はてさて、TASさんの不調を直したあとも日々は続く、というわけで。
「前々からやってみたいことがあった」
「ほう、それは?」
「雨粒全避けTAS」
「……それができたら傘要らずだな」
「そう。一応、普通の雨って避けられない規模の水が塊になって落ちてきてるってわけではないから、やってやれないことはないはず」
「まぁ、理論上はできてもおかしくはないかもな。……人の体の横幅よりも狭い範囲で、まったく同時に降ってくる雨粒が無いのなら……って注釈は付くと思うが」
「なるほど……それは確かに。避けた先に雨粒が居たんじゃ意味がない」
雨雲を見ながら、とりあえず思い付いたのであろうやりたいことを、キラキラとした(※当社比)目で語るTASさんに返事をしつつ、黙々と洗濯物を畳む俺である。
……空気がじめじめしてるから服が乾きにくいし、洗剤をちゃんと選んでおかないと部屋干し特有の匂いがしたりと、梅雨にはあまり良い思いの無い俺だが、ここでそれを態度に出すとTASさんが、
「……!お兄さんの承認が得られた。つまりこれは、今すぐ雨雲を吹き飛ばしても良いということ」
「まっったくよくないが!?」
……みたいな流れになりかねないので、なんとか自重する俺である。
考え方が変わったといっても、結局梅雨が無い方がTASさん的には嬉しい……ってことは変わってないからね、仕方ないね。
「ふっふっふっ……甘い、甘いぜTAS!」
「この声は……CHEAT」
(……なんだこの流れ?)
などと考えていたら、突然始まった謎の茶番。
どうやら学校帰りでうちにやって来たCHEATちゃんが、なにやらTASさんへと挑発めいたことを述べているみたいなのだが……ええと、これは一体どういうノリのアレなので?
そうして困惑する俺を尻目に、二人の謎なやり取りは続いていく。
「雨の日、止みかけの雨、手元の傘……これらの条件が揃ったのなら、私達がやるべきことなんて一つ……だろ?」
「なるほど……梅雨だからといって、一瞬でも雨が止まるタイミングが無い……なんてことはない。貴方はそう言いたいんだね」
(……どういうこっちゃ?)
なに言ってるんだこいつら?
……的な視線を向けてみるものの、二人はすっかり盛り上がってしまっているようで、こちらの呆れ顔に気付く様子はない。
どころか謎のやり取りはさらにエスカレートしていき、CHEATちゃんは手持ちの黒い傘を、対するTASさんはどこから出したのかわからない、謎の白い折り畳み傘をじゃきり、と勢いよく引き伸ばしながら構えたのであった。
……いや外でやれぇ!?
「行くぞぉ!食らえ
「なんの、梅雨落とし。一月後だから私の勝ちー」
「はー?月の多さだけで勝負は決まりませんがー?」
いつぞやかのTASさんとAUTOさんの戯れのような、わりとガチな戦い……というよりは、小学生男子同士のじゃれあい的な空気感漂う小競り合いではあったものの。
それをやっているのがこの二人、という時点で警戒するに値するわけで、俺としては室内でやるなと声を大にして言いたいところなのだが……ああうん、こんな時に限ってさっきまで止んでた筈の雨が再度降り始めてるでやんの。
……乱数調整で雨を降らしたんじゃなかろうな?とTASさんを見つめるものの、彼女から返ってきたのは「天候操作無しでの雨祈願はほとんど運だから無理」という言葉だったため、一応納得する俺なのであった。……いやホントに納得していいのかこれ?
まぁともかく、室内でやるなというのは変わりないため、代わりの場所を用意する俺である。
「それがなんで私の部屋なんですかぁ!?」
「なんでって……部屋の構造的にここが一番広いから?」
「そうでしたぁ!!隣が物置みたいになってるので忘れてましたが、ここって襖を退かせば繋がりますねぇ!!」
で、そうして彼女達を移動させた先は、ダミ子さんが寝泊まりしている一室。
この部屋、本来は二部屋ぶち抜きタイプの場所であり、彼女の寝室として貸し出す際に、片方を物置代わりにして閉め切ったのである。
なので、その襖を取り払えば二部屋分。この家の中では一番広い場所、ということになる。
……部屋割りがよくわからないって?まぁこの家、わりとワケわからん間取りしてるからなぁ……。
またいつか、解説する時があればその時に詳しく説明するとして……一先ずこの家の中で一番広いのがここ、とだけ覚えておいて貰えればいいや。
なお、別に俺ばかりにTASさんの相手を任せて、一人部屋で休んでるダミ子さんに思うところがあったとか、そういう話ではないことをここに記しておきたいと思う。
「それ遠回しに思ってたって言ってるやつじゃないですかぁ!?……ってわぁ!?なんで私に向かって傘を振り回すんですぅ!?」
「大丈夫、痛くないように細工はしてる」
「痛いとか痛くないとかの話ではないんですけどぉ!?」
「大丈夫大丈夫、最近ダミ子の影が薄いから相手してあげてるだけだから」
「この間私関連の話したばっかりですよねぇ!?」
おお、メタいメタい。
何故かがきんちょと化した二人に追い掛けられているダミ子さんに生暖かい目を向けたのち、俺は夕食の準備のためにその場を離れるのであった。
……後ろから聞こえてきたダミ子さんの悲鳴はスルーである。