マルコがマリンフォード頂上戦争に逆行して頑張る話

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マリンフォードよ、もう一度

「オヤジっ!エースっ!!」

 

夜遅く、マルコは叫んで目が覚めた。

じっとりとかいた寝汗が頬を伝い、拭う。

 

(今も夢に見るよい…)

 

世界を揺るがした頂上決戦。

あの悪夢の如き一連の悲劇を忘れたことは一日たりとてない。

父と慕う〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートを失い、

そして白ひげ海賊団総出で救いたかった男…次代の希望の一人エースを失い、

元凶たる〝黒ひげ〟マーシャル・D・ティーチとの落とし前戦争でも惨敗。

白ひげ海賊団は全てを失った。

唯一残された白ひげの遺産…〝優しい村〟。

マルコはそれを守るために旧友ネコマムシと共にこの地にいる。

新しき流れに敗れ去ったただの船医としてひっそりと生きている。

ワノ国で一暴れする麦わら海賊団を助ける為に、エースの弟の為に一肌脱いで鬼ヶ島で大暴れした事もあった。

それはそれで充足した。エースの弟は、新時代の希望だ。

新星がどこまで遠くに行くか、どこまで輝けるのか…それを白ひげとエースの代わりに見届けるのも一興だ。

 

それに、今の静かな暮らしに不満があるわけではない。

この地は良いところだ。

白ひげの残り香を感じることができる。

偉大なオヤジの墓はこの地にある。

彼の墓と、貧しくも優しい彼の故郷を守ることは、元白ひげ海賊団No2として名誉あることだ。

白ひげの息子を自称する七武海エドワード・ウィーブルや、もちろん裏切り者の…今じゃちゃっかり四皇なんぞに収まっている黒ひげ。

奴らがいつ攻めてくるか分からない現状ではやり甲斐もある。

 

だが…。

マルコはいつも、だが…と思わずにはいられない。

 

(もし、あの時…おれがこうしていたら)

 

(もし…あの時、おれにもっと力があれば)

 

白ひげもエースも守ることが出来たのではないか、と。

白ひげ海賊団は壊滅せずに済んだのではないかと…そう思うのだ。

 

かつて仲間だった光月おでんから、ワノ国のものだ、と何気なく手渡された本。それは子供向けの、いわゆる児童書で、もう二十年も前になるが、引き込まれ一気に読破した記憶はマルコの脳に焼き付いていた。

 

(不死鳥は…火の鳥は神様で…時間も命も操って運命をもてあそぶ。

羨ましいねェ。おれの力とはエライ違いだよい)

 

人から見れば悪辣な性格をしていながら、人の理解を超えた神としての絶対性を持つ火の鳥を題材に、人の功罪を辛辣に描く漫画本で、ワノ国の絵巻の神様とまで湛えられた天才絵師が昔に描いたものだという。

児童向けといいつつも、大人も考えさせられる意味深長な本で、最近のマルコの境遇でそれを思い出してしまうと一笑に付せないものがあった。

 

「不死鳥のマルコか。笑えるぜ」

 

大仰な名前負けだと自嘲色の濃い乾いた笑いが出て、彼は簡素なベッドを軋ませながらもう一度寝転んだ。

月はまだまだ高い。

もう一眠りできるだろう。

 

(…悪魔の実よ。不死鳥よ。

テメェが本当に大それた火の鳥の力を持っているなら…

神でも悪魔でも構わねェよい。あの時をやり直させてくれ)

 

マルコは目を強く閉じて、無理やり自分を寝かしつけた。

 

 

 

 

 

眠りに落ちる寸前、意識を眠りに誘う暗闇の雲海の向こうで…、炎纏う不死鳥がマルコに笑いかけた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルコ」

 

誰かが自分の肩を引っ掴んで起こしにかかっている。

 

「…」

 

「おいマルコ」

 

返事もせず、深い層に眉根を寄せて肩を掴む手を払う。

 

「おいおい、昼まで寝るつもりか?オヤジが怒るよ」

 

どうせネコマムシのやつがおれをからかっているんだろう。

マルコはそう思って、

 

「うるせーよい…オヤジが叱ってくれんなら何時までだって寝てやらァ」

 

掛けタオルを目上まで深く被って「起きてなるものか」という強い意志表示。

実際、マルコは頂上決戦で死んだ白ひげがグララと笑って叱ってくれるなら何でもするだろう。

 

「へェ?こりゃおもしろい。早速オヤジに言ってくるよマルコ!」

 

ダダダッと威勢のよい音をさせて誰かが部屋を飛び出していった…――

 

 

 

 

(――ん?)

 

何かがおかしい。

すぐにマルコは異変を察知した。

さすがは元白ひげ海賊団No2と謳われた男。

瞬時に彼は、眠り眼ながら思考を巡らせる。

 

①彼の寝室が揺れている。この揺れは長年嫌というほど体験したものだ。即ち海上独特のものだ。

②あの声や足音には聞き覚えがある。散り散りになったかつての仲間の者だ。

③自分の体の軽さ。これは、怖いもの知らずだったあの時の軽さだ。肉体に気力が充実しているのが本能で感じられた。

 

「っ!?おい待てよいハルタァ!」

 

飛び起き、さっき自分を起こそうとした奴に瞬時に目星をつけながら扉を蹴破る。

そしてそのまま小柄な剣士の背に得意のケリを見舞った。

 

「あで!?」

 

「おいハルタ!今、何日だよい!?これは夢か!おれを殴ってみろハルタ!」

 

「はぁ?」

 

同僚に足蹴にされながら背中越しに怪訝な瞳を向ける小柄美青年。

パイナップル頭を見上げる美麗な眼は「何言ってんだコイツ」な雰囲気に満ちていた。

 

「おいとりあえずどいて、頼むから。12番隊隊長を踏みながら考え事しないでくれる?」

 

何やら深刻そうな面でマルコは無精髭をさすりながら唸り考え事をしているようだ。

白ひげ海賊団の仲間(ハルタ)を足蹴にしながら。

と、マルコは何か思いついたようで足元のハルタへ問いかけた。

 

「…エースは今、何してる?」

 

「おいおい。本当に大丈夫?エースなら昨日、ティーチを追いに飛び出したばっかだろう」

 

「チッ……そうか。そうだったよい」

 

(もうその時期か)

 

内心、マルコは地団駄を踏む。

実際に今やればハルタへ連続スタンピングすることになるので自重した。

 

(エースの出立前…いや、サッチが殺られる前だったなら…!)

 

「おい、なんなんだ?考え事か?そりゃ構わねェけどおれの上からどいてからにしてくれよ」

 

パイナップル頭に未だに足蹴にされているハルタくん12番隊隊長。

 

「いや…ちょいと…うん。すまねェよい。

………あ~、ハルタ。お前先行っててくれ。おれぁ少しオヤジに用事がある」

 

いつの間にやら、ちょうど白ひげの部屋の手前だ。

ハルタは促されるまま甲板へと去っていき、そして廊下にはマルコが取り残された。

部屋の扉を前にして、マルコは感慨にふける。

この部屋。

この扉。

どれだけ夢に見たか。

 

(オヤジ……!)

 

会いたい。

今直ぐに扉を蹴破ってあの、物理的にもデカすぎるが、それ以上にこの大海原のように魂の器がバカでかくて、マルコとしてはかのゴールド・ロジャー以上に尊敬する男の顔を見たい。

だが、マルコの手は震えてろくに動かない。

 

扉の向こうに気配を感じる。

懐かしく、大きいあの気配を。

 

マルコは、この気配を扉越しに感じるだけで、それだけで幸せだった。

もし、今…これが夢だったら。

扉を開けたら覚めてしまいそうでマルコは怖かった。

この夢が覚めてしまうくらいなら一生この扉の前でこの気配に浸っていたいとすら思えた。

それぐらいマルコにとって…白ひげ海賊団のクルーにとってエドワード・ニューゲートという男は絶対の存在なのだ。

 

扉の前で逡巡すること数分。

汗ばむ手を握り、開いて、また握り。

ドアノブに手をかける。

 

「…ふぅー」

 

そしてまた緊張を解きほぐすように息を吐き出しながら手を離し、握っては開き、また握る。

 

(これは夢なのか?だが……それにしちゃあ……)

 

異様なまでハッキリと全ての感覚が掴める。

己の口内の味も空気の流れもだ。

懐かしき船。

マリンフォード頂上決戦にて、降り注ぐマグマの雨によって失われた白ひげの愛船モビー・ディック号。

その様子も、通路の壁に付いたささいな傷だって(ああ、そういえばこんなものあったな)と、見てからようやく思い出せるものまで。

 

(何もかもがリアル過ぎるよい…。これが現実だってんなら……コイツはひょっとして――)

 

マルコがまたも思考の海に溺れかけた時、それは聞こえた。

 

「――いつまでおれの部屋の前で突っ立ってんだ。入りてェならさっさと入れ」

 

「!!」

 

あの世もこの世も含めて一番会いたかったオヤジのデカイ声が聞こえた瞬間、マルコは思わずドアを勢いよく開け放った。

気付いたら、あれだけ躊躇った扉をあっさりと跨いでいた。

 

「オ、オヤジッ…!!!」

 

「なんだぁその面は?どうしたマルコ。

まさかお前、その歳で怖い夢でも見たか?

グララララララララララララ!!」

 

どデカいベッドに横たわりミニスカナースを侍らす大男。

自慢の三日月型の白いヒゲ。

〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートその人が、今マルコの眼の前にいた。

 

「お、おお…オヤジ…!オヤジ!!」

 

泣くなんてみっともない真似は晒したくなかったが、マルコは自分の顔がどんどんグシャグシャになっていくのが止められない。

大声を出して泣きわめきたいし、同時に笑いたし、喜びたい。

どうしたら良いのかが、白ひげ海賊団の古強者には分からない。

 

何もかもを笑い飛ばす白ひげが、さすがにちょいとばかし目を丸くする。

在りし日のエドワード・ニューゲートが、さすがに冗談ではなさそうなマルコの様子をジッと見た。

ただ黙って、己の息子の1人を見守った。

白ひげはそれとなく片手で女中達へ退出を促し、いつの間にか白ひげの部屋にはエドワードとマルコだけとなっていた。

 

「おい、マルコ。こっちこい」

 

「ぐ…ぐす…う、うぐ……オ、オ゛ヤ゛ジ」

 

「ここに座れ」

 

白ひげは手招きすると己のベッドの端に腰掛けるよう促す。

マルコはまるで実の親父に怒鳴りつけられた子供のようだ。

言われたままに、涙を堪え震える肩を抑えようとし、出来る限り平静を装いながら腰掛けた。

 

「…」

 

白ひげは黙って、ゆっくりとその大きな手をマルコの頭の上にポンと置く。

その瞬間、ギリギリで堰き止めていたマルコの感情が爆発した。

 

「う゛ぉや゛ぁじぃぃぃぃっっ!!!」

 

汚い顔で泣き喚きながら白ひげのどデカく男臭い胸元へと飛び込んだ。

父に甘える…というよりは母に甘える幼子のようにマルコは泣いた。

 

「おお!?グララララララッ!!

泣けマルコ。男だって泣いていい。そんな時もあるさ…」

 

白ひげは、なぜ古参の右腕がこうも泣くのか理由は聞かない。

だが、これ程長く自分に尽くし、支えてきてくれた男が己に縋り男泣きに泣くのだ。

それを受け止めないエドワード・ニューゲートではない。

 

 

 

そうだ。

マルコは怖い夢を視た。

最悪で最低で、とびきり怖い夢だ。

友が目の前で臓腑を焼き尽くされ、殺され、世界で最も尊敬する男が目の前で裏切り者共に殺された。

その後はもう酷いものだ。

オヤジの遺した全てのものを守れず、白ひげ海賊団は瓦解し消え失せた。

マルコは泣きながら、懺悔するように全てを白ひげにぶちまける。

不甲斐の無さと申し訳無さを、ケンカに負けたガキが母に悔しさをぶつけるように偉大なるオヤジへとぶちまけた。

 

いい歳したベテラン海賊の、白ひげ海賊団の1番隊隊長が見せていい姿ではないだろう。

ハッキリ言って無様であった。

無様だったが、そんなマルコを一体誰が貶すことができるだろう。

マルコはハッキリと経験してきた。

全ての栄光を失陥する屈辱と悲しみを。

そして、ある日…目覚めたらその栄光の全部が目の前に平然とあった。

その落差が歴戦の戦士をただのガキに変えてしまった。

ただし、このオヤジの前でだけで、だが。

 

そのまま10分程が経ち、

泣き声が反響していた白ひげの部屋もすっかり静寂を取り戻していた。

 

「……マルコ」

 

白ひげの野太い声が静かに響く。

 

「辛かったなァ」

 

「ッ!?オ、オヤジ…!」

 

治まった涙がまた溢れそうだったが、今度はマルコはぐっと耐える。

もう醜態はみせない。

彼の顔つきはすっかり1番隊隊長のものへと戻っていた。

 

「だが、おれァ嬉しいぜマルコ。息子が弱みを見せてくれんのは……親としては嬉しいもんさ。

…もっとも、その弱さもいつかは克服してもらいてェと思うのも親心だがな。

お前もまだまだ独り立ちできねェ鼻垂れだ。

また鍛え直してやるぜマルコ?グララララララッ!!」

 

かんらかんらと大笑い。

部下の弱さも脆さも喜んで受け入れる、この器の大きさが彼のたまらない魅力であった。

マルコは嬉しくなると同時に、だが…とも思う。

 

「ありがてェ…オヤジ。本当にありがてェよい…。

だが、それじゃダメなんだよい!

いつまでもおれは…おれ達ァ、オヤジに甘えてらんねェ。

おれは分かったんだよいオヤジ。

おれには甘えがあった。

〝オヤジがいるから大丈夫〟

〝オヤジなら何とかしてくれる〟

そんな甘えがいつまでも心の根っこにあったんだよい…」

 

「…」

 

白ひげはただ静かに息子を見つめる。

 

「オヤジ…おれがさっき喚き散らした、荒唐無稽な夢話…どう思うよい」

 

「ただの夢じゃねェだろうな。

見聞色の覇気を極めた者は未来を視るが…お前が視たのはそういうレベルでもねェ。

余りにも先を視過ぎている…何か特別な…違う力だろう」

 

丸太のような腕を組み、白ひげは一つ唸る。

マルコは信じてくれるかどうかを暗に聞いていたが、もはや白ひげにとってマルコの視た〝夢〟の真偽は論ずるに値しない。

間違いなく真実。間違いなく未来のことを語っていると信じるに決まっている。

息子がここまで必死に言うことを、只の夢として一蹴することなど出来るわけがないし、それに白ひげにはマルコの話に思い当たる節が既に一つも二つもあったのだ。

この海には人智を超えた不思議な事など腐る程ある。

 

「海には、おれ達にゃあ計れねェ何かが、いつも渦巻いていやがる。

悪魔の実もその一つだ…特にお前の〝トリトリの実〟モデル不死鳥(フェニックス)

自然(ロギア)よりも希少な幻獣種については兎角謎が多い。

人間が解明できたと思い込んでも、平然とその上や続きがあったりするもんだ」

 

「…悪魔の実の覚醒」

 

「そうだ。

動物(ゾオン)の覚醒は野生の獣の如きタフさと回復力と言われているが…、

お前が体験したことは不死鳥(フェニックス)の覚醒なのかもしれねェな」

 

言いながら、白ひげはゆっくりと腰を上げベッドから立ち上がった。

 

「オヤジ…!?寝てなきゃダメだ…!

オヤジがおれ達の想像以上に病に冒されているのは、おれァもう知っているよい!」

 

マルコは必死に白ひげを制止しだす。

だが、

 

「マルコ…それが問題なんだ。

オメェの言う通り、おれの衰えは極限まで来ている。実のところ限界だ。

隠し通せるつもりでいたがな…、

お前が言った事がどうしようもなく当たっちまっているという事が…

事の重大性を物語っていやがるのさ。

このままボケっとしてたらお前の言う通りの未来が待っている。

そんなことが許せるかァ?ええ?おい…おれの家族が失われ壊滅する…。

そんな未来が待っていると言われて、おれが大人しく寝ているタマか?」

 

己に繋がる数々の管を外す…ことはなく、

白ひげは特注の点滴スタンドを持ちながら歩きだし、片手にいつも持っていた酒瓶を投げ捨てた。

 

「今日から禁酒だ。少しでも悪あがきせにゃァな…可能性は1%でも多いほうがいい。

エースを助け…おれの家族全員を守るためならしょうがねェ…。

マルコ…おれがそんな悪夢は払ってやる…と言いてェ所だが、お前にも気張ってもらうぜ。

おれもデカくなった息子を頼らせてもらう。

少しは楽させてもらうからなァ息子よ…グララララ!」

 

「オ、オヤジ……!あぁ任せてくれ!おれもこの1ヶ月で足掻く!」

 

「全員に招集をかけろ。傘下の船長共にもだ。

白ひげ海賊団は、これから全員で修行だァ!

一分一秒の勝負になる…鍵はおれじゃねェ。お前達だ!

いいなマルコ…意地でもレベルアップしやがれ」

 

力強く頷いて、マルコは再び偉大な男の背の後を追いかける。

マルコの瞳はもう後悔に濡れるガキのものではない。

偉大なる白ひげ海賊団・1番隊隊長である戦士〝不死鳥〟マルコのものだった。

彼の瞳の中で青い炎がゴウゴウと燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

――

 

―――

 

 

 

 

その日、電伝虫から緊急招集がかけられたリトルオーズJr.はそれはもう急いでいた。

部下達が乗る船を肩に担いで海をかきわけ走っていた。

 

「うわ!わわわー!?せ、船長ぉ~!揺れが激し過ぎますぜェー!!」

「落ちるなぁー!つかまれー!!」

「こ、今回の船旅はまた一段と激しくねェっすかぁーー!?」

 

国引きオーズの子孫である彼は通常の巨人よりもかなりデカイ。

並の船では彼を運搬することは出来ず、巨人海賊団が使う船よりも更に大型の特注船がなければとても乗船できないのだ。

海賊をやっているわけだからリトルオーズは当然、特注船を所持していた。

だが、今回は「海軍に見つからないように死ぬほど急げ」という白ひげの緊急招集命令であった為に彼は船を使わないことにしたらしい。

 

「おやっざんの命令だど…!もうずぐ約束の島がみえ゛でぐる…!やろ゛うども!上陸準備しどぉーー!!!」

「ひー!船長ぉー!とてもできませーん!」

 

ざんぶざんぶと海をかきわけて爆走するリトルオーズの視界に、とうとう待ち合わせ場所の島が見えてくると、

 

「見゛えだっ!!…んんっ?」

 

島がちょっと普通じゃないことがこの距離からでも見て取れた。

 

「なんがおがじい…島が揺れてる!」

 

異変を感じ取ったリトルオーズが更に速度を上げ、部下達が更にシェイクされてゲロまみれになったが直ぐに島に到着することができた。

そしてその島に広がる尋常じゃない光景を見てオーズは叫んだ。

 

「っ!!!?おやっざんっ!!じ、じろヒゲ海賊団のみ゛ん゛な゛っ!!

 誰がごんな゛ごどをっっ!!!うおおおーーーーっ!!!!」

 

白ひげ海賊団の者達が広い浜辺で全員倒れていたのだ。

あの不死鳥のマルコが。

花剣のビスタが。

ダイヤモンド・ジョズが。

ラクヨウ、ハルタ、フォッサ、イゾウ…他にも名高き隊長達が地に倒れ伏している。

いや、それだけでなかく傘下の海賊船長達もであった。

大渦蜘蛛のスクアード、ドーマ、氷の魔女ホワイティベイなどなど…。

白ひげ海賊団の総員がまさに()()していた。

 

「お、おやっざんっ!おやっざーーん!!!」

 

部下の船を洋上に放り投げ涙目になって上陸したリトルオーズは、倒れ伏す彼の真ん中で力なく俯く巨漢の男…

白ひげを目指しドスンドスンと走り出した。

 

「…んあ?」

 

白ひげが顔を上げた。

 

「おやっざんっ!!無事だっだ!生ぎでだっ!!」

 

「おう、オーズ。来たな。いっちょ先にやってたぜ」

 

「…………………………ん゛?」

 

数十m先を見上げて白ひげがあっけらかんと答える。

小山よりも高いオーズの頭の上にハテナマークが浮かぶ。

 

「おやっざん…敵におぞわれ゛だわげじゃねェの゛か?」

 

「おいおいよせよい。誰が襲われるって?」

 

「あ゛っ!マルゴっ!生ぎでる!」

 

「生きてるよい!勝手に殺すな」

 

リトルオーズの足元に転がっていたマルコが起き上がり、首をぐきっとしながら空を見上げて喚いた。

 

「おー、リトルオーズ…来たか…」

「待ってたぜ…ようこそ地獄に…!うへへへ」

「遠慮はいらねェ。オメェの部下達もこっちゃ呼べ。皆で仲良く地獄見ようぜェ…!」

 

見れば他のぶっ倒れてた連中も次々に起き上がる。

 

「あで?み゛んな゛生ぎでる!」

 

「いやぁどうかね…これから死ぬかも…っていうか死んだほうがマシ?」

 

傷だらけ砂だらけのホワイティベイが青白い顔でフラフラ言う。

 

「ん゛ん゛?」

 

頭を傾けて更にハテナマークを浮かべるリトルオーズ。

 

「リトルオーズ」

 

「なんだマルゴ?」

 

呼ばれた拍子に下を向いたリトルオーズだが次の瞬間。

 

「どりゃあああっ!!!」

 

「ぐへェっ!?」

 

足元にいたマルコが腕を羽に変え高々と昇ってくると

そのままリトルオーズの顔面を覇気キックを見舞った。

 

「一番の期待の星はオメェだよい…。

ぜってーに覇気のレベルを上げてもらうぜ…リトルオーズ」

 

「グララララ!ようしオメェら!小休止は終わりだ。

特訓三日目第26ラウンド開始だっ!いくぞぉぉっーー!!!」

 

おっ始めたマルコを見て開始の合図を告げる白ひげ。

そう、これは白ひげ海賊団総力を上げた地獄の猛特訓。

白ひげの気勢に皆も応え、島全体が揺れる。

こうして全員でヘトヘトになるまで死力を振り絞って特訓。

皆がぶっ倒れたら白ひげのナースチームが皆を介抱し、用意していた食事をしっかりとらせる。

一日の最後の締めはマルコの不死鳥の炎による全員への癒やしが待っている。

これは皆の回復を促すと共にマルコ自身の〝癒やし〟の修行も兼ねていた。

マルコたっての願いでもある。

 

(おれがこの力を伸ばすことができりゃ…

少しでもオヤジの病を癒すことが出来るかもしれねェよい)

 

しかし他者の癒やしはモデル不死鳥の本分ではない。

鬼ヶ島にて、麦わら海賊団達を不死鳥の青い火で癒やした事もあるが、あれは各々の体内にある生命力を僅かに引き出した程度。

 

(チユチユの実でもありゃあな……

ドレスローザのどこかにチユチユの実があるって噂を聞いたことがあったが…。

だが今は無い物ねだりしてる場合じェねェよい)

 

今できることを限界まで…いや、限界以上にするだけだとマルコは決意を新たにする。

 

「待ってろよ…オヤジ…!」

 

かつて光月おでんから教えてもらった、ワノ国の座法(座禅)を組み、瞑想の要領で己の再生の炎を高める。

自分の内の命の炎を燃え上がらせ外へ捻り出していく。

 

「うぐ…っ」

 

心臓が締め付けらたような感覚がマルコを襲うが、それでもマルコは再生の炎を外へ外へ広げていった。

マルコを中心に広がる癒やしの蒼き炎が地を這うように広がっていき、疲労で突っ伏す仲間達を炎で包み癒やす。

 

「こいつはスゲェ…!マルコ隊長の治療は受けたことあったが…こんな芸当まで!」

「おれ達全員をいっぺんに…!疲れが…傷がどんどん治っていくぞ!」

「こりゃかなり助かるが…おいマルコ…!お前大丈夫なのかよォ!」

 

仲間達が、苦悶の表情で青い炎を広げるマルコを心配そうに見る。

隊長の中にはマルコを止める者もいたが、それでもマルコはやめない。

 

「マルコ…おめェ…」

 

付き合いの長い者が見れば分かる程僅かに…息荒く辛そうだった白ひげ。

だが、皆を包み込むマルコの炎に触れていると、重たかった体が、呼吸するだけで辛かった長患いの臓腑がスッと楽になっていくのを感じた。

 

(これ程までに…マルコ。お前が経験した未来は…余程の悪夢か)

 

無茶をする息子を見て、それを止めることは躊躇される。

白ひげにマルコの決意が嫌というほど伝わってきていた。

そして父と慕ってくれるその思いも。

 

「…ぐ…ぅ」

 

そしてとうとうマルコの意識の糸がプツリと切れるまでその治癒は続く。

 

 

皆疲れ果て意識を失うまで特訓特訓…。

そんな毎日が20日以上続いた。

 

 

そして、とうとうある凶報が情報通の協力者から届けられる。

マルコの言っていた通りに。

 

 

「エースぐんが…バナロ島で負けだ!?」

「ティーチの野郎…!!」

「くそ…マルコの言う通りになっちまったか」

「…なぁバナロ島におれ達が乗り込んでティーチの野郎をぶっ飛ばせばよかったんじゃね?」

「お前なぁ…オヤジの説明聞いてなかったのか?

モビー・ディック号の船足じゃバナロ島まで行ってたんじゃ間に合うか微妙だってオヤジが言ってたろ!

特訓初日に!」

「エースの小型快速船(ストライカー)はメラメラの実の火力を推進力にしてるかんなァ。

グランドラインを逆走できるし足も速ェ」

「つーわけでおれ達の狙いは端からマリンフォード!

おれ達の戦力を見誤っている海軍を正面から殴って!

んでもって裏切り者ティーチをボコボコにして、エースを真っ正面から掠め取る!」

「これぞ海賊!ヨーホー!」

 

白ひげ海賊団が鼻息荒くざわめき立つ。

島の海岸を埋め尽くす数の白ひげ海賊団員達を見下ろし、

モビー・ディック号の船首に立つ白ひげがゆっくりと皆を見渡した。

 

「マルコの言う通り、バナロ島の決闘は起きた。

エースはこれからインペルダウンに連行され、そして次はマリンフォードだろう。

息子達よ…お前らの力は3週間前に比べて桁違いになった。

エースはロジャーの血を引いている……海軍のやる気はいつになく凄まじいだろう」

 

さらりととんでもない事実を述べる白ひげ。

白ひげ海賊団本隊の者は皆知っているが、傘下の者には知らない者もいる。

特に大渦蜘蛛のスクアード。

 

「え?」

「あん?なんだ知らなかったのかスクアード」

 

白ひげと、隣りにいたイゾウの顔を視線が行ったり来たりして困惑。

スクアード以外にも何人かは困惑しているようだ。

だが、ロジャーの実子ということで隙きが生じ自分が痛手を被ることを聞いていた白ひげは、

 

「この中にはかつてロジャーに痛い目に合わされた奴もいる。

…それは痛い程知ってらァ……だが、親の罪を子に晴らすなんて滑稽だ…。

だが海軍はロジャーの名声をエースに乗せて処刑に利用しようとしやがるだろう。

エースはおれの息子…。

おめェらとも仲良くやって来た兄弟だ。エースだけが特別なんじゃねェ…。

おめェらの兄を…弟を…おれの息子を助ける。

おれ達は家族だ。

みんなおれの家族だ!」

 

偽らざる本心で皆にそう言ってのけた。

 

「オ、オヤジ…!」

「オヤジ…うぅ!」

「あぁ…エースが誰のガキだとか関係ねェ!おれ達の家族だ!」

「おうとも!そんなこと言やァおれなんざ靴屋の息子だぜ!」

「おれの父親なんざ無職で飲ん兵衛の母ちゃん泣かせだ!

今じゃおれたちゃみんな白ひげ海賊団よ!関係ねェ!オヤジの息子だ!」

 

イゾウがちらりとスクアードを見やる。

 

「…納得できそうかい?スクアードよ」

「チッ…納得しなきゃよ……これで納得せにャおれァオヤジの息子を名乗れねェ。

だってよォ…オヤジは……おれの目を見て真っ直ぐに言うんだぜ…イゾウ」

 

俯くスクアードだが、彼なりにどうやらエースの出生は呑み込めたようだった。

皆の様子を、スクアードの様子を、そして白ひげの様子を伺うマルコは一人安堵の溜息をつく。

 

(…取り敢えず、スクアードの一件はこれで防げるかもしれねェよい。

それにオヤジの調子も思ったより良さそうだ…無理したかいがあったってもんだぜ。

だが、相手は海軍本部大将達だ…欠片も油断できねェよい…)

 

自分の体が微妙に重たいが、そのマイナスを補って余りある。

白ひげの健康状態が、ほんの僅かでも回復してくれれば、それに勝るものはないのだ。

戦力的にも。マルコの生きがい的にも。

 

「エースがマリンフォードの担ぎ込まれると同時に総攻撃を仕掛ける!

勝っておれに久しぶりの酒を味合わせろよ!

海軍どもにャおれの息子に手を出したこと…そして何よりなァ…

俺に禁酒させたことを償わせてやらァ!グララララ!

てめェら支度しやがれ!!」

 

「「「「うおおおおーーーーーっっ!」」」」

 

ジョーク交じりの鼓舞をしたは良いが…白ひげは考える。

 

(相手は知将センゴク…

エースを運び込む算段をつけている時点で、準備は抜かりねェだろうな…。

インペルダウンを攻めても、あそこは外部からの攻撃には滅法強ェ…内通者でもいなけりゃ話にならねェだろうな。

それに…白ひげ海賊団が来るとバレたら、マゼランの野郎はエースを即処刑するかもしれねェ。

だがセンゴクの目論見には、おれの首も入っている筈。

政府の更なる栄達と民衆の人気取りの為には、ロジャーの子の処刑という一大イベント成功と、おれの首級は譲れねェだろうからな。

世界政府のメンツに振り回されるセンゴクにャ気の毒だが…そこを突かせてもらう)

 

「オヤジ」

 

「…マルコか」

 

皆が散っていき各々支度に取り掛かる中、1番隊隊長が神妙な面持ちで白ひげの前に立つ。

 

「せっかくのお前の事前情報だが…やはり攻めるタイミングはあまり変えねェ。

ティーチがまだエースの身柄を持っている時に攻めるって手もあるが…」

 

「いや…オヤジの言うことはおれも正しいと思うよい。

ティーチに下手に手を出してもアイツは何をしだすか分からねェ…。

エースを殺す可能性もある。監獄(インペルダウン)も同じだよい。

…エースを助けるとしたら、やっぱり海軍のメンツがかかる処刑宣言後がベスト…!

奴らも退けなくなるよい」

 

マルコが眼光鋭く己の考えを披露する。

それはオヤジ…白ひげと同じようなものだった。

血は繋がっておらずとも白ひげとマルコは最も付き合いの長い義父子。

自然と似てくるものなのかもしれない。

 

「そういうこった。

それに…その方が海軍がどう動くかが分かる。

オメェのおかげでな」

 

ニヤリと白ひげが笑った。

マルコが語ったマリンフォード頂上決戦の記憶。

それは既に白ひげと各隊長達へとバッチリ伝達され、そして対策も話し合われていた。

本来のマリンフォード頂上決戦…

蓋を開けてみればエースと白ひげの殺害には成功した海軍だったが完全勝利とは程遠い。

白ひげはティーチに害され肝心の首級獲得は〝赤髪〟シャンクスによって阻まれた。

海軍本部は崩壊し重軽傷者戦死者の数はおびただしい。

だと言うのに来るべき()()()のマリンフォード頂上決戦は…よりにもよってマルコの異能によって全貌が暴かれている。

正直、海軍涙目な結果は見えていた。

 

海軍の思惑が白ひげにバレバレになった全世界注目のマリンフォード…。

 

とうとうその時、来たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エース処刑…3時間前…海軍本部マリンフォード。

 

「海賊船の大艦隊だァ!!!」

「〝白ひげ〟はどこだ!?確認を!!!」

「〝遊騎士ドーマ〟!〝雷卿マクガイ〟!

〝ディカルバン兄弟〟…!〝大渦蜘蛛スクアード〟……!!」

「錚々たる面々…!!

いずれも〝新世界〟に名の轟く船長ばかり!!!」

「総勢43隻!〝白ひげ〟と隊長達の姿はありません!!!」

「しかし間違いなく〝白ひげ〟の傘下の海賊達です!!!」

 

海兵達が大忙しで動き出す。

予想ができていたとはいえ、超が付くほどの緊急事態にかわりはない。

参謀つるの敷いた布陣の裏をかいた白ひげが、

コーティング船〝モビー・ディック号〟を、海中からいきなり湾内に出現させたのだから尚更てんてこ舞いだ。

 

「うわァアアアア!!!」

「モビー・ディック号が来たァ~~~!!!!」

「次いで3隻の白ひげ海賊団の船!!!」

「湾内に侵入されました!!!」

「14人の隊長達もいます!!!」

 

大慌ての海兵をよそに大将達と元帥センゴクは動揺しない。

だが、白ひげの恐ろしさを充分理解するセンゴクの頬には、緊張からか…一筋の汗が伝う。

 

「白ひげ……!!」

 

足音高らかに勇壮に、艦内から船首の白鯨の頭へとやって来た白ひげ。

()()のセンゴクを見てニヤリと笑う。

 

「グララララ…何十年ぶりだ?センゴク。

俺の愛する息子は無事なんだろうな……!!」

 

海軍が長年、調査に調査を重ねてきた情報と幾分、様子が異なる。

センゴクと三大将、そしてガープ、つるはその事にいち早く気づいた。

 

「おっとォ~~?ありゃ…覇気が漲ってないかい?」

 

黄猿・ボルサリーノもまた頬に汗を伝わせながら言った。

無言で、サカズキとクザンもその言葉を受け取る。

彼らから見ても、明らかに白ひげの気力は充実しているように見えた。

 

「ガープ…あれはどういうことだろうね…?」

「諜報部の奴ら…なァ~にが〝白ひげ〟は病死寸前だ!

若い頃に比べたらそりゃあれだろうが…あれはヤバイぞ!!

しかもつるちゃん、見な!

後ろの海賊共も…白ひげ海賊団の若ェのも…

どいつもこいつも覇気が滾ってやがる……!」

「見ないでか…。嫌でも見えちまうよ。

こいつは…デカい嵐になりそうだ…」

 

歴戦、〝英雄〟ガープと大参謀つるの両名ですら感じる脅威。

10万を超える戦力を揃えた海軍の全てが、

白ひげの発する並々ならぬ凄味に気圧されていた。

 

「グラララララ……!!ちょっと待ってな………エース!!!」

 

白ひげの強く、深い声。

全てを諦めかけていたエースの心に火を灯すのにはそれだけで充分であった。

 

「…!オヤジィ!!!!」

 

「グラララララ…!初手から大暴れさせて貰うぜ…!サカズキ!!

海振!!!!」

 

空気を()()()()()白ひげの大きな拳。

超振動が大気を震わせ、そして海を唸らせる。

 

「何だ!大気にヒビ!?」

「おわっ!ああああ!爆発!?海が膨れ上がる!」

「まずいぞ!あの水面の高さ!!」

「地鳴りだァ!!」

「うわァ!?なんだあれ!!!」

「「「大津波だァ~~~!!!」」」

 

マリンフォード全てを包み込む巨大な海の壁が四方から押し寄せる。

早速の()緊急事態と見て取った大将青キジ・クザン。

 

(もう大将首の出番かい…!!バケモンが…!!

この津波…俺の予想を遥かに上回る量と勢い…!)

 

高速で大ジャンプ。即座に能力の全開行使を決意した。

 

「〝氷河時代(アイスエイジ)〟!!!」

 

青キジの放った超低温が大津波を氷漬けに…

 

「青キジィ…若造が……!だがまだ甘ェ…!!」

 

出来なかった。

 

「なに!?」

 

氷漬けになった筈の大津波が細かに、そして激しく振動を繰り返していた。

 

「大津波が……振動で覆われていやがる…!!!

まずい…大津波が…割れる!!!

く…!〝氷河時代(アイスエイジ)〟!!!!!」

 

更なる重ねがけで津波を今度こそ停止させる。

だが、

 

「「「っしゃあああ!!!白ひげ海賊大船団!!突っ込めェ~~!!!」」」

 

「な、何だとォ~…!?」

 

止まっていない津波が一つ…それは白ひげ船団の方陣中央から噴水のように()()()津波だ。

 

「な、なんだあの波!!まるで突き上げる海流(ノックアップストリーム)…!!奴らサーフィンみたいに、アレに乗って…!!!」

「し、白ひげの船団が…空から降ってくるぞォ~~~~!?!?!?!」

「おォ~…クザンがいきなり遅れとるたァ…

しかもあの振動の操作技術…やっぱ半端じゃなないねェ、白ひげェ」

「ァ~~~ッたく…!半死人の病人が随分元気じゃのォ…。

病人は大人しく……死んどればえェんじゃ…!」

 

情報よりもかなり調子の良さそうな白ひげの力を目の当たりにし、即座に残りのニ大将も動く。

黄猿は光線に…赤犬はマグマの巨弾となって白ひげへと襲いかかった。

だが、光線となった黄猿を撃ち落とす者が白ひげ海賊団にはいた。

いや、前まではいなかったが、地獄の猛特訓でそういうレベルに片手を引っ掛けた者がいたのだ。

 

「っ!?覇気込みの…銃弾!!あんたはイゾウかァ~?まいったねェ…ベックマンみたいなマネしてくれちゃって…まったく、どいつもこいつも諜報部の情報以上だねェ…!」

 

動きを予測し、光の速さにも付いてくる正確無比な狙撃連射。

だが、それだけで海軍大将を止められるほど将校が背負う絶対的〝正義〟の二文字は安くない。

 

「けど…わっしの相手をするなァ…まだまだ早い!」

 

「っく…!」

 

黄猿の動きが更に鋭く、そして変幻自在となってイゾウの見聞を上回る。

黄猿は、四皇の一、赤髪のシャンクスの右腕…ベン・ベックマンとすらやり合える世界屈指の実力者で、いくら急成長したとはいえ七武海級のイゾウでは手に余った。

だが、そこに10番隊隊長クリエルが助力。

 

「イゾウ、あわせろ!全力でぶっ放してやる!!」

「クリエルか…!任せろ!」

 

クリエルもまた、射撃・砲撃・狙撃を得意とする銃撃の名手だ。

 

「おっとっと…!二人揃っちまうと、まるで艦砲射撃だねェ!

白ひげ海賊団の幹部の実力…予想以上だ…!だが…少し妙だねェ…」

 

あの黄猿をすら防戦に追い込む奮闘を見せるが、しかし黄猿は光線を小出しにし、少なくないダメージを白ひげ海賊団の隊長格達へと与えていた筈だったが…

 

「く…この程度の傷!」

「屁でもねェぜ!!」

 

頑丈とかいう表現を少々逸脱した、異常なタフネスを見せることに違和感を覚える。

 

「まるで悪魔の実の能力者だねェ…誰かが回復役でもしているか…?」

 

だが違和感に気づいたからといって、今は複数の隊長格の弾幕と、そして常に白ひげ本人から飛んでくるとてつもない覇気に牽制されては動き辛い。

そして、もう一人の大将…サカズキはというと…。

 

「ッ!この…三下がァ…!うっとぉしいわァ!!!」

 

白ひげ海賊団、14番隊隊長にして最速の男スピード・ジルにまとわり付かれている。

サカズキの気をかき乱すように飛び回り、こじ開けた隙を突くようにして7番隊隊長のラクヨウが鉄球を投げつけ、12番隊隊長のハルタが素早い剣捌きで斬りつける。

 

「チッ…おれの氷も…!噂以上だなァ…白ひげ海賊団!」

 

クザンもまた、劣勢というわけではないが攻めきれないでいる。

氷の魔女ホワイティベイは、砕氷船無しに、まるで砂山を崩すかの如く氷を砕き、15番隊隊長のフォッサは、自慢の燃える剣で氷の山をみるみるうちに溶かし斬った。

そうやって三大将を掻き回し、攻撃に手が回らなくなった所に…

 

「グララララララ!!アホンダラども!隙だらけだぜ……―――

 

 

 

―――狭山超海ッ!!!」

 

白ひげが愛薙刀・むら雲切に覇気と振動を纏わせて振り抜けば、凄まじい衝撃波が三大将を襲う。

 

「っ!?ぐ…!!」

「く…!?病んでいたってのは、誤情報かねェ…!!」

「白ひげ…老いてなおコレか!!!」

 

攻防一体となった白ひげと幹部陣の連携は、まるで一個の生命体のように噛み合っていた。

それこそ、ここまで見事な連携は常日頃、チームプレーを意識し、特訓を繰り返している海軍並…いや、それ以上で、スタンドプレーが多くなりがちな海賊としては珍しい事だった。

それは白ひげ海賊団が一致団結した、あの修行の日々の成果の一つでもあった。

 

 

 

 

 

七武海も既に最前線に飛び出し、そこかしこでいきなりの激戦が展開されている。

様子見も無しに初っ端からの全力戦闘に、海軍も政府も、そしてこの様子を世界中継として映像電伝虫で手に汗握って食いついている民衆達も、白ひげ海賊団の本気を感じていた。

ミホークと花剣のビスタが激しい剣劇演舞を舞い、ドフラミンゴの糸をフォッサの炎の剣が燃やし斬る。

他にも、次から次に海で名を挙げた有名所が湧いて出てきて、もはや戦っていない者などいない…そういう大乱戦へと戦場は移行していく。

 

「まずい位置取りだね…さっきの白ひげの突き上げ波で……波に乗った麾下の船長達が処刑台に近い」

 

参謀のつる…老婆が戦場を見渡しながら臍を噛んだが、老海兵の鋭い思考と読みはそれだけに留まらない。

 

「どうしたぃおつるさん…!」

 

豪腕を振るい、群がってくる白ひげ海賊団の雑兵を薙ぎ倒しながら、中将のヤマカジが大先輩を見た。

 

「白ひげ海賊団の動きが妙だ」

 

「そうかい?端っからの全力戦闘…確かに慎重な白ひげらしからぬ暴れっぷりだが理に適ってると思うがね。

マリンフォードの中央湾に陣取ったんだ…待ってれば包囲されちまう。

暴れるしかあんめぇ」

 

「その割に、大事な船長ほっといて動いてない駒が幾つかあるねぇ」

 

「あ?」

 

ヤマカジの眼を鋭くし、そしてその様子を見ていたモモンガ中将が剃で宙を蹴った。

 

「っ!マルコだ!!1番隊隊長、不死鳥マルコが動いていない!」

 

「あんだとォ?あの白ひげの右腕が…この状況で動かねェ…?」

 

「…悪い子だ。小細工をしているね」

 

いつの間にかつるまで宙を蹴ってマルコの様子を様子見て、そして知恵の詰まった老練な頭脳を回転させれば直様大体の事を見抜く。

恐ろしい慧眼だった。

 

「モビーディックの船首で…あれは〝座禅〟の坐法…瞑想して青い炎を高め、広げている………モデル不死鳥の再生の炎を味方に遍く広げているね、あれは」

 

「な!で、では…マルコを止めねば…」

 

「白ひげ海賊団はいつまでも元気一杯ってことか!?

こりゃいかん!!」

 

つるが覇気満ちる視線をセンゴクに向ければ、付き合いの長いセンゴクは直様反応し、そしてつるの口の動きを読む。

例え戦場の喧騒で声が届かずとも、読唇術によって意思伝達は即座に行われた。

 

「なにィ!?あの不死鳥マルコが!!?

まさかそこまで悪魔の実を使い熟しているとは…えぇい!白ひげ海賊団はことごとくこちらの情報の上を行くレベルではないか!

ボルサリーノ、マルコを止めろッ!!!!」

 

「っ!そうか、マルコかぃ…!」

 

センゴクの大音声を耳聡く聞き取った黄猿が、違和感の犯人に気づくと同時に、イゾウ達から逃れて光となって空へ飛ぶ。

 

「黄猿ッ!逃げるか!」

「逃げるに決まってるよねェ~…お前ら海賊の土俵で戦ってやる程、海軍ってのはお行儀が良くないもんでね…!」

 

空へ向けて尚激しい弾幕を食らわせるイゾウとクリエルだが、黄猿は一目散にモビーディックの船首へと飛ぶ。

 

「この戦場を支配していたのが…まさかキング()じゃないなんてねェ…不死鳥マルコ…あんたを殺れば、流れが変わるって寸法だァ!」

 

脚に光を収束させ、今も無防備に座禅を組むマルコへと致死のレーザーを叩き込んだ。だが、そこには白ひげの肝いりで特別頑丈な、隊長一の防御力を持つ男が控えていた。

 

「いきなりチェックメイトってのも…つまらんだろう、黄猿よぉ!!」

 

全身をダイヤモンドへと変えて、さらに武装色で防御力の上塗りをしまくった巨漢。

 

「ダイヤモンド・ジョズ!!まさか、これ程の駒をマルコを守る為だけに…!

余計にマルコの首…獲る必要があるねェ…!!」

 

「やってみろよ黄猿!!!」

 

黄猿のレーザーの爆発を硬度で凌ぎ、レーザーの貫通力はダイヤモンドの輝きで屈折させて、そのまま黄猿へと返すという芸当すらダイヤモンド・ジョズはやってのければ、黄猿とて一筋の冷や汗を頬に垂らす。

 

「わっしの光線をそのまま反射するたァ…まいったねェ…!

男子三日会わざれば刮目して見よ…ってのはどこの海の諺だったかね…!」

 

ダイヤモンド・ジョズに手間取っている間に、またも背後からはイゾウとクリエルの銃撃の嵐。

 

「…っ!こいつァ…まずいねェ…!」

 

白ひげ海賊団の末端構成員の一人一人。そして幹部勢。その力量。

 

「グラララララララ!!壊天!!!」

「ぬ、ぐぅおおおおっ!!!?」

 

そして白ひげ本人のこの絶好調っぷり。今も赤犬が振動で吹き飛び血反吐を吐いて吹っ飛んでいた。

 

(諜報部は叱責ってレベルじゃ済まんけぇのォ!!!)

 

赤犬が抱くマグマのような大激怒は、まさに今現在の海軍10万の兵員全ての共通の思いかもしれない。

 

「がっはっはっはっはっはっはっ!!!

さすが白ひげだ!こりゃ一本取られた!!!!」

「うるさいぞガープ!さっさとお前も前線に行かんか!!!」

「よいのか?センゴク。わしまで行けば、ここの守りが無うなるぞ!」

「このまま戦線が崩壊するよりはマシだろう…!やむを得ん!頼―――

 

 

――っ!?んな!?なんだぁぁぁぁぁ!!!?」

「わっはははははは!!!さすがわしの孫!!!」

「空から…また海賊が降ってくるーーーーーー!!!!」

「なんだありゃあああ!!!」

「エースぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「誰か何とかするガネ~~~~~!!!」

「ぎゃあああ!!!?こんな死に方ヤダッチャブル!!!誰か止めて~~~ンナ!!」

「派手に死ぬぅぅぅぅぅ!!!!!だずげでーーーー!!!!」

「お、落ちるーーーー!!!!!?!?!?!」

 

空からの海賊、第二陣到着。

ルフィを筆頭に、インペルダウンから大脱走した愉快で残虐な問題児達が野に放たれた。

海軍10万と白ひげ海賊団5万は、突然の空からの闖入者に大混乱…かと思われたが、混乱しているのは海兵10万のみ。

いや、傘下の海賊雑兵4万ばかりは混乱したが、白ひげ海賊団の幹部や船長達は落ち着いたもので、むしろこの好機を待っていたのだ。

 

「マルコの言ったとおり!!!」

「これが、千載一遇の大チャンス!!!」

「後にも先にも…ここが最大の機会ってのは本当だったな…!」

「スゲェぞ、マルコォ!!!」

 

興奮し盛り上がった白ひげ海賊団。

そして、有らん限りの声量で白ひげが叫んだ。

 

「グラララララララ!!!!リトルオーズJr!!!テメェの出番だぜ!!!!

出ろォーーーーーーッ!!!!!」

 

クザンが凍らせた銀盤上で、白ひげが叫びながら氷の大地をぶっ叩く。

揺れ、割れて、そして海が盛り上がっていく。

 

(狙い通り…!手応えはあった!!!)

 

振動の精密発動。操作。

病床の白ひげならば出来なかった芸当を、この元気なじーさんと化した大海賊はやってみせた。

 

「リトルオーズ!?!?!?そうだ!!白ひげ海賊団傘下にいる、あの大巨人…!!」

「船はあれど、まだ不参戦だった…!あの巨体をどこに隠して……!あ、あぁ!!!??」

「また突き上げる海流だぁぁあぁ~~~~~!!!!」

「うわぁぁぁあぁあ!!!!」

 

ドドドドドドドと突き上がっていく大波が、長らく海中に潜んでいた伝説の巨人の子孫を持ち上げる。

 

「エ゛ーーーーーーーーーズぐーーーーーーーんっっっ!!!!!!」

「「「「海底にいたァーーーーーーっっ!!!!!」」」」

 

両手を突き上げ、まるで巨人のヒーローがかっ飛ぶようにして海流に乗って、巨人が現れた。

マリンフォードの処刑台をぶっ飛ばし、マリンフォードの本部ビルそのものをぶっ飛ばし、そしてセンゴクもガープも、救出対象のエース本人すらぶっ飛ばし…。

 

「リトルオーズぅぅぅぅぅ!!!!?お、おれまで吹っ飛ばすなよぉぉ~~~!!!?」

「エースぐん!!掴んだ!!掴んだどぉーーー!!!!」

 

ぶっ飛ばしながら、しかしリトルオーズの巨大な掌は、エースをすっぽりと掴んでいた。

 

「わはははははっ!リトルオーズ!手荒いなァ、おめぇよぉ!!」

 

文句を言ってみせるがエースの顔は満面の笑みだった。

尊敬するオヤジ達、兄弟達が、こうも愉快痛快に助けてくれるなんて、人生で一番楽しいとさえエースは思った。

しかも、最愛の弟が空からやってきてくれたのも思わぬサプライズだ。

 

「ルフィ~~~!!!お前まで来ちまったのか!!」

「エース!!なんだよ!もう助けられちまったのかよ!!!!って、うわぁぁぁぁ!?この巨人、おれまで掴んでるーーー!!?」

「マルコから聞いでるど、ルヒーぐん!!一緒に行くどーーーー!!息吸い込めよォ二人共ォ!!!」

「なに!?まさか…!?」

「え!?おい、ちょっ――」

「行っくどーーーーーー!!!!」

 

鍛えられた動体視力と反射神経で、空中から降ってくるルフィをそのまま反対の腕で掴んだリトルオーズは、ぶち抜いた凍れる大地に向かって、空中を蹴って加速して落下。

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーっ!!??!!??」」

 

兄弟の叫び声が崩れ行くマリンフォードの空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

――メギメギメギッドグシャアアッッザッッッッパァァァァーーーーーンッ!!!!

 

 

 

 

ド迫力の落下からの、ド迫力の全力泳法。

 

「マルコとおやっざんに鍛えられだのは何も覇気だけじゃね゛ェ!!!オイダの肺活量っ!!泳力っ!!見ででぐれっ!!古式巨人泳法ノッシノシ泳ぎッ!!!おりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

「おぶっ!?あばばばっ!!げぼぉ!!ぶはっ!?リドぉ、ルっ、オーズぅぅ!!?ぶぐぶぐぶぐぶぐ…――」

「ゴボゴボっ!ぶへぇ!!?っ、がぼぼぼぼぼぼっ!!?ぶっハァ!!!エーズぅぅ!ごれっ、なんがっ!ぎゃくに、おれだぢっ、死ぬ゛んじゃねぇがっ!!ごぼぼぼっ!!」

 

その泳法…その名に反してどう見てもバタフライであった。

だがその衝撃はマリンフォードという施設にとっては大ダメージ。

吹き飛ぶ軍艦、海兵達。

と、そこに…

 

「よォし…オヤジ!準備は出来てるよい!!!」

 

モビーディックに残っていたマルコが、船内に隠し引き連れていたコーティング職人と、簡易機材でいつのまにやら白ひげ海賊団の船をコーティングの泡で包んでいた。

 

「よぉし!打ち合わせ通りだ!!全員、ずらかるぞ!!!!

お宝(息子)〟は手に入れた!!!白ひげ海賊団、引き上げだァーーーーーー!!!!

グララララララララララララララ!!!!」

「うおっしゃーーーー!!!」

「そうとなりゃこんなとこ一秒だって居たかァねーぜ!!!」

「中継でよーく見やがれ世界!!これが白ひげ海賊団だ!!!」

「帰って宴だーーーー!!!」

 

意気揚々と、白ひげ海賊団達は自船へと飛び乗ってリトルオーズが巻き上げる大波を実に楽しそうに浴びながら海中へと沈んでいこうとする。

 

「ッ!!!ここまでコケにされて…そう簡単に逃がすと思うとるのかッ!!白ひげッ!!!」

「海軍のメンツってのもあるんだよねェ…少しは討たせてくれないと、ちょっと不平等でしょおが…!」

 

そこに怒り心頭の赤犬と黄猿。

覇気とマグマを撒き散らし、空に向かって特大のマグマ鉄拳を打ち出し、黄猿はドデカイ光弾を造り出し特大のレーザーを撃ち出す。

だが、それをさせぬ為の鉄壁の殿が、この白ひげ海賊団にはいる。

ご存知、不死鳥マルコとダイヤモンド・ジョズ。

 

「しつこい男はモテねェよい!!!不死薊(ふじあざみ)!!!」

「同感だなァ…!!」

 

特大の青い炎の盾となってマグマの雨を防ぎきり、眩いダイヤモンドの塊となったジョズが黄猿のレーザーを受けきってしまった。

そして、防ぐと同時に、生ける伝説がのっそりと再度の登板だ。

 

「ったくアホンダラ共めェ…。

人がいい気になってんだ…そっと見送っちゃどうだ?

土産をやるから大人しくしてろ…―――

 

 

――海震!!!!」

 

その振動は、今度こそマリンフォードそのもののトドメの一撃となり得る。

リトルオーズの暴れたい放題の泳ぎによる衝撃波もまだ治まっていない中、そこに世界一の男の振動までが襲ってきては…冗談抜きにマリンフォードに集結した海兵10万の全滅の可能性がある。

一部の強者は生き残れるだろうが、それでも海兵10万の喪失は、世界に対する抑止力の決定的な喪失に直結する。

今は青キジがその力で何とか荒れ狂う波やら何やらを凍らせているが、それとて白ひげの置き土産で崩壊するだろう。

しかも、今の白ひげはどう考えても全盛期に近い力を誇っている。

追撃は、まさに大将格の命を賭さねば微塵も成功しないであろう事は容易に想像できた。

 

「く…っ!白ひげェ…!!!お、おんどりゃ…!!!」

 

まさに血管が千切れ飛びそうな程の形相となって、サカズキは断腸の思いで踵を返す。

 

「…やれやれ……何ともかっこ悪い結果になっちまったようだねェ…」

 

ボルサリーノもまた、サカズキに倣って光の粒子となって消えた。

 

マリンフォードの空に残るは、海兵達の救助を求める声と、白ひげ海賊団の陽気な歌声。

そして、伝説の健在っぷりを世界に見せつけた大海賊白ひげの「グラララ」という世界を包むような豪放磊落な笑い声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?おれ達の出番は…?」

「船長、戦争…終わったってよ」

「…え?」

「白ひげの奴…エース引っ担いでとっとと逃げたらしい」

「…」

 

そして、黒ひげティーチの大舞台への華々しいデビューは、無情にも間に合わなかった。

全部、余りにも迅速だった白ひげ海賊団の戦略が悪いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界に中継されたマリンフォード頂上戦争。

どちらが勝っても世界が変わると言われた天下分け目の決戦は、蓋を開けてみれば海軍と世界政府の権威失墜を招いた。

とはいえ、海軍の人的損害は実は軽微であった。

それは、中途半端な威力の振動を起こす事で、救助すれば助けられる…という可能性を示して大将達に追撃を断念させるという、白ひげ一流の逃げの策ゆえの事でもある。

そしてそれは事実だった。

クザン、ボルサリーノ、ガープ、センゴクらの迅速な救助と〝災害対策〟によって多くの海兵の命が助かり、またマリンフォードの本部施設も全倒壊を免れた。

軍艦こそ半数を喪失したが、人材こそが至宝と考えるセンゴクは内心で、そこだけは安堵の息を吐いたという。

しかし、どう見ても圧倒的な醜聞を晒したのは事実。

 

「白ひげ…未だ健在、か。

まさか白ひげに引導を渡されるとはなァ…」

 

そう言って、自嘲的に微笑んだセンゴクだったが、そこには僅かだが心底からの尊敬もあったのだろう。

 

 

 

 

 

センゴク元帥、敗戦の咎により懲戒免職。退職金は支払われず。

三大将、及びガープ中将、数ある勲章の全返納。及び、給与の半年間返上。

 

「はぁ~~~~…退職金も計算にいれてたんだがなァ…あ~あ…」

「わはははははっ!老後の趣味が遠のいたな!センゴク!」

 

ばりばりと煎餅を齧る旧友(ガープ)を恨めしそうに睨んだが、それも面倒だとセンゴクはため息をつく。

一気に無気力人間になってしまっていた。

制帽の頭頂カモメもどこかダラケてしまっているようにすら見えた。

 

「再雇用制度でちょっと働くか…?あ~…それもヤダ……」

「わはははははっ!人変わりしすぎじゃろ!笑える!」

 

どこか呑気にすら思える二人の老兵。

だが海軍という抑止力は確実に影響力を低下させ、世はまさに第二次大航海時代。

海賊は、まるで無限に湧き出るかのように大海原へと次から次に出現した。

 

 

 

 

 

 

 

世は変わりゆく。

だが、そんな中でも変わらぬモノも確実にあった。

 

「グラララララララ!おめぇがエースの弟か!

なるほど、バカなとこはそっくりだぜ!!!」

「おっさん!バカは余計だって!」

「おいルフィ!おれ達のオヤジをおっさん呼びすんじゃねぇ!!」

「グララララ!!生意気な若造だぜ!やっぱエースそっくりじゃねぇか!!」

「なぁルフィ、知ってるかァ?エースはな…うちらの家族になる前は、オヤジの命を何度も狙ってよォ!」

「んで全部失敗してんだよな!うける!!」

「お、お前ら…!アノ時はおれも若かったんだよ!忘れてくれって!!」

「ははははははっ!エースの野郎、照れてやがるぜ!!」

「なぁエースの弟!なんかエースの恥ずかしい過去話ねェの!?」

「シシシシシ!いっぱいあるぞ!!」

「てめぇルフィ!!!!」

 

エースの火拳が、メラメラと燃え上がる。

 

「シシシ!!あのなァ、エースってば―――」

 

それをゴムの弟をびにょんびにょんと笑顔で避けて、最初は怒り顔だったエースだが、こんな空気の宴の中じゃ、いつまで怒ってなんかいられない。

余りにも、この宴は楽しいのだ。

 

「ルフィ~~~~!!」

 

いつのまにやら、エースはすっかりと弟譲りの太陽のような笑顔で弟を追い回していた。

それを囃し立て、笑い合う白ひげ海賊団の幹部連中。

まだまだ裏切り者のティーチの始末やら、雨後の筍のように湧いてくる新参無礼者の海賊の対処も、やることは山程ある。

だが、今この瞬間、大宴会の楽しさは誰にも邪魔はできない。

 

 

 

 

 

「…」

 

そんな仲間達の光景を、マルコは静かな酒で見守っていた。

静かに、ただ黙りながら、その顔には誰よりも充足感と希望に満ちている。

 

「おいおいマルコ。何を一人でちびちび呑んでやがる!」

 

そこに、白ひげの豪腕がガバっとパイナップル頭を引っ掴んだ。

 

「おわっ!?オヤジ!酔ってやがるなァ!?

深酒はやめるんじゃなかったのかよい!」

「グラララララララ!バカ言え!今日は禁酒断ちのめでてぇ日だ!野暮なこと言っちゃいけねぇな!!」

「禁酒断ちのめでてぇ日ィ…?エースを助けた大宴会じゃなかったのかよい…。

まったく、このオヤジは…」

「あんだァ!?文句あんのかマルコ!」

「……へへっ、別にねぇよい!

好きなだけ呑みやがれってんだ飲兵衛オヤジ!」

「グララララララ!言うじゃねぇかマルコ!てめぇも呑め、アホンダラ!!」

「っ!ぶわぁぁ~~!!オヤジ、酒かけんじゃねぇよい!!」

 

あっちでエースとルフィの追いかけっこ。

こっちで白ひげとマルコの酒かけっこ。

 

「おぉ!オヤジとマルコまで始めやがった!」

「おれ達もやるぞォ~~~!!!」

「やれやれェ~~~!!!」

「うわはははははっ!!白ひげ海賊団、かんぱ~~~い!!!」

「おれ達のオヤジにっ!」

「「「「「かんぱ~~~い!!!!」」」」」

 

いつの時代も変わらぬモノ。

それは仲間達との宴会の楽しさ。

その一時だけは、どんな大変革の時代だろうとも、決して変わらず無くならない。

マルコは、白ひげとエースと、この仲間達とのこの一時の為に、こうして運命を捻じ曲げてやったのだ。

 

(これで未来はちっとばかし変わっちまうかもしれねぇ…けど、おれにはそんな事大した話じゃねーよい……オヤジ、エース…そして、あの問題児のルフィ…あんたらがいれば、きっと…道は拓ける…そうだよな、オヤジ)

 

珍しく、マルコが誰よりも大笑いして、酒を一気に飲み干した。

 

その宴会は3日間続いた。

4日目の朝には、白ひげを筆頭に誰も彼もが二日酔いで酷い有様であったという。

 


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