うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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いつまでも同じじゃないのが長所

 さて、突如始まった音ゲーバトル。

 初回の選曲権を得たAUTOさんは、そのまま素直に自分の得意な曲を選び出し、TASさんと対決。

 

 

「……勝ちました、わね」

「むぅ、負けちゃった」

 

 

 そこで彼女は危なげなく、しっかりと一勝を掴み取っていたのだった。

 ……ただ、勝ったにも関わらず、AUTOさんの顔色はあまり宜しくない。どうにも思ったのとは違う展開になった、みたいな様子。

 そんな彼女の様子に、思わず俺は声を掛けたわけなのだけれど。

 

 

「ええとその、なんと申しましょうか……手応えが無さすぎる、とでもいうか?」

「む?ってことはTASさんが手加減をした、とか?」

「いえまぁ、そもそもこの場で勝負を挑まれたこと自体が意味不明なので、彼女がなにを思っているのかなんて全くわからないのですが……それ、あり得るのですか?」

「……うん、ないな!」

 

 

 端から見てる分にはまったくわからなかったが、なんというか余り真剣にやっているようには見えなかったとのこと。

 ……成績的にはしっかりパフェを出しているようにしか見えないのだが、どうやら彼女的には二・三フレームほど動きが遅れたり早かったりしたとのこと。……いや、そんなんわからんわ。

 

 まぁともかく。彼女の視点で見る限り、どうにもTASさんが本気のようには見えなかった……というのは確かな話。

 ただ、それにしてはしっかりパーフェクト自体は獲得しているため、そこら辺の意図を図りかねているとのことなのであった。

 

 なので、俺は安直に聞いたままの答え──即ち手加減してるんじゃないの?……という答えを返したのだが、それに対してAUTOさんから返ってきた言葉に、自分で言っておきながらそれを否定する羽目になったのである。

 ……まぁうん、TASさんって基本的に負けず嫌いだから、そんな手加減とかするわけないんですよねー。

 

 

「……ってことは、最終的な勝利のためになんか調節してるとか……?」

「フレーム単位の調整が必要ななにかとなると、とても嫌な予感しかしないのですけど……」

「奇遇だねぇ、俺も嫌な予感しかしないや」

 

 

 あはは、と乾いた笑いを交わす俺達。

 いやだって、ねぇ?周囲の人に気付かれないような微細な仕込みに、あのTASさんが一時の負けすら許容するなにか。

 ……不思議ガールズの中では、一番TASさんとの戦績が良い方であるとはいえ、それでも基本的には勝ち越している相手が、彼女に取ってのAUTOさんのはず。

 逆に言うと、一番負けたくない相手に勝ちを譲ってまで仕込むなにかが、厄ネタ以外のなんだと言うのか?……みたいなやつである。

 

 なので、俺はAUTOさんに注意するようにとだけ述べて、観衆に混ざり直そうとしたのだけれど。

 

 

「────?」

 

 

 人垣に混ざろうとした時、微かな違和感を抱くことに。

 なんて言えばいいのか……一瞬立ちくらみというか、意識の断絶があったような気がしたというか。

 そんな謎の感覚に首を捻っていると、なにやら周囲が騒がしい。

 

 彼らは一様にある一点を指差し、「信じられない」とか「いつの間に」とか、そんな感じの驚愕の言葉を漏らし続けている。

 その指している一点というのが、俺の背後──具体的には、先程近寄って話をしたAUTOさんとTASさんの対決の場、ということになるわけで。

 なにがあったのか、と振り返った俺は、そこで更なる驚愕に襲われることとなる。

 

 

「────ぜ、零点……?」

「そん、な」

「──ん、調整完了。もう負けない」

 

 

 そう、そこにあったのは。

 一つも点を取れず、途中で失格になったAUTOさんと。

 完全無欠のパーフェクトを獲得したTASさんという、あまりに対照的な二人の姿なのであった。

 

 

 

・A・

 

 

 

 あり得ない、と声を挙げるのは簡単である。

 しかし、目の前の筐体は、あまりに無慈悲な答えをこちらに提示していたのだった。

 

 完全な敗北、としか呼べないその現実は、しかしてその実感をこちらに与えない。

 文字通り、()()()()()()付いていた決着であるがゆえ、感情が追い付かないのだ。……とはいえ、感情が追い付かずとも、理性は既にこの状況の理由について考察を始めていた。

 

 まず間違いなく、この状況は隣の少女──通称TASが生み出したものである。

 寧ろそれ以外の誰が、このような面妖な状況を引き起こせるというのか。……そういう意味で、犯人捜しは実に容易く終了した。

 

 そしてそれゆえに、「どうやって?(how done it ?)」が問題となってくる。

 ──相手がなにをしたのか?という過程が全くなく、推理のしようがない。

 一応、先のゲーム中の些細な行動のズレがそれなのでは?……という予測は立てられるものの、そんな微細なそれがどう繋がるのか?……という目測が立てられないのだ。

 

 ゆえにこれは、彼女に対しての挑戦ということになる。

 この状況の謎が解けない限り、どう足掻こうと──それこそ(お兄さん)を買収してこちらに有利な曲を選ぼうと、自分の負けは揺るがないという『詰み』の状況。

 

 

「──面白い、ですわ」

「ええと、AUTOさん?」

 

 

 思わず、口元に笑みが浮かんでくる。

 基本、彼女という存在は挫折と無縁の人物だ。知るだけで最善の行動を取れるという彼女のそれは、一を知って十を知るの究極型とも言える。

 それゆえに、能力の限界に挑むくらいしか、彼女を熱くさせるモノはなかったわけだが……ここに来て、初めて『わからないもの』が現れた。

 

 ゆえに、彼女は嫣然と──ともすれば獰猛にも見えるような笑みを浮かべる。

 この瞬間、この一時は間違いなく、自分に取ってかけがえのないモノになると。

 

 

「いいでしょう、貴女のその不躾な挑戦状、疾く受け取って差し上げますわ!」

(……なんか嫌なフラグがバンバン立ってる気がするー!!?)

 

 

 ゆえに彼女は、その笑みのまま宣言する。

 ──貴女を勝者という玉座から引きずり落として見せる、と。

 そしてその発言に対し、TASと呼ばれる彼女は「いいから早く来い」とばかりに、彼女に手招きを返すのだった。

 

 ……間に挟まれた男が、ひたすら可哀想になる対面なのであった。

 

 

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