「仕方ないから俺がおぶっていこうと思うんだけど、TASさん紐とか持ってる?」
「麻縄ならここに」
「なんで麻縄……?」
いやまぁ、正直なところを言えば、本当に紐を持ってるとも思ってはいなかったんだが。
と、いうわけで。
なんの因果か、背中にCHEATちゃんを括り付けてTASさんの背を追う羽目になった俺である。無論、おぶるのではなく背中合わせである。後で死にたくないからね!
……そういう気遣いはできるのに、なんでこの人はいつもああなんだろう、みたいな眼差しで見つめてくるのやめてTASさん。
まぁともかく、これで一先ずここに立ち止まり続ける理由はなくなった。
なので、早速このすごろくを攻略していこう、という話になるんだけど……。
「おねがいおねがい、せめていちめんだけでいいから!さいしょだけでもいいからふつうにこうりゃくしておねがいだから!」
「うーん、なに言ってるかは相変わらずわからんけど、なんか凄く下手に出てる気がするのは確かだ……」
「……お兄さんも時々、よくわからない特技を披露することあるよね」
話が攻略に関するものに戻ったからか、再び必死な声色で何事かをこちらに訴えかけてくるダンジョン主?さんである。
その必死さからすると、恐らくTASさんへの頼み事だと思われるのだが……当の彼女は、俺の方に不審者を見るような眼差しを向けてくるのだった。
いや、そんな視線を向けられる謂れがなくね?……え?この声は普通の人が聞き続けると、わりと発狂するタイプのやつ?具体的には
「……そういえばこのひと、こっちのことちがってふつうそうなのに、ぜんぜんおかしくならないね?」
「私もある程度気にはしてるけど……ほっといても九割くらいは発狂ダイス自力で回避してるのは、正直一般人としてどうかと思う」
素の耐久値はへなちょこなのに、とこちらをジト目で見る彼女に、俺が返せるものはなにもないのでありましたとさ。……うるせーやい。
「
「それ君が、じゃなくて俺が、だよねうごへぇ!?」
「あっ、ごめん。背丈のこと考えて無かった。次はもうちょっと余裕のある動きをするね」
はてさて、本格的な攻略──最初くらいは普通に攻略して、といった感じのお願いをしていたらしいダンジョン主の言葉に、TASさんが珍しく従い。
その結果『かかったなあほうめが!』(バカめ、的な言葉らしい)というダンジョン主の宣言により、唐突に最初からクライマックス……もとい、すごろくそのものの難易度が跳ね上がってしまい、これはまさか万事休すか、などと俺が焦燥感に身を焼かれる……なんてこともなく。
突然のTASさんからの「ん、トスして」の言葉を受け、俺が彼女の踏み台代わりになることで空高く彼女を
……結果、ドスッ、という鈍い音と『ぐぇっ』という汚い悲鳴が響いたが些細なことである。
ともかく、ダンジョン主を物理的に黙らさせたTASさんは、返す刀で一面?の攻略条件である空高くにあるスイッチを押すことに成功し、壁もないのに左右から迫ってくる流砂に呑まれそうになっていた俺達の元へと降り帰ってきたのであった。
で、左右の流砂はスイッチを押した時点で消滅。……正規攻略法は恐らくこの流砂に呑まれないように登りながらあのスイッチを押す、というもののはずだが。その手段で攻略すると足場にしていた流砂が消え、最終的に高所から落下死させられる……という悪辣さに思うところがないでもない俺である。
……とはいえ、そこまで仕込んだにも関わらず、流砂ギミックは無視・かつ高所からの落下死すらしなかったTASさんの姿を思えば、どうにもかわいそうとか憐れだとかの感情の方が強くなってくる俺でもあったのだった。
「あわれまないでほしいんだけど!?っていうか、なんでふつうにぴんぴんしてるのこのこ?!ここいちおうわたしのしはいくうかんなんだけど!?」
「うーん、相変わらず言葉はわからんけど、多分怒ってるんだろうなーってのはわかるぞ。……で、なんでTASさんは無事だったんです?」
「?そんなの、軸移動したからに決まってるでしょ?」
「じくいどう」
……あ、流石に今のは『じくいどう』って棒読みしたのはわかったぞ、という俺の感想はともかく。
そう、ここはダンジョン主の作った、いわば彼/彼女の世界。
本来であれば世界そのものであるそれに逆らう術はなく、俺達は無様に蹂躙されるが関の山だったろう。
では何故、彼女はそんな相手の思い通りになっていないのか?……それはとても単純な話。この世界に
「バグが一切ないゲーム、というのは存在しない。
なにも間違っていないのに、何故か動かない。……そんなことも起こりうるのがプログラムである。ならば、バグは起こらないのではなく目に付かない、が最大値なのだ。
そして彼女──TASとは、そのバグを最大限利用するタイプの存在である。
……あとはまぁ、単純な話。
今回の場合で言うなら、
凄まじく雑に言うのなら、落下死判定が出ない程度の段差として四次元方向にずれながら降りてきた、みたいな感じか。なお、さっきの明らかに高く飛びすぎてたのもその応用である。
「……なにそれ?!」
「これが私。……ところで、どうにも懲りてないみたいだから再度コテンパンにしてあげる」
「ひぇ」
思わず、とばかりに声をあげるダンジョン主だが、TASさんの逆鱗に触れた者がこの程度で済まされるわけもなし。
ああ、ここから蹂躙劇が始まるのだなぁ、などと呑気に彼女達のやり取りを眺めていた俺は、
「ん、お兄さんをほっとくと危ないから、付いてきて……ね?」
「え、それはどういうほげぇーっ!!??」
突然彼女の動きに同調させられる、という憂き目にあい。
……結果、冒頭のように頭部を強打する羽目になっていたのでありました。……なんでや!