「他所の人、と言いますと……」
「ええっと、無人島に行った時に、クルーザーから投げ出されたアンタが会ったとかいう?」
「そうそう。……いやー、喉に引っ掛かった骨がとれた気分、と言うか」
「ということは……二つ三つ離れたところの人、ということになるんですかぁ?」
形のない違和感の正体が、その人自体が纏っている空気感にあったことにようやくたどり着いた俺は、そこで大きく胸を撫で下ろしたのであった。
あれだあれ、背負った重い荷物を下ろせた気分、みたいな?
まぁ、実際にはそこまで大袈裟な話でもないわけなのだが……ともかく、気分としては上々なのは間違いなかったわけで。
「……君」
「え、どうしたのさMODさん、怖い顔をしてぇっ!?」
「くーわーしーいーはーなーしー、きーかーせーてーもーらーおーうーかーぁー?」
「ひぃっ!?MODさん目怖っ!!?」
そんな上機嫌な俺が、次の瞬間一気にテンション急降下する羽目になったのは、ある意味俺が浮かれていたのが悪い……ということになるのだろうか?
ともかく、必死な形相で俺の肩を掴んでくるMODさんの姿に、ほんのり漏らし掛けたのはここだけの秘密である。……なにをって?言わせんなよ恥ずかしい。
「……つまり、わざわざここで網を張らずとも、今度の夏休みに向こうに渡れる可能性はある……ということだね?」
「網て」
「そもそもの話、あの人と一緒に来てたかは分からないよ?」
「いいや、いいや。私としては可能性が少しでもあるというだけで十分だ。……ふふふ、待っていろよ二人とも、どっちも目一杯説教してやるからな……」
「うーむ、溜まりに溜まった鬱憤が変な形で爆発してる感……」
こちらの持つ情報を、文字通り根掘り葉掘り浚っていったMODさんは、現在なにやら不気味な笑みを浮かべている真っ最中である。
……うん、いつもの冷静沈着なMODさんは何処へ行ったのやら、と嘆きたい気分でいっぱいだが……藪をつついて蛇を出したくはないので、口を閉じている俺たちなのであった。
まぁ、この場で無理に向こうへ突撃しようとしなくなっただけマシ……と思っておこう、うん。
実際、向こうを探知するための技術を提供しなくてよくなったDMさんは、露骨に胸を撫で下ろしていたし。
(……というか、なんでそんなに露骨に嫌がってたので?)
(いやそのですね?……他の世界の観測装置って、もろに例の
(なにその百パーアウト案件)
なお、なんでそんなに技術提供嫌がってるの?……という俺の問いには、そもそも例の
……黒い光
逆を言えば、黒い光の瞬くところには『見る』技術が残されている、ということでもあるというか。
この辺りはさっきも言っていた『触れる』と『試す』技術は自然とこの世界から消えてしまう、という事実にも関わってくるが……まぁ今回は割愛。
ともかく、『見る』技術を提供した時点でDMさんゲームオーバー……みたいな状況だったというのであれば、今の安堵っぷりにも頷けるという話。
それゆえこの話は一先ず脇に置き、これからどうするかを考える方向で移行するわけなのだけれど……。
「……そもそも俺達、なんでここにいるんだっけ……?」
「あー……」
ここに来るまでの話が濃ゆ過ぎたため、微妙に当初の目的を忘れてしまっていた感のある俺達であった。
……いやだって、ねぇ?さっきの話、もう少し踏み込んだ話とかしてたら、もっと時間取られてただろうし……。
「途中から変な方向に逸れて行きましたけど、そうでなければ重苦しくて休暇云々の話ではなくなっていた所ですわ」
「はっはっはっ、ごめんごめん。……お詫びと言ってはなんだけど、ここからは純粋に観光といこうじゃないか」
はぁ、とため息を吐くAUTOさんに頷いていれば、隣のMODさんから返ってくるのは苦笑混じりの言葉。
……話が重苦しくなっていたのは確かだし、その空気を生み出していたのも彼女……ということもあって、今度こそMODさんは普通の旅行を約束してくれるのであった。
「そのはず、だったんだけどねぇ」
思わずそうぼやくも、「いや悪くない!これに関しては私悪くないよ!?」と首を左右に振っているMODさんを前にすると、どうにもため息を吐かざるをえないというか。
……舌の根の乾かぬうちに、新たなトラブルに巻き込まれたのだということを言外に示しつつ、改めて地面に正座しているMODさんの手前──その凡そ三十センチほど手前に鎮座する物体に、視線を向ける俺達。
そこにあったのは、見るからに怪しいポラロイドカメラと。
その場で印刷された写真に写る、変なポーズでこちらに主張しているTASさんの姿なのであった。
……また変なテクノロジーにぶつかってるぅ!!