリノちゃんの勝利!」
普通に勝った。
マント君は項垂れていた。アタシはジム巡り中の癖でそのまま煽ろうと思ったが、今のマント君は煽っても怒ってくれなさそうだったので止めておいた。
「僕には、罵声を浴びせる価値すらないというのか……!?」
「いや、君はこのまま立ち上がるじゃん。そんなの相手にしてもなぁってだけ」
何故かマント君から「煽ってくれ」とか言われた気がしたが、楽しくないのでやらない。あとちょっとキモい。マゾな人の対処なんて知らない。
そんな事よりリーグである。念のためポケセン言って、本部へGOだ。
四天王戦は、各ジムよりは苦戦した。。
誰も倒れる事はなかったが、上手に回していかないと誰か倒れてたと思うくらいには。
で、四天王後にチャンプとのバトル。最後に立ちはだかったオモダカさんは、相変わらず凄い毛量をしていた。
バトルは割と一方的であった。アタシの優勢で。
オモダカさんは確かに強かったが、指示や技が最適解過ぎて面白みに欠けていた。それに、本気を出すという割には理論値ではない気がしてならなかった。本気ではあったが、底力は出してこなかった。まあ、仕事上そんなガチにはなれないのだろうが。
結局、チャンプ戦はアタシが勝った。盾役は倒されてしまったが、それ以外は温存して勝てた。
ジムを制覇し、四天王を突破し、チャンプを倒した。楽しい課外授業もこれで終わりだ。
分からせリストも全員チェックが入っている。再戦を申し込んでくる奴もいなかった。
もうやるべき事はなくなったので、さっさとアカデミーに帰る事にした。
祭りの後は、やっぱり寂しい。
● 〇 ●
テーブルシティに帰ると、クラスのAグループの子たちから盛大なお祝いを受けた。
一緒におしゃれな旅グッズを買いに行ったギャルちゃん。分からせリスト制作協力のオタクくん。最近アカデミーの情報屋を名乗り始めた情報通ちゃん……。Aだけじゃなく、アタシはクラス以外の色んな人から凄いだのすげぇだのすっごーいだのと言われまくった。
でも、そこまで嬉しい気持ちにはならなかった。
Aの子――友達から「凄いね!」と言われるのと、名前も声も知らない奴らに「凄いね!」と言われるのでは全然違う。後者の場合、むしろ鼓膜に害があるようにしか感じない。
ワイワイガヤガヤと、耳と頭が痛くなってきた。ちょっと気分が悪くなってきたので、疲れてるからと言って寮に戻った。
寮に着くと、リュウ兄を見つけたので声をかけた。すると、どうやら兄は気分が沈んでいる様だった。
なんでだろと思っていると、どうやら兄は四天王戦で負けてしまったというのだ。
普通にビックリである。アタシの予想では、リュウ兄とその手持ち達ならチャンピオンになれると思っていたからだ。
「……それよりさ、リュウ兄と勝負させてよ」
気になったので勝負に誘うと、リュウ兄はアタシとのバトルを渋っている様だった。
渋る兄を引っ張って人気のないバトルコートに連れて行く。それから、向かい合っていざバトル。
「ふーん、リュウ兄強いんじゃん?」
「チャンプに褒められて光栄だよ」
そうして始まったバトルは、一進一退だった。というか、リュウ兄は普通に強かった。少なくとも、オモダカさんと同じくらいには。
なのに、兄はハッサク先生に負けてしまったそうな。兄の手持ちの精強さからして、力比べで負けるとは思えないのだが……。
「セグレイブ、“きょけんとつげき”!」
何より、兄の繰り出すドラゴンポケモンは皆、驚くくらい“やる気”があった。
指示に従順で、常に全力で、リュウ兄の事を心から信頼している。だから動きに迷いがなく、実力以上を発揮できている。倒したと思っても、一歩踏ん張って倒れない。強い絆と、根性による底力だ。
にも関わらず、兄は四天王に負けた。これはどういう事か。兄は本番だと緊張する性質だっただろうか。いや、そういう訳でもないだろう。事実、兄がサッカーをやってた時は、試合でしっかりと練習通りの動きができていたのだ。
「ハカドッグ、“おはかまいり”!」
そうこうしていると、バトルは最終盤になっていた。
お互いの残り手持ちは2体。え、あれ? アタシ押されてない?
並列思考で兄の敗因を分析していたとはいえ、一応チャンプであるアタシがかなり苦戦してるんだけど……。
「まかせた! カイリュー!」
「油断しないで、サーフゴー!」
手加減は、してない。
相手の本気が見たいから、こっちも本気を出している。甘くみていた訳ではないが、下に見ていたという事か。
実際、戦ってみてわかったが、兄はアタシより格下のトレーナーではあると思う。
コートで相対したリュウ兄には、アオキさんやポピーさんの様なプレッシャーを感じない。気のせいというのでなく、超能力由来の探知に引っかからないのだ。
兄は二流のトレーナーだ。兄の手持ちは超一流のポケモンだ。総合力で一流だ。トチらなければ、チャンピオンになれるとは思うのだ。
「サーフゴー、“ゴールドラッシュ”!」
結局、このバトルはアタシが勝った。
負けた兄はあんまり悔しそうではなかった。最初からこうなると分かっていたとばかりに。
で、兄に勝ってみて、分かった事がある。
兄は、ポケモンを育てるのが上手く、信頼を得る能力に長け、ドラゴンの強さを引き出す才に満ちている。
そして何よりポケモンのやる気を出させるのがめちゃくちゃ上手いのだ。しかもそれは、相手ポケモンも同様で。フィールド全体のポケモンに本気中の本気を発揮させてしまう。あまつさえ、対戦相手もまた同様に。
だから負けた。格上のハッサク先生とそのドラゴン達に、真の実力を出させてしまった。もしオモダカさんと戦ったなら、チャンプの底力を発揮させてしまって最終的にねじ伏せられてしまうのではないだろうか。
リュウ兄は、無自覚に相手トレーナーとポケモンにバフを与えてしまうのだ。
まさに、異能である。
そんなの、パパにもない。アタシにも真似できない。カヤ姉にだって、無理だろう。
しかも、これはアタシがサイキッカーだから気づけた事だ。証明もできないし、本人に自覚もない。
この異能は、ポケモンも相手トレーナーにも楽しいバトルを提供できる素敵な力だ。けれど、それを持つ本人にとっては、どうだろう。
リュウ兄に、プロトレーナーは向いてないと思った。
「んー、リュウ兄はもっと自信持っていいと思うけどなぁ?」
「皮肉か? それ」
おまけに、リュウ兄は既に諦めてしまっている。
カヤ姉に負け、アタシにも追い抜かれ、もうそういうモノだと認知している。
これじゃ、どれだけ小さな成功を繰り返しても自分の凄さを認識しないだろう。
比較なんて、馬鹿馬鹿しい事やめればいいのに。
パパもママも、アタシもカヤ姉も、シンラとアニスだって、兄に“凄さ”なんて求めてない。
リュウ兄がリュウ兄だから好きなのだ。自分という存在を、もっと大事にしてほしいものである。
「やっぱ、リュウ兄ってバカだね……」
アタシは、リュウ兄の幸せを願ってる。
けれど、当の兄には幸せになる勇気がない。
捨ててしまえば、切り取ってしまえば、もっと楽になれるのに。
不毛な比較など、さっさと止めてしまえばいいのだ。
翌日、いつもの様にシンラアニスの二人組とお茶をしていた時、こんな話題になった。
曰く、リュウ兄を二人の実家へ遊びに誘ったら、何をどう勘違いしたのかママのサイン本を渡されたのだ……と。
「リュウキ様があそこまで鈍ちんだとは思ってませんでしたわ……」
「ん、いくらなんでも鈍感過ぎる。私はストレート投げてるつもり。バントすらしてこない。見逃し三振」
まあ、うん。理由は分かる。
兄が鈍いのは自己肯定感が低いからだ。仮にそうだと気づいても、良い方向には捉えない。常に自分を下にした受け取り方をする。
にしたって、鈍すぎだと思うが。
「……やっぱ、リュウ兄はバカだね」
才能とか異能とかよりも、早くこっちに気づくべきだと思う。
じゃないと、絶対後悔する事になる。
とりあえず、二人にはめげずに兄に誘いをかけ続けるよう言っておいた。
旅行とか何とか言えば、乗ってくるだろう。
リュウ兄はバカなのだから。
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