【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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 次話はいつになるか分かりません。早くなるか遅くなるか。


【回想・ムクノ】いまだ渇愛という名の雲

 初めて“彼”と出会ったのは、春のナックルシティだった。

 

 石造りの家々が立ち並ぶ住宅街。

 お隣に引っ越してきた我が家は、彼の家に挨拶に行った。

 玄関前、そこで私は初めて彼と目が合った。

 

 彼――ケヤキくんは、純真な瞳をした男の子だった。

 全身から快活そうな雰囲気が染み出ていて、それでいて利口そうな印象。二匹のイーブイを連れていた。彼の両親も裕福そうで、良い人そうだった。

 

 ひと目でそうと分かった。ケヤキくんは、自然と人を引き付けるタイプの子供だった。

 子供の目にもかっこよく映る美貌。真ん丸な瞳にはそれこそニンフィア的な魅力があり、首回りや鎖骨にはある種の色気さえ漂っていたように思う。

 まるで、あの女の子のように、見るからに誰からも愛されていそうな子供だった。

 

「はじめまして、ボクはケヤキって言うんだ。君の名前は?」

 

 フェアリータイプみたいな彼は両親の影に隠れる私に、気さくに挨拶してきた。

 返答に困る私に怒るでもなく、焦れるでもなく、ただ返事を待っていた。

 

「うっ……あ、えと……む、ムクノ……です……」

 

 焦って、考えて、ようやっと覚悟が決まって。数秒遅れつつ返すと、彼はニッコリと笑んでくれた。

 そんな笑顔を向けられる事が、私にはひどく恐ろしく思えた。

 

「ムクノちゃん! こっちこっち! カジッチュが群れてるんだ!」

「あっ……ま、待って……!」

 

 それから、彼はよく私と遊ぶようになった。

 当初は私の手を引いて半ば無理矢理外に出してきた彼だったが、私が生粋のインドア気質である事を知るや気を遣ってくれたらしく、他の子のように外で遊ぶ事はなくなった。

 

「へぇ、ムクノちゃんはゴーストポケモンが好きなんだね。特別好きなポケモンとかいるの?」

「あ、あの……ご、ゴーストポケモンなら全部、です……。し、知らないポケモンもいるけど、ゴーストなら……たぶん全部、好き……ふへへ」

 

 私は一人で本を読むのが好きだ。そうでなくても、一人でゴースト関連のビデオを眺めている事が多い。

 活発そうなケヤキくんと、正反対の私。彼と二人、私の部屋で本を読んだりビデオを見たりして過ごした。

 

 この時の私は、ケヤキくんの事がちょっと苦手だった。彼といるとゴースとの別れを思い出しそうで、辛かった。

 どうせ、また私から離れていくのだと思っていた。ゴーストポケモンは好きらしいが、オカルト趣味は受け入れられないだろう。

 数回も家で遊べば、彼も飽きて外に出たがるだろうと、そう思っていた。

 

「ムクノちゃん! これ見てよ! カントーのキクコさんっていうゴースト使いの人の伝記! ムクノちゃんこういうの好きかなって!」

「きく、こ……? 誰、その人?」

 

 ある日、彼は一冊の本を持ってきた。

 それは他地方で昔出版されたらしい古い本だった。曰く、カントー地方のリーグ四天王の人が書いた伝記らしい。

 

「図書館にあったんだ、一緒に読もうよ!」

「い、一緒……あ、うん……」

 

 本の中身はちょっと難しかったが、分からないところはケヤキくんが教えてくれたのでスラスラと読めた。

 読書に慣れた私より、彼の方がたくさん難しい言葉を知っていた。

 

 伝記に書かれていたのは、ゴーストポケモンという謎多き生物の神秘だった。

 時に苛烈で、時に鮮烈で、力強いキクコさんの語り口からはゴーストポケモンという存在への強い想いがありありと伝わって来た。

 その本には、私の知らないゴーストの魅力が詰まっていた。

 

「す、すごい……! キクコさん、かっこいい……!」

「今でも現役なんだってさ。今度カントーリーグのビデオ見てみようよ」

「うん……!」

 

 

 私の知らない本、私の知らない世界。

 引っ張り上げるでもなく、無理矢理外に出すでもなく、彼は私の世界を広げてくれた。

 彼は、真っすぐ目を見て、しっかり私という個人を見てくれていた。

 

「図書館では静かにね」

「うん、け、ケヤキくんも……珍しい本見つけても興奮しないように……です」

「いやー、そんな事あるわけ……うぉ! シンオウで出たばっかのミロカロス写真集じゃん! 届くのはっや! すぐ借りなきゃ!」

「けけ、ケヤキくん……! 声、声……!」

 

 それから私は、ちょくちょく彼と一緒に図書館に行ったりした。

 ナックルシティは歴史ある街だけあり、街一番の大図書館は広く大きい。蔵書の数もまた膨大で、新旧のマイナーなゴースト本なども沢山あった。

 一緒に図書館に行き、読みたい本を借りて、私の部屋で本を読む。今まで興味のなかったポケモンリーグのビデオも、ゴーストポケモンが出ていると不思議と熱中して観ていた。

 時折、ゴースト以外のポケモンの事も知る機会があった。彼と共にいるイーブイたちもまた、私によく懐いてくれた。イーブイたちもまた、素直で可愛い。

 ゴースト以外に興味のなかった私に、色んな興味を沸かせてくれた。子供らしい、純真な好奇心を。

 

 当時、自覚はなかったけれど。

 私は既に、彼に惹かれていたのだと思う。

 まだ恋はしてなかったが、それは間違いなく愛の萌芽であった。

 

 

 

 引っ越してしばらく、私は再びスクールに通う事になった。

 ガラルのスクールには彼がいる。それに、家がお隣なので登校は同じだ。大丈夫、何の問題もない。心のHPはイーブイたちによって癒されたはずだ。

 私は彼に先導されるようにしてスクールに向かい、はきはきした初対面の彼の笑顔を思い出しながら、クラスメイトに挨拶した。

 

「か、カロスから来ました。ムクノと、いいます……よっ、よろしくおねがい、します……!」

 

 これまたつっかえつっかえだったが、クラスメイトの視線は痛くなかった。

 HRの後は彼のつてでクラスメイト達の顔を覚えて云った。なんというか、クラスメイトは皆、ほんわかしていた。中心人物たるケヤキくんの影響か、他者への攻撃性というものが極めて希薄なように思えた。

 

「へぇ、カロスから来たの? ヌメルゴンとか見た事ある?」

「ヌ、ヌメ……!? あぁいえ……み、みたこと……」

「すっご! ねぇどんな感じだった? 触った事ある? 人に懐きやすいってホント!?」

「え、えっと……」

 

 だが、イーブイセラピーにより回復していたと思っていた私のコミュニケーション能力は全く改善されていなかった。

 以前と同じだ。ポケモンとはお話できるのに、人間とはまともに言葉を交わせない。

 挨拶は上手くやれたつもりだったが、いざ面と向かって人と話そうとすると頭が真っ白になって何もできなかった。

 

 そんな私だからか、あるいは違うのか。

 結局、彼の尽力がありながら私は友達一人作る事はできなかったのである。

 

「じゃあねムクノちゃん! 道場行ってくる!」

「い、行ってらっしゃい……」

 

 スクール生活が始まると、彼と私との時間は少なくなってしまった。

 そもそも彼は多くの習い事に通っており、学校終わりはすぐに塾や道場に向かう為、下校後は予定でいっぱいだった。

 加えて、彼はクラスどころかスクール中の人気者だった。習い事のない日も彼は他の子供たちに囲まれていて、元来活発な彼は私ではない子と私の苦手な遊びで遊んでいた。

 そして、たまに私と遊ぶ時も彼は何だか疲れた様な顔をする事があり、映画を観ていると船を漕ぐ時もあった。他の子と遊ぶより、退屈なのかなと怖くなった。

 

「おはようムクノちゃん」

「ん、おはよう……」

 

 それでも、登校中は一緒だった。スクールのある朝は楽しみな時間だった。

 しかし時間が有限だ。家を出てしばらくは二人きりで話せるのだが、学校が近くなるにつれ、彼の周りにはスクールの子たちが集まって来た。

 私は、彼を中心とした輪から外れて、彼の後をついていった。

 

 辛くはない、ちょっと寂しいだけ。だから、前のスクールより全然よかった。

 誰も私を攻撃しないし、誰も私を除け者にしない。

 それどころか、彼は私と一緒にいて、笑顔を向けてくれる。

 彼がいれば、私のスクール生活は輝いていたのだ。

 

 

 

 そんな生活が続き、一年が経って春休みがやってきた。

 長期休暇になると習い事の多くがお休みになったらしく、お隣というのもあって私と遊ぶ時間が増えた。

 前みたいに図書館に行ったり、宿題を手伝ってもらったりもした。ゴースト以外の勉強も、彼と一緒だったら楽しかった。

 私との時間と同じくらい彼は道場に通う頻度も増えて、大会で優勝もしていた。スクールでも、それ以外の場所でも、彼はみんなのスターだった。

 

 そんな春休みの中頃、どういう経緯かは分からないが、我が家と彼の家で旅行に行く事になった。

 行き先は同じガラル地方のヨロイ島という場所だった。

 ケヤキくんとお出かけ、旅行前日は楽しみでなかなか寝付けなかった。

 

 ヨロイ島は常夏の島であり、そこには沢山のポケモンと自然が溢れていた。

 ヨロイ島では、キラキラと目を輝かせる彼と共に色んな場所を探検した。

 アウトドアが苦手な私だったが、ケヤキくんの影響でポケモン好きでもあったので、ヨロイ島のポケモンたちには心を躍らせていた。

 

「あれ? あのヤドン、前に図鑑で見たのと色が違うような……?」

「あー、あれはガラルのヤドンなんだ。むしろこっちのがマイナーな姿なんだよ。ガラルのは進化するとどくタイプになるんだ」

「へぇ~」

 

 彼と共にヤドンを観察したり、イーブイの助けを借りて森の浅い所を歩き回ったり。互いの両親と一緒に浜辺でバーベキューをしたりもした。

 手元にゴースト本はなかったが、私は彼と一緒ならいつでもどこでも楽しかった。

 

「ケヤキくんや。お主、いっちょ島の試練を受けてみる気はないかね?」

 

 ヨロイ島生活何日目か。島の管理人――マスタードさんだ――の提案で、彼は道場の試練というものを受ける事になった。

 年齢の関係で私は受けられなかった。だが、彼は特別に試練を受ける事を許されていた。ケヤキくんには、それだけの才能があったのだ。

 私は道場の隅っこで彼の帰りを待った。

 

 そして、彼はあっさりと試練を突破し、マスタードさんから“ダクマ”と言う見た事のないポケモンを授与されていた。

 曰く、ダクマは伝説ポケモンの幼体なのだという。そんなポケモンを渡されて、彼は大喜びでダクマを手持ちに加えた。

 そんな彼を見て、私は誇らしい気持ちになった。彼の功績は嬉しい。凄い彼が褒められているのを見ると、こっちまで嬉しくなってしまう。

 けれど、同じくらい寂しい気持ちにもなっていた。近いはずなのに、ケヤキくんが遠ざかって行く感じがしたのだ。

 

「色んな景色を見てきなさい。ダクマと共に。君とムクノちゃんでな」

 

 ダクマを手持ちに加えた彼は、さらなる試練を受ける為にヨロイ島の色んな所を冒険した。

 当初、何故か私は拒否しようとしたが、彼に「遊びに行こう」と言われるとあっさり言葉を引っ込めて同行していた。

 島に来た当初に、危ないから行ってはいけないと言われていた場所にも彼とならOKとなって、二人は勇んで足を運んだ。

 

「ダクマ、“かわらわり”だ!」

「べあーま!」

 

 ダクマはその愛嬌ある顔の割に、とても強いポケモンだった。

 彼のイーブイでも苦戦するような、襲い来る野生ポケモンを正面から打倒していったのだ。また、彼の指示もまた的確で、素人目にも卓越した才能を感じる程だった。

 いつの間にか、彼は既に一端のポケモントレーナーとなっていた。

 

「あっつ~! ムクノちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

「う、うん、大丈夫……。イーブイはどう?」

 

 彼とダクマに守られながら、私たちは島中の綺麗な場所を探して冒険していた。

 道中、何度も危険な目に遭ったが、その都度ケヤキくんがなんとかしてくれた。

 私は彼という強い男の子に守られていたのだ。

 

「行ってくるね、ムクノちゃん。イーブイは任せたよ」

「う、うん……気を、つけてね……」

 

 そして、ヨロイ島を去る前日。

 彼は最後の試練に挑むべく、ダクマと共に道場を出た。

 私は彼の二匹のイーブイと共に、彼の帰りを待つ事になった。

 

「試練、クリアできるといいね……」

「ブイ?」

 

 道場の前、ひかえめな方のイーブイを撫でながら、私はじっと彼の帰りを待っていた。

 

 時は過ぎ、真っ赤な夕焼けが暗くなってきた頃、彼は一匹の横柄なポケモンを引き連れて帰って来た。

 無事試練を突破し、ダクマを進化させて凱旋してきたのだ。

 

 伝説ポケモン、“ウーラオス”。

 彼は伝説ポケモンのトレーナーとなったのだ。

 

 齢十を前に、彼は最高クラスのトレーナーになった。

 如何にも強そうなウーラオスを見て、道場の門下生や彼や私の両親はしきりに彼の功績を褒め湛えていた。

 やれ未来はエリートトレーナーだとか。いやいやチャンピオンだとか。周りの人たちは彼以上に浮かれていた。

 

 彼は、凄い人だ。

 クラスでは人気者で、かっこよくて、性格も温厚で、頭も良くて運動もできる。

 ガラル空手でも結果を残し、他の習い事でも数えきれないほどトロフィーをもらっている。

 そして、今や伝説のポケモンを手持ちに加えた天才ポケモントレーナーだ。

 

 彼は、どんどん遠くに行ってしまう。

 いつか、私を置いていくのだろう。

 その時には、私と彼の手は繋がれなくなって、あるいは彼は彼と同じくらい凄い子と一緒にいるのかもしれない。

 

 そうなったら、もう私と遊んでくれなくなるかもしれない。

 

 大人たちに囲まれる彼を見て、私は得体のしれない感情に飲まれていた。

 

 彼を……。

 ケヤキくんを、私から遠ざけないで、

 

 ケヤキくんだけが、私の友達なのだ。

 ゴースも、あの女の子も……もういない。

 二度と、友達を失いたくない。

 

 

 

 その時、彼と――天才トレーナー・ケヤキくんと、目が合った。

 ウーラオスを従え、大人たちに褒められて、彼の知らない未来の話をされている彼は……。

 

 なんだか、苛立っている様に見えた。




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