「……つまり、TASさんが雨雲を吹き飛ばすために無茶苦茶なことをする……などという短慮に及ばないように、私達であれこれと機嫌を取る必要がある……ということですのね?」
「まぁ、端的に言うとそういうことになりますね……」
梅雨やら大雪やら花粉やらのシーズン時のTASさんが狂暴である、ということを共有した俺達。
ゆえにここからは、どうにかして彼女のイライラを解消する方向を考えよう、という話になるのだけれど……。
「……無くないかい、そんなの」
「そうなんだよねぇ……」
暫く目蓋を閉じて考え込んでいたMODさんが、それを終えた後に告げたこの一言。……悲しいことに、これが現実である。
なにせ、彼女が怒っている相手は『天候』という、ある意味では単純なイベント以上に面倒なもの。
何が面倒って、本来人は
「DMさんに教わることで、彼女と私はその制限を脱することが出来ましたが……生憎と、それができるようになるのは暫く後の事。……具体的にはツーシーズンほど後、ということになりますので……」
「梅雨の時期の今、私達にできることはなにもない……と」
「そうなってしまいますわね……」
無論、暫く時を置けば、TASさんとAUTOさんの二人がDMさんから教わる、という形で天候をある程度自由にすることもできるようになるわけだが……これに関しては先ほどから何度も言っているように、現状では選択肢がグレーアウトしている状態なわけで。
そうなれば、人の手では基本どうにかしようと思うことすら烏滸がましい、自然現象である梅雨に対してできることなど、素直に梅雨が明けるのを待つ……くらいしかないわけで。
「それは裏を返すと、今のTASさんに我慢するように言っているに等しい。……無論、TASさんが今の状況を許容してくれるわけもなく……」
「結果雨雲が吹っ飛び、ついでにそこら一帯も吹っ飛ぶ……と」
「……冷静に考えたら、天候吹っ飛ばすついでに大地も吹っ飛ばせるだけの火力があるのおかしくね?」
そうなってしまうと、TASさんが地球環境の破壊に着手し始める可能性を潰せない、ということになってしまう。
……え?前回の周回ではそういう問題起きなかったのかって?……あーうん、前回のTASさんは天候操作とか出来なかったから、今回みたいにイライラMAXになってもある程度自重が効いていたというか……。
あれだよあれ、一回できるようになったことが何かの要因でできなくなった場合と、端からできないことを比べると落差の問題で感覚的なイライラ度数が違う……みたいな?
まぁともかく、今回のTASさんがいつもに比べて抑えが効かない、というのは本当の話。
だからこそ、こうして対策会議を開くことになったわけで。
……講じることのできる策がなにもない、なんて結論で終わった場合に起こることなど、今の俺達には想像することすらできない。
ゆえに、原則的には最悪の事態を想定しておく、という話になったのである。
……だから、こちらに無言で抗議の視線を向けてくるTASさんは一先ず無視である。「そんなことしないもん……」とか言ってるけど、それをやれるだけのパワーは持ってるんだから対策されても仕方ない、ってやつだ。
そんなわけで、無言の抗議から人の頬肉を掴んでぶら下がる、という直接的かつ地味に痛い抗議に行動を変更したTASさんを(辛うじて)スルーしながら、CHEATちゃんの言葉にツッコミを入れる俺なのであった。
「……と、言うと?」
「順番が逆だって話。天気と大地だと破壊しやすいのは大地の方なんだから、天気のついでに大地を破壊するのは寧ろ自然な流れ、ってやつ」
「はぁ……?」
この辺りは『台風を人工的に消し去ることは可能か?』みたいな話を思い浮かべればわかりやすい。
実際、台風のような大規模災害はそれがもたらす被害が尋常ではなく、それゆえにどうにかして消滅させられないか、と真面目に考えられたことがあるのだ。
「で、一応できなくもなさそう、って話にはなったんだ」
「へぇー、やれなくはないのか……で、その方法は?」
「マグニチュード9の大地震級のエネルギーをぶつける」
「……あーごめん。聞こえなかった。もう一回言って貰える?」
「原子爆弾を複数個ぶつける。……まぁ、費用対効果の面から言っても無茶だし、なんなら単純なエネルギー面での試算でしかないから、実際にこれをやって台風が消せるかは謎みたいだけど」
「……色々と無茶苦茶じゃねぇか!?」
まぁ、それだけ自然災害というものが持つ力は強い、ということなわけで。
一応、もっと穏便な方法──台風や雨雲が発達するのは海水面の温度が高いからなので、それを底の方の冷たい海水と循環させることで抑えるとか──も検討はされたみたいだが、こっちは台風によって起きる被害と、この設備を用意するための資金の面で『到底釣り合わない』となって検討の段階で頓挫したみたいだが。
あ、あと単に雨雲を特定地点に発生させない、というだけなら中国辺りが一応人工降雨、という形で対策に成功してはいるらしい。
そのために必要なものが毒性のある物質なので、基本的に他所で真似できるような方法ではないみたいだけど。
……とまぁ、散々あれこれ言ってみたが、普通に考えると無理なことを、TASさんなら無理矢理にでもやれる……という時点で危険度は相当なものである、ということはよくわかって貰えただろう。
ゆえに、彼女に無用な暴走をさせないためにも、この梅雨の時期をどうにかして乗り越える必要があるのだが……。
「どうしようねぇ?」
「どうしましょうねぇ……」
正直、うちで一番の実力者が敵みたいなものである状況で、こっちにできることがどれほどあるというのか?……みたいな、一種の詰みになっている気がする俺達なのであった……。