ゆうきのうた 作:勇者ああああ
ダンまちは12巻までしか読んでないので、ロキファミリア結成時の時系列でおこったあれやこれやについては認識が曖昧だったり、そもそも知らんかったりします。
ドラクエも4,5,8,9,11しかやったことないです。それでも良ければ読んでやってください。
まあ短編だし、矛盾やなんやらは広い心で許して頂けると……
ロキファミリア、ホーム、“黄昏の館”の一室。様々な資料と書籍が納められた書庫のような役割をもつ空間で、アイズは大きく伸びをした。星の光を閉じ込めたような金色の瞳が、退屈に彩られている。勉強嫌い、ダンジョン一筋で知られる彼女にとっては、この叡智の蔵に抱く興味が一粒たりともなかった。
同ファミリア所属の幹部メンバー、ハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴの付き添いで、アイズは滅多に来ることもないこの場所に訪れていた。目的は、次回遠征に必要な資料を探し出すこと。
アイズにしてみれば、なぜそのようなことを自分が……という気持ちが無い訳ではなかったが、いつもお世話になっているリヴェリアの頼みとあれば、無下になどできなかった。中庭で剣でも振っていたい気持ちをぐっと抑えて、棚の中の紙束を一つ一つ改めていた。
「──全く、久しぶりに来てみれば、整理整頓がなっとらんな」
アイズからは少し離れたところで、リヴェリアがひとりごちる。この書庫はファミリアメンバーなら誰もが出入りできる場所なだけに、マナーのなっていない者が使用すれば、こうして後の者がその分の苦労をすることになる。ちなみに普段であればアイズは前者であり、リヴェリアは後者であった。
アイズはリヴェリアの言葉を聞いて、今度からもしこの場所を使うことがあれば、取り出したものはちゃんと元の場所に戻そうと誓った。そうでなければまたこうして退屈な手伝いを頼まれてしまうかもしれないからだ。
とにもかくにも、資料捜索である。紙の束が乱雑に突っ込まれた棚の一つ目をようやく調べ終わったアイズ。もう紙を捲り続ける作業に飽き飽きしたためか、気分転換にと書庫の奥へと向かう。左右に連なったいくつもの棚を潜り抜けたその先、埃をかぶった木箱がいくつも積みあがった一角である。
アイズにとって、中身の分からない木箱を開封するという行為は、本棚から本を取り出すよりはなんとなく面白そうに感じた。どうせ出てくるのは紙でしかないが、そうではない可能性も万が一あるかもしれない。冒険者は分かり切った結果よりも、予測不能の未知こそを尊ぶのだ。
「軽い……」
山の頂上に鎮座する木箱を抱えると、思わずそんな言葉がアイズの口からこぼれる。第一級冒険者が紙の入った木箱の整理をしているのだから、それは当然軽いに決まっているのだが、そんなことを言ってしまうくらいには退屈な作業だったのである。
日焼けした木目にそって降り積もった灰色の埃をさっと払って、アイズは木箱の蓋に手をかける。かぱりと開ければ、今までと同様に紙束まみれの空間がお出迎えである。アイズは一目見てげんなりした──のだが。
「──楽譜?」
そこに詰まっているものは、モンスターが沸きにくいスポットや、金になる希少素材の採取地一覧といったものが羅列されていた今までの紙とは、少し趣が異なっていた。
横に引かれたいくつもの平行な線の間に、子供のころに遊んだ池で見かけたオタマジャクシにそっくりの記号たちが踊っている。それの本当の意味を解することは音楽に造詣のないアイズには不可能であったが、それが“楽譜”と呼ばれるものであるということぐらいは分かった。
なぜこのようなものが書庫におさめられているのか、アイズにはとんと心当たりが無かった。もしかしたら、他の場所にあるべきものがここに間違って置かれているのかもしれない。そう思ったアイズは、楽譜を片手に自然とリヴェリアの元へ向かっていた。書庫のことに詳しい人が近くにいるのだから、当然頼りにすべきということだった。
「なんだ、アイズ。もう飽きたのか」
「うん、飽きた」
「……はあ、正直者め。だが出ていくのはダメだ、もう少し付き合え」
「ううん、もうやめたいって言いに来たわけじゃない。これについて聞きたくて……」
アイズが近づいてきた理由について勘違いしているリヴェリアに、アイズはちょっとだけムッとしながらも、片手にもった楽譜を差し出した。リヴェリアはそれを眼にすると、呆れたような表情を少し虚を突かれたようなものに変えた。
「──これは“
「序曲……?」
「ああ。お前も知っている曲の楽譜だ。我々が遠征に赴く前に、いつも奏でられる曲があるだろう。あれを“序曲”と言って、これはその曲の旋律を示したものだ」
その言葉に、アイズは遠征前の光景を思い描く。確かに、ロキファミリアには他のファミリアには無い珍しい風習がある。遠征などの大きな冒険に出発する前に、都市の音楽隊を招き、あるいはファミリアの中で楽器を嗜む者たちを集めて、ある曲を演奏するのである。
世間に知られている有名な曲という訳ではないそれは、しかしロキファミリアの面々にとっては慣れ親しんだものであり、出発の合図そのものであった。
アイズという個人からしても、その曲はとても素晴らしいものであると思っていた。なんというか、未知の冒険へ挑むときに誰もが抱く高揚と恐怖という相反した感情を揺さぶる曲であった。高揚は掻き立てられて、恐怖は霧散し勇気へと変わる。その性質は、まさに旅立ちの歌に相応しいものだ。
アイズはこのとき初めて、その素晴らしい曲の名前を今までに知ろうともしてこなかったということに気づいた。むくむくと、アイズの中の好奇心が膨張した。
「序曲、ってことは“始めの曲”とか、“最初の曲”って意味だよね? じゃあ、その続きがあったりするの?」
「む……いや、それは──」
アイズが投げかけたのは当然の疑問であった。“序”という字は“序章”や“序盤”といった言葉に見られるように、物事の始まり、最初を表す。であれば、“序曲”とはアイズが言ったような意味であり、それに続く、連なる曲があると想像するものだろう。
しかしそれに対してリヴェリアは、幼子に「りんごはなんでりんごって呼ぶの?」というような答えにくい質問をされた時に似た、微妙な表情を見せた。
「続きなどはない。だが、これは“序曲”と呼ばれる。正直に言えば、これがなぜそう呼ばれるのかの理由は知らん。作曲者……の様な者がそう呼んでいたから、私もそれに倣っているだけでな」
「ふーん……残念だね。続きがあれば聴いてみたかったのに」
「そうだな……私も、そう思うよ」
何とはなしにつぶやいたアイズの言葉に、リヴェリアは悲しそうな、寂しそうな様子を見せた。彼女と長くを共にしてきたアイズからしても、その表情は滅多に見ないものだった。
「まあ、他の団員にとっては、“序曲”ではなく“
「リヴェリア?」
何かを思いついたように途中で言葉を切ったリヴェリア。アイズが不思議そうに首をかしげると、リヴェリアは手に持っていた“序曲”の楽譜を丁寧に箱にしまい、アイズの手を引いた。
「ちょうどいい機会だ。この作業に飽きたなら、気分転換にしよう。お茶でも飲みながら、昔話でもしようじゃないか」
「──昔話?」
「ああ。このファミリアができたばかりの頃。私と、フィンと、ガレスと、ロキ──そして
◇
その酒場に漂うのは、品のない騒ぎ声と、安っぽくて粗悪な酒の匂い。そのどちらもが彼女にとって今までに経験したことのない──するはずもなかったもので、だからこそ不快な様子を隠せていない。
たとえそれが、王族としての責務を投げ出して出奔したエルフの姫の自業自得であるとしても。徹底的にこうした俗世の一般的な価値観から遠ざけられてきた彼女にとって、この席で食事をするなどという行為は、耐え難いものであった。眉をひそめるだけで済ませているのが奇跡といってよいくらいには。
「──ったく、酒がまずくなるのぉ。お高く留まったエルフの姫には、酒の席では笑うものだという常識すらないらしい」
その女が端正な顔を歪めたまま、はや30分ともなろう。祝いの席だからといつものケンカを売るような絡み方を自重していた同席者、筋骨隆々のドワーフは、流石にとうとう我慢できなくなったらしい。上記のようなセリフを向かい側のエルフに投げつけた。
それに対してさらに彼女の眉は急な角度を作る。有り体に言って、非常に不機嫌である。
「野蛮なドワーフにとっては、この程度の食卓でも笑顔を見せるに値するのだな。知らなかったよ、勉強になった」
「こら、
“この程度”という言葉を聞きつけた厨房に立つ酒場の主人から
そんな様子を目の前にして。全く持って美人は得だなと、目に余る言動を注意しようとした金髪の
ドワーフとエルフ。二つの種族の折り合いが悪いのは広く知られていることだ。それが近くで実害を伴って起こり、さらに巻き込まれるとなれば、酷く憂鬱な気分になるのは当然。
このパルゥムにとってもその“当然”は適用される──とはいえ、彼も彼で常識人ぶったツラで二人とは違うと言わんばかりにため息など吐いているが、聞くに堪えない口喧嘩をこのドワーフとエルフ相手に盛大に勃発させた過去がある。(それもたった2日前に)
というわけで、本人たちがどう思いどう感じているにしろ。傍から見ればなんとも五十歩百歩なトリオであった。今日はたまたま、本当に一年に何度あるかわからない奇跡として、パルゥムの常識度が高かっただけであって。
「ほらほら、ケンカはやめぇ。今日は初めてのクエスト成功記念なんやろ? ちょっとは仲良くしいや。──ま、ここでおっぱじめるなら? それはそれで? おもろいけど?」
「「「黙れ
「んふふ──はぁい」
火花を散らし合う三人の
そう、この友情度0の凸凹トリオは、なんの間違いか同じファミリアの所属の冒険者なのである。この酒場で今夜初めて出会った者同士であるならば、それはどれほどの救いであったことか。
残念ながら現実は非情! 実際のところはひと月の間パーティーとして共に行動した関係である。しかも今日はクエストまで一緒にクリアしてきた間柄。そのクエストの中でどれほどお互いの足の引っ張り合いがあったかは彼らの名誉のためにも伏せておくが。
とにかく、お互いの価値感すらバラバラ、かといって歩み寄る気も全くない我の強い3人組(ロキを罵倒するときだけ心が一致するものとする)は、イマドキこの世界で毎日掃いて捨てるほどに生まれている“新興ファミリア”という奴なのである。
それぞれに輝かんばかりの才能があり、そのくせにお互いの足を引っ張り合うせいでそのポテンシャルを台無しにしている一党。新興のファミリアにしては有名である。そうした不名誉な理由で。
「──ともかく! この油でギトギトの肉も、塩っ辛い揚げ芋も、のどにへばりつくだけの
「なにおう? ワシから言わせれば、お前らほそっこいエルフの食事は薄っぺらな味で食う価値もないわい。なにより酒と合わん! その一点だけで無理じゃ」
「二人ともさあ、祝いの席でそんな口論するもんじゃないよ。もっと知性ある会話をしないと、まったく野蛮だな」
「知性? はっ、お前のそれは知性などと大層なものじゃのうて小賢しいというんじゃ。背も心も誇りも小さいちびすけに言われとうないわい!」
「そのご自慢の知性とやらで考えているのは、どうやって身の丈に合わない虚飾を繕うかという涙ぐましい悪あがきだろう。全くもって品のない」
「──言っていいことと言ってはだめなことの区別ぐらいつくと期待した僕が馬鹿だったよ。僕より背は大きくても、
「一触即発ぅ! これはこれでおもろいけど、ずーーーーーっとこれじゃ食傷気味や! どっかに天の助けはないんかー! このとがった三人組をマイルドにしてくれる潤滑油のような存在を、我がファミリアは募集しておりますぅ!」
売り言葉に買い言葉、あっという間に修羅場に変化した食卓。女心や秋の空よりもうつろいやすい(しかもいつだって悪い方向に)空気に、天下のトリックスターもお手上げである。
いずれ3人が信頼し合う仲間になってくれることを信じているロキは、今しか見れないだろうこうした口論を楽しむ反面、そろそろ代り映えしない光景にも飽き始めていた。神ロキ
非人間的な神々であるはずのロキは、いまこの時だけは愛する子供たちと同等の感性を享受していた。絶対に嬉しくはないだろうけど。
──なんにせよ、ロキのボヤキとも嘆きともつかないその叫びに、いかなる運命といかなる機会が絡まったのか。それを紐解き終わるのはもう少し先の話になるだろう。
「──なあなあ、そこの三人組さん! そしてその三人の主神さん!」
「──んぁ、なんや自分」
「見たところ戦士に魔法使い──そしてそこのパルゥムさんは、えーと?、僧侶か武闘家か旅芸人か、はたまたスーパースターか……ま、なんにせよ! バランスよさそうであと一歩足りない!的なパーティー編成してらっしゃいませんか!?」
「なんだお前は。いきなり現れて騒々しいぞ」
「胡散臭い奴じゃのう」
「……旅芸人? スーパースター? それって僕の事? だとしたら苛つくな」
決して余裕があるわけではない、なんなら食事と酒でパンパンのテーブルに、無理やりジョッキを滑り込ませてきた陽気な男。勢いがつきすぎてジョッキから零れ落ちた酒に手のひらを濡らされながらも、そんなことを気にせず笑っている。
テーブルの主たち4人の内3人から冷たいまなざしを向けられながらもひるまないその様子には、非常に大物めいたものを感じる……やっぱり感じないかもしれない。ただ酔っぱらって周り見えていないだけだこれ。
酒が入っているためか
ふにゃふにゃの表情筋のせいで顔面偏差値の測定こそできなかったものの。美男美女に鋭いロキは「酔ってわけわからん感じでさえなければウチ好みの美形や!」と、心の中で直感した。なんなら半分ほど口に出した。酒に飲まれた神は口が緩かった。
「美形だってぇ、えへへぇ、嬉しーなー! ありがとー、かみさまー!」
「おおう、おおおう。酔ってるとはいえ
喜色を浮かべながらロキの肩を組んでくる男。神に対する態度としていささか以上に無礼だが、ロキはその器の大きさからそれを不問とした。ぶっちゃけイケメンと美人ならほとんどのことを許せる器だった。たとえそれが酒クサ残念イケメンでも。顔は正義なのだ。
「で、本題はなんや。まさかウチのこと口説きにきたわけちゃうやろ」
「──そうそう、そうだった。ねえ凸凹トリオファミリアさん、このオレを新人として迎え入れてはくれませんか!ってね。つまりそういうことなんだよ」
「ほーん、ファミリアの入団希望か。そりゃまたウチを選ぶとは剛毅なやっちゃな……」
実際、新興ファミリアの中でも特に(悪い意味で)有名なロキファミリアに入ろうなんてもの好きがいるとは思わなんだ、とロキは素直に驚いた。なんなら酔いがちょっとさめるレベルで。
「一応聞くけど、なんでウチなん?」
「え、だってさっきもう一人欲しいなー、みたいなこと言ってたから」
「ああ……」
険悪な3人を上手く中和できるやつ欲しい!と叫んでいたのは確かだが、まさか本当に来るなんて。
「あとは、そうだね、さっき言ったけども、なんかあと一歩足りない編成してんじゃん?」
「どういうことや」
「前衛物理のドワーフさん、後衛魔法のエルフさん、多分中衛遊撃のパルゥムさん。バランスがいいけど、物足りなくないかーい? 君たちが不仲そうで互いに足引っ張ってそうなのを差し引いてもさあ!」
「……確かに最近の探索では行き詰っているが。それはこいつらが不甲斐ないせいだ」
「なんじゃと! ワシではなくお前らが貧弱じゃから──」
「いいや、君たちが考え無しだから足を止める羽目になってるんだろう」
男の指摘にぎゃいぎゃいと反論するトリオ。なんなら責任転嫁し合う始末。ちょっと余りに不仲すぎひんか、とロキは人知れず涙を流した。
とはいえ酔った勢いで喋っているだけの癖に、男の指摘は決して的外れでも無かった。冒険を始めて一か月。恩恵授けたての初心者ボーナス期間が終わり、ステイタスの伸びが鈍ってくる頃だ。つまり個のチカラが成長しにくくなってくる時期にトリオは差し掛かっている。
なまじ才能があったためお互いの足を引っ張り合いながらでもダンジョンを攻略してきたが、それは(この時期の新人にしては)圧倒的高水準の個人技が圧倒的低水準の連携を補っていたから。これからはそうもいかない。
というか普通、この時期にはパーティー内での連携が固まってきて、伸びにくくなってきた個人力を連携でカバーしながら冒険するすべを新人冒険者は学ぶのである。こと凸凹トリオにおいてそれは望めないだろうが。前衛・中衛・後衛でバランスが取れてるくせに、連携がゴミカスのせいでまったく活かせていないのである。
つまりロキファミリアは行き詰まりを感じていた。どんな手段にせよテコ入れは急務だった。そのテコ入れの一種として、メンバーの追加は悪い手ではない。それこそ、ロキがぼやいていたように潤滑油になる人材ならなおさら良い。
「──つまりは自分、自分ならこの3人を仲良う連携させられる自信があるってことか?」
「まさかあ、そんな話しとらんが」
「あっれぇ?」
そういう話だったのでは? ロキは訝しんだ。
「まま、でもこうしてお誂え向きな感じで役職が被らない
「???」
「というわけで!、オレもファミリアにいれて!」
「どういうわけやねん!?」
ロキは長い長い
「つまりはさあ、このオレが、この
──いつかきっと、勇者になる男だからね!」
琥珀の瞳に希望と夢を滲ませて。
とにもかくにも。駆け出し冒険者たちの集う、場末の大衆酒場の一席で。将来に迷宮都市オラリオの両翼と呼ばれることとなる最強派閥、ロキファミリアは。
3人から4人へと、人数を増やすことになったのである。
「──で、自分それだけ自信満々ってことは、名の知れた冒険者だったりするん?
「まっさかあ、そんなのいらないよ。だって初めてファミリアに所属するからね!」
「どないやねん!」
最後まで読んでくれてありがとうございます!
一応次の話まで投稿してるので、見てやってください。