ある日のエヴァンジェリンの別荘の中。
何やらふかーい溜息を吐く少年が一人、それはネギだった。
「ハァ…………」
体育祭が終わってからというもの、なんかずっとこんな感じのネギ。
朝から晩までずっと溜息を吐き続けていた。
「なんだよー、この前からずっと辛気くせーため息なんてついてさあ」
「あっ、兄さん」
「どったん? 悩み事かね? 相談乗るぜよ?」
「うーん……、兄さんかぁ……」
そこへカギが現れて、お前それ少年のすることじゃねーだろ、と文句を言いに来た。
ネギもカギが寄ってきて話しかけてきたことに気が付く。
で、カギはネギがため息ばかりなのは悩みがあんだろうな、と察したので聞けば、カギに相談はなあ、と腕を組んで悩みだす。
「なんでそんなに不満そうにすんだよ! 酷くねえかなあ!?」
「いやあ、でも今の悩みは兄さんだと不向きかなあ、って……」
「いいから言ってみろよ? アドバイスできるかどうかは聞いてからじゃないとわからんぜ」
「まあ、確かにそうだね」
それを見たカギは、俺じゃダメなのかよ! とちょっと怒った様子でつっこむが、ネギとしても今の悩みはカギには荷が重そうだな、と思っただけだ。
それでも話すぐらいしてくれよ、とカギが言うと、話すぐらいならまあいいか、と納得したネギは、今の悩みをカギへと打ち明け始めた。
「体育祭でのどかさんと一緒になって、それで色々と考えてしまって……」
「あー、…………どういうこと?」
ネギの悩み、それはのどかのことだった。
のどかが自分をこんなに好きでいてくれているのに、自分は何も返せてないことに悩んでいたのだ。
が、ネギはだいぶ端折って語ったせいか、カギはまったく理解できていなかった。
「……つまり、僕がのどかさんの気持ちをないがしろにしてるひどい男なんじゃないかなって……」
「なるほどー。のどかをキープしてるクソ野郎って思っちゃったのね」
「うん……、なんか兄さんにそれ言われるの一番キツい…………」
「酷くね!?」
カギの頭に????が見えたネギは、しっかりと説明を始める。
自分ってのどかの気持ちを知りながら、横でニコニコしているだけの最低な人だよね、と。
で、カギもそれを聞いて、なるほどと理解しながらクソ野郎とはっきり言葉にしたのを聞いたネギは、流石にそれをカギから言われて強いショックを受けて項垂れた。
とは言え、なんで自分に言われてそんなにしょげてんだよ、とカギはむしろ怒りたい気持ちだった。
「でも返事はのどかの卒業の時までにはしますって約束してんだろ? だったらその間にじっくり考えればいいじゃんかよ」
「そうだけど……」
「つってもさぁ、こういうのって好きかそうじゃないかの話だしなぁ……」
ただ、カギはネギがのどかへと卒業式までには返事を返すと約束しているのを知っている。
なので、その時までに答えを出せばよくない? とアドバイス。
とは言え、修学旅行の時にアスナに相談した時は、とりあえず友達でよくない? と言われてそうしたし、ずっとそのままの状態だ。
だからこそ、本当にそれでいいのかどうか迷っているのがネギだった。
カギは悩めるネギを見て、こいつ本当にクソ真面目で頭が固いな……、と思いながらも、自分の考えを語って諭す。
ぶっちゃけ恋愛なんて好きか違うかの二択しかないだろう、と。
「ガチで好きになりゃOKすりゃいいし、そういう対象には見れませんならNOしかないだろ? 俺も今後者扱いだ泣きそう…………」
「あっ、うん……」
で、好きになったら付き合えばいいし、そうでないならごめんなさい、それだけだろう、とカギは言った。
さらにカギは夕映から、その”そういう対象に見られてない”のが自分なんだよね、と言って自傷行為に走って涙ぐむ。
ネギはカギがそうなった経緯の一部を担ってしまったので、どう声をかけていいやら、と困った様子を見せていた。
「それに卒業前にのどかのこと好きになっちゃうかもしれんだろ? そん時また悩みなって」
「う、うん……」
と言うか、卒業式前までに考えが変わるかもしれんだろ? 何かしらがあって気持ちが変化するかもしれんだろ? と、その可能性だってあるんだから卒業式前にでもまた考えろよ、とカギはあっけらかんと言っておく。
しかし、ネギはあまり納得した様子ではなく、本当にどうしたらいいのか、と頭を悩ませるだけだった。
…… …… ……
ここは麻帆良学園の男子寮の一室。覇王と状助の部屋である。
外はすでに秋の色となっており、気温も下がりだいぶ寒い時期となっていた。
「なぁ……。最近、アスナのヤツが付き合い悪くてよぉ……」
「へぇ? 珍しいね? 君が何かしたんじゃないのかい?」
状助は今抱えている悩みを、覇王へと打ち明けた。
その悩みとは、いつもなら暇な時は平日もだが、何もない休日には大体顔を合わせてくれるアスナが、最近ぱったり姿を見せなくなったことだった。
覇王もアスナと状助が頻繁に会いに行ってるのを知っているので、変だな、とは思ったりしていた。
ただ、その原因は状助じゃないの? と覇王は思っており、それをはっきり言ってやる。
「いやー、それがあんまり思いつかなくてよぉ……」
「何もしてないのにそんなことになる訳ないだろ? 些細な事でもいいから思い出してみなよ?」
「うーむむむ……」
だが、状助も当然それを何度も思い出して悩んでおり、思い返しても心当たりがない様子。
が、んな訳ないだろと覇王は告げる。何もないのにあのアスナが、そんな理不尽な態度とるはずがない、と思っている訳で。
だったら、なんだ? と状助はさらに些細なことでも見逃さないように、自分の記憶の中を手探りで探し続ける。
「────あっ!」
すると、状助は何か思い当たったのか、突如として声を上げた。
「思い当たることでも?」
「そういやよぁ、結構前にお姫様抱っこした時があったなぁ」
「なんでそんなことを……?」
覇王はそんな状助を見て何かあったのかと聞けば、状助はやったことを覇王へと説明。
それは一か月前ぐらいに顔を合わせた際に、抱き上げて家まで送った時のことだった。
とは言え、状助の説明は少し不足しており、覇王はなんで状助がそんな行動に出たのか原因がわからなかったので、訝しんだ表情を見せる。
「いや、調子悪そうにしてたんで、暑さにやられたのかと思って焦っちまって……」
「ああ、確かに10月入る前、やけに暑かった日があったね」
「そうそう! その日だぜ!」
状助は足りなかった部分の説明を覇王へと聞かせれば、覇王もその日の暑さを覚えており、あったあったと言葉にすれば、状助も相槌を打つ。
「なるほど……。でもそれが悪かったんじゃないのかい?」
「そ、そうかもしれねぇ……」
「わからないなら本人に聞いてみなよ」
「だから最近顔を見せてくれねぇから聞けねぇって言ってんだぜ?」
なら、その行動が原因だろと覇王が言うと、状助も肩を落として確かに、と反省。
とは言え、それが本当に原因かは不明なので、本人から直接理由を聞いた方がいいと覇王は言う。
されど、会えないからこそ聞けないと、状助は困った様子だ。
「携帯で連絡すればいいだろ?」
「してるんだけどよぉ……、なんつーか反応が変でよぉ……」
「ふぅん?」
聞くだけなら携帯使えよと覇王が言うも、状助は当然の如くやっている。
だけど、アスナの返答が妙におかしくて、何が悪いのか聞きだせていなかったのである。
覇王もそんなことあるんだ? と言う様子で訝しむ。
「じゃあ、僕が木乃香に連絡してどうしたのかを明日菜に聞いてもらってそれを教えてもらうよ。一緒の部屋だろ?」
「おおー! お願いします覇王様!!」
「覇王様はやめてくれないか? 本当に」
「わ、悪かったよ冗談だぜ……」
ただ、これじゃ原因がわからないままになると思った覇王は、木乃香に連絡してみることにした。
木乃香とアスナは寮で相部屋だ。木乃香に何があったのかを聞いてもらうのが一番だと覇王は考えたのである。
で、それを言われた状助は、へへー! と平伏して頭を下げ始めたではないか。
だが、覇王は自分のことを「様」つきで呼ばれることを嫌う。なので、覇王からはかなり冷淡な声が出た。
まあ、今のは冗談だったので状助はもう一度頭を下げて謝り、覇王はため息を吐きながら木乃香に連絡するのだった。
…… …… ……
そして、こちらは麻帆良学園の女子寮。アスナと木乃香の部屋。
「なあー、はおから聞かれたんやけど、アスナ、状助と喧嘩でもしとるん?」
「え? してないけど……?」
木乃香は覇王から連絡を受け、そのことをアスナへとすぐに伝えると、アスナはよくわからないと言う顔を見せる。
「何かあったんですかー?」
「最近アスナが付き合い悪ーて困っとんのやけどって状助が言っとるって、はおが聞いてきたんよ」
木乃香の持霊となって同じ部屋に居候化したさよが今のことを質問すれば、木乃香は普通に答えてアスナを見る。
「一体どうしちゃったんですか? いつもはそんなんじゃなかったですよね?」
「えーっと……」
「言いずらそうなことなん?」
「あー……、そうね……」
さよも状助とアスナの仲をよく知っており、頻繁に顔を合わせに出掛けているもわかっているので、何があったのかをアスナに聞くと、アスナはどう返答したらいいか迷うような様子で悩みだす。
そんなアスナの神妙な態度に木乃香は何かを感じ取ったのか、じーっとアスナの顔を見ながらそう質問するが、アスナは言いづらそうな様子で目をそらしてはぐらかそうとした。
「怪しー! 何かあったんやろ!」
「確かに怪しいです!」
「……ま、まあ……、このかとさよちゃんになら……、教えてもいいかな……?」
「聞かせてーな!」
「お願いしまーす!」
すごく、すごく何かを隠している態度のアスナに、木乃香は訝しみ大声を出せば、さよも同調してアスナに詰め寄る。
その二人の態度を見たアスナは流石に隠しきれる感じじゃないと悟り、観念したかのように話すことにした。
そんなアスナの前に二人はニコニコしながら座り、いや、さよは少し宙に浮いているが、アスナが話し出すのをご機嫌な様子で待機。
「……えっと、……そのね」
そして、アスナはゆっくりと二人に、今の気持ちを打ち明けた。
この前状助に会って会話して、仮契約でキスしたことを思い出して、自分の気持ちに気づいてしまったということを。
そのあと状助の顔をまともに見れなくなってしまい、最近会うことを避けてしまっていると。
「……前から好きやったんとちゃうん?」
「ずっとそうだと思ってたんですけど……」
「え?」
「前々からアスナの状助への態度って、明らかにそんな感じやったし」
「そうそう! 結構頻繁に会いに行ってましたし、てっきりそうなんじゃないかって思ってたんですよ」
「そ、そう……? 全然意識してなかったけど?」
が、木乃香はもうかなり前から、アスナは状助のことが好きだったのではないのか、と言い出した。
さよも同じ考えだったようで、むしろ困惑した様子を見せる始末。
なのに二人からそう言われても、ポカンとしたアホっぽい表情をしているアスナ。
二人の言っていることが、いまいち実感として感じられていないのである。
と言うか、頻繁に会いに行って話し合ったり歩き回ったりしてるの、これ他の人から見ればデートでしょ。
状助と一緒にいる時のアスナは思いのほか嬉しそうだったし、これもう好きじゃない方がおかしいでしょ。
そう木乃香とさよは思っていたので、今更だなあ、と言うのが正直な感想だった。
されど、アスナ本人は二人にそう言われても、何が? と言う感想しかでない。
最近すごく好きだと意識したけど、その前は全くもって意識なんてしてなかったからだ。
それに、そんな気持ちに気づいていればもう少しこう、自分の身の回りにも意識を向けるんじゃないの? と思ったアスナ。
実際、状助相手にそんな風に思っていたことなんてなかったので、状助の前で着飾ろうとしたことなんて今までなかったし、しようとも思ったことがなかった。
学園祭の時にあやかからそれを言われても、ないな、と本気で思っていたぐらいだ。
「そうだったんですか!?」
「無自覚やったんかー。なるほどなー」
「そ、そんなはず……、ないと……、思うけど……」
今まで意識してないのにあんな態度だったの!? とさよは驚き、木乃香はむしろ納得と言う様子で腕を組んでいた。
が、木乃香からそう言われても、やはり実感がないので多分、と言う自信のない様子で声を出すアスナ。
「それでよーやく意識してもーたってワケなんやね?」
「そ、そうなるの……かな?」
「それで気恥ずかしくなってしもーて、顔を合わせづらくなってもーたんやね?」
「うん……」
なるほどー、今更意識しちゃって、意識しだしたらとたんに恥ずかしくなって、どうしたらいいのかわからなくなったって訳かー。
と、木乃香はそう言うことね完全に理解した、と言う様子で後方親友面を始めた。いや間違いなく親友だが。
そうはっきり言われたアスナは、俯いて顔を真っ赤にしてしまっていた。
ここまで自分の気持ちを正確に言い当てられてしまっては、恥ずかしくなってしまうのも仕方ない。
「きゃー! アスナかわええなー!」
「ほんとーですー!」
「うっ、うっさい……。さよちゃんまで……!」
もうすごい恋する乙女モードのアスナを見た木乃香は、めちゃんこ晴れやかな笑顔でアスナに抱き着けば、さよも近寄ってきてよしよししてきた。
ウチの親友可愛すぎでしょ。こんなかわいい顔できるなんて知らんかった、と言う様子だ。
アスナはもはや抵抗すらできず、恥ずかしい気持ちを我慢して悪態をつくことしかできなかった。
「ほな、はおに連絡して教えとこ!」
「えっ!? ちょっと待って!? 待ってダメ!! ダメったらダメー!!!」
「せやけど、はおから教えてって頼まれとるからなー」
まあ、状助の悩みの理由も今判明したし、さっそく覇王に伝えとくか、と木乃香は携帯を取り出し始めた。
が、アスナはそれを直接伝えられたら、もう恥ずかしすぎて死んでしまうと思い木乃香へとストップを叫ぶ。
そりゃまあ、今更状助に惚れちゃったから顔見せたくなかったなんて馬鹿正直に教えたら、顔を合わせられないどころじゃなくなってしまうからだ。
されど、木乃香は表向きには覇王からの依頼を完了したいだけ、って態度を取った。
で、どうしようかなー、とニコニコしながらアスナを見て、少し考える素振りを見せる。
「さっ、流石にそのままを教えるのは……、ちょっと……」
「確かに恥ずかしいですよねー」
なので、アスナはとりあえず自分の内情全部暴露されては困るので、頼むからやめてほしいと木乃香へ照れながら言う。
まあ、木乃香はこんな状態のアスナを見て、いやー本当にかわええ! と思ってニコニコしているのだが。
とは言え、それじゃアスナがいくら何でもかわいそうと思ったさよは、アスナの味方をすることにした。
「んー、そんなら、アスナが状助と会うっちゅーんならええよ?」
「変な誤解されたままなのはよくないですもんね!」
「う、うん……。とりあえず誤解は解いとく……」
ただ、木乃香は意地悪でそんなことを言っていた訳ではなく、状助とのわだかまりを無くしてもらおうと思ってそうしただけだった。
さよも会って話し合った方がいいと頷き、アスナも木乃香がそこまで言うなら、と観念した。
「なら、最近疲れ気味ってゆーとくえ」
「お願いね、ありがと……」
とりあえず話がまとまったので、木乃香は適当な理由をでっちあげて覇王に伝えておくと言えば、アスナもそれでお願いと言って礼をする。
「……でも、このかはすごいよ」
「んー? なんのこと?」
「だって、このかは覇王さんとすごい密着できるし、押せ押せだし、私にはあんなことできないわよ……?」
「確かに!」
と、木乃香が連絡を終えたところで、アスナがふと木乃香のことを褒め出した。
木乃香は褒めらるようなことしたっけ? と首を傾げれば、その内容をアスナが語り始めた。
何せ木乃香は覇王に対して滅茶苦茶イケイケな態度を取りまくっていた。
腕を組むのは当たり前、体をくっつけて歩くのは基本。アスナは恋心を知ったからこそ、自分じゃそんなこと無理だと思い、木乃香のあの行動力に改めて驚かされたのだ。
さよもなんとなーく、感覚で理解した様子で、うんうんと頷く。
あれほどまでの好き好きムーブができるのは、驚くことであると。
「だってウチ、はおのこと大好きやからねー」
「恥ずかしいとか、そういうのないの?」
「そうやなあー。確かに恥ずかしいんやけど……、それ以上に一緒にいたいんやよ」
「このかさん覇王さんのこと好きすぎますもんね」
ただ、木乃香は本当に本当に覇王が好きなだけ。理由などそれ以外ない。
アスナはそういう木乃香へとそう聞けば、当然木乃香とて恥じらいはあると言う。
それでも覇王が大好きだから、一緒にいたくてそうしている、と輝く笑顔で木乃香は言い放った。
さよも木乃香の言葉に、いやーあつあつですねぇ、と思った様子で微笑んでいた。
「このかのそういうとこ、本当すごいって思うよ」
「えへへー」
やはり木乃香の真似は無理だなー、と思ったアスナは、大胆な行動ができる木乃香へと尊敬のまなざしを向ける。
好きだから、一緒にいたいから、ただそれだけで恥ずかしさを超えて行動ができる。それは本当にすごいことだと、アスナは思ったのである。
なんかアスナに褒められまくった木乃香は、こそばゆいなあと思いながらニコニコ笑ってアスナに抱き着く。
その横でさよも、後方親友面して笑いながらうんうんと頷いていた。いや、さよも当然親友なのだが。
で、とりあえずアスナは状助に連絡し、今度会おうと約束を取り付ける。
なんか突然初々しい態度になったアスナを見ていた木乃香は、ええなあ、とほっこりしたのであった。
…… …… ……
そして、次の休日に麻帆良の喫茶店で待ち合わせた二人。
「よぉーう、なんかすごく久々だなぁ」
「そ……、そうね」
地味に一か月ほど顔を見てなかったが故に、妙に長く感じた様子の状助は気軽にアスナへ声をかける。
実際、ここまで長く会わないことが今までなかったのは間違いない。そりゃ二人があんな顔する訳だ。
逆にアスナは妙に緊張した様子で、挨拶もいつもより声が小さかった。
まあ、好きなこと意識した男の子に会うのだから、こうなっても仕方ない。
それに地味にちょっとだけ着飾ってみたりしてみたのもある。
いきなりおしゃれして出てくるのは不自然すぎて変だと思われるから、ほんの少しだけ、いつものような動きやすいラフな格好じゃなくて、この前メトゥーナトに買ってもらった、ちょっとしたお外にお出かけ用のゆったりとした服でこの場に臨んでいたのだ。
「なんか、悪かったな……、この前はよ。ちょっと焦っちまってあんなことを……」
「別にもういいのよ。私を心配してくれてのことだっだし」
「まあ、そう言うなら……」
ただ、自分のやらかしだと認識した状助は、あの時の醜態をアスナに謝る。
もう少しアスナの話を聞いて行動するべきだった、ちょっと自分の心配を押し付けすぎてしまったと。
とは言えあの時の状助の行動は、確かに話を聞いてくれなかったけれども、それでも自分のための行動だったとアスナは思っている。
なのですでに、と言うか、最初から状助の行動自体は、そこまで気にしてはいなかった。
状助もアスナに気にしてないよと言われれば、少し反省した様子を見せながらもそれ以上引きずることはしなかった。
「あと、別に状助が何かしたから会わなかったってワケじゃないし……」
「疲れ気味だったかぁ? 大丈夫だったのかよ?」
「……うん」
と言うか、別に今まで会わなかったのは、それが原因ですらない訳で。
アスナがそれを言うと、状助は覇王から聞いた原因を思い出してそれを言葉にして、むしろそっちを心配した。
自分の勉強以外にも、妹になったアマネの面倒を見てるのを聞いていた状助は、その疲労が溜まってきてしまったんだな、と納得していたからだ。
が、その原因、疲れ気味と言うのは嘘。
状助のことが気になっちゃって顔を合わせられなかったなんて、正直に言えなかったので言い訳しただけ。
だから、それで心配させてしまったことに、アスナは罪悪感を覚えて小さく返事を返す。
「大丈夫だったっつーんなら、気にしねえが……」
「大丈夫、心配してくれてありがと」
「心配ぐれーならタダだからよぉ」
状助も本人がそういうのなら、と安心した様子で笑みを見せれば、嘘とは言え心配させてしまったアスナは、そのことでちゃんと礼を言った。
そんなアスナの礼に、そこまで気にする程でもない、と状助は笑って答えた。
「……」
「ん? どうした? 何かついてるのか?」
「なっ、なんでもない!」
「そうかぁ?」
と、久々に見た状助の笑顔を見たアスナは、なんだか安心したような、でもやっぱり気恥ずかしいような、そんな気持ちを感じていた。
それでなんか動かなくなったアスナに状助は疑問を感じるが、アスナはハッとして首と手をブンブン振って、気にしないでと声を荒げる。
妙なアスナの態度に、状助もよくわからないと言う様子だが、まあいいか、と気にしないことにした。
「まあ、元気になったっつーんならそれでいいぜ」
「本当にごめんね」
「別に気にしてはいねえからよ」
「うん……」
まあ、状助としてはアスナが元気なら別に気にしない、という感じだった。
ただ、嘘で心配させてしまったことに、もう一度謝るアスナ。
状助はアスナの言い訳が嘘だと知らないので、特に何か言う事もなく、微笑んでいるだけ。
アスナはそんな状助に、申し訳ないことをしたかな、と思いながら、状助の顔をまじまじと見ていた。
「そういやよぉ、なんかちょっぴりなんだけどよぉ、今日のおめぇはなんだかいつもより、雰囲気がびみょーに違うような気がするんだがよぉ?」
「ほへっ!?」
が、そんな時、状助が突如としてアスナが普段と少し違う感じなことに、気が付いたようなことを言い出したのだ。
アスナは気が付かれたことに、ドキッとしてしまい咄嗟に変な声が出でしまった。
まさかほんの少しいつもと違う服で来ただけで、違いに気が付くとは思ってもみなかったのだ。
「いや、俺もはっきりとはわからねぇんだけどよぉ……」
「そっ、そう……?」
ただ、状助も何がどう違うのかがよくわかってない様子だった。
されど、意図していつもと違う服で来たのを知られたくないアスナは、しれっとした態度でとぼけた素振りをする。
なんで知られたくないのだろうか、とちょっと考えながらどきどきしてたりしているが。
「多分、そんなことないと思うけど……そう思う?」
「まあ、俺もなんとなくそう思っただけなんだけどよぉ……」
なので、勘違いじゃない? みたいな風にアスナが言うと、状助はなんとなく、と頭に手を乗せて変だなあ、という様子を見せた。
「…………じゃあ、何がどうそう思ったの?」
「どうって…………、なんとなく、ちょっと柔らかい感じを受けたっつーか……」
そこでアスナはどきどきしながら、ちょっと興味本位に状助がどう感じたかを聞けば、状助は言葉にしづらそうにして腕を組み色々考えながら、思ったことを言葉にした。
「……なにそれ…………?」
「言葉で説明しづらいんだけどよぉ……、いつもよりもふんわりしてるって言うか……」
「そう見えたってこと?」
「たっ、多分だけどよぉ……」
アスナは状助のたとえの意味がわからない様子でもう一度それを聞き返すと、状助はやはり言葉が中々でないと言う感じで再び説明をした。
なんというか、普段のアスナはもうちょっとこうキリッとしてると言うかハツラツな印象だったが、今日はなんだかおとなしさと言うかしおらしさを感じる、と思ったらしい。
本当にそう見えたのかな、と思ったアスナはもう一度それを聞くと、自信なさげにだが肯定する状助がいた。
「……ふふ」
「笑うこたぁねーじゃあねーか!?」
「違う違う! 別に状助の説明がヘタだからって笑ったんじゃないから!」
すると、アスナはいつもの服装じゃないってことに気が付いているような様子の状助に、ちょっと笑いが込み上げてきた。
こういうちょっとした変化にも敏感だったことに、内心意外だなあ、って思いつつも、そういうところに気が付いてくれたことが嬉しかったのだ。
が、状助は説明があいまいなことを笑われたと思い、少しだけ怒った様子を見せれば、アスナは微笑みながらそうじゃないよと弁明しておく。
「じゃあなんで笑ったんだよ……?」
「それは……ヒミツ!」
「はあ? 意味がわからねぇぜ」
「いいからいいから!」
だったら何故? というごもっともな質問を状助がすれば、アスナは口に手を添えて内緒と小さく言う。
まあ、この日のためにほんの少しだけおめかししたことに気が付かれたから、なんて恥ずかしくて言えないからだ。
ただ、秘密だと言われてしまった状助は、なんで? という表情で訝しむ。
そんな状助に気にしない気にしないと、笑顔でごまかすアスナだった。