「お兄さん、雪だよ雪」
「あらほんとだ。……今日は積もるのかねぇ」
ある晴れた日のこと。
気温はまだ寒く、春にはまだまだ届かない、そんな昼下がり。
どんより曇った空から降ってくる雪に、TASさんが声をあげる。……どうやら彼女が弄った結果降ったモノではなく自然に降り始めた雪のようだ。
まぁ、彼女もそれができるようになったからと言って、いつでも天気を操作しているというわけではないので、この思考はちょっと失礼な部分もあるのだが。
「あまり私が触りすぎると、乱数が乱数じゃなくなる。結果として調整できなくなってしまう……となると本末転倒」
「あー、TASさんのそれって、未来が複数あることを前提にしてるモノなんだっけ?」
そういうこと、と彼女が頷くように、TASさんのあれこれは、あくまでも未来が無数にあるからこそ輝くもの。
普段からなんでもないことにまで調整を持ち込みすぎると、本命の調整の時に展開の
まぁ、その辺りの難しい話は置いといて、改めて落ちてくる雪を眺める俺達である。
……それなりの勢いなので、放っておけば積もるくらいにはなるだろうか。
「まぁ、それでも一センチとかそこらだろうけども」
「都会で積もる、ってこと自体珍しい」
とはいえ、ヒートアイランドやらなにやらの影響で、雪が積もっても溶けやすいのが都会の特徴。
積もると言っても、雪国のような都市機能が麻痺するレベルになることはそうあるまい。
なので一都会っ子としては、雪がちらつく様を楽しむだけに留めておくのであった。
「──その結果がこれだよ!!」
「おかしい、降りすぎ」
……そのはずだったのだけれど。
見てみろよこの一面銀世界。おかしいな、俺達アイスパニックの世界の住人だったっけ?
そんな軽口が出てくるほどに、状況はとても変なことになっていた。……いやだって、ねぇ?明らかに一センチどころか、一メートル級に積もってるんだけど雪が???
なんじゃこりゃという感想を口から漏らしつつ、どこからともなくTASさんが取り出したシャベルを手に、道なき道を開拓する俺である。
……いやね?買い物しにスーパーに行ったあと、ちょっと店内であれこれ見てたらにわかに周囲が騒がしくなってね?
それでどうしたどうした、と騒ぎの中心に近寄ったらこれですよ、店の外真っ白ですよ。なにがあったんですかねこれ。
思わずTASさんの方を見るも、彼女は首を横に振って「私じゃない」との主張。
……これは本当に彼女のせいじゃない時の動きだ、と察した俺は、ならば他の不思議ガールズの仕業か?と訝しみながらスマホを起動。
『いえ、誰も雪乞いなどはしていませんが?』
「……だってさ」
「むぅ、これは難問」
その結果返ってきたのは、誰もそんなことはしていない、というある意味当たり前の言葉。
……つまり、現状のこれはたまたま都心部にも関わらず山村級に雪が降ってきた、ということになるようで。
んなバカな、などと悪態を付きつつ、こうして自宅への道をシャベルで切り開く羽目となったわけなのでございます。
「ふれーふれーお兄さん、頑張れ頑張れお兄さん」
「微妙に棒読みの応援は止めない?気が抜けるし……」
なお、今回のTASさんは異常気象の原因究明の方に掛かりきりのため、雪掻きに参加はしておらず。
変わりに、俺に対して棒読みで気の抜ける応援を寄越してくるのであった。
……うん、やらない善よりやる偽善とは言うけど、それもモノによるってやつだなこれ?
「むぅ、お兄さんがそこはかとなく失礼。私はとても真面目に応援してるのに。……あ、チアガールとかの方がよかった?」
「見た目中学生に見える女の子にチアガール服を着せて喜ぶ変態、っていう風評が俺に降り掛かるだけなんで止めて貰えますか?」
「むぅ、わがまま」
「わがままかなぁ?!これわがままかなぁ!?」
自分の風聞を守りたいって感情、そんなにダメな感情かなぁ!?
などとじゃれあいつつ、えっさほいさと雪を掻き分ける俺である。……気のせいじゃなければ、更に積もってないかこの雪?
「ん、ざっと見た限り三メートル級」
「それ普通に都心で積もっていいレベルの雪の量じゃないよね!?」
さっきまで自分の胸の辺りの高さだった気がしたのだが、今では完全に空が雪で隠れてしまっている。
……完全に雪中を掘り進んでいる状態になってしまったわけなのだが、これもう遭難してるのと変わらなくねぇ?いやまぁ、掘り進める度に標識とかコンビニの入り口とかに行き当たるので、なんとなーく今自分がどこに居るのかは把握できるのだが。
いやでも、これちょっと降りすぎじゃね?都会で遭遇していいレベルの雪ではないよね完全に??
そんな風に思わず立ち止まってしまった俺に、なにかしらと交信していたTASさんは顔をあげ、この状況の原因を口にしたのであった。
「お兄さん大変。雪将軍レイドだよ」
「んー胡乱過ぎやしないそれ?」
……ええと、実体化した雪将軍が居る、ってことでいいのかね、それは。
思わず白目を剥く俺に、TASさんはわくわくとした様子で腕をバタバタしているのであった。