うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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ファイナルデッドオータム・2

「……んー?」

「どうしたのお兄さん、さっきから壊れたテレビみたいに同じ音ばっかり出してるけど」

「遠回しに人のこと貶すのやめない?」

 

 

 朝食を終え、皆が出払ってから暫く。

 いつものように学校には判定だけ置いてるTASさんは、窓際でなにか難しげな本を読んでいたが……先ほどから既視感というか違和感というか、そんな奇妙な感覚を覚えずっと首を捻っている俺にちらりと視線を向けると、小さくため息を吐いたのちにその本を閉じながらこちらに歩いてきたのであった。

 その時微妙に罵倒的なものが飛んできたが……彼女が本気ならもっとガチ凹みさせられるのは目に見えているため、貶しているように見えて貶していないのはすぐにわかったり。

 まぁ、その辺りをツッコむと漏れなく俺が天井か床に埋まるので、基本的には見て見ぬふりをすることとなるのだが。

 

 ともあれ、俺が普段と違う様子を見せている、ということに彼女が気付いたのは事実。ならば隠す必要もないか、と俺は先ほどから感じていた奇妙な既視感について話をしたのだが……。

 

 

「……ふむ」

「ええと、TASさん?」

 

 

 俺の話を聞いた彼女は、顎に手を置きながらなにやら思案顔。……もうすぐこの現象がなんなのかを判明させられる、と期待していた俺は微妙な肩透かし感を味わうことになるのだった。

 

 

「……お兄さんは、世界五分前仮説って知ってる?」

「え?……ええと、今の世界は五分前に突然始まったのだとしても、それを物理的に『違う』と証明することはできない……みたいな思考実験だったっけ?」

「概ねそんな感じ」

 

 

 で、暫し考え込んでいた彼女が次に口にしたのは、特定界隈ではある意味有名な世界考察の一つ、『世界五分前仮説』のこと。

 人間の思考というものは、それが自発的なものなのかどうかを()()()()()()()()()()()()──いわゆるクオリアの実証にも関連付けられるこれは、即ち『突然記憶や物質などを含めた全てが五分前……否や一秒前に作られていたとしても、私達はそれを否定する術を持たない』という……まぁ、哲学らしい大分屁理屈染みた論説である。

 

 自己認識は自己からはみ出ることはなく、それゆえに自身の絶対性は言うほど強固なモノでもなく──そんなあやふやな自我から垣間見た世界もまた、それほど強固でも確実でもない……みたいな感じの話なわけだが、これが一体今の俺の状況とどう関係してくるのだろうか?

 

 

「……は?!まさか俺も作られた存在……!?」

「それはないから安心して。……ここで言いたいことは、()()()()()()()()()()()()()()、なんて風に処理できてしまうってこと」

「……んん?」

 

 

 ……なんだ、俺が作り出された命であることに気付き、世界に復讐を始める……みたいなフラグではなかったらしい。いやまぁ、仮にそんなフラグを立てられても俺としては御免被るわけだが。

 ともあれ、彼女が言いたかったのは次のこと。『既視感とは本当に既視のものにしか発生しないものではない』、即ちその既視感は偽物かも知れない、という話である。

 

 

「お兄さんにそういう素養はないのだから、まず既視感なんてものは勘違いでしかない。お兄さんは、特別な力とか特殊な定めとかとは無縁だからこそお兄さんなの。そういうのに憧れるのは止めておいた方がいいと思う」

「んー?おかしいなー?なんかいつの間にかお兄さんが夢見がちなのが悪い、みたいな話になってる気がするぞー?」

「気のせいじゃない。白昼夢からは覚めた方がいい」

「いつになく辛辣!?」

 

 

 どうやら、世界が今さっき始まったのだとしても、それを証明する手段を持たないのが人間なのだから、既視感なんて大抵偽物だから気にするな……みたいな話だったらしい。

 ……だったら素直にそう言って欲しいというか、既視感が全て偽物、なんてのは結構な暴論だろうというか、そういう反論が浮かんでくる俺である。

 

 なにせ既視感とは、()()()()()()()()()()()()()こと。……言うなれば、毎日通る通学路とかにも感じることのあるものなわけで、そういう意味では普段はっとさせられるような既視感に到達しない、という事実の方がおかしい気がするというかなんというか。

 

 いやだって、周囲のモノは早々変化などしない。

 昨日あったものは今日もまたそこにある、ということがほとんどで、ならば旅でもしているのならいざ知らず、普段の生活においては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことになるわけで……。

 

 

「……ん?」

「どうしたの、お兄さん?」

 

 

 ふと、自分の思考に疑問を覚える。

 いや、変なことを考えているな、みたいなアレではなく、今なにか見落としたような気がした、というか。

 思わず首を傾げる俺の様子に、TASさんがこちらを覗き込みながら心配したような声をあげるが──。

 

 

「──がっ!?」

「っ!お兄さん?!」

 

 

 突然後頭部に走った衝撃に、意識が白く飛んでいく。

 驚いたような声をあげるTASさんに一瞬意識を向けつつ、倒れながら振り返った俺が目にしたのは。

 ()()()()()()()()()()()、地面にその破片が散乱する光景であり。

 いや、どんな確率だよ──などというどこか呑気な感想と共に、俺の意識は闇へと溶けていくのであった。

 

 

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