理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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二百十四話 晴れる時

 

 二葉にあやされた亜子は、何とか立ち直って涙を止めることができた。

 

 

「大丈夫? ちょっとは落ち着いた?」

 

「はい……。ありがとうございます……」

 

「まったく、こんな子泣かせるなんて、最低だねぇうちのサブは……」

 

「ち、ちゃうんです……! そういう訳じゃ……」

 

「何も違わないよ!」

 

 

 ようやく泣き止んだ亜子へと、二葉はハンカチを引き出しから取り出して亜子の顔をぬぐってあげれば、亜子はペコリと頭を下げて礼を言う。

 

 そんな亜子へと、亜子を泣かした元凶である三郎に対して、二葉はプンプンと怒って強く非難。

ノックもせずに部屋に勝手に入ろうとしたのが悪いのだから、全部あいつのせいじゃないか、と思うのはそりゃ当然。

 

 ただ、亜子は自分が勝手に誤解したりしてこうなったと思っているので、決して三郎が悪い訳じゃないと庇う。

 

 しかしだ、三郎がちゃんと亜子の心をつなぎとめて、安心させておけばこんなことにはなってなかった訳で。

二葉にはそれはわからないが察することはできたので、当然三郎が全部悪いと、二葉ははっきりとそう亜子へと告げた。

 

 

「二葉さんって、三郎さんのお姉さんやったんですね……」

 

「あー……、あれ? もしかして説明忘れてた……? それに表札見てなかったのね? あと私、苗字も教えてなかったのね? はー……、私のバカ!!! 大バカ!!!」

 

 

 そこで亜子は落ち着きを取り戻し、二葉のことを口にした。

そう、二葉と三郎は姉弟であり、浮気したりとかそういう関係ではなかったのだ。

 

 三郎の気安い行動も近い距離間も、全部実の姉で家族だったから。

それに気が付いたからこそ、亜子は自分が誤解していた愚かさに涙を流したところもあった。

 

 

 つまりはこの家は三郎の実家でもあるということだ。

家族は三郎の彼女である亜子の顔は知っているので、母親も顔を見ただけで納得したのである。

 

 また二葉は、亜子が今更自分のことを三郎の姉と認識したことを知って、ここでようやく自分のやらかしを理解した。

 

 まず焦ってしまって最初に説明するのを全部忘れてしまったことだ。

亜子にどうしてと聞かれたが、ずぶぬれの亜子を心配するあまり「あとで」と言って、そのままにしてしまったことを思い出して後悔。

 

 それに家に連れてくる時に外にあった表札を、亜子が見ているとばかり思っていた。

いや、あんな状態で見る余裕なんてあるはずないのに、うっかり失念していた。

 

 さらには自分の名前を紹介した時に苗字を言わなかったのも、大きな失敗だったと二葉は大いに反省。

だから最初から亜子がすごく恐縮して縮こまっていたんだと、ここでようやく二葉はわかり、自分の頭をポカポカ叩いて自分の失態を嘆いた。

 

 そして、この姉の二葉も三郎と同じ原(・)作(・)知(・)識(・)が(・)な(・)い(・)転生者であり、彼女が原(・)作(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)と言うことをまったく知らなかった。

 

 それと二葉は普段学生寮に住んでいるのだが、今回三郎と出かけたついでに実家に立ち寄ろうとしたところで、雨に濡れた亜子を見つけたと言う経緯だった。

 

 

「いやー、ごめん! 気が利かなくてほんと申し訳ない! 私ってほんっとせわしなくってさ!」

 

「いっ、いえ、いいんです……!」

 

 

 そして二葉は亜子へといらぬ誤解と緊張を強いてしまったと頭を下げて謝り、こういう性格で本当に困っちゃうと自虐的に苦笑い。

それでも亜子は亜子で自分が悪かったのだと思っているし、むしろこうやって助けてもらったのだからと気にしていないと、困った様子で二葉へ告げた。

 

 

「ほらっ、もう開けていいよ」

 

「はい、すいませんでした……」

 

 

 で、とりあえず亜子が落ち着いたので、本題の三郎へと自分の部屋のドアを開ける許可を出す二葉。

三郎はそれを聞いてようやくドアを開けて部屋に入ると、すぐさま土下座をして亜子へと謝罪。すさまじく綺麗な土下座であった。

 

 

「本当だよねー、まったくね?」

 

「えっ……、いえ……」

 

 

 全く困った奴だね、と二葉は苦笑して亜子へと言うが、亜子はやっぱり自分のせいだと思い、否定する。

 

 

「あの……三郎さん……。ごめんなさい……。ウチ……酷い勘違いをしてしもうて……」

 

「えっ!? なんで亜子さんが謝るの!? むしろこっちこそ、本当にごめんなさい……」

 

 

 なので、亜子は土下座したまま固まってる三郎へとほんの少し涙を浮かべて謝罪する。

とは言え、三郎は何故亜子が謝ってきたのかわからず、自分の方が最低だったともう一度謝って深々と頭を下げた。

 

 

「その……、見たんやろ? ウチの……」

 

「う、うん……。ごめん。見た……」

 

「や……、やっぱり……」

 

「はい……、ほんとすいません……」

 

 

 また、亜子は今さっきドアを開けたことで、三郎に傷を見られたと思ってそれを三郎に聞けば、三郎も謝りつつも正直に話した。

亜子は三郎に傷を見られたことにも当然ショックを受けており、はっきりとそれを言われて気落ちした様子を見せると、三郎はもう一度頭を下げた。

 

 

「……かわいらしい下着でした…………」

 

「……えっ? あっ……はぅぅ……」

 

 

 が、亜子はその時、傷を見たかとは聞かなかったせいで、三郎は何を勘違いしたのか亜子が身に着けていた下着のことだと思って、それを言い出しやがったのだ。

かわいらしい、とは最大限オブラートに包んだ表現であり、彼としてはすごくエッチだった!!! と叫びたかったりする。

転生者の癖に、これでもちゃんとした健全な男子だったのだ。

 

 しかし、亜子は傷のことを言ったので、突然下着の話をされて固まった後、滅茶苦茶困惑した。

とは言え、好きな男の子に下着姿を見られて、あまつさえ褒められたと言うは当然衝撃的なことで。

亜子は気が付けば顔を耳まで真っ赤っかにして、照れに照れて俯いてしまっていた。

 

 

「サブ」

 

「いやでも、こういう時こそはっきりしとかないと……」

 

「はぁ……、アンタってさぁ……。ほんと無駄に正直だよねぇ……」

 

 

 顔をりんごのように赤く染めて湯気が出そうになってる亜子を見た二葉は、とてつもなく冷淡な声で三郎を呼び、お前今の発言かなり最低だぞ、と釘を刺すように冷徹な目で睨む。

 

 三郎も姉の冷え切った視線と声にビビりながらも、ここで嘘をつくのは違うだろと反論すれば、二葉はめ息を吐き、こいつそういう奴だよな、と呆れ果てていた。

 

 

「……そっ、そっちやなくて…………、背中の傷……」

 

「あー……。確かにあったかな?」

 

「……気持ち悪かったやろ……?」

 

「えー……、その……」

 

 

 亜子はなんとか恥ずかしいのから復帰し傷のことを三郎に聞くが、三郎はまるで気にした様子がなく、見たかも。程度にしか話さない。

 

 ただ、亜子としてはこの傷を見られたんだから、嫌悪を抱いたり距離を置かれたりしてもおかしくないと思い、震えながら三郎へそう聞くと、三郎も少し悩んだ様子で返答に困った素振りを見せた。

 

 

「すごい……白かった……」

 

「へ?」

 

「すごく肌が白くてその……、めちゃ綺麗だった……」

 

「ささっ、さささっ!? さぶろーさん!?」

 

 

 その三郎の態度に亜子はやっぱり、と再び俯いて気落ちしかけるが、三郎は傷とは関係のないことを静かに語りだす始末。

ん? と亜子は思って顔を上げて三郎の顔を見れば、三郎は照れながら亜子の肌のことを褒め出したのである。

 

 またしても自分の着替え中のことを話された亜子は、テンパってワタワタと騒いで戸惑いまくる。

確かに下着だけの姿で全部見られちゃったけど、そんな風に思われるとは思ってない亜子には、はっきりそう言われたら当然恥ずかしくなっちゃう訳で。

 

 

「うちのサブってこういうヤツなんだよねー。ちょっと変わってるって言うか」

 

「姉貴には言われたくねえぞ」

 

「なんだって?」

 

「なっ、なんでもないデス……」

 

 

 二人の様子を見ていた二葉は、本気で呆れた声で三郎のことを亜子へ語れば、三郎も余計なことを言われたと思って言い返す。

が、青筋を浮かべた二葉が三郎に圧をかけて一声出せば、三郎は一瞬にして縮こまってしまったのだった。

 

 

「き、傷……、見たんやろ……? それなら……」

 

「見たけど、それよりも腰も肩もうなじも、白くて綺麗だったよ?」

 

「……」

 

 

 それでも傷を見たのだから、何かしらそれに対して思うところがあるはずだと考える亜子は、もう一度三郎にそれを質問するが、三郎はそれよりも肌が白かったことの方が重要と言うような態度で、もう一度肌のことを褒めまくる。

 

 この傷を見られれば男の人に嫌われると思っていた亜子にとって、それは大きな衝撃であった。

三郎の態度は傷から目をそらしている訳でも、嘘をついている訳でもなさそうで、本気で気にしていないと言う態度だったからだ。

 

 実際、三郎は傷を見たけど気にしていなかった。

それ以上に亜子の肢体の綺麗な白さに目を奪われ、それだけしか頭に入ってこなかったのである。

 

 

「サブ。もう少しデリカシーのある発言しな」

 

「でっ、でもここは正直に言う場面だろ?」

 

「アンタってやつは本当にさぁ……」

 

 

 正直なのはいいことだが言い方があるだろ、と冷ややかな声で三郎を注意する二葉。

しかし、三郎としてもこういうことは嘘をつくわけにもいかないと考えており、正直に言うのが一番だと強く訴えかけた。

 

 もはや何を言ってもダメな三郎に、二葉は完全にあきれ果ててため息しか出なかった。

確かに昔からこういうところはあったが、ここまでだとは思ってもみなかったと。

 

 

「三郎さん……っ!!」

 

「あっ、亜子さん!? 大丈夫だよ! 大丈夫だから……!」

 

「うん! うんっ!」

 

 

 そこへ亜子が三郎へと抱き着き、再び涙を流していた。

とは言え、これは悲しくて出た涙ではなく、喜びで出た涙だった。

 

 この背中の傷を見て気にされなかったと言うのは、亜子にとっては自分の絶望を払うに等しい行為だからだ。

傷があるから受け入れられないと思っていた亜子は、それを見ても受け入れてくれたことが本当に嬉しくて嬉しくて。

 

 亜子は傷を見られても受け入れられたことで、全てのしがらみを抜け出して、ようやく完全にわだかまりが消えたのだった。

 

 

 三郎も、背中の傷が亜子にとってトラウマであることはわかっていた。

だから泣き出して抱きついてきた亜子を安心させるために、慌てながらだがやさしく頭を撫でて落ち着かせようと何度も呼びかけた。

 

 

「うちのサブ、結構格好つけでね? 亜子ちゃんの前じゃ、ずっと格好つけ続けてたんだろ?」

 

「姉貴!?」

 

「こいつ家じゃこうだからさ。まっ、見損なわないでやってくれると嬉しいね」

 

「いいえ……! 全然!」

 

 

 そんな時、急に二葉は三郎の態度について語りだした。

三郎は実はカッコつけたがりな性格であり、家の中と外では態度が違うのだと言う。

 

 そう、三郎はなんだかんだ言って好きな子の前じゃカッコつけたがる奴だった。

そのため砕けた態度とかはあまりせず、基本的に礼節をわきまえて少し距離間のある態度ばかり取ってしまっていたのである。

だから亜子は二葉と一緒にいる三郎の態度を、初めて見たと思って焦ったのだ。

 

 急に姉から背中を刺されるようなことを言われた三郎は、慌てて声を上げて戸惑った。

そりゃ自分の秘密みたいなことを、姉から暴露されたらそんな声出るだろう。

 

 ただ、二葉はそんな三郎だが、仲良くしてあげてほしいと、微笑みながら亜子へと告げる。

まあ、なんだかんだ言って二葉も、三郎のことを弟として大切に思っている訳で。

 

 亜子は二葉の言葉に、そんなことで幻滅するなんて絶対にありえないと声を上げた。

だって、こんな自分をいつだって大切にしてくれた人だから。自分の傷のことも受け入れてくれた人だから。

 

 

「さーて、サブ。残りは自分の部屋でやりな」

 

「残りって……、別にそんな気ねぇって!」

 

「何想像してんだよムッツリサブ! まったく本当にこいつは……」

 

「うっせー姉貴!」

 

 

 なんか抱き合ってイチャついてる二人を見て、これならもう大丈夫だろうと思った二葉は、イチャつくなら自分の部屋に行けと三郎へ言う。

三郎は”残り”と言う言葉に妙な反応をし、何故か焦ったように叫ぶ。

 

 二葉は三郎の焦りを見て、そういう意味じゃないってんだよスケベ野郎! と怒鳴り、マジでこいつムッツリスケベすぎるだろ、とため息を吐く。

勘違いに気が付いた三郎は、自分を恥じながら照れ隠しに再び叫んだ。

 

 

「まっ、まあ、姉貴はほっといて、俺の部屋へ行こうか」

 

「えっ……? 三郎さんの部屋?」

 

「いやならいいけど……」

 

 

 とりあえず姉にそう言われたし、と三郎は立ち上がり、亜子へと移動を促す。

が、亜子は三郎の部屋と聞いてちょっと困惑の様子を見せるので、三郎は嫌なのかな? と思ってそれを言う。

 

 

「べっ、別にそうやなくて……、緊張してしもうて…………」

 

「大丈夫だよ、何もないからさ?」

 

 

 されど、亜子は別に嫌とかではなく、好きな男の子の部屋に入るのに抵抗があっただけだ。

とは言え、どんな部屋なのかな? と言う興味はなくはないので、ドキドキワクワクしていたりもするが。

 

 三郎としては嫌ではないなら、と言う様子で安心させるようなことを亜子へと語り掛けた。

ただまあ、”何もない”なんてこの状況だとなんかこう、アレだな、と言った後で思う三郎だった。

 

 

「本当にナニもないんだろうねぇ? 見つかっちゃいけないもんは出しっぱじゃないだろうね?」

 

「一々うるさいよ姉貴!! 余計なことを言うな!」

 

「ははは! ムキになるとますます怪しまれるぞ?」

 

「これだから姉貴は……」

 

 

 そこへ三郎の言葉の隙を付け込むようなことを言い出す二葉。

大丈夫かい? 男女二人が一つの部屋の中で何も起きないはずもなく……、みたいなことにならないかい?

エロ本とかちゃんと隠してあるのかい? と言うお節介的な言葉が三郎の心を抉る。

 

 三郎としても流石に、そんなもん一ミリも存在してねえよ二葉に怒鳴り散らす。

だが、そうやって怒鳴るんだから本当はあったんじゃないのかい? と二葉は笑ってからかい出したのを見た三郎は、いつものが始まったと言う態度で溜息を吐いた。

 

 

「さっ、行こう? 立てる?」

 

「あっ……うん……」

 

 

 もう三郎は姉などスルーして、亜子へと手を差し伸べて、立ち上がるのを手助けする。

亜子も三郎の手を握ったことでちょっと照れながらもゆっくり立ち上がれば、そのまま三郎に手を引かれて行く。

 

 

「あの……、二葉さん、ホンマにありがとうございました」

 

「別にいいって! ゆっくりしていきな!」

 

「……はい!」

 

 

 と、そこで亜子は振り返って、もう一度二葉へと今までのことに対しての礼を述べてぺこりと頭を下げた。

二葉もニコニコ笑いながら言葉を返せば、亜子も元気を取り戻したのか笑顔を見せて返事を返す。

そのあと亜子は三郎に手を引かれ、隣の部屋へと移動していったのだった。

 

 

「はぁー。ムッツリでヘタレだからなぁ……サブは。ほんと困ったやつだねぇ……」

 

 

 二人が部屋から出て扉が閉まった後、二葉は小さくため息を吐く。

なんというか、やっと恋人らしくなってきたんじゃないか? と思う二葉は、三郎の奥手すぎる態度にため息しか出なかった。

ただまあ、この先は三郎次第であり、この先自分は見守ることしかできないから頑張れよと、心の中で檄を飛ばすのだった。

 

 

 そして、三郎の部屋へと入ると、三郎は亜子を自分のベッドへと座らせて、自分は学習デスクの椅子に座って亜子の方を見る。

 

 三郎は久々の実家の部屋ということで完全にくつろいでいるが、亜子は好きな男の子の部屋ということもあって、ちょっと緊張した様子だった。

 

 

「……今日、街中でお姉さんといる三郎さんを見てな……。ウチ……、勘違いして……、またフられるんやないかと思ーて……」

 

「あー……、あの場所に亜子さんもいたんだ?」

 

「うん。ゆーなたちと別れた後に……」

 

「そうだったんだ」

 

 

 そこで亜子は今日の出来事を三郎へと、おずおずと話し始めた。

三郎と二葉が一緒にいたのを目撃したこと、それで勝手に勘違いしてしまったこと、それで悲しくなってしまったこと。

 

 また、それを目撃された三郎も、妙にばつの悪そうな顔をした。

あちゃー、見られてたのかあ、と言うような、失敗したなあ、と言う素振りであった。

 

 

「うーん……、でもまあ……、俺も亜子さんの隣に知らない男性がいたら、きっと焦っちゃうと思うな」

 

「三郎さんが……?」

 

「だってそんだけ亜子さんが可愛いんだもん! そりゃ焦るよ」

 

「うっ、ウチ……別にそんな……」

 

「可愛いってとこは自信持ってほしいな。ほんとのことだし」

 

「あっ、ありがとうな……」

 

 

 とは言え、三郎も自分だってそうだよ、と亜子へと話す。

きっと亜子の隣に見知らぬ男性がいて、仲良さそうにしていたら、さぞショックを受けるだろうと。

 

 ただ亜子は、三郎がそんな風に思ってくれてるなんて知らなかったので、意外と言う様子を見せれば、三郎は亜子のことをめちゃんこ褒めてそりゃそうだと言う。

 

 しかし、亜子は自分が地味だと思っているため、素直にその言葉を受け取れない様子。

そんな亜子へともっと自分の容姿に自信を持った方がいいよ、と力説し、微笑んで見せた。

 

 三郎にそこまで言われた亜子も、照れながら自分のことを褒めてくれたことに対して礼を述べる。

地味な見た目だと思っている自分に、ここまで言ってくれることが本当にうれしかったのだ。

 

 

「んでね? 姉貴と街にいたのはね? その、実は俺……、いつもプレゼントのこと、姉貴に相談してるんだ」

 

「え?」

 

「ほら、来週は亜子さんの誕生日で約束してたよね? 本当ならもう少し早めに選びたかったんだけど、姉貴に相談してたらこんなに時間かかっちゃってね……」

 

「そうやったんか」

 

 

 で、と三郎は二葉と一緒にいた理由を、静かに語りだした。

三郎は亜子の誕生日プレゼントを選ぶ時、姉に相談して一緒に選んでもらっていたのである。

何故なら、来週は亜子の誕生日で、三郎はそのプレゼント選びに難航していたからだ。

 

 亜子は三郎の説明に、そんなことがあったのかと納得。

 

 

「こんなダサいこと知られたくなかったけど、もう今更か……」

 

「別にそんな!」

 

 

 好きな子へのプレゼントを、一人で選ぶことができないことを三郎は恥じており、情けないなあ、とつぶやいた。

されど、亜子はそれに対して、そんな風に捉えることはなかったので、そんなこと思ってないよと大きな声を上げた。

 

 

「ダサいって思ってくれてもかまわないよ。自分でもほんとダサいと思ってるし」

 

「そんなことあらへん! ウチのために必死になって、相談までして選んでくれはるんやから……!」

 

「そう? それだとほんとありがたいんだけど……」

 

 

 ただまあ、三郎としては本当に情けない話であり、知られたくなかったことでもあった。

なのでもう情けないと思われたなら、しかたないと正直に言う。

 

 亜子は観念した様子の三郎に、特に何も思わないとはっきり告げる。

自分のプレゼントのために頑張って考えて、相談してまで選んでくれていたのだ。

それを情けないなんて思うなんてことはなく、むしろ嬉しさを覚えたからだ。

 

 まあ、亜子がそういうのなら、と三郎も苦笑しながら受け入れた。

でも、今度から頑張って自分で選ぼう、と新たな目標を掲げたのである。

 

 

「こういう前準備を見られちゃったのは恥ずかしいけど、まあ期待しててよ!」

 

「うん、期待して待っとる。ありがとう。三郎さん……」

 

 

 そこで三郎は亜子へと、その甲斐あってしっかりプレゼントは選んだからと自信満々に話せば、亜子も楽しみという様子を見せて、小さく笑って喜んだ。

 

 

「あの……、これ…………」

 

「これは?」

 

「ウチからも……、プレゼントを……」

 

 

 そこで亜子は今なら、と恐る恐る三郎へと話しかけ、今日買った三郎へのプレゼントの入った袋を手渡した。

 

 

「そんな! 悪いよ!」

 

「ええねん。ウチ、三郎さんに結構助けてもろーとるし」

 

「何もしてないけどなぁ……」

 

 

 三郎は誕生日を控えた亜子から何故かプレゼントされたことに驚いてお断りをするが、亜子としては何度も何度も助けてもらったことへのお礼であり、感謝の気持ちとして受け取ってほしいと笑って話す。

 

 亜子はずっと三郎に感謝の気持ちを伝えてプレゼントを渡したいと思っていたが、いつにしようか迷ってタイミングが中々決まらず、それなら自分の誕生日にでも、と思っていたのである。

 

 とは言え、三郎としては好きな子を助けるのは当然だと言う気持ちがあり、気にしなくてもいいのに、と思うだけだ。

 

 

「でも、それならいただくよ。……ありがとう」

 

「気に入ってくれるとええんやけど……」

 

 

 ただ、そこまで言うのならば受けとならないのは無作法だと思い、三郎はありがたく貰うことにした。

亜子は自分が選んだプレゼントを渡せて、気恥ずかしくなってモジモジしながら、どうかな、と上目遣いで三郎を見る。

 

 

「開けてもいいかな?」

 

「ど、どうぞ……」

 

 

 そこで三郎はプレゼントの袋を開けていいか亜子へと聞くと、亜子ははにかみながらおずおずとした様子で許可を出した。

 

 

「これはマフラー?」

 

「最近冷えてきとるから、あったかくできるもんがええと思ーて」

 

「ほんとにありがとう! 助かるよ!」

 

 

 袋からプレゼントを出した三郎は袋からその品を手に取って出せば、それが首に巻くマフラーかな、とあたりを付けた。

三郎の言葉に亜子は、もう寒くなってきたから体が冷えないように、と選んだ理由を語り、三郎は亜子の気づかいに喜び元気よくお礼を述べた。

 

 

「結構長いね!?」

 

「長い方がええと思ったんやけど……」

 

「確かに長い方が風に吹かれても寒くないもんね」

 

 

 が、取り出したマフラーが思ったよりも長かった三郎は、それに驚いた様子を見せれば、亜子はその理由を自信なさげに話す。

三郎はこの長さこそ亜子の気づかいだと考え、むしろ長くてありがたいね、と笑って試着してみせた。

 

 

「あっ、そうだ! これなら……!」

 

「さっ、三郎さん!?」

 

 

 また、三郎はマフラーが長いのならば、とベッドの上に座る亜子の隣へと座り、自分の首にかけたマフラーを亜子の首にも巻いてあげる。

 

 

「二人で巻くとちょうどいい感じになるね!」

 

「う……うん……」

 

 

 長いのならば二人でしても大丈夫だね、と笑顔で三郎が言えば、亜子は三郎の顔が近いことに照れて、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 それでも、三郎が自分に対して、こうやって積極的な行動をしてきたことがなかった亜子は、それを大変嬉しく思う。

とは言え、亜子はすごくドキドキしっぱなしな状況に、心臓に悪いなあ、とも思いながら三郎との時を過ごすことに。

 

 三郎ももっと自分が亜子を安心させられるような行動をしなければと、少しだけ踏み込んだ行動をすることにした。

どうせもうなんか色々暴露されちゃったし、今更取り繕う必要はもうないかな、と思ったからだ。

故に────。

 

 

「俺、亜子さんを不安にさせないように頑張るから」

 

「三郎さん……?」

 

「不甲斐ないところ見せちゃうかもしれないけど、それでももう不安なんかにさせないから」

 

 

 三郎は亜子の肩に手を回し、亜子へと向けて宣言する。

姉と一緒にいただけで不安にさせてしまったのは、消極的だったせいだったと思ったから。

もっと素の自分を亜子の前でも出して、不安なんて感じさせないようにしていこうと、そう決意したから。

 

 

「好きだよ、亜子さん」

 

「……ウチも、三郎さんのこと……、好き……」

 

 

 だから、三郎は亜子の方を向いて、はっきりと気持ちを伝える。

何度も伝えてきた言葉だけど、陳腐な言葉になってしまうけど、それでも伝えたい時に伝えようと、そう決心したから。

 

 亜子も三郎の強い意志を感じて、自分も想いを伝えた。

隣にいるだけですごいどきどきするけど、三郎のその言葉で何故かすごく安心できた。

本当に、友達が言っていたように本当に、自分のことを大切にしてくれてるのが伝わってきたから。

 

 そして、二人の顔の距離がさらに近づくと、ほんの数秒、無言の時間と共に二人の唇が重なった。

二人は付き合い出して、ようやくお互い初めてのキスを交わすことができたのだ。

 

 亜子は傷を見られて受け入れてもらえたことで、三郎も亜子の傷をはっきり自分の目で見たことで、ようやく二人は本当の恋仲となったのであった。

 

 

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