【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 この話、主人公は凄く大事な事を見落としています。ムクノはケヤキが見落としている事に気づいてません。
 気づいた人は気づかないフリをしてください。理由はお察しください。

 また、本作は犯罪を助長するものではありません。
 


 今回、いつにもまして雑な出来ですが変なところあっても笑って許していただきたく。自分の中のさっさと次行こうぜ欲が轟き叫んだ結果です。後々こっそり加筆修正するかも。


健全な人は、相手を変えず自分が変わる。

 最高の朝食とは何か。

 パンとコーヒーのカロス式だろうか。

 デカ皿に豆やらベーコンやら載せてるガラル式だろうか。

 

 断言する、最高の朝食はカントー式だ。

 味噌汁がある朝食。こいつが世界一だ。

 インスタントも悪くないが、やっぱり俺はだしを取って味噌を溶かした手作り味噌汁が好きだ。家庭や作る人ごとに味や具が違うのも面白い。

 

 そんなカントー食好きの俺からして、ムクノちゃんお手製の朝食は最高だった。

 味噌汁はしっかりだしが効いてて味わい深く、米も炊き立てで実に香ばしい。卵焼きも俺好みの甘めな奴で、形も美しい。おまけに漬物はジョウト産の良い奴だった。

 この時点で分かる。ムクノちゃんは相当な料理上手だ。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

 言って、湯気の立ったティーカップを受け取る。

 

 現在、俺とムクノちゃんはダイニングテーブルで一緒に紅茶を飲んでいた。

 時を同じくして、俺の手持ちとムクノちゃんの手持ちもリビングで飯を食べ終えた。中には大型のポケモンもいるのだが、大丈夫なくらい広いリビングなのだ。

 

「ふぅ……」

 

 カントー食の後に紅茶とは、生粋のガラル人が見たらどう思うのだろうか。

 いやそんなのはどうでもいい。

 

 お腹いっぱいになって、ようやく全身に力が漲って来た。やるぞ、やってやるぞという気持ちである。

 奇しくもムクノちゃんの手料理のお陰で、ムクノちゃんを振る覚悟が決まったのだ。

 

 今からしっかりとお話をして、後腐れなくこの場を去るのだ。

 無言で去るのは筋が通らない。ちゃんと義理を通して去るべきだ。

 

 タイミングを見計らいつつ、紅茶で舌を湿らせる。

 昨日飲ませてもらったお茶より、幾分苦く感じた。

 

 そして、意を決して口を開いた。

 

「ムクノちゃん、昨夜の事なんだけど……」

 

 声色は堅く、できるだけ真摯な表情を意識する。

 視線はムクノちゃんの眼――じっと俺の顔を見つめている――に固定し、絶対に離さない。ここで目を逸らすのはあくタイプ的にNGだ。

 

「なに?」

 

 ふんわり幸せそうな彼女を、突き放すのだ。

 

「俺たち、付き合ってない訳じゃん」

「うん、まだ結婚してないね」

 

 ちょっと引っかかる返答だったが、このまま押し通す事にした。

 はっきりと、俺は俺の意思を貫く。嫌われるのも、最悪のケースも承知の上だ。

 

「昨晩の事は、若気の至りという事でお互い忘れよう」

 

 ちくしょう言ってやったぜ。という達成感。

 それと同時に、覚悟していた罪悪感にも苛まれる。俺はあくタイプ使いだが、悪党である訳ではない。先の発言がムクノちゃんを傷つける事くらい予想できた。

 

 また、これは俺自身への戒めでもあった。

 あぁ……これでもう、ムクノちゃんと一緒にいる事もできなくなったなという、そういう切り捨てるべき欲望の残滓。それを蹴り壊すのだ。

 我慢弱い俺からすると、やっぱり惜しい。なんせムクノちゃんは超好みド真ん中の美少女なのだ。けど仕方ない。必要な別れと、その前の義理なのだ。

 

 俺の言葉を聞いた彼女は、一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐにいつも通りの微笑みを浮かべて返した。

 

「なんで?」

 

 疑問であった。

 相手の言ってる事を理解できないとか、そういう感じの表情ではない。単に理由を知りたいが故、といった風に見えた。

 圧はない。共感性に欠けた雰囲気もない。何かこう……俺の認識がひとつふたつズレているような気がした。

 

「いやほら、互いに今後の人生とか生活とかあるし、こういう事はできるだけ好きあってる同士ですべきだと、俺は思う。だから、昨夜のは何かの間違いで無かった事にすべきだよ、うん」

 

 純粋な疑問を返されると、こっちの言ってる事が薄っぺらく感じてしまう。

 俺自身、心底納得している訳ではないのだ。あくタイプらしくないが、自然と言葉も多くなる。

 

「私はケヤキくんの事愛してるよ♡ 昨晩、ずっと言ってたよね、私」

「あ、うん……」

 

 対し、ムクノちゃんは簡潔だった。

 実際、昨晩はムクノちゃんに「好き♡ 好き♡」と直接愛を伝えられたのだ。それも、何度もである。最中の事だったので、ガチのマジだとは思っていなかった。

 俺はどう返していたろうか。とにかく息苦しくて、ちゃんと返答できていたか分からなかった。

 

「ケヤキくんは私の事、嫌いじゃないよね?」

「まあ、うん」

「じゃあ好き合ってる同士じゃない?」

「いやぁ……それはどうなんでしょう」

 

 ともかく、好き嫌いの話は置いておくとして。さっきからなんか話が噛み合っていない気がしてならない。

 俺は昨日の事をなかった事にして後腐れなく去りたいだけだ。なのに何故こんな問答になっているのか……。

 

 そもそも、俺はムクノちゃんに対して恋愛感情を抱いてはいないのだ。

 ムクノちゃんの言う“好き”と俺の“嫌いじゃない”は似て非なる感情なのだ。

 単に、俺のは原始的欲望に根差した感情だ。そんなの、俺の目指す“あく”らしくない。

 

 いや……そもそも俺にムクノちゃんの真意は分からないのだが。

 

「あ、私の“好き”は恋とか愛の方だよ♡ ケヤキくんとは願わくば恋仲になりたいかな♡」

「お、おう……」

 

 なにこの子強い。

 論理でどうのというより、心の根っこにぶってぇぶってぇ芯が通ってるというか、どれだけ攻撃しても毎ターン体力全回復してる感がある。

 

 まあ……ぶっちゃけ、悪い気はしない。

 好みド真ん中の女の子と仲良くなれたというのは、はっきり言って最高だ。

 けれど、俺には俺のあくタイプ道というのがあるのだ。この生き方だけは変えられない。

 

 覚悟を決めるしかない。さらなる覚悟だ。義理を通しつつ、もっと直接的に言うのだ。

 激昂され、おうふくビンタされるのも甘んじて受け入れよう。ジュンサーさんを呼ばれても構わない。

 こういう時。如何な理由があったとて男が責任持つものなのだ。俺がそう思うから、俺の中ではそうなのだ。

 

「……ムクノちゃん」

「なに?」

「俺、明日からまた旅に出るんだ」

「うん」

「だから、ムクノちゃんとは付き合えない。それに恋人でもないのにこういう関係を続けるのも良くないと思うから、やっぱり昨夜の事はなかった事にしよう」

 

 再度、ちくしょう言ってやったぜという達成感が胸に染みる。

 やっちまった感、あるいは後に引けない感がマックスだ。

 怒るかな。泣かせちゃうかな。あるいはサバサバと割り切ってくれるかな。いやあっさりし過ぎてるとちょっとモニョるような……いやいや、そうじゃないだろ。

 

 さて、どう出る。

 

「なんで?」

 

 これまた疑問であった。

 小首をかしげ、これまたよく分からないという感じの表情。

 

「いや、何でって……」

 

 説明はしたつもりでいたが、上手く伝わっていないのか。あるいはとぼけているのか。

 

 やっぱり噛み合っていない。

 

「んー? んー?」

 

 すると、同じ事を思ったのかムクノちゃんもうんうん唸り、やがてムクノちゃんは何か納得したかのようにポンと手を打った。

 

「なるほど、わかったわかった!」

 

 視線で問うと、ムクノちゃんはスクールの先生のように優しく教える口調で言葉を継いだ。

 

「ケヤキくんはちゃんと話せば私が折れると思って、私を振ったんだね」

「まぁ、そだな……」

「旅に出るから恋人は作れない。恋人でもないから、ああいう事はよくないと思ってる。だから無かった事にすべきだと思ってる。でも、私の事は嫌いじゃない。合ってる?」

 

 概ね、その通りであった。

 俺という奴は根無し草の旅人であり、収入も不安定でいつ野垂れ死んでもおかしくない身の上だ。

 そして、俺にとっての一番はポケモンとの旅であり、冒険なのだ。そういう、どこまでも自分勝手なクソガキが俺だ。そんな俺が誰かと恋仲になるなど、どうかしてる。

 ムクノちゃん相手なら、なおさらだ。

 

「ああ……うん。何も間違ってない」

 

 俺の返答を聞いた彼女は、得たりとばかりに微笑んで言った。

 

「優しいね、ケヤキくんは♡ けどね、私は死ぬまでケヤキくんを好きでい続けるから、ケヤキくんが私を振ったところで私の気持ちに変化はないんだよ。それと旅に出るから恋人になれないのも別のお話だし、あと私は恋人という間柄に固執はしてないよ。だから“そういう関係”は私的にはオールオッケーかな。絶対に嫌なら別だけどね」

「は……はい?」

 

 えっ、なにこの子強い。ていうか情報量……。

 心の根っこに芯……というか、土台全体がはがねタイプだ。いや一部タイプ無効のゴーストじみている。

 いや、そこじゃなくて。

 

「死ぬまでって……どういう?」

「どういうも何も、そのままだけど?」

「いやいやいや……」

 

 冗談だよね? という言葉を続けようとしたが、彼女の瞳の奥を見ると、それを口にする事はできなかった。

 

「私はケヤキくんの事、死ぬまで……ごめんこれ間違いかな。例え死んでも、私は貴方の事を愛し続けるよ。何があっても」

「え、えぇ……?」

 

 これは自慢だが、俺は幼少の頃からかなりモテた。

 直接にせよ遠まわしにせよ、告白された数など両手足の指では到底足りない。年下年上関係なく、あらゆる年齢の女性から好意を伝えられた経験が俺にはあった。

 そんな彼女らだったが、俺が交際を断ると一様に引いてくれた。中にはしつこく迫ってくる娘もいたが、正面から「NO」を伝えると不承不承退いてくれたものである。

 だから俺は、ムクノちゃんもそうなると思っていたのだ。

 が、どうもそうはならないらしい。

 

「な、なんで……?」

「ケヤキくんの全てが好きだから。あ、依存じゃないよ。この気持ちは私の中で完結してるんだ」

 

 俺は、ムクノちゃんに引け目がある。

 理由は、あえて言うまいが……。

 だからこそ、真正面からそんな感情を向けられると、余計に引け目を感じてしまう。

 

 などと考えていると、またしてもムクノちゃんは「ん?」と首を傾げ、

 

「もしかしてケヤキくん、昨夜の事で罪悪感感じてるの?」

「ん……まぁ、はい」

 

 ちょうど、そう思っていたところであった。

 

 うん、まあ。

 そりゃ、感じるでしょ。

 少なくとも俺は、そうだ。

 

 なんたって、昨夜の俺はやる気マックスになったケッキングみたいになって、恋人でもない幼馴染の女の子に獣欲の限りをぶつけてしまったのだ。

 その上で自分の事を好きと言ってくれる娘の気持ちを承知の上で、なおも自分の身軽さを優先している。

 人よりポケモン。社会より旅。他者の感情よりも自身の享楽。どこまでも自分勝手な奴なのだ。

 

 根無し草で、ロクでなしで、勝手気ままな社会不適合者。

 そんなクズが、ムクノちゃんと釣り合う訳が……。

 

「ん?」

 

 ……と、ここで引っかかる事があった。

 

 そもそも、昨夜のバトルは何故に起こったのだ?

 

 昨晩、最中の事は覚えている。

 頭がおかしくなるくらい楽しい時間だった。何度もムクノちゃんから好意を伝えられた。自己肯定感というか、男性としての自信が奥底から湧き出てくるかの様だった。なるほど大学の友人が中毒じみてハマる訳だと心身で理解した。

 けれど、その初めらへんの事はあまり覚えてはいない。

 

 昨日は酒を飲んではいないはずだ。記憶を失うほど飲むと、翌日にそうと分かるのでそれは確実だ。酒の勢いで、というのは考え難い。

 例えるなら、まるでスリーパーに催眠術でもかけられたかの様だ。あるいはゴーストタイプのポケモンに化かされた時のように、摩訶不思議で意識が……ん?

 

 ふと、視線の隅でふよふよ浮遊するポケモンが目についた。

 ポットデスだ。ガラルに根差すゴーストタイプのお茶ポケモンで、ムクノちゃんの手持ちポケモンの一体だ。

 見ていると、ポットデスくんは、「にしし……」という感じで俺の顔を見て嗤っていた。

 

 直感があった。

 覚えている限りの昨日の記憶を思い出す。

 昼にムクノちゃんと再会し、しばらくお話して、ムクノちゃん宅で晩御飯をご馳走になったのだ。とても美味しい夕食を囲んで、懐かしくて楽しい思い出話に花を咲かせた。

 そして、食後のティータイムとしゃれこんだのである。

 ちょうど、あのポットデスからお茶をもらって……。

 

「あ……」

 

 ところで、優秀なトレーナーとは何か。

 ぶっちゃけ、ポケモントレーナーは才能だ。どれだけポケモンと気持ちを通じ合えるか。如何にして感情をくみ取りくみ取られをできるか。これは、才能なのだ。できる奴とできない奴との差はかなりデカい。

 俺の場合、あくタイプとの親和性が高いトレーナーだ。けれど、昔から優秀だった俺は他のタイプのポケモンとのコミュニケートも人並以上に行えるのだ。

 一流トレーナーである俺の才能が言っている。今のポットデスの感情は、「いたずら大成功!」だ。

 

「まさか……!?」

 

 勘づいた、勘づいてしまった。

 食後のティータイム、手持ちのポットデス。飲酒ではない記憶の欠落……。

 

 昨晩の、異常なまでの昂り……!

 

 全てが、繋がった。

 悪だ。邪悪だ。やべー悪だ。

 

「ムクノちゃ……ムクノさん?」

「うん、そうだよ。だからケヤキくんに罪も責任もないし、ジュンサーさん案件はむしろ私だね」

 

 ムクノちゃんは、悪びれもせず頷いた。

 最初から隠してなかったよ、という風に。

 気づいてなかったの? とでも言いたげに。

 それはもうあっさりと、罪を認めた。

 

 この、超一流の天才あくタイプ使いの俺が、思いついても絶対やらない事。

 それを、やりやがったという訳だ。

 

「とりあえず、逃げられる前に捕まえておかなきゃって♡」

 

 オカルトマニア、恐ろしい子……!

 

「ケヤキくん、昔からお茶に砂糖入れる派だったもんね♡」

 

 

 

 ケヤキは激怒した。

 必ず、かの誨淫導欲のオカルトマニアをわからせねばならぬと決意した。

 

 ケヤキには色恋がわからぬ。

 ケヤキはポケモントレーナーである。

 笛を吹き、ポケモンと遊んで暮らしてきた。

 

 けれども巨乳に対しては人一倍に敏感であった。

 

「……と、言う訳で、私もケヤキくんの旅についていきます」

「どういう訳だよ」

 

 などと脳内で走れほにゃららをやっていると、ムクノちゃんが唐突にこんな事を言いだした。

 

 一瞬、俺はマジで激怒したが、そんな感情はすぐに萎んでいった。

 振り返ってみて、まぁ別に怒るような事でもないなって思ったのだ。

 

「それはそれとしてだ」

「うん、詳細はもう少し詰めよっか」

 

 違う、そっちじゃない。

 というツッコミはせずに、俺は構わず続けた。

 

「……俺に、飲ませた薬についてだけど」

 

 昨日、ムクノちゃんとは互いの近況についても少しお話した。

 その中に、ポケモン薬学を学んだという旨の内容はなかったはずだ。

 じゃあ、アレは何なのか。大丈夫なのか。記憶が飛ぶレベルに昂る精力剤など聞いた事が……いや俺が知らないだけであるのかもしれないが、ともかくまともな薬じゃないだろう。

 

「ああ、アレはね。シンオウにいるポケモン薬師の人に作ってもらったの。ポケモン漢方の応用でね、人間にも効くお薬なんだよ。元は風邪を早く治す為の薬で、昔シンオウ地方が別の名前だった頃の技術で……」

「あー、やっぱいい。安全かどうか知りたいだけだから」

「んもう♡ 私がケヤキくんに危ないモノ飲ませる訳ないよね♡」

「ふしぎなくすりではあっただろ」

 

 好きな事になると早口になる癖は昔と変わっていないらしい。

 他にも色々話したがるオカルトマニアを制し、俺は声色低くして云った。

 

「一応、俺は被害者という事になる」

「そうだね、私が加害者」

「隠さないんだな」

「私はケヤキくんだけには嘘を吐かないよ」

 

 真摯な瞳が向けられる。なんというか、漆黒の意思的なモノを感じざるを得ない。

 

「……俺は純潔を奪われた訳だ」

「ありがとう♡ 残しておいてくれたんだね♡」

「……聞くに、ムクノちゃんの純潔も奪ってしまった訳だが」

「うん♡ ケヤキくんの為に寄ってくるトレーナー全部返り討ちにしてきたんだ♡」

「……これどうなんの?」

 

 加害者と被害者がいるのだ、そこには罪がある。

 けど、被害を受けた側であるはずの俺にはこの期に及んで被害者意識というものがなかった。

 こういう時、どうすればいいんだろう。文字通り無かった事に……いやそれはいいとして。

 

「通報してもいいよ、一生の思い出にはなったから♡」

「お前の心臓ハガネールかよ」

 

 実際、通報したところでジュンサーさんが取り合ってくれるとは思えないし、俺自身そのつもりはなかった。

 

「大丈夫、嫌われる覚悟はしてたからね」

 

 決断的な物言いに、俺は眉根を寄せた。

 

「……別に嫌いにはなってない」

「そう。そっちのが嬉しいな」

 

 そう言って、ふんにゃり笑うムクノちゃん。

 

 実際、これを理由にムクノちゃんにアレコレしようという気はなかった。

 騙し討ちを食らった悔しさこそあるが、それだけだ。俺が申し出なければこれは犯罪ではない。

 なら、何の問題もないはずなのだ。

 

 いや、ちょっと……モニョる。

 

 あの……あるじゃん。

 理想の奴が。

 俺の初冒険はおっぱいとお尻のデカい美少女とって決めてたんだ、

 

 それを、こんな不意打ちみたいな形で……。

 

「……むぅ」

 

 ムクノちゃんを見る。

 その下を見る。

 おっぱい、デカい。お尻、デカい。

 揃ってるじゃん。

 

 理想通りなんじゃね、これ。

 

「……多分、ケヤキくんは忘れてると思うけどさ」

 

 ぽつぽつと、紅茶で唇を湿らせたムクノちゃんが言葉を零す。

 ちょっと寂しそうな声音を聞き、俺はおっぱいから視線を引きはがして再び彼女と目を合わせた。

 

「昔、結婚の約束したんだよ。私たち」

「あぁ……したっけ?」

「うん、契約書もあるよ」

 

 ぺらりと、卓上に一枚の紙が置かれた。

 そこには、子供らしい字体で将来結婚する旨の契約内容と、俺とムクノちゃんのサインが書かれていた。おまけに拇印まで押してある。

 紙の表面は経年劣化しており、昨日今日の工作で出来るものではないように見えた。

 

「……マジじゃん」

 

 ぶっちゃけ全く覚えていない。

 確かに、昔俺とムクノちゃんは仲が良かった。長期休暇には一緒に旅行にも行ったし、お互いの誕生日を祝ったりもして、家族ぐるみの付き合いがあったのは確かだ。

 しかし、まさか結婚の約束までしているとは。

 

 とはいえ、子供の頃の約束事である。

 契約書なるものがあったとて、それを真に受けるというのもおかしな話だ。

 おかしな話なのだが……。

 

「だから、私はそのつもりでいたの」

 

 ムクノちゃんの黒々とした双眸が、俺の眼の奥を覗き込んでいる。

 ゴーストタイプ使いらしい深い黒の圧が、俺の逃亡を許さない。

 先の言葉もある。ガチなのだ、彼女は。

 

「……ごめん、覚えていない」

 

 正直に言う事にした。

 嘘は吐かない、正直に生きる。それが俺のあくタイプ道だ。

 

「……そういう展開も、予想してました」

 

 ふぅ、と。ムクノちゃんは契約書をしまった。

 ふぅ、と。俺も一息ついた。

 

「なので私は、色んなパターンを想定して行動しました」

 

 意外とアクティブな返答がきた。

 

「えーっと……?」

 

 ちょっとスケールの大きい答えに、俺は疑問符を浮かべた。

 

「まず、何事もなく約束通りに事が進んだ場合、私はケヤキくんと結婚して幸せに暮らします」

「おう」

「第二に、約束を忘れてケヤキくんが他の人と結婚して家庭を作っていた場合、ケヤキくんに薬を盛って……アレします。ここからは展開により分岐します」

「お、おう……」

「第三に、約束は覚えているが反故にされた場合、薬を盛ります」

「あっ、外でリザードン飛んでんじゃん。すげぇ」

「第四に……」

 

 その後もアレコレ話すムクノちゃんだったが、その頃には俺は完全に聞き流していた。

 

「第百五十一に、ケヤキくんが……」

「あー、うん。わかった、だいたい分かったよムクノちゃん。多くの場合俺が薬飲まされるのは理解できた」

「うん♡ 私その為にシンオウのポケモン薬師とコンタクト取ったからね♡」

 

 薬の力ってすげー。俺は改めてそう思った。




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