「余計なムービーはすきっぷすきっぷー」
「本当になんの躊躇いもなく送り返したんだけどこの人……!?」
マジのマジで、同時発言を覚えるためだけに呼んだんかい???
……という俺の困惑を他所に、寡黙さんはなんのトラブルを起こすこともなく、普通に元の世界へと帰っていったのであった。
なるほど、寡黙さんの『寡黙』とは、
「って、喧しいわっ」
「……?お兄さんはさっきから、一人でなにを騒いでいるの?」
「いや、お兄さんがこんなに騒がしいのは、どう足掻いても君のせいだからね???」
なんというかこう、無駄に疲れた。
そんな気持ちを全身から放出しながら、俺は寡黙さんの消えていった虚空を眺めていたのであった……。
「一応補足しておくけど。別に、私の強化イベントのためだけに、彼女を呼んだというわけではない」
「ホントにぃ?」
ある程度の片付け──臨時の寡黙さんの寝床(一部屋提供)など──が済んだため、改めて居間でTASさんの話を聞くことになったのだが。
そこで彼女が説明したのは、次のような事柄なのであった。
「……ダミ子さんの効果の確認?」
「正確には、世界をダミーで埋めてる彼女が、正式加入前までわりと効果が微妙……ってことの確認」
世界をバグらせないように、世界には見えないところにダミー……もといダミ子さんが埋まっている。
……字面にするとホラーめいているが、要するにダミーデータは今のところダミ子さん(ダミ子さんになる前)の情報で仮埋めされている状態、というだけのことである。
この仮埋め、他所からの訪問者を弾くファイアウォール的な要素も持ち合わせているのだが……それがどうにも効果が薄れているようだとのこと。
「
「ゆらゆら……」
なんだっけ、次元境界線?
……まぁ要するに他の世界との壁のことなわけだが。
ともあれ、その壁が以前のループでの同じ時期と比べて、格段に安定していないのだとか。
あとついでに、ダミ子さんがダミ子さんとして成立することにより、その揺らぎは収まるはずだけど……よくよく考えてみると、本当に収まってたか微妙なところがあるような気もする……みたいな話も一緒に飛んできた。
──ほら、例のでっかい木のこととか。
あれ、どうにも効果とかを細かく見ていく限り、
「ええと……何故そう思うんですの?」
「向こうの人達、こっちと比べると恋愛に関しておおらかすぎるんですわ」
AUTOさんの疑問には、あの時の大樹の周りの人々の様子と、向こうの世界の人々の様子が似通っていた、ということを答えとして投げ返す。
……老若男女同性異性問わず好きなら好きでいい、好きこそがなににも勝る優先事項……みたいな価値観が、広く浸透している場所なんてそうないだろう、的な?
まぁ、あくまで直接向こうの世界に行って、そこにいる人達の様子を見た結果抱いた『似ているな』という感想でしかないので、実のところ本当に向こうの世界が由来のとなるモノなのかはわからないのだが。
あっちの世界、こっちみたく変な能力者達が跳梁跋扈してるわけではないっぽかったし。……不思議さんとか寡黙さんは例外。
ともかく、ダミ子さんの安定したあとも、世界の壁が緩い感じだったというのは事実。
つまりここに来て、ダミ子さんの有用性が危ぶまれてきたということになるわけで……?
「ぐえーっ!!?」
「貴方様ーっ!?」
「わ゛ぁ゛ーっ!?捨゛でな゛い゛で下゛ざい゛ぃ゛~!!」
突然の腰目掛けての衝撃に、思わずくの字で吹っ飛ばされる俺。
纏めて吹っ飛んできた下手人であるダミ子さんは、その顔を涙や涎でぐちゃぐちゃにしつつ、こちらに顔を近付け『捨てないで』と懇願していたのであった。
……ううむ、面妖な。
いや、面妖とかなんとか悠長な感想を抱いていられる状況でよかった、というべきか。
なにせこの姿勢、ダミ子さんの顔が見えない位置から眺めると、その発言も相まって俺がダミ子さんを捨てようとしていて、それに彼女が必死に追い縋っている、という風にしか見えないわけだし。
……え?実際そうだろうって?
物理的な心配と恋愛的な心配っていう、大きすぎる違いがあるんだよなぁ……。
「どっちにせよお兄さんが酷い人なのは確実。これは刺されてもおかしくない」
「さ、さささささ、刺さなきゃいけないんでしょうか?私は貴方を刺して自分の価値を証明しなければいけないんでしょうか??」
「……困った、冗談が通じない」
「TAS貴様ーっ!!?」
謀ったな、TAS!!
……とかなんとかほざきつつ、瞳孔の内側がぐるぐるし始めたダミ子さんをなんとか宥めるため、総員で掛かることになる俺達なのであった。
────死ぬかと思った!