【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 ポケモン世界の子供って、現実の子供より大人びてる印象ですね。
 例によって独自設定多めです。

 誤字報告も感謝です。
 本作、バーッと書いてるので色々と詰めが甘いとこがあります。ご容赦願います。



【回想・ムクノ】いずれ眷恋という名の闇

 みんなに出来ない事が出来る。

 多くの場合、それは凄い事としてみなされると思う。

 

 連続で逆上がりができる。

 TVゲームが誰より上手い。

 ポケモンバトルで負けた事がない。

 

 そういうの、みんな褒める。

 大人も、子供も、ご近所さんも。

 すごいね、とか。才能あるよ、とか言って。

 褒められると、子供は嬉しくなるものだ。 

 

 両親曰く、私は軽い体重で生まれ、ハイハイの動きが鈍くて、言葉を話すのも遅れていたらしい。

 そんな私にも、私に出来て他の子に出来ない事があった。

 ゴーストタイプのポケモンと、お話ができるのだ。

 

 お話といっても、実際に言葉を使って行うものじゃない。

 目を見て、心で念じて、受け取ったり受け取ってもらったり……。

 言葉のないお話が、人間とするよりも簡単に行えた。

 

 人より、ポケモンとの会話の方が得意な子供。

 それが私。

 ムクノという“人間”だ。

 

 ポケモンは基本、素直だ。

 大人同士がしているような難しいお話はできない。

 けれど、大人同士がしているような心の中の覗き合いみたいなのは存在しない。

 

 赤と念じれば赤と、青と念じれば青と返ってくる。

 それを何度か繰り返すと、お友達だ。

 ゴーストタイプ限定だが、私にはそんな特技があった。

 

 そういう、私にとって当たり前にできる事を、私以外にできない事を知ったのは、私がまだスクールに通う前、幼稚園にいた頃の事だった。

 

 当時、園の隅っこにあるトイレには一匹のゴーストポケモンが住み着いていた。

 掃除もされていない、誰にも使われていない男性職員用のトイレ。

 明かりの壊れた暗い場所に、その子はいた。

 

 ガスじょうポケモン・ゴース。

 

 ありふれているが、人目に触れないポケモン。風に吹き飛ばされてしまうほど軽く、身体のほとんどがガスという、希薄な存在。

 私の初めての友達。

 

 まだ5歳にもなっていない頃、ゴーストポケモンの気配を探っていた私はトイレに隠れていたゴースを発見したのだ。

 そして、たまに見かけるゴーストポケモンにいつもそうしていたように話しかけてみた。すると、ゴースの方も声のない言葉を返してきてくれた。

 

 初対面の時、ゴースは物珍し気に、私の周囲を飛び回ったり、ちゃんと認識できているのかガスを濃くしたり薄くしたりして、私であれこれ遊んでいた。

 そうやっていると、私とゴースはすぐに仲良しになった。

 

 ゴースといると、心が躍った。

 園の子供たちや職員さんと違い、しっかりとお話ができる相手だった。

 人と遊ぶのは怖かったが、ゴースと遊ぶのは楽しかった。

 

 当時、私は素直だった。

 

 帰宅後、上機嫌な私を見て、母が問うた。「幼稚園でいい事あったの?」と。

 私は答えた。トイレで出会ったゴースの事を、嬉々として。大人しい性質だった私が、その時は100点満点の笑顔で友達の事を喋った。

 

 すると、母は父と相談してから、両親揃ってゴーストタイプにはくれぐれも気を付ける様にと釘を刺された。

 何故かと問うと、ゴーストポケモンは人を驚かせたり、人にいじわるするからだと言われた。

 なにか、これまで感じた事のない感情――むっとしたのだ――のまま、ゴースはそんな事はしないと、私は言い返した。

 そしてそのままベッドに潜り、明日を待った。

 

 翌日、登園するなりトイレに行くと、やはりそこにはゴースがいた。

 昨日ぶりの再会だったが、私はゴースに抱きついてその存在を確かめた。

 

 ゴースは“どく”タイプのポケモンで、その身体は有毒ガスでできている。けれど、抱きついた私の身体には毒が一切回っていなかった。

 きっとゴースがしっかりとガスを制御して、私に害がないよう配慮してくれたのだ。

 

 当時、私はよく人見知りとか、口下手だとか言われる子供だった。

 確かに初対面の人と会うと緊張するし、言葉選びのスピードは遅い。しかしながら、頭の中で何も考えていない訳ではないのだ。

 何を言えばいいか、どう返せばいいかを考えているうち、相手が勝手に会話を打ち切るのである。

 他の子も、ゴーストポケモンのようにお話ができればいいのに、そう思っていた。

 

 当時、私は本当に素直な子供だった。

 

 それから私は、遊び時間にずっとトイレに籠るようになっていた。

 子供たちとは遊ばず、屋内でゆっくりするでもなくトイレに籠る私を、教員の人たちは心配していた。

 理由を聞かれた私は、トイレにゴースがいて、その子とお話していると言った。

 

 当時、私は想像力に欠けていた。

 だから、そんな事を言ってしまったのだ。

 青ざめた顔で、私の目を見る職員さんに向かって、楽しそうに、ゴースについて話していたのだ。

 

 数日後、幼稚園に筋肉ムキムキのおじさんが現れた。

 胸に輝くレンジャーバッジ。ポケモントラブルの専門家、ポケモンレンジャーだ。

 

 そのおじさんは職員さんと二言三言話をすると、颯爽とゴースのいるトイレに入り、しばらくするとあっさり出て来た。

 その手に、真っ黒なモンスターボールを持って。

 

 嫌な予感がした。私はおじさんに駆け寄って、中にいたゴースの事を訊くと、おじさんは白い歯を見せて言った。

 

「もう安心だ、このゴーストポケモンはおじさんがちゃんと野生にかえすからな!」

 

 その言葉がどういう意味なのか、その時の私には分からなかった。

 

 ゴースを野生にかえす、とは何か。

 そもそもあのゴースは前からあの場所に住んでいて、ただの無害な野生ポケモンではないか。

 それを急に現れたおじさんに住処を追われ、挙げ句知らない場所に放逐されるなど、理不尽ではないか。

 言語化できない感情が、私の頭をぐわんぐわんと揺さぶった。

 

 色々と、言いたい事があった。

 言葉を探して、口を開けて……でも私にそれは難し過ぎた。

 けれど、心と頭だけは激しい情動に急き立てられていた。

 

 そして、私の精神は限界を迎えた。

 目の前が、真っ暗になったのだ。

 心か頭か、あるいはその両方がパンクして、その場でパタンと倒れてしまったのだ。

 

 

 

 目が覚めると、私は病院のベッドで寝かされていた。

 ベッドの横には、心配そうな母がいた。しばらくすると血相変えた父がやってきて、二人とも私の無事を喜びつつ、なおも心配していた。

 

 そして、青い顔の両親が訊いてきた。

 

「ゴースに何かされていないか?」

 

 とか、

 

「“のろい”でも受けたんじゃないのか?」

 

 とか、

 

「攻撃されたんじゃないか?」

 

 とか……。

 

 お医者さんが言うにはただのストレス性の失神らしいのだが、両親は何故か気絶の原因をゴースに求めたがった。

 正直、訳が分からなかった。

 

 翌日、幼稚園のトイレにゴースの姿はなかった。

 そして、その日以降私は腫れ物扱いされるようになった。

 

 園にゴーストポケモンを連れて来たヤバい奴。

 ポケモンレンジャーに成敗された悪い奴。

 手下のゴースを失った弱い奴。

 

 そういう、非論理的で非合理的な理由で、私は除け者になってしまった。

 まるで、ゴーストタイプのポケモンの様に。

 暗くて、怖くて、近づいちゃいけない存在になったのだ。

 

 

 

 幼少の身にして、私は唯一の友達を失った。

 ゴースと離れ離れになると、私はふさぎ込む事となった。

 そんな私を、両親を含む大勢が心底理解できないという目で見ていた。

 

 あの日以降、幼稚園での私は皆と距離の離れた子供になった。

 もともといてもいなくても変わらない存在だったものが、ゴースに呪われたかもしれない子として見られるようになった。

 スクールは勉強を学ぶところだが、幼稚園は遊びの中で勉強をするところだ。なら、遊び相手のいない私は誰から何を学んだのだろうか。

 ゴースだけが、私に人生の勉強を教えてくれていたのだ。

 

 友達のいない幼稚園から帰ると、私は部屋に籠って本を読んでいた。

 主に、ゴースト関連の雑誌や小説である。ゴースト関係の児童書は軒並みゴーストポケモンが悪者になっている本ばかりだったので、それは嫌だった。大人用の小説は難しい言葉が沢山書かれていたが、ゴーストの事が書いてあるから苦ではなかった。

 テレビでホラー映画がやっていると、食い入るようにそれを見ていた。その頃から、私はオカルトマニアになった。

 

 そのうち、幼稚園にも本を持ち込むようになった私は、園内でも読書をして過ごすようになった。

 ゴースがいなくなって以来、私の様子がおかしくなっている事に気づいていた職員さんは、そんな私に気を遣って、親切で以て一人にさせてくれていたと思う。

 友達のいない幼稚園に通い、家でも園でもゴーストポケモンの本を読み、それ以外に興味を抱かない。

 当時、私はそんな子供だった。

 

 

 

 時が過ぎ、私はスクールに通う年齢になった。

 当然の様にスクールに通うようになった私だったが、私は以前に増して人を遠ざけるようになっていた。

 これには両親も頭を抱えていた。時間は私に何ら解決策を提示する事はなかったのである。

 

 やがて私は、当然の様に障害にぶち当たった。

 スクールは将来に繋がる為の勉強や、ポケモンに関する学問を学ぶ場であると同時に、健全な肉体を錬成する目的の場でもある。

 算数や国語、色んな科目がある中、体育というものがあるのだ。

 

 私は齢五つを前に引きこもりになった子供だった。

 当然、運動能力は平均を大きく下回っていた。

 体育の時間、何をやらせてもいつも私が最下位だった。

 

 競走ではいつもビリで、逆上がりもできない。泳ぎもまったくできず、球技の際はいつも半泣きになっていた。

 ドッジボールなど最悪で、迫ってくるボールに攻撃の意思が感じられ、当たると身体だけでなく心まで痛かった。

 体育の時間は、嫌いなスクールの中でも最も嫌いな時間だった。

 

 それでも、そんな私をサポートしてくれる子がいたから、嫌な体育も耐えられた。

 当時、クラスには一人の人気者がいた。男女両方のまとめ役の、元気な女の子だった。

 勉強ができて、運動もできて、親はエリートトレーナーという、容姿に優れた女子だった。おまけに彼女は性格まで良く、男女関係なしに人気者だった。

 そんな彼女は、クラスの隅にいるような私にも優しかった。体育で恥をかく私を慰めてくれ、授業で上手く声を出せずにいた私を助けてくれた。体育の時間、誰とも組を作れなかった私と二人組を作ってくれた。

 とても、良い子だった。

 

 そんな中、スクールで運動会が始まった。

 クラス一丸となって、学年が紅組白組に分かれて勝敗を競うのだ。当然として勝ちたいものなのだろう。件の人気者の彼女も、クラスをまとめて運動会に挑んだ。

 

 その運動会で、私は組の足を引っ張ってしまった。

 リレーや綱引きで役に立たないまではまだ笑って許してくれた。けれど、私のミスで組の点数が下がって行くうち、クラスメイトの視線はどんどん険しいものに変化していった。

 そして、私のいた組は敗北し、私はその責任を問われた。実際、もう少し私がマシだったら勝てたのだ。

 

 やれムクノちゃんのせいで負けたとか。やれ鈍くさいとか。元々、根暗で人見知りな私は上手く返す事ができなかった。

 私より勉強のできる子供は数名いたが、私より運動のできない子供は誰一人いなかった。

 子供社会。そこで、格付けは済んだのだ。

 

 人気者の彼女のお陰でなんとかその場をやり過ごす事はできたが、運動会以降クラスメイトから私への当たりが強くなった。

 例の彼女がいる間はそうでもないが。その子がいなくなると私はあからさまに見下される立場に追いやられた。

 

 正直、かなり苦しかった。

 けれど、両親に伝えたくはなかった。

 何故なら、もし伝えたらまたゴースの時みたいな事が起こるんじゃないかと、理屈のない子供の思考がそうさせたのである。

 あの優しい人気者の女の子を、また失うのではないかと怯えていた。

 

 クラスで厳しい立場にある私を、彼女は慰めてくれた。

 時に私を庇うような行いをして、かつクラスの調和を乱さずに上手く立ち回ってくれた。

 本当に、凄い子だった。

 

 そして、事件は起こった。

 

 放課後の教室。私の机の上に、私の好きなゴーストポケモンの雑誌が置かれていた。

 ビリビリに破かれ、落書きをされ、ゴミみたいになったソレが、私の机に置かれていたのだ。

 ソレを見ている私を、クラスの子たちは遠目に観察していた。

 

 普段、雑誌を持ち込む事などしない。持っていく教科書類の中に、誤って混ぜてしまったのだ。

 確かに悪い事をしたのだろう。持ち込み厳禁な雑誌を、持ってきてしまったのだ。けれど、だからといってソレを壊すものだろうか。

 私がオカルトマニアのムクノだから。ゴーストタイプという、好かれないジャンルの雑誌だったから。こんな目に遭ったのではないか。

 

 苦しかったし、悲しかったが、それだけだった。

 そんな、気に病む事じゃないと思った。

 

 その時、あの子の目を見るまでは。

 

 人気者で、優しくて、スクールで唯一の味方。彼女が私の顔を見る……オカルトマニアのムクノを見る瞳。

 それはまるで、あの時の――心底理解できないもの――怖くて、暗くて、近づいちゃいけない存在を見る時の目の様だった。

 人気者の女の子は、私の眼を見て怯えていた。

 

 

 

 人は、相手が反撃してこない限り、いつまでも攻撃し続ける生き物だ。

 人と人との戦いに、ターンエンドはないのである。

 

 

 

 私はゴーストポケモンが好きだ。

 

 人と違って、私を攻撃しない。

 人と違って、心が通じる。

 人と違って、私を好きでいてくれる。

 

 私は、人が嫌いだ。

 

 

 

 しばらくして、私はガラル地方へ引っ越す事になった。

 スクールにいた誰もいない地方へ。私を救う為、両親の助けを受けて、逃げたのだ。

 もう誰とも、関わり合いになりたくなかった。

 

 

 

「はじめまして、ボクはケヤキって言うんだ。君の名前は?」

 

 

 

 そして、私は“彼”と出会った。

 

 人生の至上命題。

 運命そのもの。

 やがて結ばれるべき、初恋の人。

 

 私という存在のすべて。




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