転ヴェル、転生したらヴェルドラだった件 P.S.タスケテ   作:転生しても物書きだった件

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伏線貼るのがめんどうになりました


8話

マスクが粉微塵になり現れた顔。

焼け焦げ、雷に撃たれ、激流に揉まれ、声すらも届かぬ空間を体感した魔人は地に伏せる以外の選択肢は無かった。

 

「ゲルドォォ……俺を…………父を助けろぉぉぉぉ!!」

 

声色すらも変わり、自分が擁立した豚頭帝(オークロード)に未だ指図をする姿は滑稽と言えるだろう。

……どれかの耐性は獲得するかと思ったのにそれすらも無いのか。

 

「ヴァロ、やりすぎ」

「やりすぎぐらいが丁度いいのですよ。少なくとも僕はこの地を守る存在として鉄槌を下す責務があるものですから……おや?」

 

瀕死のゲルミュッドに対して行われたこと。

それは……格好の養分と判断した豚頭帝(オークロード)にその体を生きたまま頭から食われることだった。

ベキッボキャと食われ嚥下され胃袋に接種された魔素は魔物を進化へと至らせるに充分なほどだ。

 

「……少々面倒な。魔王種を獲得される前に討伐したかったものですが」

「いいさ、どっちにしろ仮面の魔人も倒さないといけなかったからな。むしろ、ひとつになってくれて好都合と考えようぜ?」

 

魔王種と化した豚頭魔王(オークディザスター)ゲルドが吼える。

種のため、己が欲望を満たすため。

この地を踏みにじり蹂躙した後に目指すものは……

人間への侵攻かそれとも……

どっちにしろ、どんな道筋を辿ろうとも多くの魔物や人間の命が失われるだろう。

豚頭魔王(オークディザスター)の性質上、人間の魂が集まるのは一瞬だろう。

その魂を糧に真なる魔王へと覚醒されると戦火はさらに大きくなるだろう……

 

「となるとギィが出てくる可能性も……」

 

究極技能(アルティメットスキル)獲得には至って無いもののユニークだけで本来は警戒すべき脅威のはず。

確実にここで倒すためにはリムルとゲルドを食わせ合わすことが1番でしょうか……

 

「なぁヴァロ、一緒に死んでくれるか?」

「心中ですか、流行りませんよ?」

 

まあ、リムルが死ぬとリムルの腹の中にいる僕の本体も消えるので死ぬのは変わりませんが。

 

「たっく、ロマンが分からないやつだな。こんど漫画でも読んどけ」

 

バシッと背を叩かれリムルは前に出る。

しかしだ。

その時、ぞわりと精神体が揺さぶられた。

 

聞こえるのは懐かしい声

そして、イラつきすらも覚える

『貴様、まだ目を通しておらんのか!』

轟く風まとわりつくアホさ

 

「……ッ!」

 

頭を抑える。

僕はヴェルドラ。この世に現存する竜種の末弟。

水と風、祝福を司る存在。

そのはずだ。

 

「な、なんだ。当たりどころまずかったか!?」

「違う……僕の……僕は……ヴェルドラ……?」

 

兄さんが死んだ時。唯一究極能力(アルティメットスキル)を受け継がれられなかった竜種。

いまだにその域に達せれぬ封印された邪竜……

邪竜……違う。僕は加護を与えた。それ故に彼女に付けられた渾名は晴嵐。

あの勇者……●●●●に付けられた。

晴れ渡る霞とも呼べる加護の竜……

兄を吸収した竜屠者(ドラゴンボーン)……

兄を……?星の竜たる兄さんに僕が勝てるはずがない。

僕は何に勝った……

何を得た?

 

「リムルごめん……少し眠る……勇姿は見とくから……」

 

それだけ言い残しボクは本体へと戻る。

齟齬の発生した記憶のピースをはめ直すために。

 

※※※

 

リムルの体内にて目を開く。

そこにはイフリートと……もう2体の竜。

黒き鱗を持ち空色の瞳を持つ、翼と腕が同一化した竜。

僕の本体。

そして、何かを読んでいる翼と腕が別の一般的な黒い竜。

黄色い瞳を持つ邪竜。

 

「ようやっと帰ってきおったか。愚弟よ」

「うるさいよクソ兄貴」

 

僕の兄ヴェルドラ。

そして僕は玲瓏竜ヴェルゼルード。

()()の竜種の末弟にして、空間と水、土を司る加護をもたらす賢竜。

僕はひとつのスキルを使う。

数百年使うのを封じていたスキル。

無貌之王(ファラオ)それを使う。

黒い鱗は輝く。パキパキと空色に亀裂が走る。

 

「寂しいでは無いか。我に勝利してから380年もシカトとは」

「……イフリート、兄貴と将棋でもしてて」

「……はい?」

「いや、あの兄貴と話すのも面倒で」

「兄と弟の語らいぐらいしようではないか!ヴェルゼルードよ!」

「やだ!絶対にヤダ!」

「わがままを言うでないわ!」

「その言葉そのまま返す!」

 

ギャイギャイと数百年ぶりの兄弟喧嘩を行う。

 

「貴様、兄上に次いで婚姻を結ぶとは思うておらなんだわ!」

「奥手なヴェルザード姉さんと貧乏くじ担当のヴェルグリンド姉さんがおかしいだけだろそれ」

「お前それ姉上達の前で言うでないぞ!死ぬぞ!?」

「うっさい!どうせここの会話は大賢者とここにいる3人しか知らないからいいんだよ!」

「ヴェルゼルード殿……?話口調が違いすぎませんか?」

「……」

 

顔を真っ赤にする。

そうだった。この兄と喋るといつも知能指数が下がってしまう。

 

「落ち着け……今日は記憶の再生をしに来たんだ。落ち着け……」

 

無貌之王(ファラオ)の力を使い、別人格として分けていた記憶を呼び起こす。

あやふやだったことが鮮明に過ぎる。

僕は死に、竜としての生を受けた。

持ってたスキルは

他者との繋がりを恋焦がれたスキル以心伝心(ツタエアウモノ)

そして、英雄への憧れから生まれたスキル竜屠者(ドラゴンボーン)

 

「して、リムルがいっておった漫画だが。お前には明治剣客……」

「邪魔するなよ!?」

 

バラついた思考をもう一度まとめる。

 

「イフリートよ……弟が怖い……あれは反抗期と言うやつか?」

(ちゃらんぽらんな兄が嫌いなんだろうな)

 

僕が身を寄せたのは吸血鬼の国。そこに居たのは真祖の姫。

彼女と交友を含め、彼女の理想に共感し

それを叶えた。加護を与え、第二の生にたしかな感触を感じてる時に●●●●がいった。

この国はヴェルドラに攻め込まれて焼け野原になると。

 

「……それを阻止しようと決闘して勝ったのはいいけどスキルが発動したのか……」

 

強烈な兄の意識ごと魂や魔素を使いどころが全くない竜を食べるスキル竜屠者(ドラゴンボーン)が発動。

それにより兄がこうして体内にいるのだった。

 

「なあなあ。イフリートは我の方が付き合い長いよな?どう思う?」

「ヴェルゼルード殿の苦労は理解しております」

 

ひとつの体に2つの意識は不要。それにより解離性同一性障害を参考に生まれた精神の檻に兄を投獄、ないし封印し。

その時に僕だけの僕による究極能力(アルティメットスキル)を得た。

 

「して、リムルに我のことはいつ紹介してくれるのだ?」

「ちょっと立て込んでるから後にして……」

 

無貌之王(ファラオ)により世界全域の究極能力(アルティメットスキル)を持たぬものを初めとした一部以外にヴェルドラとヴェルゼルードは同一の存在であると誤認させることだった。

 

「……それは僕自身すらも対象だった?馬鹿なの死ぬの?」

「ほら、今も頭を抱えておりますよ」

「あやつは昔からケアレスミスが多かったからな。まあ、可愛げのある弟だろう?」

「数百年も気が付かないのはもはや天然では?」

「天然ジゴロだしな」

「外野二人うっさい!」

 

こーんなことをしてる場合じゃない。

リムルは魔王種との戦闘を開始してしまった。

それをどうにか援護しなければと言うのに……

 

「無限牢獄の解析など暇だからとはいえ我はせぬしなぁ……やはり根が真面目なのだろうな」

「なるほど。確かに、ヴェルゼルード殿が残した指南書はだいぶわかりやすくまとめてられましたね」

「……何の話?」

「ヴェルゼルードよ。自身のスキルは把握した方が良いぞ」

 

何をどうすればいいのか何も分からない……

 

「しかし、吸収されたとはいえ我がスキルを我流に昇華して自分のものへとするとは脱帽したぞ。さすが兄上に究極能力(アルティメットスキル)は不要と判断された逸材だな!」

「え、そうなんです!?ヴェルダナーヴァ兄さんがそんなことを!?」

「やはり兄上の話には食いつくな……どうせ数百年もせぬうちに身につけるだろうと与えられなかったのだ。現にすぐに身につけよったしな」

「なるほどなるほど……僕は兄上に見捨てられたものだと……」

「いや、お主を見捨てようとしたのはあの勇者ぐらいじゃろう。しっかもやけになっておったしな」

「勇者……?」

「そこは覚えておらぬのか」

「●●●●のこと?」

「扱いが名前を言ってはいけないあの人と同義なのか……?」

「……なるべく思い出したくない」

 

黒髪のあの子のことはなるべく後回しがいい。

今はなんというか……触れるべきじゃない。

 

「自認したとなると……いやでも。表社会に彼女は面倒だから出てこないしいっか……」

「にしても人間の体か。羨ましい限りだ」

「羨ましい……?出力も全然出ないし、小さくて空飛ぶのも一苦労だけど」

「何を言うか。この漫画(セイテン)に記載されている技は人間のものが大半なのだぞ!お前も卍解などしてみるといい!」

「バンカ……なにそれ?」

「貴様転生者なのに忘れおったのか!」

「いやだって何百年前のことだと……」

「ええい!その体貸してみよ!」

「うわっ!入ってくるな!」

「その刀は飾りでないだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしてるうちにリムルは魔王種を捕食。

全ての事なきを得、夫となった初仕事の最中なぜか消えた魔人の名を手にしたのでした。

ユルシテ


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