冬将軍、というのは冬の寒さを擬人化した言葉である。
元々はかの皇帝・ナポレオンがロシアに遠征をした時、冬の寒さに追い返されたことをイギリスの新聞が囃し立てた結果生まれたモノ、ということになるらしいが……ともかく、本当に冬将軍という生き物がいるというわけではない、ということは間違いあるまい。
……間違いないはずなんだけど。
先のTASさんの言葉を信じるのなら、この異常な降雪はその冬将軍とやらがもたらしているもの、ということになるらしい。
いや、どこからやって来たしこのはた迷惑将軍。
「んー……自然発生?ちょっと最近色々ありすぎたし」
「うーんぐうの音も出ない正論……」
そうして首を捻る俺に、TASさんから返ってきたのは無慈悲な正論。……ああうん、他所の世界の人がどうとかこっちの神様がどうとか、変なことばっかり起きてましたね確かに!
そもそも私達自体もわりとアレ、と真顔で話すTASさんに
……全貌がどうなっているかはわからないが、このままだと周囲一帯が雪に埋まって大惨事である。
早急にその冬将軍とやらの元に行き、さっさと倒すなりなんなりしなければ、最悪酸素が尽きて窒息死、なんて笑えない状況に陥りかねない。
そうでなくとも寒いのだから、低体温症とかも怖いんだぞ、マジで。
「目の前で起こるファンタジーな事態に対して、現実的な問題の方を優先するお兄さんは流石」
「……褒めてる?それ」
「(多分)褒めてる。──とりあえず、雪の上に出る。話はそれから」
……なんかTASさんから呆れたような視線を向けられている気がするが、それはともかくとして。
とりあえず、絶えず振り続く雪上に顔を出さない限り、冬将軍とやらを捉えられないのは事実。
ゆえに、地上に向けて雪を掘っていかなければいけないのだが……これ、どれくらい掘れば良いのだろうか……?
「……流石にお兄さんに任せてると日が暮れる。私に貸して、本場の穴掘りテクを見せてあげる」
「え?あ、はい」
今の時点で結構疲れてるんだが?
……なんて風にげんなりする俺に、TASさんがやれやれと首を横に振りながら、こちらの手の内にあるシャベルを寄越せ、と目で訴えかけてくる。
それに応えて彼女にシャベルを渡せば、彼女は徐に雪の壁に背を向けて、
「秘技・背面削り──」
「それ普通に『失礼スコップ』とかでいいのでは?」
高速で虚空を掘るモーションを繰り返し始める。
……一般人が見たら『なにしてんのこの人?』と思うかもしれないが、これは歴としたTAS技の一つ・『背面に攻撃判定を出す』である。
本来は『攻撃をキャンセルするために振り向く姿が、背中側に攻撃判定を発生させているように見える』モノなのだが、彼女の場合は実際に攻撃座標を背後にズレさせることでダメージを与える、という技術と化している。
それに一体どんな利点があるのかというと。……まず、ゲームと違い現実では
固いものを斬る時に一瞬でスパッと斬るのは難しいし、また得物の耐久性によっては、何度も繰り返せば損耗も早くなる。
……雑に言うと、幾らTASさんと言えど物理法則に逆らうのはそれなりに骨が折れる、ということである。
だがしかし、こうして攻撃判定のみをずらした場合、どうなるだろうか?──そう、それらの問題点を全てスルーできるのである。
固いものには刃が通り辛い、というのは
なんなら、腐食性の物品や高熱の物品に対しても特に気にすることなく攻撃できる、なんて利点もある。
つまり、この背面攻撃はとても理に適った行動なのだ。
……え?そもそも攻撃判定をずらしてる時点で、理もなにもあったもんじゃない?そこはほら、TASさんだから仕方ないね。
まぁともかく。
ヒットストップすらろくに発生しない以上、TASさんのスペックでこれを使えばほらこの通り。
雪の壁など最早なきに等しいかの如く、ガリガリゴリゴリ削り取られて行く有り様な訳である。……まぁ、別に雪が虚空に消える訳ではないので、ある程度距離を取らないと飛んできた雪に巻き込まれて埋まる羽目になるのだが(1敗)
「……思ったより長い。加速するから付いてきてね、お兄さん」
「はいはい、頑張って追い付きます
なお、途中まで精々早歩き程度の進行速度だったが、地上までの距離が思ったよりあったせいで彼女の速度が一時
……やっぱり