本格的な探索の前に、昼食を食べておこうという話になったわけなのだが。
本来ならしばらく釣りをして気持ちを整えよう、みたいなMODさんの心遣いだったはずが、それを彼女が口に出す前にTASさんが、
「もう釣ってきた」
「両手のバケツいっぱいの川魚が!?」
……などと、まぁいつもの癖を発揮してしまい、結果としてそのモラトリアムは無情にもスキップされてしまったのであった。
ムービーシーン中は飛ばせないからって、そもそものムービーシーン発生の原因から取り除いてくるのはズルじゃないっすかね……?
「強制スクロールくらいなら、他の仲間を使えばなんとかなるけど。流石にムービーシーン中はキー操作無効のことが多いから仕方ない。……まぁ、たまーにムービー中にキー操作を貯めておいてムービー終わりに開放してバグらせる、みたいなやり方もあるけど」
「この子は一体なにを言ってるんです……?」
そんな俺の言葉に彼女は「ん。大人気ロールプレイングゲーム『人生』のRTAのやり方」などと返してきたのであった。
……その作品をRTAできる人なんて早々いないと思うんですけどそれは。
ま、まぁともかく。
釣りというゲームシステム如何によってはTASさんが嫌いそうなそれは、今回の場合まさに彼女の嫌いなタイプだったようでしっかりスキップされたけれど、それを使っての料理の方は別。
彼女は調理には手出しも口出しもしてこないので、ここからは俺の戦場。
……すなわち、俺の手である程度の遅延行為ができるということであり、これを機に少しでも時間経過による話題の風化を狙っていきたいところなのだが……。
「……あの、TASさん?座って待ってて下さって構わないんですけど……?」
「ん、気にしないで。私は見てるだけだから」
「それが一番困るんだよなぁ!?」
ご覧の通り、TASさんはこちらの一挙手一投足に目を光らせていたのであった。
……うん、単に見てるだけやんけ、なんか困ることでもあるんか?……みたいなツッコミが聞こえてきそうだが、考えてみて欲しい。
世に溢れるTAS動画の中には、株式の売買をモチーフにしたものも存在している。そしてそういうゲームの場合、
……ここまで言えばわかると思うが、さらに駄目押しを一つ。『見る』という行為は、古来から特別な意味を持つものとして扱われている。
異界のモノと目が合えば引き摺られるなんて話もあるし、見えない筈のモノが見えてしまう、というのはよくないことが起こる前触れとして誰もが知っている迷信の一つだろう。
そうでなくとも、『見る』というのは決して間接的なモノではない。視線を感じるという言葉があるように、見るというのは決して一方的なモノではないのだ。
つまり、なにが言いたいのかと言うと。
TASさんの『単に見てるだけ』は、まったく『単に』ではないということだ。……乱数調整の起点になってる!
これじゃあ結局、口やら手やらを出されているのとなんら変わりがない。しかも他者の視線というのは、見られている側には察せられても第三者には見極め辛いもの。
……つまり、あそこでCHEATちゃんとのほほんと話しているDMさんには、この状況のヤバさが一ミリも伝わってないということである!
いやまぁ、向こうも向こうで表面上はのほほんとしてるけど、その内面は未だ大荒れの海みたいになってるんだろう、ってことは容易に想像できるんだけどね!まぁそれを表に出してないだけまだマシと言うか!
さっきまで顔に出掛かっていたことを思えば、見事に持ち直したと褒めてやりたいくらいである。
……まぁ自分のことに手一杯で、こっちの救援には来れそうもないって問題もあるんだけど!
仕方ながないので、なにか状況の打開策がないかと周囲をちらりと見渡してみるものの、こういう時一番なんとかしてくれそうなAUTOさんはMODさんと話していて、こちらには気付いてもいない。
……そもそもの話、AUTOさんにはこっちの事情は伝わってないし、なんなら今現在触りたくない相手筆頭のMODさんの相手をしてくれている分、現状維持が一番の最善手まであるのがなんとも腹立たしい。
じゃあ他の面々は?……となるが、先ほど明言した通りCHEATちゃんはDMさんと話しているので却下、MODさんはそもそも当事者なので論外という体たらく。
──つまり八方塞がり、俺に現状の打開策はない……かに思われたが!
(──はっ!藁発見!)
「っ!?」<ビクゥッ
事態に溺れる俺が見つけた最後の希望、それはこちらの視線に気付いたのか、露骨にビクッと震えているダミ子さん。
普段なら彼女をあてにすることはほぼないが、今回必要なのは少しの間でもいいのでTASさんの注意を逸らすこと。
……つまりは単なる時間稼ぎであるため、彼女でも十分役目を果たせると判断した次第である。
ゆえに俺は、視線に熱がこもるほどの圧を以て、彼女に目で告げる。
(──来るんだ、こっちに来てTASさんの相手をするんだ……っ!)
端的に言えば生け贄になれ、というかなり酷いお願いなのだが、基本的に必死に頼まれた場合断れないのがダミ子さん。
つまり、この勝負において負ける可能性など微塵もないのだ!
──勝ったな、などと思いながらダミ子さんの反応を待つ俺である。
「……っ」<フイッ
「なんで!?」
「お兄さん、なにが?」
「な、なんでもないよTASさん……」
なお、俺の預り知らぬところであったが。
実は事前にTASさんから「お兄さんが子犬みたいな視線を向けてきても、絶対に助けないでね。その方が面白……よい結果になるから」などと
ダミ子さんはこちらの視線から逃れるように顔を背け、以後
──結局時間稼ぎできなかったじゃないですかヤダー!!