【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話 作:いらえ丸
誤字報告ありがとうございます。助かってます。
初回にして双子編最終回です。
本編主人公達の子供はこうなりましたっていう、文字通りただの後日談です。
今回三人称です。
いつも以上にバーっと書きました。変なトコあっても伝わればいいやの精神で書いてます。スピード重視です。
ケヤキさん家のハスキとハクノは、双子の兄妹である。
兄と妹。見た目はそっくりだが、性格は少し違う。
兄は人懐っこく前向きで、妹は謙虚でしっかり者。それらの個性は年齢を経るごとに顕在化し、5歳を境に明確な性格分けができるようになっていた。
言ってしまえば、本能で動く兄と理性で動く妹。一見相容れなさそうな兄妹だったが、双子という出自もあってか存外に仲良しであった。
双子兄妹は二人で一人。互いの足りない部分を、補い合っているかの様。
そんな二人には、キラキラ輝く原体験があった。
6歳の誕生日。
父と母、姉と兄と妹と、それから生まれたばかりの弟。加えて兄や姉のお友達。
多くの人に囲まれて、多くの人に祝われた誕生日パーティ。
その時食べた、誕生日ケーキ。
それが、あまりにも美味しかったのだ。
元々、双子は年齢相応にお菓子の類が好きであった。
けれど、その夜食べたケーキは格別美味しく思えたのだ。
兄が言う。前食べたケーキより美味しかった。
妹が言う。なんでなんだろうね。
前にも食べた、父が土産に持ってきたムクロジのケーキ。作った人も、作った店も、何なら材料だって変わらない。なのに、あの夜のケーキは間違いなく世界最高のケーキだと思えた。
宝石箱か、あるいは玩具箱か。
子供の好きなモノをぶちまけたが如きあのケーキは、双子の幼く鋭い感性にクリーンヒットしたのだ。
「みんなも美味しそうに食べてたね」
「リュウ兄も笑ってた」
「パパもママも」
「切るのドキドキした」
「いつか」
「なに?」
「いつか、マノキにも食べてもらいたいな」
「同じのはできないよ」
「作ればいいんだよ」
「どうやって?」
「練習!」
「できるの?」
「プロになればいいんだよ!」
「ケーキ屋さん?」
「うん、ケーキ屋さん!」
「いいね! かわいいケーキ作る!」
「いいね! 美味しいケーキ作ろう!」
「ケーキ以外も作る!」
「マカロンとか杏仁豆腐とか! 三食団子!」
「なろうよ! 菓子職人!」
「なろうよ! パティシエール!」
「「美味しいお菓子、作れるようになろう!」」
二人の想像は飛躍する。二人の夢が形を成していく。
あの夜の思い出を、まだ小さかった弟と共有したいと思う優しさで以て、自分たちの夢を描き出す。
カエデさんという、顔も知らぬケーキ職人への憧憬。あんな素晴らしいお菓子を作れるという技術の冴え。甘いだけじゃない、美味しいだけじゃない、皆を喜ばせる魔法の様な造形物。
作って、食べてもらって、笑顔になってほしいのだ。
大人になると忘れていく感情。
子供の頃は皆が抱いていた感情。
たった一つのケーキが、双子の心を真っすぐ夢へ駆り立てたのだ。
こうして、ハスキとハクノの兄妹は、
ポケモンリーグのチャンピオンに憧れるよりも、
お菓子職人に憧れるようになったのだ!
● 〇 ●
パティシエかコンフィクショナーか、ともかくお菓子を作る人を志すようになって、双子がまず行ったのは最も身近な菓子職人――即ち母への師事であった。
母は料理上手であり、お菓子作りも上手である。自然、二人は母が作ってくれたお菓子を食べた事は何度もあった。
それを、手伝わせてもらおうと思ったのだ。
「あっ! ごめんなさい、タマゴ落としちゃった……」
「うむむむ! 上手く混ぜられないよ~!」
しかし、お菓子作りは予想以上に失敗の連続であった。
まず、タマゴを綺麗に割れない。力加減が分からずぐちゃぐちゃにしてしまうし、成功しても手がベトベトになってしまう。
生地を搔きまわすのも、皿に盛るのも、計量さえ失敗してしまう。小さいから、幼いから仕方ないと思わないでもないが、双子自身ちょっと「アレ?」と違和感感じるくらいミスをするのだ。
「だいじょうぶ、ママも最初からお料理ができた訳じゃないからね。ちょっとずつやってこ?」
母曰く、失敗なんていくらでもしていい。自分も失敗ばかりしていたと。
事実、母はミスをした双子を叱ったり落胆した目で見るなんて事はなかった。
だが、その失敗がこと食材の損失に直結していると、双子の中のもったいないゴーストが囁いて、色んな人達にとても申し訳ない気持ちになるのだ。
割と優しい性分であった。
そんな感じで失敗に失敗を重ね、何度も練習をして分かったのだが。
この双子、割と不器用であった。
「ねぇ、工作の成績どうだった?」
「同じだよ。同じようなの作ってるんだから」
失敗して、失敗して、失敗して……。
そうして何とか形になったホットケーキを父に食べさせてみると、父は「美味しいよ」と言ってくれた。
だが、幼い兄妹には分かった。父も、母も、気を遣っている。
困らせているだけだ。気疲れさせているだけだ。タマゴを無駄にして、キッチンを汚して、洗い物を増やしているだけだ。
あのケーキの様に、人を喜ばせられていない。
「次はもっとがんばるから!」
「慎重に慎重を重ねます!」
何事も練習、というのは分かっている。
最初から上手くできないのなんて当たり前だ。
けれど、タマゴひとつ無駄にする度、砂糖1グラムこぼす度、二人からはパティシエの夢が離れていく様であった。
自分から、というよりも、向こうから。なれるなれないではない、ならない方がいいんじゃないかと思えるのだ。
そう思うようになった理由のひとつに、二人へ授けられたギフトの存在があった。
「ピカチュウ戦闘不能! ハスノさん&ハクノさんの勝利!」
「やったな! ハク!」
「やったね! 兄ちゃん!」
二人には、卓越したポケモンバトルの才があった。
スクールでのバトル大会。地元の子供たちのバトル大会。色んな大会で、二人は同級生上級生全員ぶちのめして華麗に優勝していった。
タッグを組んだマルチバトル大会では、なんと大人を含めた部でも優勝したりした。
「パパ見て見て! 金のトロフィー!」
「ははは! これで何個目だよ! 新しいケース買わないとな!」
「ママ! 優勝賞品なに選べばいい?」
「ん~、ハスくんとハクちゃんが相談して決めたモノがいいかな~」
トロフィーを持って両親に報告すると、二人は喜んでくれた。
お菓子作りより簡単に、パパとママを笑顔にできた。
多分、こっちのが向いてるんだな。
そう思った。
「うぅ……また焦げちゃった……」
「力はそんなに要らないはず。練習もしてたのに……」
バトルに比べて、こっちはどうだろう。
相変わらず、何故か上手くいかない。
調理なんて慣れである。そうでなくても、レシピ通りにやれば美味くなくとも不味くはならない。真面目さが、几帳面さが足りないから失敗するのだ。
そう、料理本には書いてあった。できる人の意見であった。
一応、以前よりは上達しているのだ。
タマゴはちゃんと割れるようになったし、整形もしっかりできる。コツはつかんでいないが、ミスの数は減った。
だが、一つ新しいチャレンジをすると、二つ課題が湧いてくる。頑張ってやってても、前に覚えた事でミスをしてしまう。
一向に、手際が良くならない。
「いてて……消毒だけは上手くなってくよ」
「向いてないね、わたし達……」
パティシエの夢は止めて、向いてる方を進むべきなんじゃないか。
ポケモンバトルは好きだし、得意だ。ジムリーダーやポケモンレンジャーに憧れない訳じゃない。同じ夢でも、こっちの道を志すべきなんじゃないか。
一つ夢を捨てて、一つ新たな夢に進んでもいいんじゃないのか。それが、大人になるという事なんじゃないか。
双子は、原体験を忘れかけていた。
そんな中、二人にとって転機が訪れた。
二人が10歳になった誕生日。
父から、プレゼントとしてポケモンのタマゴを貰った。
しばらくして、そのタマゴからは“マホミル”というポケモンが生まれた。
「くりくる~」
マホミルはガラル地方に生息するポケモンで、クリームの身体を持つポケモンだ。一説には空気中の甘い成分が凝集して誕生したとも。
また、マホミルが訪れるパティスリーは繁盛が約束されると言われており、進化系のマホイップはパティシエにとって憧れのポケモンであるとか。
「すごい良い匂い……」
「甘いね、可愛いね……!」
幸いな事に、恵まれた環境で育まれてきた双子の心は、豊かな愛に満ちていた。
だからこそ、そのポケモンを渡された意味を、双子はしっかりと受け止める事ができた。
「くりくる~?」
生まれたばかりのクリームポケモンを見て、双子は思い出す事ができた。
尊き原体験。選ぶべき未来。豊かな感性の向かう先。
二人の魂は、ポケモンによって輝きを取り戻した。
時は流れ、仲良し兄妹は12歳になった。
スクールを卒業し、マホミルのレベルも上がってきた。
太陽が輝く、テーブルシティの門前。
アカデミー入学前、二人はマホミルを囲むように立っていた。
「やろう」
「うん、練習通りに」
互いの目を見て、頷く。
そして、マホミルの頭に花型のアメざいくを乗せて、二人と一匹で手をつないだ状態でグルグル回転し始めた。
新興宗教かな? と周りの人が双子の回転を見ていた。割と変な事をしてる構図だが、これは二人にとって大切な儀式であった。
「もっと回すよ!」
「分かってる!」
グルグル回る。グルングルン回る。
やがて人間の三半規管に限界がきたところで、最後にマホミルを掲げた。
すると、双子の手によりクルクル回されていたマホミルの身体が。眩い光を放ちはじめた。
「ほわほわ~!」
そうして進化したのは、花のアメざいくを頭に付けたクリームポケモン。
マホミルの進化系、マホイップであった。
「おめでとう! マホミルはマホイップに進化した!」
「きゃー! かわいい~!」
進化した事が嬉しい兄。計算通りとはしゃぐ妹。邪教信仰かと見ていた人は、何か知らんがめでたい事だと拍手してくれた。
二人はお祝いの拍手に会釈すると、意気揚々とテーブルシティへと入って行った。
自分たちは、どっちも進む。
ポケモンも、お菓子職人も、両方だ。
マホイップを連れて、二人はアカデミーへと入学した。
時は進んで、二人がチャンピオン・カヤノからの推薦状を貰った後。
二人は実家に帰り、アカデミーで身につけた料理スキルを振るって、家族みんなにお菓子を作ってみせた。
出来上がったのは、見た目も美しいシンプルなショートケーキ。
父も母も、とても美味しそうに食べてくれた。
「美味しい! ありがと兄ちゃん! 姉ちゃん!」
そして、大きくなった弟も、笑顔になってくれた。
「誕生日になったら、僕たちがもっと大きいケーキ作ってあげるからね」
「楽しみに待っててね」
あの日眠っていた弟に、あの日の感動を伝える事ができた。例え欠片であっても、今日この日を迎えるのには必要な経験だった。
こうして二人は、煌めく原体験を思い出す事ができたのだ。
● 〇 ●
いつか、そう遠くない未来。
ハッコウシティのバトルコートにて、一人のジムチャレンジャーと、二人のジムリーダーが相対していた。
「君がジムテストをクリアした鋭い味覚のトレーナーだね。なるほど、良い眼をしている」
ジムリーダーの一人、魔性の笑みを浮かべる青年が言う。
その身は華美なバトル用コックコートで覆われ、顔といいファッションといい身体全体からフェアリー的イケメンオーラが放射されていた。
青年がカメラに向けて微笑むと、バトルを見に来た観客から黄色い悲鳴が上がった。
「普通のクリームか、ポケモン由来のクリームか。分かる人には分かるのよ。君はちゃーんとポケモンの事を分かろうとしてくれたね」
ジムリーダーの一人、妖精めいた雰囲気の女性が芝居がかった口調で言う。
その衣装は片割れ同様にコックコートであり、こちらにはよりキラキラしたフェアリー的意匠が散りばめられていた。
また、彼女の胸は豊満であった。
「けど、ここからはバトルの時間だ。強いかどうか、それだけさ」
「今までのシングルバトルとは訳が違うから、ちゃんと考えて挑んできてね」
観客が湧く。トレーナーが身構える。
バトルの時間だ。
二人は、背中合わせにポーズを取った。
「ポケモンパティシエにして、ハッコウシティ・ジムリーダー! フェアリー使いのハスキ!」
「同じく! パティシエールのハクノ!」
「キラキラ煌めくフェアリータイプ! カワイイ見た目にご用心! 見とれていたら負けちゃうぜ!」
「新メニューもはじめました! 映えバズいいね間違いなし! 公式アカウント、フォローしてね!」
「「パティスリー・カシマ! バトルの後で、ぜひ来てね!」」
ジムリーダーのハスキとハクノが、勝負をしかけてきた!
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