【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 今回はカヤノ編の続きではなく、リュウキ編です。
 もうバレてると思いますが、そういう事です。
 アンケートの結果です。もう少し丁寧にやる予定でした。

 今は終わりよければ全てヨシの精神で書いてます。


【リュウキ編7】龍好きの下剋上

「どうすりゃいいんだ……」

 

 パルデア地方西2番。マリナードタウンは一等地。

 朝日差し込むベッドの上、俺はお目覚め一番に頭を抱えた。

 

 全裸で。

 

 どうすればいいか。無論、どうにかせねばならない事態という訳で。

 俺は、その元凶……というと語弊があるかもしれないが、間違いなくその一端を担っている少女達の方を見た。 

 

「くぅ……くぅ……んん……♡ リュウキ様……♡」

「んぅ……リュウキ……♡ 抱っこして……♡」 

 

 俺の両隣で眠る少女たち――シンラとアニス――は、寝言であるにも関わらず語尾にハートマークをつけて幸せそうに惰眠を貪っていた。

 彼女たちはどちらも横向きに眠っており、同じく二人とも俺の方に身体を向けていた。時折混じる寝言と共に、すぐ近くで年頃の女の鼻息が聞こえてくる。

 この、お嬢様にあるまじきだらしない顔で眠る二人こそ、今このやべー状況を作った二人であった。

 

 彼女達もまた、全裸であった。

 

 察しの良い方なら分かるかもしれないが、まぁ……そういう事である。

 そういう事が分からないのなら、俗っぽい言い方をすれば大体分かると思う。

 つまりアレだ。

 

 朝オドリドリだ。

 

 いや、パルデア的には朝カイデンか。まぁそれはいい。 

 

「……やっちまったなぁ」

 

 他人事のような呟き。

 だが、他人事ではないのである。 

 

 幸いか、そうでないか判断つかないが、最中の記憶は明瞭であった。

 ヤバいくらい気持ちよかったし、信じられないくらい幸せだった。あぁ、生きてるってこういう事なんだなぁと思うくらいには。

 

 ことに及ぶ前の記憶もハッキリしている。

 眠る前、俺の部屋に二人が来て、色々お話をしたのだ。で、いつしか恋愛トークになり、二人はその流れで俺に告白してきたのだ。

 俺はそれを、嘘だと断じた。無理するなよみたいな事を言ったと思う。すると二人は、おもむろに服を脱ぎ始めた。

 いやいやマズいでしょと思って止めようとしたら、先に脱ぎ終わったアニスに後ろから飛びつかれ、振り向き様にキスをされた。いきなりの事に硬直している間に、シンラも全裸になって二人がかりで押し倒してきたのだ。

 

 実際ヤバかった。その時、俺の理性は破裂寸前だった。だが耐えた。その上で、俺は二人を押しのけて、説得した。

 結構熱くなっていた。家に囚われるなとか、もっと自分を大切にしろとか言ってたと思う。正直自分でも何を言ったか覚えていない。

 すると、全裸の二人は示し合わせたようにベッドを抜けると、持ってきたお茶に謎の白い粉末を入れて、それを一気飲みしてみせた。

 そして、茶を飲み干した二人は、一言。

 

「こうなりゃ手加減は抜きですわ」

「卑怯とは言うまいな」

 

 それからは再度二人がかりで抑え込まれ、抵抗するも件のお茶の残りをシンラに口移しで飲まされた。

 しばらくは俺も抵抗していた。フィジカルで圧倒していたはずが、いつの間にか拘束具を付けられ身動きできなくなっていた。大人しくなると、二人は嬲るように俺に色んな“わざ”をぶつけてきた。

 言っちゃアレだが、俺は童貞だ。加えて、あちらもこちらも防御を下げて攻撃を上げていた。そうなると、俺もそのうち“げきりん”状態になる訳で……。

 以降、俺のダイマックスタイムが続くのだが、それはともかく。

 

「やっちまったぁ……!」

 

 そして よが あけた。

 

 実際ヤバい。マジでヤバい。どんくらいヤバいかというと、マジヤバい。

 言わずもがな、シンラもアニスも良家の生まれである。実家にも行った事がある。めちゃくちゃ金持ちだし、めちゃくちゃ格式高い家だった。そんなご令嬢に、俺は手を出してしまったのだ。

 無理矢理じゃんとかそういう問題ではない。途中からは俺もノリノリだったのだ。言い訳などできる余地はなかった。

 

 昨晩、事が終わると、睡魔と倦怠の境目に三人で話をした。

 シンラもアニスも、別に家の命令でこうした訳ではないのだと。

 それから、俺も本音を吐露した。思っていた事、溜め込んでた感情全部を吐き出した。

 

 昔からある劣等感とか。キラキラしてる人への複雑な感情とか。二人といる申し訳なさとか。

 卒業したらパルデアを出て、一族の目から逃れる気だった事も話した。その理由、俺の血なんぞを巡ってドロドロになってる事情なんかも話した。二人と違って、夢とかやりたい事なんてないのだという疎外感的なモノも言っちゃった。

 

 で、気づけば二回戦がはじまってた。

 なんでだよと思うが、気づけばそういう流れになってたのだ。

 もう、ドロドロのぐちゃぐちゃになってしまえばいいと思っていた。

 

 で、さっき目が覚めた、と。

 

 多分、これからもっとヤバい事になる。

 なんとか、しなくちゃいけない。

 しなくちゃいけない……んだけど。

 

「どうすりゃいいんだ……」

 

 俺はもう一度頭を抱えた。

 

 寝起きの倦怠感と緊急事態のせいで混乱した頭では、上手く思考がまとまらない。

 ぼんやりした意識では、筋道だった考えが紡げそうになかった。

 

 正直、先の事などあまり考えたくなかった。

 過去は変えられない。後悔をしているかというと、意外な事にそうでもない。

 けれど、ヤバいのだけは分かる。その程度しか頭が回らないから、どうしようもないと思うのだ。

 

「……疲れた」

 

 疲れた、眠い、何も考えたくない。

 

 俺は抱えていた頭を離し、そのままベッドに仰向けになった。

 すぐ隣ではシンラとアニスが幸せそうに眠っていた。

 俺は愛しい二人の髪を撫でてから、ゆっくり目を閉じた。

 

 ベッドの心地よさと、二人の体温が、俺の脳を昨日の事に巻き戻していった。

 双子の誕生日と、赤子の初対面と。

 俺たち三人が、まだ友達だった頃の出来事を……。

 

 

 

● 〇 ●

 

 

 

 我が家に、新しい命が生まれたらしい。

 あと、メッセージには来月弟と妹の誕生日会だから帰って来いとも書かれていた。

 あと誕生日には友達も連れてきてねとも書いてあった。

 

 その報を知った時、ちょうど近くにシンラとアニスがいた。

 メッセージを読み終え、俺は何も考えずに二人を誘う事にした。

 特に理由らしい理由はなかったと思う。

 うちの子の誕生日あるから祝いにきて、なんて普段の俺の思考回路じゃ絶対出てこない発言だと思う。迷惑なんじゃないのとか、まぁ色々と考えただろう。

 けれど、その時は何故か、誘おうという気になっていた。

 

 訊かれた二人は、すぐに是と答えた。

 逡巡する事もなく。

 

 

 

 時が過ぎ、双子の誕生日当日。

 タクシー乗り場で見たシンラとアニスは、いつもの制服姿じゃなくてドレスを着ていた。思考力が鈍っていたのか、会ったその場で「かわいい」と呟いていた。

 恥ずかしくなったので目を逸らした。感情を表に出すなんてのは、普通に嫌だ。

 

 マリナードタウンに着くと、しばらく歩いて実家に来た。

 我が家を見たシンラとアニスは、二人とも驚いていた。

 

「素敵なお家ですわ。変わった造りをしている様ですけれど、大きくしっかりまとまってますわね

「ん、大型ポケモンの事も考慮してるデザイン」

 

 まあ、二人の実家のがデカくはあるが、凄い家なのは確かだ。

 庭にある水浴び場など、シャリタツが喜びそうである。

 

 それから家に上がって、生まれたばかりの弟と対面した。

 イエッサンに見守られていた赤子は、初めて会う俺に手を伸ばしてきた。母に言われるまま赤子を抱くと、予想以上に軽くて、思ってたより暖かかった。小さくて、柔らかくて、しっかり心臓が動いていた。 

 隣にいたシンラとアニスが声を抑えてきゃいきゃいやってたので、母の了解を得てから赤子を手渡した。二人は興味津々に抱っこしていた。

 幸せそうな二人だった。けれど、俺にその気持ちは分からなかった。

 

 赤ちゃんは、怖いと思う。

 触ってみて分かった。やっぱり、生まれたての命は脆い。

 少し力を入れれば、あるいは手を滑らせて落としてしまったら、それだけで死んでしまいそうなほど、儚い生命なのだ。

 そんなのの近くにいるのを、俺はどうしても怖いと感じるのだ。この気持ち、共有できる人っているのかな。

 

「リュウくんは優しいね」

 

 隣にいた母が、そんな事を言ってきた。訳分からなかった。

 

 

 

 双子や姉やキリノの友達と話したりしていると、パーティの時間がやってきた。

 父がケーキを持ってきて、双子兄妹の誕生日会が始まったのだ。

 

 広いリビングには俺の家族に加えて5人の来客があるのだが、スペース的には余裕であった。ついでに裏庭に接している窓を全開にしてポケモンを放つと、パーティ会場は屋外まで広がった。内では母が作った料理が、外では父が用意してきたBBQやサンドウィッチが振る舞われた。人間もポケモンも、一緒になって飯を食った。

 自然と屋内勢と屋外勢に分かれた俺たちだったが、主役たる双子は内と外を行ったり来たりしてはしゃいでいた。

 双子はキリノの手持ちの“ハバタクカミ”がお気に入りだそうで、左右で囲んで頭を撫でまわしていた。意外にも、ハバタクカミはまんざらでもなさそうだった。

 

 さっきまで赤ちゃん部屋にいた生後一ヵ月の弟もリビングにいて、時折近くにあるモノをじっと見つめていた。

 

「はぁい♡ マノくぅん、お姉ちゃんでちゅよー♡」

 

 そんな弟を、姉が優しく抱き上げていた。弟はされるがままでじっと姉を見ていた。相変わらず、姉は庇護欲が強い。

 

 そんな光景を、俺はテラス席で眺めていた。

 姉以外も、久しぶりに会った家族は皆、相変わらずであった。

 ご機嫌な帽子を被ってご機嫌に振る舞う父は、ふと見ると母といちゃついていた。母も母で、エプロンを外して幸せそうに笑っていた。産後でも元気そうだ。

 

 明るい双子兄妹はほわほわとしていて、今も二人連れ立って料理片手に客に話しかけまくっていた。

 

 妹は、いつも通りなのかどうかちょっと分からなかった。今はシンラとアニスのところで何やら話し込んでいる。

 

 そういえば、この場にヘリアンがいたのは驚きだった。曰くキリノが連れて来たらしい。

 ちょっと申し訳ないなと思って見ていると、彼女は存外柔らかな顔でキリノ達と話していた。

 多分、あっちが素なのだろう。俺と話している時は無理に表情を作っていたのが丸わかりで、少し安心した。

 

「さて、二人もそろそろ甘いの食べたいんじゃないか?」

「「食べたーい!」」

 

 父が訊くと、本日の主役は元気いっぱいに挙手した。

 それから父はこれまた大きな冷蔵庫を開けて、件のケーキボックスを持ってきた。

 蓋を開けて中身を取り出すと、それを大きな平皿へと移した。

 

「まぁ、とても美しいですわね」

「ん、なんか芸術的」

 

 いつの間にか隣に来ていたシンラとアニスが感嘆している。

 確かに、用意された誕生日ケーキは何というか綺麗だった。

 

 フェアリー好きの双子仕様とでも言おうか。表面をピンク色のクリームで覆われたケーキは二段重ねになっており、てっぺんの真ん中にはハスキとハクノそれぞれのネームプレートがぶっ刺さっている。

 また一段目にも二段目にも色とりどりのフルーツやクリームの細かな装飾があり、俺視点統一感のない具材を上手にデコってる風に見えた。隅から隅までカワイイで構成されたそれは、子供の幸せを祈る優しさに満ちている様に感じた。

 

「ハスくん、ハクちゃん、ケーキの上のこれ、何だと思う?」

「んーっとねぇ……ハスくん分かる?」

「ん~? あっ、これイーブイだよ!」

「おっ、正解~! ハスくんは何で分かったのかな? ママに教えて?」

「えっとね、真ん中がチョコの茶色で、その横が黄色でしょ? 黄色の中に緑があるから、コレかみなりのいしだよね。サンダースだよ」

 

 ケーキの飾りつけに統一感を見出せなかった俺には、やっぱゲージツのゲの字も理解できないらしい。

 

 で、件のイーブイケーキにロウソクを6×2本刺して、部屋の灯りを消した。窓からの月明かりと、ロウソクの火が周りの人を照らしている。

 それから、みんなで双子の誕生日を祝う歌を歌った。こういうのに非協力的な俺だが、家族のとなれば流石に参加する。

 意外な事に、外で待機していた大型ポケモンたちもバースデー・ソングを唱和していた。母のドラパルトにガチビビリしながら唱和しているロライマ君のサザンドラが可愛かった。

 

 やがて歌の終わりに双子がロウソクを吹き消すと、人とポケモンから拍手が起こった。シャリタツも手を叩いていた。

 それでも節度を持って、赤ちゃんをびっくりさせないよう気を遣っていたあたり、皆理性的である。

 

 皆が笑っていた。

 多くの人に囲まれて、双子も笑っていた。

 赤ちゃんも、姉に抱かれてキャッキャと喜んでいた。

 

 俺は、その輪を少し離れて眺めていた。

 円の外、思う。

 いい家族だ。

 

 思えば、昔からそうだった気がする。

 何かの大会でも、お祭りでも、俺はいつも円の少し外にいて、姉や妹や友達が楽しそうにしているのを見ていた。

 

 多分、そういうので満足する性質なんだと思う。

 はしゃいでない訳ではない。疎外感を感じている訳でもない。騒がしいのは苦手だが、賑やかなのが嫌いな訳じゃあない。

 

 キラキラ輝くものを、眺めてたいんだと思う。

 この気持ち、分かる人多い気がする。

 

 

 

 さて、ケーキの後はプレゼントお渡しタイムである。

 正直、この歳の男女が喜ぶモノなんて特に思い浮かばなかったので、二人へのプレゼントはデパートの店員に男女児童それぞれに人気の物を見繕ってもらった。

 

「ほら、開けてみな」

「「ありがとー!」」

 

 俺が渡したのは、“アオキさん仕様ブリーフケース”と“しゃべるアオキさん貯金箱”だ。

 これホントに人気なのか? と思いつつ、反応を伺ってみると……。

 

「やったぁあああ! これすっごい欲しかった!」

「かわいぃぃぃぃぃ~!」

 

 すごい好評だった。

 マジかよと思って双子以外の顔を見ると、みんな「マジかよ」みたいな顔をしていた。

 まあ、喜んでくれて何よりである。

 

 その後も、双子はいくつかプレゼントをもらってはしっかりとお礼を言っていた。

 意外なことに、シンラやアニス等のお客さんサイドからもプレゼントがあった。誘いはしたが催促した訳でもないので、いや悪いよと固辞しようとしたが、シンラとアニスにはそれこそ失礼だと言われてしまった。

 

 こういうの、結構性格というか経験が出るみたいで、客サイドの人たちは各々個性あるものを渡していた。

 妹の友達のロモジちゃんは、妙に色彩細やかな色鉛筆をプレゼントしてくれた。双子は喜んでいた。

 妹に連れてこられたヘリアンは、如何にも高級そうなティーセットをプレゼントしてくれた。双子は喜んでいた。

 シンラはタルップルとアップリューのぬいぐるみを。アニスはモトトカゲのクッションとラジコンをプレゼントしてくれた。双子は喜んでくれた。

 

「なにこれ?」

「かっこいい!」

「ふふん、このマントは我が家お抱えの仕立て屋に作らせたオーダーメイドのマントだよ。弟君にはこちらの群青を、妹君にはこちらの真紅のマントを差し上げよう」

「う、うん……ありがとう……?」

「超かっこいい! ありがと派手なお兄さん! 今着てみていい!?」

「もちろんだとも」

 

 妹が連れて来たドラゴン使いくんは、6歳の子供にえらく高そうなマントをプレゼントしていた。弟は喜んでいたが、妹は反応に困っていた。

 

 

 

 それから、たらふく食った双子たちはそろそろおねむとなったので、姉が2人を連れて風呂に入っていった。

 で、俺とキリノとお泊り予定の5人は近くの銭湯でひとっ風呂浴びる事となった。

 

「ほう、ここが大衆浴場か。うぅむ、良い絵だ……テンガン山の雄大さを実に良く表現している……」

 

 曰く、初めて銭湯に来たらしいロライマ君は、銭湯の壁に描かれたテンガン山にいたく感心していた。

 そんな凄いもんかね? と思いつつ、銭湯のマナーなどを教えて汗を流す。

 

「へえ、あのガブリアスにそんな個性があるんだね」

「ああ、通常種より大食いでな。お陰で身体もどんどんデカくなって……」

 

 その頃になると俺とロライマ君は普通の生徒同士として話せるようになっていた。

 如何にもエリートで鼻持ちならない上流階級ドラゴン使い風のロライマ君も、ドラゴンの話などすればすぐ仲良くなれた。

 

「う、うぅ……! すまない、この僕が女性に肩を貸してもらうなんて……」

「ええってええって。ほら、早よ帰らな湯冷めするよー」

 

 あと、お風呂上りに呑んだモーモーミルクが美味かった。

 ロライマ君はミルクの飲みすぎで腹を壊し、彼はキリノの友達に介抱されていた。俺が代わるよと言おうとしたら、何故かキリノに止められた。

 

「なんだよ」

「邪魔しちゃダメ。あれもコミュニケーションなんだから」

「コミュ……えっ? そういう事なのか?」

 

 で、家に帰っていざ就寝。

 来客の方々は客室に案内した。さすがに5人分の部屋は容易できなかったが、ヘリアンは一人。シンラとアニス、ロモジちゃんとロライマ君で同部屋を使ってもらう事になった。

 

「おやすみ」

「ふへへ……リュウ兄も、良い夢を~」

 

 何故か、妹は上機嫌だった。

 

 

 

● 〇 ●

 

 

 

 それからしばらく、荷物の確認をしながら過ごしていた。

 ついでだからと、寮にはいらないものをこっちに置いて、寮に欲しいものを持っていこうと思ったのだ。

 

 整理が終わったところで、俺はふと部屋を見渡した。

 俺の部屋は、アカデミーに入る前と同じで綺麗なままだった。いつ帰ってくるかも分からないのに、掃除をしてくれていたらしい。

 

 ベッド近くの壁には好きだったサッカーチームのポスターがあり、本棚の上にはキバナさんのサイン色紙もある。その隣にはダンデさんのサインが書かれた限定モデルの帽子があり、棚にはドラゴンポケモン関連の書籍がぎっしり入っていた。

 

 見ると、机の上には写真立てがあった。手に取ると、それは幼い頃の俺が中心の家族写真であった。

 真ん中にはドラパルトに乗ってる俺と、それを囲むようにポーズを取った姉と妹がいた。父と母も写っていたが、今とあんまり変わってなくて笑ってしまった。

 写真にある頃の俺はかなり引っ込み思案で、陰キャというよりはすぐ何かに怯える子供だった。まだ空手もサッカーもやる前だ、度胸とかそういうのが全くなかったのだ。

 そんな俺を、よく姉が引っ張って遊びに連れ出していた。あと、何故か度々妹と映画を観ていたりしてた。

 色々と、受動的だったんだな。

 

 そういえば、俺が主体的に動き始めたのは、姉が島めぐりから帰ってきた時だった。

 何故か、理由は思い出せないし、そもそもそんなもんは無かったのかもしれないが、俺は一皮むけた姉を見て、ほんの少し憧れたんじゃなかったか。

 日焼けした姉の、達成感に満ちた顔。それを見て、俺も何かやってみようと思えたのだ。

 結局、今じゃ空手もサッカーも止めて、後ろ向きな旅への準備を進めている訳だが……。

 

「何がしたいんだろうな、俺って……」

 

 写真を見て、呟く。

 

 いい家族なんだと思う。

 間違いなく恵まれている。

 贅沢なんか言わず、流れに流されちゃうのがいいのだと思う。でもでもそれは嫌なんだと、俺の子供の部分が駄々をこねている。

 

 逃げの旅は、自分で決断した。

 俺は他人の意思を殺してまで自分の幸せは欲しくない。そう思う。

 ついさっき、確認した。俺は、あの中にはいられない。息苦しいのだ。

 幸せは、遠くから眺めるくらいがちょうどいい。

 

 想い過ぎるから、近くにいるから苦しいのだ。

 

 そう、思った時だ。

 

 

 

 コンコン。

 

 

 

 音に反応し、振り返る。

 控えめな、ノックの音が聞こえた。




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