うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

104 / 728
ファイナルデッドオータム・4

 それからの出来事に、多くを語る意味はない。

 ()()()行われたそれらは、微細な違いを内包しつつも、大筋は変わらぬままに進んでいく。

 

 本来、何度も同じものを見せられていては感覚が狂うだろう。

 ……そんな余計なお世話があったのかは定かではないが、それは本当に些細な違いをばら蒔くことで、既視感などを起こさせないようにされていた。

 

 ──ゆえに、それを彼は気付かず。

 ──ゆえに、彼はそれを気付けず。

 されど、些細な違和感──既視感と未視感に苛まれながら、それでも彼は()()に向かって進んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ん、ここは?」

 

 

 ()()()()の再起のあと。

 彼が目を覚ましたのは、真っ暗な世界の中。

 先ほどまであったはずの温もりはなく、また先ほどまで感じていたはずの冷たさもなく。

 温度も明かりも、共になにもない世界に放り出された彼は、しかしてこれを夢であると確信していた。

 いや、それは眠った時に見るものでも、はたまた人が生きるために抱くものでもない。

 敢えてそう、言葉にするのであれば──、

 

 

「……白昼夢、か?」

 

 

 ()()()()()()()その言葉に、納得を交えながら頷く彼。

 ──そう、これは白昼夢。本来彼が見えるはずがなく、触れるはずもなく、世界の狭間に消えていくそれ。

 ゆえにこれは、確かに白昼夢としか言い様のないものだった。

 まぁ、彼がそこまではっきりと認識できているかは、また別問題なのであるが。

 

 とはいえ、これが白昼夢であるとわかったとして、彼にできることがあるかと言えばノーである。

 なにせ、これは彼が見ているものでも、触れているものでもない。たまたまチャンネルが合ってしまったというだけの、まさに泡沫の如き世界。

 一度視線を逸らせば二度とピントの合うことのない、まさに一期一会の場所。

 ゆえに彼は──()()()()()()()、ここから視線を外すまいと身構えていたのであった。

 

 

「……なーんもねーでやんの」

 

 

 ぽつり、と呟いた言葉は闇に消えていく。

 なにかに反響するということも、はたまたなにかが視界に写ることもなく。

 そこに広がるは、無明の荒野。……いやまぁ、荒野と言い張るには小石すらない、文字通りの真っ平らな世界のようでもあったのだが。

 そんな暗闇の中を、彼はあてもなく進んでいく。何故進むのか、などという疑問を抱くことすらせず。ただ、なにかに突き動かされるように。

 

 ──そうして、彼はそこへとたどり着いた。

 

 

「……ん、良くないものを見てる」

 

 

 そこに居たのは、複数のモニターのようなものに囲まれ、それを無機質な瞳で見つめている少女(■■■)

 彼女は突然の闖入者にちらり、と視線を向けると、すぐに興味を失ったように視線を前に戻した。

 その様子があまりにもいつも通り過ぎて、彼は小さく苦笑を浮かべながら、彼女の隣に腰を下ろしたのだった。

 

 

「……いつも、こんな風に?」

「さぁ?」

「さぁ、って……いや、自分のことだろう?」

「前も言ったけど。本来この行為は時間軸の制約を受けない。……こうして会話できるってこと自体、おかしな話と言えばおかしな話」

 

 

 話題となるのは、この空間がなんなのか、ということ。

 ……彼女のそれは、追記だなんだのとそれ(■■■)を彷彿とさせる言葉で呼ばれるように、時間軸の巻き戻しに近い部分は本来認知ができない。

 出来上がった動画こそ現実である以上、そこから見えない追記の部分は、どう大きく見繕っても折り畳まれた一秒と一秒の間にしかない。

 ゆえに、本来この時間を認知する、ということはできないはず。仮にできたとしても、それはかの青い国民的なロボットの道具で、たまに語られるような話──遠方移動の為の道具が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という与太噺と同じように、ここに入り込んだ記憶はそのまま打ち捨てられるだけ。

 つまり、彼もまた彼女の認知から外れた途端、その五体を大気に霧散させるが定め、ということとなる。

 

 にも関わらず。彼がここにいるのは──。

 

 

「ちょっとこの短期間であれこれありすぎた。……なんというか、お兄さんの不幸体質を甘く見てた」

「参考までに聞くんだけど、これで何回目?」

「──三万飛んで二百八十一。その時に変にコリジョンした、とかだと思う」

「ふぅん」

 

 

 ──その暗闇の中でずっと藻掻いている彼女を、うっすらとでも知っていたからか。

 本来なら反映されるはずのない記憶が、本体に微細ながら蓄積され、それが抑えきれなくなって彼女の側まで流れてきたか。

 

 どちらにせよ、彼にとっては特段気にする話でもない。

 こうして暗闇の中で彼女を見付けたのなら、例えそれが消え行く(記憶)の抱いた都合の良い幻だとしても──、

 

 

「──まぁ、いつもありがとうな、マジで」

「……こっちこそ、なんて言ったら貴方は首を傾げるんだろうね」

「ん?」

「んーん、こっちの話。でも、消え行く貴方にだけ見せる特別」

「そっか。……あー、こういうのは今回だけにして欲しいなー」

 

 

 ──彼がするべきことは、彼女への感謝だけなのだろうから。

 そんなことを思いながら、記憶の狭間に取り残されることが確定している彼は。

 ……できれば、彼女に負担を掛けすぎるなよ、俺。

 などと、少し殊勝なことを考えて見せるのだった。

 

 

 

・∀・

 

 

 

「──そんな夢を見たんだけど、どう思う?」

「中二病乙、って言っておいてあげる」

 

 

 そんな、とある秋の日の夜。

 空を翔る流星群を見ながら、彼らは笑いあったのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。