うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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さながらそれは影のように

「すみませーん、『カップル用ジャンボパフェ』を、イチゴとクリーム大盛りでお願いしまーす」

「……はい、承りましたお客様ー。至急ご用意致しますので、奥の席でお待ちくださいませー」

 

 

 からんからん、という耳障りのよいドアベルの音を聞きながら店内に入った俺達。

 カップルフェアなんてものをやってる辺り、内装もちょっとあれな感じなのかなー?……なんてことを思っていた俺は、視界に飛び込んできた割りとモダンな雰囲気の店内に、少々呆気に取られていたのであった。

 なんていうの?こう……ああいうの(カップルフェア)とかやりそうな店に見えない、みたいな?

 

 で、俺がそうやって立ち止まっている間に、MODさんは席に案内しようと近寄ってきた店員さんに、先んじて注文を述べてしまっている。

 その様子に「あれ?」と首を傾げる俺だったが、店員さんは特にそのことを咎めることもせず、そのまま奥の席に向かうようにこちらに告げてくるのだった。

 

 

「……注文って、先に席に座ってからするもんじゃないのか?」

「先に券売機でチケットを買ってから、という店もあるだろう?……ああいや、別にわざわざ口に出して言わなくてもいいよ、そういう店じゃないだろうってのは、こうして実際に見てみればすぐにわかる話だからね」

「……???」

 

 

 ……なんだか、こうして連れてこられたわりに、どうにも蚊帳の外のような気が?

 いや、そもそもなんでカップル用のジャンボパフェなんだ、って時点で大概と言えば大概なのだが。

 だってほら、誘い文句はデートっぽいしそこまでの道中もそれっぽかったけど、それにしてはMODさんの反応が微妙だし。

 となると……これもまた彼女の仕事の内、ということになるのだろうか?

 

 

「おや鋭い。……いやまぁ、結構付き合わせてる方だから、わかっても仕方ないとは思うけど。……実を言うとね、今のは符丁の一種なんだ」

 

 

 パフェの中に多めに頼むモノと、盛り方の組み合わせのね……と悪戯っぽく微笑むMODさんに「あー」と意味のない呻きを返す俺。

 ……なるほど、弱火で云々とかと同じ類い、ということになるらしい。ついでにそれで予測される問題点も同じ、というか。

 

 

「問題?……ああ、無関係な人が巻き込まれるんじゃ、という奴だね?」

「そうそう。通の人の隠しメニューみたいに思われたら、普通に頼んじゃう人もいると思うんだけど」

「それに関しては問題ないよ。なにせ、符丁はそれだけじゃないからね」

「それだけじゃない……?」

 

 

 あの作品を見た時にも思ったことだが、メニューになくても頼んでいる人がいる、という時点で裏メニュー的なものと勘違いされても仕方ないというか。

 そんな俺の疑問は、続くMODさんの行動によってあっさりと解消されるのだった。

 

 

「……バッジ?」

()()()()()()()()()()()、ね。要するに、これを付けている人の注文だけ、特殊な符丁だと認識するってことさ」

 

 

 それは、彼女が襟元に付けているバッジ──桜の柄のもの──をこちらにチラリと見せ付ける、という行為。

 要するに、このバッジを付けている人の特殊な注文のみ、裏に関わるモノの符丁として扱われるという話らしい。……まぁなんというか、無駄に手が込んでいるというか。

 そんな風に微妙な顔をする俺だが、たどり着いた席に座ったところでそんな顔をしている余裕もなくなったのだった。

 

 

「ふぉおおおおおおおっ!!?」

「はっはっはっ。いやほら、よくあるだろう?──椅子が別の場所に繋がっていて、エスカレーターみたいな役割をする……なんてのはさ?」

 

 

 そう、MODさんが述べたように──俺が座った椅子は突然俺を拘束したかと思えば、真下に空いた穴の中へと吸い込まれて行ったのだ。

 無論、突然の自由落下?に俺は大パニック。……わけもわからず暫くの間、下に上にと無理矢理体を引っ張られるような感覚に踊らされ続けることとなったのだった。……これ酔うやつぅっ!!

 

 数分後。

 

 

「…………」<チーン

「おおい君、到着したよー?……ああダメだ、完全に死んでいるねこれは」

勝手に殺さないでくれ……

「おおっと生きてた。じゃあ行こうか貴方(darling)?お仕事はこれからだゾ☆」

勘弁してくれよ……

 

 

 いつの間にやら目的地に到着していたらしい俺は、しかしてそこに辿り着くまでのジェットコースターもかくやという、極限の急発進急停止急カーブの繰り返しにより、完全にグロッキーになっていたのだった。

 ……いや、マジで死にかけてるんで優しくして貰えません……?どう考えてもジェット機とかそこらの慣性の掛かり方だったよさっきまで……?

 

 で、そんな俺とは対称的にMODさんはとても元気そう。……なんでそんなにピンピンしてるんだろう、なんて言葉が脳裏に浮かんでくるくらいには、彼我のテンションには雲泥の差があったのだった。

 

 

「……というか、俺はなんのために一緒に連れてこられたんです……?このノリだと、最早なんにもできねーよ俺……?」

「はっはっはっ。最初に言っただろう?──奢って♡って」

「こえーんだけど俺はこんなところでなにを奢らされるんだ……?!」

 

 

 未だふらつく頭を押さえながら、MODさんの手を取って立ち上がる俺。

 そうしてようやく見回した周囲には──、

 

 

「……ダンス会場?」

 

 

 目元を仮面で隠した男女が、クラシックに合わせて優雅に踊る姿があちこちに見られたのだった。

 

 

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