うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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彼女の心彼女知らず

「今から胃が痛いですぅ……」

「大丈夫大丈夫、これからお腹だけじゃなく足腰も痛くなるからね。なにせ必死で逃げ回らなきゃいけないからね」

「……寧ろお兄さんは、なんでそんな環境で生き残ってるんですぅ?」

 

 

 そりゃもちろん、死にたくなかったからかな。

 

 ……とまぁ、来る合宿の内容に思いを馳せつつ、買い物に出掛けている俺とダミ子さんである。

 他の面々は宿題をしている組と、それに冷たい飲み物とか提供する側に別れて家に残っていたり。……メイドロボの面目躍如ってことなんだろうけど、最近のDMさん最早ただのおかんじゃね?

 

 

「そうですねぇ~……部屋でごろごろしてると『たまには外で運動でもしてきたらどうですか?』とか言われるんですぅ」

「完全にニートの娘とその母親な件」

 

 

 ニートじゃないですぅ~、自宅警備員ですぅ~。

 ……という、どっかで聞いたことがあるような言い訳を投げてくるダミ子さんを適当にあしらいつつ、じりじりと日の照る道を歩く俺達。

 

 昼食はまぁ……適当に素麺で済ませたわけだが。

 流石に夜までそれ、というのは頂けない。……いやまぁ、食が細いんならそれもありかとは思うが。

 

 

「うちの面々、基本的に夏バテはしないからなぁ」

「さっきも薬味や具材もりもりで食べてた人ばっかりでしたからねぇ」

 

 

 暗に『これじゃ足りない』って言われているようだった、というか。……君ら華の女子高生だよね?

 まぁ、変に夏バテしてグロッキー、みたいなのよりはいいと思うのだが。

 

 ともあれ、昼が簡単なものだったのだから、夜はそれなりにしっかりしたモノにしよう……みたいな考えになるのはある種既定路線。

 ゆえに俺は、とりあえず唐揚げでもするかなー、などと考えていたわけなのである。

 

 

「いてっ」

「きゃあっ!?」

 

 

 そうして上の空だったため、建物の影から飛び出して来る人物に気付かず、ぶつかってしまうことに。

 相手の方が小柄だったため、思わず撥ね飛ばしてしまうことになったのだが……謝罪と共にその相手を助け起こす際、目を丸くすることになるのだった。

 なんでかって?それはだねぇ……。

 

 

「……不思議さん?」

「……ええと、どこかでお会いしましたか?」

 

 

 いつぞやか、異世界で出会したMODさんの妹さん……不思議さんと瓜二つの人物だったのだから。

 ……あ、いや。よく見たら髪が長いかな?

 

 

 

・A・

 

 

 

 暫しお見合い状態となり、停止した俺達。

 相手側は、こちらの言葉に『知り合いか?』と記憶を探っていたため。

 こちら側は、その姿が見知った人物によく似ていたため。

 そんな理由から起きた一時の静止は、遠くから聞こえてくる喧騒によって、あっさりと崩れ去ったのであった。

 

 

「……!すみません、本来であればぶつかったことに対する、きちんとした謝罪をするべきなのですが……こちら、少々立て込んでおりまして。申し訳ないのですが、これで手打ちにして頂きたく」

「はい?……ってうわっ、多い多い!?受け取れないってこんなの!?」

 

 

 その騒ぎを察知した彼女は、緩んでいた表情を引き締め直しながら、なにかを書き記した紙を一枚、こちらに手渡してくる。

 内容を確かめたところ、それは一枚の小切手であった。……額?少なくとも、高々ぶつかった程度の話で出てくる金額ではないとだけ。

 

 こっちとしては寧ろ、相手を撥ね飛ばしてしまったことに申し訳無さが先立つ状態だというのに、こんなもの受け取れるわけがない。

 とはいえ、相手は早くここを離れたいのと同じくらい、謝罪をできないことを重視している様子。……つまり、受け取らないとここから去るに去れない、ということになるわけで。

 

 

「……仕方ない」

「はい?」

 

 

 こうなっては仕方ない。

 俺としてはこんなもの受け取れないが、彼女としては受け取ってくれないと離れられないのだろう。

 ……だから発想を変える。彼女がここを離れようとしているのは、恐らく遠くから聞こえる喧騒が理由。

 ならば、その喧騒がこっちに来ないようにすればいい。……と、いうわけで。

 

 

「──秘技、ダミ子七変化!!」

「ふぇれぶぅっ!?」

 

 

 さっきからこっちのやり取りをぽけっ、とした顔で眺めていたダミ子さんの背中側に回り、その背の特定部分に指圧を掛ける。

 後ろに回ってなにしてるんだろう、みたいな懐疑の表情を浮かべていたダミ子さんは謎の奇声と共に()()、現れたのは……。

 

 

「……なんでまた首が伸びてるんですかぁ!?」

「やれ!ダミ子!奴らを恐怖のどん底に落としてやれぇ!!」

「ええっ!?……あ、冷気も吐けますねぇ。ってことはこれ、前の時のあれですかぁ?」

 

 

 そう、いつぞやかのダミ子さん妖怪フォーム。

 突然首が伸びたことに困惑していた彼女は、こちらの発言に一瞬首を傾げたのち、こちらに向かってくる一団に気付いたようで、彼らの方に向いたのち──、

 

 

「はぁい、冷凍吐息ぃ~。……なんだかモンスターかなにかになったような気分ですねぇ」

 

 

 はぁー、と極寒の冷気を吐き立てる。

 その息吹は相手の一団を包み込み──文字通り、かちんこちんに凍り付かせてしまうのであった。

 

 ……うん、漫画的表現にしか見えないんだけど、これマジで凍ってるよね?……相手、死んでない?

 

 

「大丈夫だと思いますよぉ~?なんとなくですけどぉ、私がこの姿から元に戻ればすぐに元通りになる気がしますしぃ」

「なるほど、そりゃよかった。……んじゃま、落ち着いたところでちょっと話をしましょうか?」

「……え、ええ……?」

 

 

 なお、ダミ子さんに寄れば『ほっときゃ直る』とのこと。

 ……まぁ、事情はよくわからないが、なんにせよこれで落ち着いて話が聞けると言うものである。

 

 と、いうわけで。

 俺は困惑する彼女を先導し、とりあえずこの世で一番安全だろう場所(我が家)へと招待するのであった。

 ……ナンパ?ちゃちゃちゃちゃうわいっ。

 

 

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