うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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危険の意味が違う()

「……猫?こんなところになんで猫??」

 

 

 思わず宇宙猫になって、子猫と見つめあう俺である。

 

 なにせ、猫である。

 北国に猫がいない、などということは一切思わないが、それでもこの極寒の環境下で猫が生きていけるか?……と問われれば、俺は首を捻らざるを得ないわけで。

 ……イヤだって、猫って寒いの苦手というか嫌いというか、そういうイメージしかないんだけど俺?

 

 そもそもの話、日本の猫の原種は砂漠から来たもの。

 暑さには強いが寒さには弱いというのは当たり前の話で、それゆえ北国で見かける猫というのは、この猫みたいに雪の上を堂々と歩くと言うよりは、寧ろ寒さを凌ぐために物陰に隠れている感じなんじゃないかというか。

 

 そんなわけで、こんな雪深い場所に居るのは寒くて大変だろう……などと思いながら、俺が子猫に手を伸ばそうとした時。

 

 

「残念、お兄さんの冒険はここで終わってしまいました」

「うぇぺっ!!?」

 

 

 横合いから襲ってきたのは、容赦ないTASさんの張り手。

 ……突然の痛みに思わず尻餅を付いた俺は、恨みがましい視線で彼女を見上げたわけなのだが……返ってきた視線は、まるで養豚場の豚を見るかのようなモノなのであった。

 

 

「……ゑ?なにその視線……?」

「私は言いました。北国には一般人ほど嵌まりやすい危険があると。──なんでお兄さん、呑気に手を伸ばそうとしたの?」

「…………!?」

 

 

 まさかの罵倒である。

 なんで子猫に手を伸ばしただけでそこまで言われなければならんのか、などと思っていた俺は、次の瞬間子猫の奥に見えた生き物の姿に、思わず小さな悲鳴をあげていたのでした。

 

 

「ひぃーっ!!?キツネだぁーっ!!!?」

「……キツネが危険、ってことは知ってたんだね」

 

 

 そう、そこに居たのは愛くるしくも恐ろしい、北国の殺人鬼キタキツネ。……いや、殺人鬼は言いすぎか。

 でも人によってはその愛くるしさに萌え殺されてたりするので、やっぱり(別な意味で)殺人鬼かもしれない。

 

 ……まぁ、それについては置いておくとして。

 流石の俺も、北国におけるキツネというものが、迂闊に触れてはならないものである、というのはよく知っている。

 それは何故か?……彼らはエキノコックスという、非常に恐ろしい寄生虫の感染源となっているからというのが大きいだろう。

 

 

「そう、エキノコックス。サナダムシと同じ扁形動物門に属する生物で、人は中間宿主に当たるため、感染すると最悪死に至る」

「だから北国ではキツネに触るな、って話になるんだよね」

 

 

 一応、触ったら即感染するというわけではないらしいのだが……卵の大きさが一ミリ未満(大体0.03mm)、すなわち肉眼での確認が不可能なこともあり、いつの間にか口の中に入れてしまっていた、などの危険性があることを思えば……まぁ触れない方が無難、ということになってしまうらしい。

 

 あと、北国の野菜とかも危ないと言えば危ないそうだ。

 温室のような封鎖空間で育てたものでない限り、草木というのはそれに誰が触れたかわからない、という問題点がある。

 無論、直接キツネの糞が付いていたりすれば、明らかにヤバイので洗ったり煮沸したりするだろうが……先程も述べた通り、エキノコックスの卵は肉眼での確認は難しい。

 ……つまり、いつの間にか野生動物の体に触れていた卵が、そのまま野菜に付着する……という可能性は少なからず存在しているのである。

 

 なので、北国では野菜を取れたてそのまま丸かじり、なんてことはせず、必ず綺麗に洗ったり加熱調理したりして食べるのだそうだ。

 ……まぁ、これに関しては別に北国に限った話ではないだろうが。

 

 で、ここまで考えれば、流石の俺でも理解はできる。

 それがキツネ以外の動物であれ、それが野生動物であるのならば迂闊に触れるべきではない、ということは。

 

 

「そういうこと。相手がどういう動きをしていたかわからない以上、野生動物は須く迂闊に触るべきではない。……まぁ、猫の場合は一応、危険性は一段階下がるんだけど」

「そうなん?」

「猫は感染しても卵ができないから」

「へー……」

 

 

 まぁ、体に付着した卵がある可能性を否定しきれないから、やっぱり野良猫を触るのは止めた方がいい……とも彼女は言っていたわけだが。

 なお、犬だと普通に感染源になるとのこと。……なので外飼いは止めましょう、と口酸っぱく言われるのは犬の方なのだとか。

 

 ……とまぁ、唐突な寄生虫トークに終始したわけだが、そうこうしているうちに先程の子猫とキツネ達はどこかへ消えてしまっていたのだった。……真面目になんだったんだろう、あれ。

 

 

「ん、お兄さんの危険察知度を確認するためにご登場頂いた」

「なるほどーTASさんのせいだったかー」

 

 

 などと首を捻る俺に、あっさり種明かしをしてくれるTASさん。……要するに突然変な儀式をし始めるのの延長線だったらしい。

 いや、この行為をすることでなにが短縮できるのか?……と疑問を覚えないでもない俺だったが、予定以上にこの洞穴で待機していたことに気が付き──、

 

 

「……おー」

「これを待つ間の暇潰しでもあった。えっへん」

 

 

 洞穴の奥の方で壁が崩れ、別の場所へと繋がる道が現れたことを確認し、なるほどと頷くことになるのだった。

 

 

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