「七草粥を食べると無病息災でいられる、という風習がある」
「だから七草を集める、って話になったのはわかるんだけどさ……」
楽しげに前方を歩くTASさんを眺めつつ、はぁとため息を吐く俺。
今回はいわゆる『人日の節句』と呼ばれる行事のために、その主役となる七草を集めに来たわけなのだが……え?その前に『人日の節句』自体がよく分からないって?
「『人日の節句』と言うのは、元々古い中国の風習である『人の日』を由来とする。詳しいことは省くけど、要するに『人を大切にしよう』という日で、それが一月七日に行われるものだった」
「その中国の風習が日本の『七草を使った粥を食べ、一年の無病息災を願う』古い風習と結び付き、節句の一つとして成立したというわけですね」
「はぁ、なるほど?」
まぁ、そんな感じ。要するに『七草粥を食べる日』のことを『人日の節句』と呼ぶ、というわけである。
で、今回のあれこれは、言ってしまえば季節の行事をやろうという、とても単純な話になるわけなのだが。……TASさんが素直にその辺りの行事を消化するわけもなく。
「今回は最強の七草粥を作る。ゆえに……別に七草以外のものを選んでも構わない、と他の面々には言い含めておいた」
「……ぜったいろくなことにならねぇ」
「あ、あははは……」
いつの間にか常識人側に加わっていたDMさんが苦笑するように、TASさんが企画・提案している時点で、真っ当に終わるはずがない。
……その結果が、半ば闇鍋じみた七草粥の創成、ということになるのであった。
無論、
「最終的に無病息災にはなるだろうけど、その過程で俺の体が酷いことになる。断言してもいい」
「……ええと、そこまで疑わずとも、少しは信用してあげてもよいのでは……?」
「甘いな、神様だけに視点が雑いぞDM!」
神様ディスする必要ありました今?!……というDMさんの抗議はスルーし、改めて(ちょっと目を離したあとの)TASさんを指差す俺。
そこにあったのは、
「お兄さん見て見て、今年のマンドラゴラはとても元気」
(形容できないような悲鳴をあげる植物の根っこらしきなにか)
「……マンドラゴラって、普通に実在する植物でしたよね?」
「神様に実在を疑われるような植物ではなかったかなーははは」
これで良いものが作れる、とニコニコ(※当社比)でこちらを見るTASさんと、その手に捕まれた謎の蠢く物体の姿。
……ははは、最初っから先行き不安なんだけど、どうすりゃいいんだいこりゃ(なげやり)
そもそも伝説の方のマンドラゴラなら、叫び声聞いた時点で死ぬやんけ!……的なツッコミを投げたところ、返ってきたのは「この子は幼体。人を殺せるほどの力は出せない」という、ある意味更にツッコミ処の増えた言葉なのであった。
「料理に使う時は成体になりかけのものがよい。けど、普通の人にはその見分けが難しく、間違って成体を引っこ抜いて死んでしまうことがよくある。研究とかに使われるのは成体の方で、そっちを求めてる人は対処法を知ってるからなんとかなるけど……一般人にそんな手段や知識はないと思うから、素直に育ちきってないと一目でわかるものを採るべき。味は落ちるけど、そっちの方が安全」
「んー?おかしいなー、俺今ファンタジーな世界に居るんだっけ?なんかこう……ファンタジー世界での常識、みたいなものを語られてた気がするんだけど?」
「……?お兄さん大丈夫?頭打った?ここは普通に現実だよ?逃避しちゃダメだよ?」
「なんで返す刀でボロボロにされてるのかな俺!?」
一瞬でリングアウトさせられた気分なんですがそれは。
……ともかく、TASさんが適当なことをくっちゃべっている、というわけではない様子。
じゃあいつの間にか、異世界からの侵食によりこっちのマンドラゴラが全て置換されてしまった、とかいう話なのだろうか?
「……?
「ツッコミ処をぽんぽこ増やすのをヤメロォ!!?」
「?」
……という予想も、瞬時に荼毘に伏したわけなのだが。いや、どっちもあるんかい!
怪訝そうな顔でこちらを見てくるTASさんだが、そんな顔をしたいのは寧ろこちらの方である。
さっきからばんばかばんばか新しい疑問点を大量投入して来やがって、しまいにはふて寝するぞこのやろー。
「……あ、なるほど。やっとわかった」
「なにがぁ!?」
「お兄さんが困惑してる理由。そもそもなんで今回、外に出て七草を探そうなんて言い出したのか、ちゃんと説明してなかった」
「……ええと、単に七草の代わりを探しに来た、というわけではなく?」
「それもある、あるけどそれを満たすものは恐らく限られる」
TASさんの物言いに、思わず困惑の表情を浮かべる俺。
隣のDMさんも不思議そうな顔をしている辺り、理由とやらに思い当たる節はないらしい。
そんな感じで頭上に疑問符を浮かべる俺達に、TASさんは今回の遠出の
「──異世界からこちらに定着しつつある生物達。それを根こそぎ片付けてしまおうという新企画」
「「……新企画?」」
なお、聞いてもよくわからなかった俺達は、揃って更なる間抜け顔を晒す羽目になったのだった。……新企画?