「……よもや、待ち構えられているとは、というやつか?」
件の車がやって来たのは、それからおおよそ五分ほど経過してからのこと。
距離を思えば結構飛ばしてるな?……って感じの時間、いや速度といった感じだが、だからこそ向こうは特に警戒することもなく王女様を連れて車外に出てきた。
……で、その周囲を俺達が悠々と囲んだ、というわけである。
さっきの台詞は、そうして囲まれた内の一人──王女様の隣で彼女を拘束している人物から発せられた言葉だった。
ただまぁ、こっちが囲んでいるから有利、というわけでもない。
向こうに王女様を害するつもりはないかもしれないが、それでも側に居る以上は人質にするという選択肢も取れるわけで。
……こちらとしては、そういうことをされる前に口頭で決着を付けたいところである。なんでかって?
(人質を取ろうとした瞬間に
(……とかなんとか考えてる顔なんだよなぁ、あれ)
そりゃもう、TASさんが生き生きとしているから、としか言いようがない。
いやだって、ねぇ?本来俺達はこのイベントに関わることはないはずだった。
……ということはだ、そこには未開の大地──言い換えれば誰にも踏み均されてない新雪が降り積もっている状況、という風にも見なせるわけで。
そんな美味しい状況、あのTASさんが張り切らないわけがないのである。
なんなら『死ななきゃ安い』論をみんなに投げ付けて来かねないぞコイツ。
無駄な犠牲は許容しないが、その犠牲から新しいルートが開けるのなら容赦はしない──。
……いやまぁ、流石に本当に見殺しにはしないだろうけど、
……本筋の
そんなわけなので、できれば
「…………」
「…………?」
……なんだろう、この違和感は?
なんというかこう、奇妙な空白が辺りを漂っている、というか。
いやまぁ、状況として膠着する、というのはわからないでもないのだ。
ただこう、膠着するにしてもなんかこう、もうちょっと緊迫感が漂うものでは?……みたいな感じというか。
今のこの状況、空白は空白でもなんかギャグの匂いがするというか……?
そんな状況だからか、相手の傍らにいる王女様も、不思議そうな顔で傍らの相手を見上げていた。
なんとなく、さっきまでの威勢はどうしたの?……とでも言いたげな様子というか。
ただ、傍らの人物──男か女かよく分からない──は額に冷や汗を垂らし、口元を歪めて固まっている。
そうして奇妙な沈黙が続くこと暫し。
「……わかった、こいつは返す。俺もここに残る。だからこう、コイツらは見逃してはくれねぇか?」
「な、アニキ!?」
(……なん、だと?!)
次にその人物が口を開いた時、そこから飛び出した言葉に周囲は騒然となったのであった。
……なんかTASさんだけ別方向に驚いてない?気のせい??
折角ぼっこぼこにしてやろうと思ったのに、こっちが拳を振り上げる前に相手が降参してきた……みたいな感じの残念な思念がこっちに流れてきたような気がするのは俺の気のせいかな???
……おいこら視線を逸らすな暗に肯定するな()
そんなこっちのやり取りはともかく。
相手側は相手側で、騒々しいやり取りが行われている。
やれ『アニキが犠牲になるくらいならアッシが!』とか『王女を盾に逃げましょうよ!』だとか、そんな感じの言葉が向こうの構成員らしき面々から飛び出すが……リーダーらしき『アニキ』とやらの決心は固いようで、『うるせぇ、黙ってろ』の一言で周囲の喧騒はあっという間に静まってしまうのであった。
「……コイツらは下っぱだ。烏合の衆で取るに足りない馬の骨だ。つまりは首を取るには足りてねぇ。俺の首一つとコイツらの首百個でも釣り合わねぇ。……だったら、俺一人で十分なんじゃねぇか?」
「……それはこっちが決めること」
(おいぃぃぃTASさんんんん?!!!)
「はっ、確かにそうだな。……だが、コイツらを殺るってんなら、俺としても黙っては殺られてやらねぇ。何人かは巻き添えにしてやるが?」
「むぅ、それは困る。具体的にはお兄さんが真っ先に死にそう」
「なんでそこで俺に振るの???」
え、なんで今俺を話題に出したの?
確かになに言ってるのこの人達、みたいな感じに思ったけど、だからって俺を舞台上に引っ張りあげる必要性まっっったくなかったよね????
……などと言っても後の祭り。
向こうの『アニキ』とやらの視線は既にこっちに向いており、ともすればこっちの喉笛を食い千切ってやるという気概に溢れ……溢れ?
「……あー、うん。その人が残るんなら、他の人は見逃してもいいんじゃないかな?頭を失った集団なんてモノの数でもないわけだし」
「ンダトコラーッ!?」
「喧しい、黙ってろテメェら」
「うす……」
……その視線に含まれる色に気付いた俺は、自分がなにを望まれているのか理解。
そのまま望まれるままに、この状況を終わらせる言葉を吐いたのであった。……いや、なんだこの状況。