【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 誤字報告に幸あれ。英知の父の導きがあらんことを。

 進捗どうですか? 話が進んでるようで進んでないのどうかしてほしいですね。どういう事ですか?
 話数は膨らんでますが、感覚的に文字数はそれほどでもない気がします。実際は知りません。

 前話と合わせて1話にする予定でした。切ってよかったと思ってます。
 今更ですけど、キリノ編は実質リュウキ編(裏)みたいな感じです。


【キリノ編5】そんなに力んでたら、続かないんじゃない?

「……確かに、君の事、最初は気に入らなかったよ。

 勉強ができるという、僕の唯一の取り柄で負けていたからね。君が首席で、僕が次席。勝ってたのは倫理だけだ。

 同じ一族の先輩から、君の兄上の噂を聞いていたから、余計に恨めしかった。筋違いなんだけどね。

 だから、せめてバトルで勝とうとした。勝てば、削れた自尊心を取り戻せると思ったんだ。

 ……ああ、わかるよ。幼稚な行いだった。実際負けて、僕はもっと惨めになった。

 それから、君の事が心底憎くなった。僕を足蹴にして、僕の家まで侮辱したんだ。

 あの時の君の罵声が夢にまで出てきた。その度、僕の腹は煮えくり返っていた。

 仕返ししたいとは思わなかったが、見返してやりたいと思うようになっていた。

 けれど、それも無理だった。君は僕より頭が良くて、バトルも強くて……何より、心が強かった。

 ……気づいているだろう? 君は、一部の生徒から妬みの目を向けられている。ドラゴン使いの、僕の先輩方からだ。

 そんな視線を受ければ、誰だって怯える。年上の男だ。なお怖いだろう。

 だが、君は動じなかった。悪罵にも陰口にも、屈しなかった。いつも飄々として、僕と違って堂々と生きていた。

 それが、その……とても綺麗だと思った。

 その在り方、心の強さ、素直に尊敬に値すると思った。

 憎しみは、いつしか憧れに変わっていったんだ。

 ……そして僕は、気づけば君を目で追いかけるようになっていた。

 友達と談笑する姿。ポケモンを愛でる手。兄上を見つめる瞳。

 孤高に生きる姿を、かっこいいと思えたんだ。

 ……後の事は、知っているだろう。

 仕返しじゃない。僕を見て欲しかったんだ。

 課外授業の最中、また君に挑んで、負けた。

 それどころか、君はもっと先に進んで行った。

 パルデアの頂に。僕よりも年下の君が。

……僕は、君の心を好きになった。

 風の様に自由な君に、強く憧れたんだ。

 どうか、僕の手を取ってほしい。

 君より弱く、君より愚鈍なこの身だが、この世の誰より君を愛すると誓う。

 もう一度言う、婚姻を前提に、僕と交際してほしい」

 

 

 

 ……と、訊いてもいないのに、マント君はアタシに惚れた理由とやらを語り始めた。

 状況についていくのがやっとなアタシに言葉の“ぼうふう”ぶつけてくんのやめろ。

 

「うわキモ……」

 

 思考より先に出た、ごくごく小さな呟き。聞こえても良かったが、当のマント君の真っ赤な耳には入ってこなかったらしい。

 王子様系とでも言おうか、そういう如何にもティーン受けしそうなマント君は、キモがるアタシになおも真剣そうな目を向けていた。

 普通の女子なら、あるいはロモジちゃんなら、今の彼にトゥンクとくるのかもしれないが……。

 それ以前に、言いたい事があった。

 

「ていうか、名前も知らない相手と付き合う訳ないじゃん」

「……え?」

 

 友達でも、まして知り合いでもない相手と付き合うほど、アタシの貞操観念は緩くない。

 それにアタシはこの男に興味とかないので、交際はおろか友人付き合いもする気ゼロだ。おまけにコイツは一応ロモジちゃんが懸想してる相手だ。ロモジちゃんを応援すれど、コイツ個人の特殊性欲を発散させてはロモジちゃんが可哀想ではないか。

 

 第一、心を好きになったとほざくが、君はアタシの何を知ってるんだ。君の惚れたアタシの心とやらは、全部君の妄想の産物だぞと。

 それが普通にキモくて、つい口から漏れちゃった。

 

「答えはノーだよ。諦めて次の対象を見つけた方が建設的だね。引きずるのは時間の無駄、ハッキリ言って脈なしだから変な期待しないでね、フリじゃないよ」

「……そ、うか」

 

 こういうのはバッサリいかないと尾を引いてしまうものだ。映画でもそうだった。なので、単刀直入に否を突き付ける事にした。

 マント君はというと、寝起きのコダックみたいな顔をしていた。まさかOKするとでも思ってたのかな。

 

「あ、そうだ……」

 

 そういえば、と本題を思い出した。

 そも、アタシが此処までついてきたのはコイツの情報を集めようとしていたからであった。じゃないとアタシの貴重な時間をマント君なんかに使う訳ないもんね。

 ちょうどいいので、今インタビューしちゃおう。

 

「君の情報が欲しいから、とりあえず名前教えて」

「え? あ……はい、ロライマです……」

「そう、ロライマ。じゃあ、パーティ構成は?」

「クリムガンと、サザンドラです……」

「好きな食べ物は? 色は? 映画とか見る?」

「食べ物? えぇっと……」

 

 その後、アタシはロモジちゃんの恋愛成就の為に情報収集に勤しんだ。

 こういうパーソナリティに関わる事は、情報屋ちゃんの苦手分野だからね。

 コイツにロモジちゃんはもったいないが、仕方ない。友の目標達成に貢献するとしよう。

 

 

 

 と、そんな感じで集めた情報をロモジちゃんに伝えると……。

 

「ほぁあああああ! キリノちゃんありがとうな! 解像度上がるわ! 心の友よー!」

 

 めっちゃ喜んでくれた。

 ロモジちゃんが嬉しいとアタシも嬉しい。

 

 あれから、ロモジちゃんとはこうしてお話する機会が増えた。

 話題の一部がマント君絡みなのは頂けないが、こうして声を聞いて話すのはやっぱり楽しい。

 チャットもいいが、ボイチャのが幸福度高いね。

 

「にしても凄い情報量やな! なに? ロライマ君のスマホでもハッキングしたん?」

「ううん、全部本人に聞いたよ」

「ほえー、あのキリノちゃんがそんなコミュ力を……」

「それはロモジちゃんこそじゃない? コガネ弁が染みついてるよ」

「まあ、じいちゃん家がそうやから……。てか、キリノちゃんロライマ君と仲良いん?」

「別に仲は良くないかな。アタシは興味ないし」

「はっきり言う、キリノちゃんらしい」

「あっちはアタシの事好きって言ってたけど」

「へぇ……ん? えっ、それどういう!?」

「さっき告られた。その時聞き出した取れたての最新情報だよ」

「……え、あ……うん……? お、おぉ……んごぉぉぉ……?」

 

 言うと、ロモジちゃんから変な声が聞こえて来た。腹痛かな?

 

「ぁ……おぉ……うぅぅぅ……」

「どうしたの? あ、もちろん断ったよ」

「う、うん……? ありがとう? ……うん?」

 

 しばし、変な唸りと沈黙が続く。

 ロモジちゃんとアタシの間である。会話がなくとも、沈黙さえ楽しめるのが友達というものだ。

 

「んん~~~~~~ッ!」

 

 と思っていたら、スピーカーからお口チャックされたバクオングの悲鳴みたいな声が聞こえて来た。

 

「うんこ我慢してるの? トイレ行けば?」

「ちゃうわ! あー、うん。そうやったわー、キリノちゃんこういう子やったわー!」

「アタシはアタシ以外の何者でもないからね」

「まぁそうなんやけどね! けどさぁ、それ言う? ウチに? 普通黙っとくもんちゃうか? いや内緒にされるとそれはそれでダメージ大きいんやけどさぁ!」

「ロモジちゃんに隠し事はしないよ」

「んあぁ! この最高サイコロリめ!」

 

 はぁぁぁぁぁ……っと、スマホロトムからクソデカため息が聞こえてきた。

 感情に共感はできないが、ロモジちゃんが呆れているのは理解できた。

 もしかして、ロモジちゃんはアタシが気を遣ってマント君の告白を断ったとでも思っているのだろうか。

 だとしたら普通に心外なのだが。

 

「断った後、ちゃんと諦めるように言っておいたよ。それに、アタシとマント君が付き合う可能性は皆無だから安心して」

「うん……まあ、その辺は安心やけど……」

「やけど?」

「複雑やわぁ……」

 

 何がどう複雑なのか、アタシにはよく分からなかった。

 根掘り葉掘り聞きたかったが、親しき中にも礼儀ありだ。複雑なものは。聞かずにおいた。

 多分、知らなくていい事だ。

 

 

 

● 〇 ●

 

 

 

 時間の無駄、と伝えたはずだが……。

 例の告白事件の後も、アタシはマント君からの“にらみつける”を食らっていた。

 その中身を知っている身としては、普通にキモいので止めて欲しいが、それこそ相手の自由なのでどうしようもない。無視が最適解だ。

 

 まぁ、人の感情など所詮一過性のものである。そのうち飽きて別の誰かに劣情を抱くだろう。

 ……というか、ロモジちゃんならともかく、アタシの身体に欲情するのは普通にどうかと思う。

 

「……と、こういう事があったんですの」

「楽しかった、まる」

「……それ、失敗って事じゃないの?」

 

 で、長期休暇を終えたシンラアニスはというと、何の成果も上げられなかったらしい。

 アタシがせっかく良いモノをくれてやったというのに、このヘタレ処女共は兄の貞操一つ頂戴できなかったというのだ。

 実に情けない。

 

「お初にお目にかかります。わたくしヘリアンと申します」

「お、おう……?」

 

 などと思っていると、リュウ兄争奪戦に新たな女子がエントリーしてきた。

 誰よあの女! とシンラアニスに訊いてみると、どうやら二人もよくは知らないと。

 こういう時の情報屋ちゃんだ。早速ヘリアンなる女子の情報を集めてもらうと、こうだ。

 

 やめとけ、やめとけ。

 あいつは生粋のお嬢様なんだ。

「遊びに行こうぜ」って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……。

 ヘリアン、14歳。

 学業は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ情熱のない生徒……。

 なんか上流階級っぽい気品ただよう顔と物腰をしているため女子生徒の人気は高いが。

 男子からは高根の花扱いされててモテてはいないんだぜ。

 悪い奴じゃあないんだが、いまいち近寄りがたい女の子なのさ……。

 

 とまあ、こんな感じ。

 また、ヘリアンはハッサク先生の親戚であり、ドラゴン使いの一族出身ながらドラゴンポケモンとの相性が極めて低いという情報も……。

 

 ここまで聞くと、もしかしてと思う事があった。

 このヘリアンという女は、兄の才能を取り入れる為によこされたハニトラ要員なんじゃないの、と。

 詳しく裏どりをしていくと、どうやらその推理はマジっぽかった。無駄に冴えてる。映画か古典かと思ったが、あり得ないなんてあり得ないのか。

 

 怒ればいいのか憤ればいいのか。あるいは兄の才を誇ればいいのか。アタシの脳はぐちゃぐちゃになった。

 ぶっちゃけムカつくが、どうしようもない。というのも、これもまたロモジちゃんと同じく他人の色恋沙汰であり。他所のお家事情だ。アタシがアレコレ言う事ではないのである。気に入らないからとハメて潰すなんてできない。

 家族としてアレコレ言う事はできるだろうが、それもこれも兄の意思次第である。

 

 最近、アタシの周りがややこしい。もっとシンプルに楽しく生きれんもんかね。

 

 

 

 そんな事を考えつつ過ごしていると、ポケモンを洗うべく立ち寄った水浴び場でヘリアン女史とばったり遭遇した。

 ヘリアンは普段纏っているマントを着ておらず、濡れても大丈夫なおしゃれジャージ姿でポケモンを手入れしていた。

 洗っているのは、パルデアでは見かけない“トリミアン”というポケモンだった。ちょうど今はこれまたオシャレなドライヤーでもふもふの毛を乾かしているところだった。

 

「あら、キリノ様。ごきげんよう」

「うぃ」

 

 いい機会だと思って近づくと、ヘリアンはたおやかに挨拶してきた。

 が、ぶっちゃけ挨拶とかどうでもいい。アタシはヘリアンの本音が訊きたかった。

 返答如何では、アタシには法も倫理もかなぐり捨ててあくタイプになる用意があった。

 

「ヘリアンはさ、リュウ兄の事どう思ってるの?」

「リュウキ様ですか? ええ……もちろん、とても素敵な殿方だと思っていますわ」

「そういうのいいよ。アタシ超能力者だからさ、ヘリアンの口から本音聞かせて」

 

 なので、直球火の玉ストレートを投げてみた。発言の信憑性を上げる為、荷物を全部浮かせてみる。

 ぶしつけな発言でスタン入ったヘリアンはしかし、ふぅと一息ついて全身の緊張を解いた。お貴族的な観察力か何かで、アタシが嘘を言ってない事に気づいたのか。諦めるのに、躊躇がなかった。

 

 ドライヤーをしまい、お嬢様の仮面を脱いだ彼女はトリミアンの背にブラシを当てながら云った。

 

「……仕方ない事だと思ってるわ。失敗したところで、その時は他の男と結婚させられるだけだし、どっち道よ。あたしに選択肢なんてないの」

 

 発言の内容的に、まるでリュウ兄を安く見ているような風だったが、どうにもそう単純でもなさそうである。

 アタシもハカドッグに洗剤をつけながら続きを聞く事にした。

 

「で、実際会って話してみて……意外と気が合うのよね。なんていうのかしら。波長? 感性? よくは分からないけれど、何となく合うのよ。何かリュウキは一緒にいて落ち着くというか、別に気ぃ張らなくていいのかなって思っちゃうのよね」

 

 言いながら、ヘリアンはトリミアンの身体をブラッシングしていた。

 そのブラシには、見覚えがあった。兄が作った奴だ。

 

「でね……リュウキはね、あたしを哀れんだのよ。何様だと思ったわ。たかが庶民が、このあたしに向かって上から目線で……。けど、話してるうち、分かったわ。それはあの子が優しいからこそ染み出た感情なんだって。分かりやすいのよ、全部顔に出て……」

 

 しばらくして、使い終わったブラシを置くと、ヘリアンは唯一の手持ちポケモンの頭を撫でた。トリミアンは、凛々しい表情で彼女の手を受け入れていた。

 

「あの子の事なんて、好きじゃないわ。顔も好みじゃないし、劣等感刺激してくるし、鈍くて暗くて私服もダサい。それに、あの子にはもっとお似合いの娘がいるのよ……」

 

 けど、と続けたヘリアンは、アタシに背を向けたまま云った。

 

「……結婚するなら、リュウキがいいって思ったわ」

 

 ドラゴン使いの一族に生まれ、トリミアンを相棒とする娘は、そう言って後片付けをはじめた。

 お手入れ道具一式は、どれもアタシでも知ってるレベルの有名高級ブランド品ばかりだった。

 その中で、ブラシだけがリュウ兄の手作りだった。不格好で、飾り気がなくて、けれどポケモン一匹一匹の事を考えて作られた、世界中探しても見つからない最高のブラシだ。

 

「ねえ、ヘリアン」

「何かしら?」

 

 その背中に、アタシは問いを投げかける事にした。

 彼女の言ってる事は、ロモジちゃんともマント君とも違って、ある程度理解のできるものだったから。

 

「ヘリアンって、恋したことあるの?」

 

 パタンと、道具を詰め込んだ鞄が閉じられた。

 立ち上がり、振り返ったご令嬢は、しゃがんだままのアタシを見下ろして、静かに微笑んだ。

 

「ないわ。してみたいとは思うけど」

「そう……」

 

 そう言って、ヘリアンは去って行った。

 彼女の後ろには、よく手入れされた相棒ポケモンがついていた。

 

 ロモジちゃんも、マント君も。

 シンラもアニスも。

 全くもって理解に苦しむ。

 

「人間って、めんどくさいね。ハカドッグ」

「わんっ」

 

 けど、ヘリアンはちょっと理解できた。

 割と好きな人かもしれない。

 もう少し話して、友達になりたいと思えるくらいには。




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