「お兄さん、バレンタインです」
「ああはい、そういえばそんな時期だねぇ」
月日は流れ、二月。
世間様では恋人達の祭典・バレンタインが間近に迫り、そこに漂う空気感も、それ相応のものに変化しつつあったわけだが……。
ご覧の通り、うちにはそういう甘い空気は縁がない。だってほら、
「今年も何時ものように、私達が倒すべき敵が現れた」
「あーうん、どいつもこいつも爆発させるしかないねぇ」
今日の俺達は、まるでワンマンアーミー。……いや一人じゃないやんけ、というツッコミは受け付けないので悪しからず。
ともかく、今の俺達が戦場を前にした状態にある、ということは間違いない。
つまり、今宵の俺達は一つの修羅・戦場を駆ける影の狼……。
「……いや、なんですのいきなり?遅すぎる中二病とか、そういうあれなのですか?」
「おおっとAUTOさん、中二病とは酷い言いようだ。まぁ否定はできないんだけど」
カッコ付けてたのは間違いないからね!
……というわけで、呆れたような表情でこちらを見るAUTOさんを前に、いそいそと座り直す俺とTASさんである。……え?なんで座ったかって?そりゃもちろん、これからAUTOさんにちゃんと事情を説明しなきゃいけないからですがなにか?
「……なるほど、ご自分達がよっぽど物騒なことを仰っている、という自覚はあったと。……で?懺悔はそれだけですの?」
「待ってほしい。恐らくAUTOは勘違いをしていると思われる」
「勘違い?なにをですの、どう考えてもこれからやらかす流れだったではないですか!」
ほらご覧の通り。
AUTOさんってば俺達のことを誤解して、ここで止めなきゃ被害がヤバいとか思ってる顔してる。……これはちゃんとおはなししないと(使命感)。
「AUTOも私達の話を聞けば、この行動に賛同を示してくれるはず」
「洗脳でもするおつもりなんですの……?まぁ、いいでしょう。一先ず言い訳くらいは聞いて差し上げます」
そんなわけで、俺達が毎年この時期になにをしているのかを話した結果。
「……それは協力せざるを得ませんわね」
「やったーお墨付きー」
「いえー」
俺とTASさんは彼女の説得に成功し、二人でハイタッチをしたのであった。
「こちらブラボー1、目標に接近中、オーバー」
「こちらHQ、そのまま接近後タイミングを取るために待機、こちらの指示を待て、オーバー」
「……わりと本格的ですわね」
コールサインまで使ってる辺り、楽しんでるのは間違いないね。
……ってわけで、今回はスニーキング・ミッション方式での決行である。
俺は
「……いや、バレませんか?ダンボールは流石に」
「なにを言う、相手は天下のTASさんだぜ、見てみなよあの勇姿を」
「……!?風で煽られて飛んでいくダンボールの真似、ですって……?!」
「ね?」
なお、現実でダンボールなんぞ持ち出してもカモフラージュには使えんだろう、というツッコミに関しては、彼女が中に入った状態で『中になにも入ってない時のダンボールの動き』を再現することにより、逆にカモフラージュ出来ている……という意味不明なやり方でクリアリングしていたりする。
基本的に口を下にすること・及びTASさん自体がわりと小さく、ダンボールの中にすっぽり隠れられるからこそできる荒業だ。
……まぁ、それでも大きなダンボールがそこらに転がっている、という状況自体がおかしいのも確かなので、それをごまかすための『風で煽られて飛んでいくダンボールの真似』なわけなのだが。……中のTASさんが凄いことになっているのは間違いあるまい。
ともかく、そんな感じで対象に気付かれないように近付き、サイレントキルを食らわせる……というのが、今回のTASさんの基本行動ということになるのだが。
しかし、相手が相手ゆえに中々サイレントにはならない、というのが悲しいところである。
「……にしても、本当に居るんですの?その……」
「まぁうん、冷静に考えるとおかしいんだけど、実際三年くらいずっとやってるんで……」
そうしてTASさんの動きを見守る中、AUTOさんが溢したのは俺達の目的の相手が、本当に実在するのかという疑問。
……まぁうん、口頭だけだとちょっと疑いたくなるのは間違いないよね。AUTOさんが納得してるように見えたのも、実際には『本当にそんなやつが実在するのか?』という疑念を晴らすためなのだろうし。
とはいえ、奴らは確かに居るのだ。
ずっと昔から、下手をすれば俺が生まれる前から。
それをどうにかできるのは、恐らく俺達だけ。ゆえに俺達は影に潜み、奴らを狩るのだ……。
また中二病が溢れていますわね、みたいな顔をするAUTOさんを横目に、ついにターゲットの背後に接近したTASさん。
その姿を望遠鏡で確認した俺は、手元の無線にこう告げるのだった。
「──
「──ドーモシットオトコサン、カップルスレイヤースレイヤーデス」
「!?なんだその無理のあるネーミング!?」
「問答無用。イヤーッ!!」
「グワーッ!!?」
「……怒られませんか、この流れ」
そう、奴らとは世に溢れるカップル達を妬み、それを破壊しようとする悪人共。
──公然と
そんなわけで、目にも止まらぬ早業で悪漢どもを、千切っては投げ千切っては投げするTASさんに置いていかれぬよう、走って彼女を追い掛ける俺達なのであった。
……あ、途中からAUTOさんも前線で手伝ってくれたので、例年より早く作業を終えることができたとも記しておきます、はい。