【完】再会した幼馴染オカルトマニアちゃんにお薬飲まされて何やかやあった後の話   作:いらえ丸

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他人を裁くより自分を裁く方がずっと難しい。

 思うに、旅の醍醐味とは“新鮮さ”にあると思う。

 

 人、ポケモン、景色。それらは時の流れと共に変化し、絶えず流動している。

 しかしながら、ひと所に留まっているとそれらの変化は感じ難いものだ。

 昨日と今日で人はそう変化しない。今日と明日じゃポケモンも変わらない。

 街も、森も、山々も、それらは少しずつ姿を変えていくのである。

 

 その点、旅はいい。出会いと別れ、再会。気づけぬ事に、気づけるのだ。

 久しく会う友人は良くも悪くも何かしらの変わりがあり、数年ぶりの故郷などは面影こそあれ大きく変貌するものだ。。

 そう、旅をすると、新旧含めて目に映る全てのモノに新鮮さを感じるのである。

 

「マジか! あそこのパン屋潰れたの!?」

「うん、店主さんがぎっくり腰でね。それでも無茶してたら本格的に悪くしちゃったみたいで。今はパルデア地方の……何だっけ? あの、草タイプのニャオニクスみたいなポケモン……」

「ニャオハ?」

「そうそう! そのニャオハとゆっくり過ごしてるみたいだよ」

 

 子供の頃、お気に入りだったパン屋が潰れていたり……。

 

「あれ? 前いた時は公園にバトルエリアなんてなかったと思うけど」

「何年か前からガラルのトレーナー人口が増えたんだよ。それに対応する形で野良バトルがしやすいようになってるんだ」

「へぇ。おっ、やってるやってる。あー、ありゃ女の子の方が勝つな」

「まだ序盤に見えるけど、分かるの?」

「ああ。ほら見ろ、相手側が余計な事考えてる。差し詰め聞きかじったテクを披露したいんだろうが……ほら」

「ほんとだ、一瞬だったね」

「男の子のが格上ではあったんだろうが、だからこそ油断を突かれた形だな」

 

 いつのまにかバトルの在り方が変わっていたり……。

 

「そいえば、今のチャンピオンって誰だっけ?」

「ん? ダンデさんだよ。見たことない?」

「あー、あのリザードン使いの。いや見た事はあるんだが、名前は知らんかったな」

「ダンデさんがチャンピオンになってから、一回も変わってないんだよ。ジムリーダーは交代が激しいみたいだけど」

「そいえば、ムクノちゃんはジムチャレンジやってないの?」

「うん、出てないよ。あんまり興味なかったし」

 

 激しく変化し続けるものと、変化が止まったものがあったり……。

 

「それより私はケヤキくんとの将来の為に忙しくしてたし♡ 他の事に割く時間なかったんだよね♡」

「おっ、ガラルカレーの匂い……腹減って来たなぁ」

 

 まあ、数年ぶりに再会した幼馴染が他人にお薬を盛って強制ダイマックスバトルをしかけてくる奴になるとは、さすがに予想外だったが……。

 

「ふへへ……ケヤキくんさっき食べたばっかだよ」

「旅人は食える時に食わないと死ぬんだよ」

 

 言いつつ。今一度ムクノちゃんの姿を確認する。

 

 遥か昔、記憶の中のムクノちゃんは、もっと小さくて細っこい子供だった。けれど今では同年代の女子の平均身長程度には背が高い。

 ボサボサ頭こそ昔と同じだが、当時のは適当ボサボサだったのが今ではおしゃれボサボサへと進化しているように見える。

 着ている服にも変化があり、今は黒っぽい色を基本とした“ゴーストファッション”なるモノを見事に着こなしていた。今の俺もそのゴーストファッションらしいので、ペアルックだ。

 また意外な事に、身体つきも健康的だ。見た目では分かりづらいが、柔らかな身体の奥にはしっかりと筋肉がついている。そういえば彼女の部屋にはトレーニングルームがあったのを思い出した。

 そして何より、俺の腕で直接感知できる平均を遥かに上回る胸部こそ、最も彼女の成長が著しいところだろう。

 ほんと、すごいのだ。

 

「……ムクノちゃん、けっこう筋肉ついてるよね」

「うん♡ いつでもケヤキくんと旅ができるように鍛えてたの♡ 月一でワイルドエリアにも行ってるんだよ♡」

 

 まあ、うん。これまでのムクノちゃんの発言から、こういう返しがくるのは分かっていた。

 分かっていたから、独りよがりな罪悪感を感じてしまうのである。

 

 そして、晴れ渡る青空を見て思う。

 なんで今、俺はムクノちゃんと街中で腕組み恋人歩きなどしているのだろう。 

 

 

 

 時はほんの少し遡る。

 

 朝目覚め、諸々を終え、もうめんどくさくなった俺は一旦お話を切り上げて目当ての買い物に繰り出す事にしたのだ。

 そも、ガラルに来たのは買い物が理由なのだ。旅に出るにはまず準備がいるものだ。

 

「あっ、買い物行くんだね♡ ちょっと腕貸して?」

「ん、おう」

「ふへへ……♡ チェックリスト埋め~♡」

 

 そんでもって当然のようについてきたムクノちゃんは、当然のように俺の腕にしがみついてきた。

 そしてこれまた当然に、俺の腕にはムクノちゃんのテンガン山が当たっているのであった。

 

 ムクノちゃんの攻撃はいつも突然だ。いきなりの事に俺は完全に動揺していた。

 動揺こそしたが、拒む事はできなかった。俺という奴は巨乳弱点四倍のへなちょこタイプだ。タイプ一致確定きゅうしょ連続技など受ければ一発KO不可避である。

 こうして、あえなく俺はムクノちゃんと仲良くお買い物と相成ったのである。

 

「ふへっ、ふへへ♡ 二人でお買い物♡ 夢がひとつ叶ったよぉ♡」

 

 ぎゅうぅぅぅ……っと。

 言いながら、ムクノちゃんは俺の腕との密着度を更に上げ、彼女のシロガネ山が山崩れを起こした。

 

 回想終了。結果、何故もクソもなく俺とムクノちゃんは腕組み恋人歩きなどしていたのだった。

 

 若い男女、腕組み、ナックルシティ……何も起きないはずがなく。

 すれ違う人の視線、視線、視線……特に男性からの視線にはマグカルゴもかくやと思われる熱量が込められているように感じられた。

 

 一応、俺たちはまだ恋人ではないのだ。だから、相応しい距離感とは言い難いと思う。

 だが、しかし、けれども……。

 

「すっごいな……」

「どうしたの?」

「あー、いや何でもない」

 

 嫌なら振り払えばいい、と人は言うだろう。

 嫌ではないから振り払えない。

 

 嫌いなら断ればいいだろう、と人は言うだろう。

 嫌いではないのだ。むしろ、嬉しいのである。

 

 悔しい哉、俺は完全に手玉に取られていた。所詮はオス、おっぱいには勝てぬ。

 だからといって、ふりょうアベックの様に堂々とイチャつく気にもなれはしない。

 この何ともいえない状況を良しとしているあたり、自覚はあるが俺も大概クズだ。

 

 結局、人は今にしか生きられない。

 今が気持ち良ければいいのだ。一線を超えぬよう気を付けながら、もう流れるだけ流されようと思うのであった。

 

 

 

 そうこうしていると、俺たちは目的の店舗に到着した。

 入店すると、そこには様々なメーカーのアウトドアグッズが陳列されていた。テントに寝袋に野外用調理器具。そう、ここはガラル一番のアウトドアショップなのである。

 

「おぉ……いいじゃん」

 

 ガラル地方はアウトドア商品の本場である。

 そもそもワイルドエリアという未開拓領域を有し、大自然と文明が共存するガラルにはこういった趣味を好む層が多く、アウトドア趣味に金を出す層が多いのである。

 工場もガラルにある為、他の地方で買うよりも現地に来て買った方が安く買えるのだ。

 

 今回、俺がガラル入りした理由の半分はこれであった。

 ネットショッピングでは味わえぬ楽しさ。こうやって店に置いてある商品の列など眺めていると、得も言われぬ高揚感に見舞われる。

 俺は、こういう類の感覚が好きなのだ。

 

「ケヤキくんは何買いに来たの?」

 

 ネッコアラみたいになっているムクノちゃんが訊いてくる。位置と身長差の都合で、自然とムクノちゃんが上目遣いになっていた。

 そんな視線攻撃を真正面から受けられず、俺は横目に見下ろしながら応えた。

 

「テントだな。前使ってた奴が野生のゴルバットに壊されちゃって。これで貯金がパーだ。また依頼受けねぇと……」

 

 実際、俺の財布は軽い。

 宵越しの銭は持たぬとはカントーのことわざだったか。基本、俺は依頼で得た金の殆どをすぐに使い切ってしまうのだ。こういう緊急事態に備えた貯金も最低限。お陰で常に金欠である。

 

 真面目に働け、と言われそうだ――実際に友達から言われた――が、俺は断固としてこの生き方を変えるつもりはなかった。

 仕事は生きる為だけにやる。それ以外はすべて余暇だ。

 ポケモンと旅に出て、知らない場所で知らないモノや景色を満喫する。俺の人生、それだけで幸せなのだ。

 やりたくない事など、絶対にやらない。

 

「うおっ! リースポッケの新作じゃん! すげぇかっけぇ~!」

 

 と、たまにこういう物欲が芽生えたりするが、それはそれ。

 こういうのは一時の気の迷いの様なもので、いざ買ってみると購入直後は満足できて気分は良いが、一日過ぎればそれだけで終わるものなのだ。

 良い靴だ。欲しい商品だ。性能も良いし、デザインもイケてる。欲しい、欲しいが、絶対に必要なものではないのである。

 

 さんざん商品を眺めた後、俺は心に折り合いをつけた。

 そう、あくまでもテントを新調したかっただけで、他の物に現を抜かす訳には……。

 

「いや、でも今のもうボロボロだし……ブーツも新しいのにすべきなのか……? いやいや、ボロったって壊れた訳じゃないし、いやいざという時を考えると……」

 

 やはり、アウトドアショップは誘惑の宝庫である。一度入ると抜け出すのに多大な精神力を消費する。

 長くいると飲まれてしまう。早急に脱出せねばならぬが……。

 

 そうしてうんうん唸っていると、さっきからずっと俺の腕に巻き付いていたムクノちゃんが、一言。

 

「私が買ってもいいよ?」

「……えっ!?」

 

 何気なく放たれた一言に、俺は唖然となった。

 あまりにも魅力的な提案だった。けれども、ちょっと気の引ける提案でもあった。

 

 確かに、住居からして彼女がお金持ちなのは分かっていた。少なくとも一年のほとんどを旅に費やしている俺よりは全然裕福だろう。

 しかし、だからといって女友達――と俺は思っている――に金銭的支援をしてもらうのは、なんというかモニョる。

 俺のあくタイプ道とは、俺が女の子に奢る事はあっても、その逆はないのである。時世とか倫理とかでなく、俺の中ではそうなのだ。

 

「だぁいじょーうぶ! 私、この時の為に稼いできたんだからね!」

 

 むふー、とドヤ顔のムクノちゃん、可愛い。

 可愛いが、やはりそれはどうなのだ。

 

 今朝、彼女は俺とアレやコレやする為に、一から百五十一まで想定しずっと準備をしてきたのだと言っていた。そこには金銭的余裕を確保しておく、というのも含まれていたのだろう。

 何をするにも、お金は入用になってくるのだから。

 

「……いや、魅力的な提案だけど、それはやめておくよ」

 

 魅力的な提案だ。

 ものすごく魅力的だ。

 大きなおっぱいと大きなお尻くらい魅力的だが……。

 

 うん、やっぱダメだ。

 

 俺は自身の欲望に弱い人間だ。一度あまいミツを啜ってしまえば、二度とは戻ってこれなくなる自信がある。

 これは踏み出してはいけない一歩のはずだ。

 

「えー、別にいいのにぃ」

「流石に悪いよ。俺しか使わないものを他人に買ってもらうなんて」

「すぐ二人のお金になるじゃないですかー」

「結婚はしないって。それに、あくタイプにはあくタイプの矜持というものが……」

「私、資産3億あるのに」

 

 ……ん?

 

「……なんだって?」

 

 今、なにか聞き慣れない数字が聞えてきたぞ。

 

 おずおずと、俺は腕に住み着いたムクノちゃんを見下ろした。

 目が合う。大きな黒い瞳には、マヌケな顔をした俺が映っていた。

 じっと見る。彼女の瞳に嘘の色はなかった。

 

「お金の事?」

「はい」

 

 思わず敬語になる。

 

 マジ、なのか?

 なんやこの子、俺と同い年だよな? そんな億単位で稼げるような仕事とかしてんの?

 大丈夫なやつか? 騙されてるってんならポケモンレンジャー特権で悪党ぶちのめしてやるんだが? ロケットやらマグマやらギンガやら何やらの残党狩りなどお手の物なんだが?

 

「うん、持ってるよ。預金以外だと株が1億で不動産も少々。。会社も何個か持ってる。ナックルシティとシュートシティ、あとイッシュのヒウンシティには私のお店もあるよ。それと印税とかその他諸々で年1000万くらい入ってきてるかな」

「あ、え……おう……?」

 

 ちょっと何言ってるか分からなかった。

 この子、本当にムクノちゃん? あの小っちゃくて細くて人見知りな? 本当に?

 いや手持ちにエーフィいたじゃん。前持ってたのも進化してたし、本物なんだよな?

 社長で金持ちで一流トレーナーとか、こいつ何者だ?

 

「将来の結婚資金♡ ケヤキくんとの子供は何人いてもいいからね♡ ケヤキくんは何人欲しい? 私はぁ……♡」

 

 ぽやんぽやんなんか言ってる。間違いない、こいつムクノちゃんだわ。

 

「そ、そっかぁ……」

 

 そっかぁ、そんなにお金持ってるのかぁ……。

 おまけに美少女かぁ。

 そんな子が俺にデレデレなんだぁ。へぇ……?

 

 あなぬけのヒモ。

 

「いやダメだろ」

 

 うん、思いとどまったぞ。えらいぞ俺。

 俺は俗世とは離れた旅人だ。染まるな、歪むな、孤独を楽しめ。人生、旅とポケモンで満たされる。

 茨の道は相棒ポケモンとだけで歩め。

 

 それに、不誠実だ。

 俺はあくタイプ使いだが、某団員の様に悪党である訳ではない。あくタイプにはあくタイプなりの矜持というものがあるのだ。

 悪とは自分を貫く事と見つけたり。いたいけな少女を食い物にするなど言語道断である。そんなのは悪は悪でも吐き気を催す類の邪悪醜悪大極悪だ。

 

「そうそう! ケヤキくんが飲んだお薬ね、作ってくれた薬師の人と製薬会社との繋ぎ作ったのうちの会社なんだよ。お陰でポケモン漢方関係の人たちが助かってるんだって、この前お礼言われちゃった! 褒めて褒めて♡」

「あー、すごいすごい」

「ふへへぇ……♡」

 

 他人に薬を盛る女の子がいたいけかどうかはともかく。

 

「……犯罪はダメだぞ」

「あのお薬以外クリーンだよぉ♡」

 

 結局、俺は少ない貯金をさらに崩してテントもブーツも新調する事にした。

 欲望には勝てなかったよ。

 

 

 

 店を出てしばらく、意外と時間が過ぎている事に気づいた。

 もうお昼だ。そろそろどこかでご飯を食べようかな。

 

「ん?」

 

 などと思いながら歩いていると、視界の端に見覚えのある姿が過った気がした。

 気のせいかと思って注視してみると、件の人と目が合った。

 

「おや?」

 

 褐色の肌をした、引き締まった身体の少女。

 キリリとした目つきは武道家そのもの。身バレ防止かぶかぶかのパーカーを着ているが、それでも分かるガラル空手経験者の身体付き。何処をどう見てもかくとうタイプ使いの佇まい。

 見覚えがある。記憶の奥の方で、何か引っかかるエピソードがあった気がした。

 

「どしたの? ケヤキくん」

 

 あれは……そうだ、俺がまだガラルにいた頃、ガラル空手の道場での記憶だ。

 他道場との練習試合。そこにいた少女……ちょっと年下の女の子で、年齢の割にやたらと強かったのを覚えている。

 ああ、そうだった。練習試合が終わった後に、女の子の方から声をかけてきたんだ。

 

 バトルしようぜ、と。

 

 空手の組手の事だったが、俺はそれを了承して……どうなったんだっけ?

 

 そう考えていると、件の少女が近寄って来た。

 無駄な足音を立てず、体幹を揺らす事もなく、一部の隙も無い歩法。

 ああ、ありゃからておう的なアレだ。かなり、やるらしい。

 その歩き姿を見て、俺はその子の名前を確信した。

 

 やがて目の前までやってきた彼女が口を開く。

 

「お久ぶりです、ケヤキさん」

「うん、久しぶり、サイトウちゃん」

 

 ガラル空手の申し子・サイトウ。

 

 昔、何度か一緒に空手の稽古をした事のある女の子だ。

 旅を始めて以来ガラル空手をやめた俺だが、彼女の方は今も続けているらしい。

 

 ところで、俺は巨乳の女の子が大好きだ。

 次いで、スラッとした女の子も好きだ。

 というか美少女が好きだ。

 

 サイトウちゃんを見る。

 顔、かわいい。身体つき、美しい。

 うん、ナイスな筋肉だ。

 

「……サイトウ、ちゃん?」

 

 みしり、と。腕の圧が強まった気がした。




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