「……そういえば」
「はい?なんですかお兄さん」
メイド姿もすっかりこなれたDMさんの後ろ姿を、頬杖を付きながら眺めていた俺。
この格好をしていると、無性に家事がしたくなる……とのことで、普段の俺のやることの大半を彼女に奪われている現状、俺のヒモ度合いが下がる代わりにニート分が高まっていることに焦りや困惑もなくはないが、DMさんが楽しそうなので言い出せずにいる……という心境とは全く関係ない話で恐縮なのだが、俺は一つの疑問を抱いていたのだった。
「いや、よくよく考えたらそのボディって、元々メカTASさんだったわけじゃん?その時は全く似てなかったわけだけど……今はみんなの尽力によって瓜二つレベルになってる。……それってほら、言い方を変えると見た目中学生・下手すると小学生高学年に見られることもあるTASさんと瓜二つ、ってことにもなるわけで」
「まぁ……はい、そういうことになりますね」
「じゃあさ?近くのスーパーとかに買い物に行く時、声とか掛けられたりしない?TASさんって結構有名人だし、そもそも昼間に外出てたら補導されたりしそうというか」
「ええと、不思議とそういうことはないですね。……いえ、正確に言うと、始めて話し掛けられる方の空気は、『よく知った誰かに声を掛ける時』のそれなのですが」
「……ふむ?」
その疑問と言うのが、結果的にTASさんと瓜二つになってしまったことによる弊害。
……TASさんはここでの生活が長いため、周囲の人に顔とか行動を覚えられてしまっている。
そのため、そんなTASさんと瓜二つだと、あれこれと絡まれたりして大変なのではないか?……と心配になってしまったわけなのだが、聞く感じではどうにもそういうトラブルには遭遇していない、とのこと。
……思わず俺が首を傾げても、おかしくはないのではなかろうか?
というか、彼女の話を聞く限りそういうトラブルの芽、みたいなものはしっかり存在しているみたいだし。
「なんの話をされているのですか?」
「おっとAUTOさん。いやほら、DMさんってTASさんと瓜二つじゃん?」
「ええまぁ、元々の素体が持つ方向性を変えないように仕上げましたので、当たり前と言えば当たり前ですが」
「あ、見た目が同じなのってそういう……ってそうじゃなくて。ええと、見た目が同じってことは、同一人物って勘違いされてもおかしくない?……って疑問がね?」
「なるほど?……なるほど、また微妙なことを気にしていらっしゃるのですね」
「……そこはかとない雑な扱いの気配がするけど、そこは置いといて……微妙とは?」
そうして首を捻る俺達二人の前に、都合よくやって来たのはDMさんのボディの開発・改良の責任者であるAUTOさん。
彼女は俺とDMさんがなにやら話し込んでいる姿を見て、何事かと近付いてきた様子。ゆえに、彼女に俺達の疑問を投げてみたのだけれど……返ってきたのは呆れたような彼女の表情。
その姿はまるで『そんなこと悩むような問題でもありませんよ』とでも言っているかのようで。……思わずむっとする俺達だったが、彼女が次に放った言葉に俺達は唸らざるをえなくなるのだった。
「だって、よく考えてみてくださいまし。──基本無表情のTASさんと、よく笑いよく困りよく照れるDMさん。……姿形が同じとて、両者を同一と見るのは中々骨が折れる作業ではありませんこと?」
「……確かに」
「えっえっ、私ってそんなに顔に出てますか!?」
「ええ、それはもう」
「今もめっちゃ困ってる顔してる」
「ええ~っ!!?」
そう、その理由と言うのが、両者の表情筋の稼働率。
TASさんの表情は基本的に『無』であり、例え変化したとしてもその変化量はごく微細。
薄く笑むとか薄く睨むとか、そのレベルの変化がほとんどなのである。……しかも、そのレベルの時点で実際は『滅茶苦茶面白がってる』とか『激おこ』とかなので、それよりも低い感情レベルでは最早『眉がちょっと下がってる』とかの変化しか見られないのだ。
対してDMさんだが、こうして見ているだけでわかる通り、その表情の変化はまさに多種多様。
華開くような笑みも、背筋を震わせるような憤怒も、共に仰々しいくらいに提示して見せるのが彼女の感情表現である。
……言い方を変えると、見た目の年齢相応の表情変化、というべきか。
つまり、両者を並べた場合にそれを混同することはほぼ不可能、仮に同一人物だとしても、これほどの違いは最早多重人格級の変化であるため、周囲の人もそういう風に対応してしまう……という事態を引き起こしていたのだろう、と予測できてしまうのだった。
「あとついでに言えば、彼女が外に出る時は基本的に
「……確かに」
あと、DMさんのメイド服も、両者を別人と考える理由となっているだろうとのこと。……まぁうん、TASさんがメイド服を着ること自体、滅多にないだろうしね……。
無論、なにかの攻略に必要となれば、躊躇いなく着るだろうという信頼はあるが。
そんな感じで、『わ、私ってそんなにわかりやすいの……!?』と戦慄しているDMさんを横目に、俺は機能停止した彼女に代わって残っている家事をやり始めるのだった。