「……なに考えてるの君ら!?」
MODがそれに気付いたのは、一先ず目の前の状況を置いて、祖母の家の方を確認してからのことであった。
そこにいる面々まで姿が母親となっていることに、まずは彼等がこれをやったのだな、と確信を深めたわけなのだが……同時に、なんでこんなことをしているのか?という疑問にもすぐに思い至る。
まぁまず間違いなく、自分を捕まえようとしてなにかしらをやっている、ということ自体は理解できたわけだが……この状況が自分を捕まえることに対してプラスに繋がる、とはどうしても思えなかった。
なにせ、見た目が母親になっていようとも、その言動まではごまかせない。
この大量の母親に紛れて捕まえようとしているのだとしても、そもそもこちらからすればすぐにわかってしまうような違いでしかない。
向こうがこちらをわかるように、こちらも相手がわかるのだから子供だましですらないだろう。
……というか、必然的に街の中に入るのなら、自分も母親の姿にならないといけないわけで。
それこそ、向こうからすれば誰が誰だかわからない、という話になってしまうだろう。
ゆえに、やっていることの意味がわからない、ということになったのだが……暫くして、
いやまぁ、流石にあの短時間に何処かへ行く、ということはないだろうから、祖母の家の近くに居ることは間違いないだろうが。
だが同時に、ここからでは言葉遣いなどによる違いは全くわからない。
……流石に声が聞こえるほどに近付けばわかるだろうが、この位置から見える程度の仕草では、誰が誰なのかはわかりそうもなかった。
そこまで考えた時、街の中の状況に変化が起きた。
一方的に攻撃されていたはずの追手(らしき母親の姿の誰か)が、明確に相手へと反撃を始めたのである。
さっきまでは街の住民達ばかりが攻撃していたが、相手側もそれをやり始めた、というか。
……いやまぁ、見た目上は母親同士が殴りあっているという、地獄絵図以外の何物でもないのだが……そこで交わされる会話を聞いて、彼女は自身の失敗を悟ったのであった。
「よくわからんがやれやれー!あれが俺達の方の仲間じゃないのはわかったぞー!!」
「むぅ、むこうのキレがよくなった。……なにかあった?」
「さてねぇ?でもまぁ、これで五分ってところだねぇ。……オラ!私らを嘗めてんじゃないよ!!」
「ぐへぇ!?……わかってても強いんですけどこの人達?!」
「喧しい!援軍も来るから泣き言言ってんじゃねーよ!!」
(……しまった!謀られた!!)
彼等の会話を聞いて、彼女が悟った失敗。
それは、彼女が見極められるのはあくまでも『母親か、そうでないか』だけである、ということ。
……街の人達が『同じ街の住人』以外を全て攻撃対象にしているのと同じく、相手側も『自分の同僚』以外を全て攻撃対象にし始めたというのが、先の会話の内容なわけだが。
そこまで聞いてなお、MODには目の前の集団が『母親ではない母親』としてしか認識できなかったのである。
いやまぁ、母親の姿だけど母親ではない、と認識できるだけでもわりと凄いのだが、それでもこの状況でその程度しか認識できない、というのはわりと致命傷であった。
そう、流石に近付いて声を聞けば誰が誰なのか、ということはわかるだろう。
だがそれは裏を返せば、必ず相手の確認を取る必要がある、ということでもある。
にも関わらず、目の前の一団は自身の所属を把握しているとおぼしき声を発している。
これが意味することとはつまり、
(こちらの状況判断が必ず一手遅れる、ということ!)
彼等はなにかしらの技術を以て、王女の所在を知り得ている。
もしこれが、その技術を応用して相手を見分けているのだとすれば、こちらは近寄らなければ見分けられないのに、向こうは遠くからでも見分けられる……ということになってしまう。
それだけならば、相手が拐おうとしている人物を助ければよい、ということになりそうだが……所属陣営の判別はわりと雑、というところに問題があった。
そう、相手の使っている技術が、そこまで判別の精度が高くなさそうなのである。
ということは、だ。
例えば相手が王女近辺の人物を(そこまでは判別できないので)纏めて連れ去ろうとした場合。
向こうとしてはとりあえず連れ帰ったあとで、じっくり判別すればいい……なんなら、この変化が元に戻るのを待てばいいのに対し、こちらはその全てを未然に・確実に防がねばならない、ということになってしまう。
あくまでも狙っているのは王女ただ一人であり、他の人物を誤って捕まえていても最終的には解放されるだけで済むだろうが……こちらにそれを判別する手段はない。
口元を押さえて喋れないようにでもされれば、それだけで誰が誰なのかの判別は不可能だ。
というか、場合によっては人違いでも人質として有効活用、なんてことをしてくる可能性もある。
これから増援が来る、とも言っていたし、その危険性は次第に増していくだろう。
一応、捕まる可能性がありそうなのは、王女の近くに居る面々──祖母や母、TAS達ということになるのだろうが。
TAS達はともかく、母親達は普通に捕まる可能性が大いに高い。
無論、TAS達も黙って連れ去られるのを見ている、なんてことはないと思うが……ここに来て、TASが
(……彼女が真面目にやってるなら、こんな大騒動にはならない……もしくは、敢えてなにもしないで流れに任せている、ということになる)
余計なイベントは彼女にとって苦痛でしかあるまい。
ゆえに、避けられるイベントは避けていくはず。……それがないということは、このイベントが必須であるか、そもそもこの辺りの事情に端から関わる気がないか、だ。
つまり、色んな意味でTASの助力は期待できないということ。
流石にAUTOは目の前の横暴を黙って見ている、というこたはないだろうが……それでも、数の暴力をひっくり返せるほどの圧倒的なパワー、というわけではない。
一つのことをこなすのに彼女の能力はとても有用だが、この状況全てをひっくり返すほどのモノではないのだ。
いや、というかだ。
──そもそもの話、彼処に居るのは
(……そこまでするか普通!?)
元はと言えば、彼女がちょっと敵前逃亡したことから始まった、些細な騒動は。
いつの間にやら、周囲を騒然とさせるほどの大事へと発展していたのであった……。