この時、CHEATの脳裏には勝利のプランが複数用意されていた。
そも、この『絵柄しりとり』は解釈力がモノを言う競技。その意味において、彼女を凌駕する存在はそうはいない。
件のTASにしろ、純粋な発想力の面では彼女には遥かに劣るのだ。……それなのに負ける理由?ウッサイダマレー!
……おほん。
ともかく、単純なスペック上の勝負では、本来CHEATとTASには埋められない崖のような差がある、というのは本当の話。
それでもなお、CHEATが彼女に勝てないのは──偏に、最大出力を維持できる時間の差にその理由があった。
そう、本来人間というのは、全力をスタミナの続く限り維持する、なんてことはできないのである。
そうでなくともコンディションの波があるのだ、本来なら圧倒的差がある二者であれど、片や絶不調の最低パフォーマンスと、片や絶好調の最高パフォーマンスであれば、実力が遥かに劣る相手がジャイアントキリングを起こすこともあるだろう。
そうして今回用意したのが、都合三人のCHEAT達、というわけである。
これらは空気感とかこそ別物なれど、正真正銘同一の存在。
それらが一つの存在のように動くことにより、スタミナの問題を解決することに成功したのである。
……え?卑怯?ウッサイダマレー!(二回目)
──おほん。
ともかく、である。多分恐らくきっと相手のTASもまた、こちらの人数に合わせて複数人で挑んでくるだろうが……どれほど人数が増えようと、相手の一番得意とするTAS的な動きを始めに封じている以上、戦力差は決して覆らない。
あとは相手に付け入る隙を与えず、じっくりと磨り潰して行けばよい……などと考えていたわけなのだけれど。
「……あれ?増えないの?」
「一つ先に言っておくけど、人間は普通増えない」
「今さらお前が普通を語るのっ!?」
そこで待ち受けていたのは、『増えないよ?』と不思議そうに首を傾げるTASの姿なのであった。……なして!?
……うーん、端から見ていてもわかるくらいに、頭上にハテナマーク飛ばしてんなCHEATちゃん。……哀れな。
はてさて、あくまでもTASさんVSCHEATちゃん、という試合形式ゆえに一歩下がって観戦の構えとなった俺達であるが、勝負は始まる前から暗雲が立ち込めていたのであった。
いやまぁ、一番最初にCHEATちゃんが増えた時の、あまりにしらけた感じになっていたTASさんと見比べれば、今のTASさんがやる気に満ち溢れているってのはわかるんだけどねー。
「でもあれ多分、思ったよりも歯応えがありそうだなー、とかその辺りのことを考えている時の顔だよね?」
「ですわねぇ。負けるとか論外という顔ですわね」
『普通なら、そんな態度を取ってる方が負けるモノなのですが……』
「生憎と相手がTASさんだと、ねぇ……?」
そのやる気は、相手がクソザコ(かなり穏当な表現)でなかったことを喜ぶモノであって、得難き好敵手を得た時のやる気ではない。
……そういう意味ではAUTOさんと遊んでる時の彼女が、一番イキイキしてるというか。
いやまぁ、CHEATちゃんも決して弱いわけじゃないんだけどねぇ?
『うーん、やっぱり私が手伝った方が良いのでは?』
「生憎このタイミングだと、DMさんに参加権限はないねぇ」
『むぅ』
そも、この黒板迷宮の時点でわりとギリギリというか?
……これが認識阻害とか一切ない状態で駅に出現していたならば、恐らく謎の存在に『悪いのだけれどこのループはもうダメだ』とか言われて初期位置()に戻されたりしたはずである。
──そう、例の出演制限である。
このタイミングでは本来DMさんは影も形もないため、本来であればこうして現場に馳せ参じてる時点でわりとアレかもしれない、というやつだ。
まぁ何度も言うように、現状のこの迷宮は存在があやふやであるため、中で起きてることもある程度ならばあやふやにごまかせるわけなのだが。
……とはいえ、流石に試合に干渉するのは限度越え。
どうにかするのであれば、ここにいるDMさんを関係外と印象付けつつ、どっか外から迂回して手伝う……みたいなことをしなければいけなくなる。
『うーん……この時期ですとそもそもロボ形態で動き回るのも、余り宜しくないんですよねぇ』
「まぁ、見た目がTASさんだから、ある程度ごまかしも利くってのも確かなんだけどねぇ」
うむむ、と唸るDMさんである。
ロボであることが周囲に露呈さえしなければ、現状でも彼女がロボ形態で動くことは十分に可能だが、その場合は極力TASさんのふりをする必要があるし、そもそもこの場に駆け付けるのはNGである。
……いやまぁ、TASさん側の援軍として、他の世界のTASさんを気取るのならアリだろうが、それだと本来味方したい相手の敵側に与することになるので本末転倒というか。
……あと可能性があると言えば、CHEATちゃんが前のループの時にDMさんから受けた講義を思い出すこと、くらいだろうか。
いつの間にかTASさんではなく、CHEATちゃんの方を応援しているような空気になりながら、俺達は決戦の舞台に視線を向け続けていたのであった……。