「……さぁ、どうやら両者完成したようです!あの凄惨な調理過程から、一体どんなチョコレートが飛び出すのでしょうか?!」
「期待が持てるなー。どんな感じになるかなー」
「CHEAT君がとっても楽しそうだけど、多分それ喜び方を間違ってるよー、なんてツッコミを交えつつ、いざ実食です!」
数十分後、いっそ鍋とかセットとか爆発しねーかなー、なんて俺の淡い期待は綺麗にスルーされ、件の二人は調理工程の全てを終了してしまった。
野外セットの前には観客が詰め寄せ、なんだなんだと壇上を見つめている。……こんな衆人環視の中では逃げることもできず、素直に座っている俺なのであった。
「……こういう時、女の子に恥を掻かせたとかなんとかで責められるのは男側なのよね……」
「お兄さんの口からは哀愁が漏れていますが、世間一般的に見るとハーレム野郎なのは間違いないので観客の中に味方は零のようです!」
「はーいみんなー!ゲーム攻略系チューバー、チーたんだよー☆お兄さんの恥態もいいけどー、私のチャンネルも宜しくねー☆」
「こらー!!ここぞとばかりについでに宣伝してんじゃねー!!」
「はーい☆」
「キャラが変わってないから反省してないだろ貴様ー!!」
うん、世間一般的に見ると、美少女を複数侍らせてるクソ野郎が、なにか大掛かりなセットを使って、美少女達に料理を作らせているって以外の何物でもないからね、今の状況。
なのでこんな状況かつ、周囲に人がたくさん居る状況で俺が壇上から逃げれば、二人を争わせるだけ争わして逃げる最低のクズ男扱いされてもおかしくないからね。そうだね逃げらんないね(絶望)
……最早唯一の希望は、二人の作ったチョコレートが真っ当な見た目……は期待できないとしても、味くらいは普通であるというパターンを引けるかどうか。
一応、二人ともモノを作るのが下手、なんてことはないはずなので、過程はどうあれ結果はまともな……はず……だといいなぁ。
そんな感じで弱気になる俺を他所に、人がいっぱい居るから丁度いいや、とばかりに久しぶりの
……いやチーたんっておま、そんな名前でやってたんかい……みたいな驚愕も交えつつ、とうとうその時はやってきてしまったのであった。
「チョコレートの原型、というといわゆる中南米──ラテンアメリカにかつて存在したアステカ帝国において、神の食べ物と称されたカカオを飲み物にしたショコラトル……ですわよね。元々は滋養強壮のための飲み物だったとされており、味も甘いものではなく苦く・辛いものだったとか。──そういうわけですので、私としましてはその原型に立ち戻ったものをお贈りするのがベスト、と判断した次第でございますわ」
「わーいしょこらとるらー()」
まず先発、AUTOさんの方。
なるほど、チョコレートの原型がココアの方にある、というのはわりと有名な話。
それゆえにそっち方面に振り切った、という彼女の主張そのものに間違いやおかしな点はあるまい。
……間違いがあるとすれば、彼女はそれの元々の意味を求めるあまり、お菓子としてではなく料理としてそれを解釈してしまった、ということにあるのだろうか。
そう、吊るし切りをしていた鮟鱇を筆頭に、体に良さそうなモノがこれでもかとぶちこまれたその物体は、最早チョコと言うよりカカオ鍋、とでも呼んだ方がいい感じの物体に成り果てていたのであった。
匂いこそチョコなのだが、ごぽごぽと沸騰するその液体は、とてもじゃないがココアとは言いたくない感じの、酷い粘性の液体と化している。
さ、ずずいっと。……という言葉と共に差し出された紙コップの中に、なみなみと注がれたショコラトルが一つ。
見れば、AUTOさんは(一丁前に)恋する乙女のような表情で、こちらがこれを口にするのを今か今かと待ち構えている。
……いや俺、君がそもそもTASさんとの対決のために俺を担ぎ出したこと、忘れてないからね?……とは思いつつ、この状況で口にしなかったら大ブーイングが観客から飛んでくるのもわかっていたため、仕方なくそれを一口含み。
「……不味くはない、寧ろ美味しい」
「おおっと、意外と好評価!これは色々期待できるかー!?」
「だけどこれ、多分飲みすぎると脈拍過多で死ぬやつ……」
「いやこれは強壮し過ぎだー!一口の時点でギブアップだー!愛が強すぎたー!!」
「なんでも愛で片付くと思うなよ……」
……一口目の時点で、体が追加を受け付けない事態に陥るのだった。効き目強すぎぃ!!
「さて気を取り直して後攻、TAS君のチョコです!」
「AUTOはやりすぎ。私が真のチョコレートというものを教えてあげる」
「おおっと、TAS君自信満々だ!一体どんなチョコレートを見せてくれるのかー!?」
耳に脈拍が直に響いてくるレベルの強心剤だったわけだが、どうにか体調を戻し。
はてさてやって来たのは問題児そのに、TASさんのチョコレートである。
こっちはさっきとは打って変わって、至って普通の固形物なチョコである。
……とはいえ、見た目がまともだとはいえ、中身までまともとは限らない。なにせこれ、錬金術産のチョコレートだからね!!下手すると賢者の石とか混じっててもおかしくないというか。
……え?普通賢者の石を料理に混ぜるわけがない?ははは(遠い目)
…………そういう作品が実在する以上、TASさんが真似をしないはずもない、とだけ覚えておいて頂きたい俺である。
ともあれ、こうして逡巡していてもなにも解決しないので、意を決して手に持ったチョコをガリッ、と齧る俺。
「……クランチチョコだ、うめぇ」
「サクサク感がポイント。一手間掛けた甲斐があった」
「おおっと、シンプルながらテクニックの光る逸品だー!」
その結果、口内に侵入してきたチョコレートは、予想と違い普通に美味・かつ変な食感(主に
いやまぁ、味に関してはそこまで心配していなかったので、問題にするべきはやっぱり材料の方にあるわけなのだが。……まぁそれにしたって、端から入っているとわかっているマンドラゴラとかに関しては問題(あるけど)ないわけで。
「喜んで貰ってよかった。これで彼も浮かばれる」
「……彼?なにか特別な材料を使ったとか?」
「そう。今回の隠し味はドラゴンの骨。サクサクになるようにするのに手間が掛かってる」
「……ドラゴン?」
ところがどっこい、彼女の口から飛び出した材料名は、俺の思考を停止させるには十二分だったわけで。
……ええと、このクランチ部分、ドラゴン使ってるんです……?
「そう。迷いドラゴン。可愛そうだけど外来種・侵略種だったから刀の錆びになって貰った」
「ぎえーっ!!」
「お兄さんがキャパオーバーで倒れた!?」
まさか過ぎる材料に、思わず叫び声をあげて倒れる俺。
……いやドラゴンて。この世界どうなってんねん。
そんな俺の疑問は、誰に答えて貰えるでもなく空に消えていくのであった──。